2030年、モバイルデータ通信量は3倍に──加入数停滞時代の成長モデル
ABI Researchは2025年6月17日、世界のモバイル接続市場における最新予測を発表しました。
報告によると、2025年から2030年にかけて、世界のモバイルデータ通信量は年平均23%の成長を遂げ、5,241エクサバイト(EB)を超える規模に達すると見込まれています。一方で、モバイル加入者数の増加はわずか0.17%にとどまる見通しで、市場の成長エンジンは「加入数」から「個人のデータ消費量」へと明確にシフトしつつあります。
5Gネットワークの普及と高精細動画、AR、モバイルゲームといった帯域依存型サービスの拡大がこの変化を支え、通信事業者にはネットワーク最適化とデータ収益化の両面で新たな対応が求められています。
加入者数は頭打ち、成長の中心は「一人あたりの通信量」
グローバルモバイル市場の成長が、かつての「数の拡大」から「質の深化」へと転じています。ABI Researchの予測によると、2030年時点での世界のモバイル加入者数は56億5,900万人に達するものの、その年間成長率はわずか0.17%。成熟市場では既にほとんどの人がスマートフォンを所有し、追加の加入者の獲得が困難になっているためです。
一方、新興国では人口増加やインフラ整備の進展により、引き続き加入者数の伸びが見込まれています。ただ、端末の価格や通信コスト、通信品質といった課題が成長スピードを制約しています。今後の鍵は「どれだけ多くのデータを消費するか」にあり、消費行動そのものが市場の成長を決定づける構図へと移行しています。
5Gがもたらす通信革命――性能重視の時代へ
データトラフィック急増の背景には、5Gの世界的な普及が大きく影響しています。ABI Researchは、2025年から2030年の5年間で、5Gだけで2,200EBもの通信量増加を牽引すると試算しています。5Gは、従来のネットワークと比較して10倍以上の速度、超低遅延、高密度接続を可能にし、ARやIoTなど次世代アプリケーションの実用化を支える基盤として期待されています。
このような環境変化は、通信事業者のビジネス戦略にも変革を促しています。これまでのような「加入者の囲い込み」ではなく、ネットワークパフォーマンスの向上や、ARコンテンツ、モバイル決済、遠隔医療といったサービスの付加価値を通じた「体験価値の提供」が競争力の源泉になりつつあります。
4Gの寿命は延びるが、2G・3Gは急速に消滅へ
5Gの拡大と並行して、既存ネットワークの役割も再定義されています。4Gネットワークは2025年以降、加入者数こそ減少するものの、通信量ベースでは年率16%で成長を続けると見込まれています。これは、端末の買い替えやネットワーク移行が進まない一部地域において、依然として高い需要が存在するためです。
一方で、2Gおよび3Gといったレガシー技術は加速度的に廃止される見通しです。スウェーデンやイスラエルをはじめとした国々では、2026年までに2G/3Gネットワークの完全終了が計画されており、ネットワーク効率とスペクトルの再利用に向けた動きが世界的に広がっています。
インド市場が台頭――世界最大級の通信量を形成へ
地域別では、インドの存在感が年々増しています。低価格なデータプランと人口規模、5G展開の加速を背景に、2030年には年間1,275EBという世界最大級のデータトラフィックが見込まれています。これは、従来のデジタル後進国というイメージを覆すものであり、デジタル経済の中核市場としての台頭を象徴しています。
こうした新興市場の急成長は、グローバル通信事業者にとって新たな投資先であると同時に、価格競争力やインフラ整備、現地規制との向き合い方など、多層的な対応力が求められることを意味します。
モバイル市場の成功指標は「加入数」から「体験」へ
ABI Researchのアナリストであるサミュエル・ボウリング氏は、「今後の市場競争は、単に加入者を増やすことではなく、ネットワーク性能やユーザー体験の最適化が成功のカギとなる」と指摘しています。通信事業者は、ネットワーク効率の改善とデータ収益化戦略の構築が不可欠であり、クラウドベースの運用管理やAIによるトラフィック制御など、新たな技術導入も急務です。
また、ゼロレイテンシを求めるアプリケーションや、都市と地方の接続格差といった新たな課題にも対処する必要があり、通信インフラはもはや"サービス"ではなく、"社会基盤"としての責任を問われる段階に入っています。
今後の展望
今後5年間、世界のモバイル接続市場は「量の時代」から「質の時代」へと完全に移行する見通しです。5Gの普及を契機に、ユーザーの期待は単なる接続から、体験価値やサービス統合へと高まりを見せることが想定されます。
データ消費の拡大に対応するインフラ投資と運用効率の向上、そして柔軟な価格設計と収益化モデルの再構築が業界の競争力を左右することになるでしょう。