国内AIインフラ市場が急成長、次の成長のカギは?
2025年6月19日、IDC Japan株式会社は、「IDC Worldwide Semiannual AI Infrastructure Tracker」に基づき、国内AIインフラストラクチャ市場の2024年実績および最新の市場予測を発表しました。
国内AIインフラストラクチャ市場の実績と予測を発表 ~2024年はクラウドサービスプロバイダーの投資が活発化~
2024年の国内市場規模は前年比120.0%増となる4,950億円に達し、これまでにない成長を遂げました。特に国内資本のクラウドサービスプロバイダーによるGPU搭載サーバーへの積極的な投資が市場をけん引しており、その背景には政府の経済安全保障推進法に基づくクラウド基盤強化策があります。
出典:IDC Japan 2025.6
今回は、急成長する国内AIインフラストラクチャ市場の現状、政府施策の影響、クラウドサービスプロバイダーの戦略、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
国内AIインフラストラクチャ市場の成長とその要因
2024年の国内AIインフラストラクチャ市場は前年比120.0%増の4,950億円となり、過去最大規模となりました。サーバー市場は前年比122.0%増の4,780億円、ストレージ市場は前年比75.6%増の170億円と、いずれも高成長を記録しています。特にGPUを搭載したAI学習・推論用サーバーが市場をけん引しており、AIクラウドサービス基盤整備の需要が急拡大したことが背景にあります。
その原動力となったのは、国内クラウドサービスプロバイダーによる積極的な設備投資です。政府による支援策がそれを後押しし、国内事業者がAI関連インフラの強化に乗り出したことが成長を加速させました。国内外のクラウド大手も含め、AI用途でのデータセンター投資が市場の追い風となっています。
政府施策とクラウド基盤整備の進展
2024年の市場成長を語る上で、経済産業省の政策的支援は見逃せません。経済安全保障推進法に基づくクラウドプログラム安定供給確保策では、GPUクラウドサービス基盤の整備を行う事業者9社に対して最大1,250億円超の助成が実施されました。この助成は、事業計画における投資額の3分の1から2分の1をカバーするものであり、総投資規模はその2倍から3倍に上ると見込まれます。
これにより、国内クラウド事業者はGPU搭載サーバーをはじめとする高性能インフラの導入を急速に進め、AI基盤の強化に力を入れています。加えて、2024年4月にはグローバルサービスプロバイダーが日本国内のデータセンターへの長期投資方針を表明し、国際的なAIインフラ強化の流れとも連動する形で市場の成長が促進されています。
クラウドサービスプロバイダーの戦略と競争環境
国内のクラウドサービスプロバイダーにとって、政府支援による投資環境の整備は、競争力強化の好機となっています。GPU搭載サーバーを基盤とするAIクラウドサービスは、企業の業務自動化や効率化、さらにデータドリブン経営を支える重要なインフラです。国内資本のクラウド事業者はこの機を逃さず、差別化につながるサービス基盤の構築を急ピッチで進めています。
一方、グローバルクラウド事業者も日本市場での存在感を高めつつあり、国産クラウドとの競争は一層激化することが予想されます。特にAI活用を前提としたデータセンター整備においては、技術力だけでなく、国際的な信頼性、運用ノウハウ、エコシステム形成力が問われることになります。このような環境下で、国内クラウド各社は、単なる設備投資だけでなく、顧客企業のAI活用を支援するサービスやソリューションの提供力も強化していくことが求められています。
今後の市場予測と成長の持続性
IDC Japanは、2025年の国内AIインフラストラクチャ市場を前年比3.5%増の5,120億円と予測しています。政府の助成を活用したGPU搭載サーバーへの投資は2027年まで続く見通しであり、グローバルクラウド事業者の投資も堅調に推移するとみられています。さらに、大学や政府系研究機関によるAI関連案件も市場を下支えする要素となるでしょう。
中長期的には、2026年以降もプラス成長が継続し、2029年には市場規模が6,530億円、年平均成長率(CAGR)は5.7%に達すると見込まれています。生産年齢人口の減少という社会課題に直面する日本にとって、AI活用は業務効率化や付加価値向上の有効な手段です。福冨リサーチマネージャーが指摘する通り、AIクラウド基盤の整備を背景に、企業や組織がこの環境をいかに戦略的に活用できるかが、今後の競争力を大きく左右することになるでしょう。
今後の展望
今後の国内AIインフラストラクチャ市場の成長には、複合的な要因が作用すると考えられます。政府施策による資本支援は引き続き市場の成長をけん引する一方で、企業側にはAI基盤を活用した付加価値創出や新規事業開発への積極的な取り組みが求められます。単なる設備投資の競争から、サービス競争、ソリューション競争へと市場の焦点が移り、顧客の具体的なAI活用ニーズに応える力が差別化の決め手となるでしょう。
また、生成AIや自律型AIなど新たな技術の登場も市場に新たな成長機会をもたらします。日本のクラウド事業者やデータセンター事業者は、これらの技術潮流を捉え、国内外のプレーヤーと連携しながら、AIインフラを「攻めの基盤」として位置付けていく必要があります。今後は、AIインフラの高度化だけでなく、持続可能な運用、エネルギー効率の向上、地域分散型データセンターの展開といった課題への対応も重要になってくるでしょう。