【決定版】PER520倍!最高益!防衛IT最大手PalantirはAIで何をやっている会社なのか?
Palantirは、日本のIT業界の人にわかりやすく言うと「AI時代の富士通」であり、かつ、米国の政府公共セクターだけでなく金融などの他セクターにも手を広げ、世界展開に入っています。富士通が世界的な存在になり、かつAIの法人利活用の中核で商売をしていると言う印象です。
Palantirについては日本のアメリカ株をやっている人達から早期に注目されており、私も新手の防衛系システムの会社なんだろうなぐらいに考えていました。しかし、アメリカの記事をいくつか斜め読みすると、かなり画期的なAIをフル活用したITの価値訴求をしていると言うことがわかってきました。
と言うことで、日本のIT業界でもほとんど知られていないPalantirの全体像を、余すことなく描くことをしてみたいと思います。過去に同じ内容でレポートを作成したものを最新情報に基づいて更新しました。
防衛IT最大手PalantirはAIで何をやっている会社なのか?
はじめに:防衛ITの巨人Palantir、そのAIの核心に迫る
Palantir Technologiesは、2003年にPeter Thielを含むPayPalの元従業員によって設立されました
IT業界のプロフェッショナルにとって、Palantirは「謎の多い防衛企業」という認識が一般的かもしれません。しかし、その中核には、今日のビジネスや公共サービスを大きく変えうる、極めて高度なAIとデータプラットフォームが存在します。本稿では、PalantirのAI技術が具体的に何を行い、防衛分野から商業分野まで、どのような価値を生み出しているのかを詳細に解説します。IT業界の専門家がPalantirの技術的な詳細やAIの具体的な応用例について深く理解していない現状を鑑みると、本稿は、同社の技術が持つ汎用性や、AI・データプラットフォームの進化におけるその位置づけをより正確に把握するための機会を提供します。これは、ITプロフェッショナルが自身のキャリアや企業のAI戦略を検討する上で、新たな視点をもたらし、単なる情報提供に留まらない「発見」や「啓蒙」の場となるでしょう。
最新の財務動向と事業成長:商業分野の急成長
Palantirは、2025年第2四半期に過去最高の業績を記録し、その事業モデルの転換と商業分野での著しい成長を明確に示しました
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売上高: 四半期売上高は初めて10億ドルを突破し、前年比48%増の10億400万ドルに達しました
。これは第1四半期の39%増からさらに加速したもので、同社の成長モメンタムの強さを示しています 。 -
米国事業: 米国事業の売上高は前年比68%増の7億3300万ドルとなり、全体の73%を占める主要な収益源となっています
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米国商業部門: 最も成長が著しいのは米国商業部門で、前年比93%増、前期比20%増の3億600万ドルを記録しました
。この急成長は、PalantirのAIプラットフォーム(AIP)が多様な商業顧客に急速に採用されていることを示しています 。顧客数は前年比64%増の485社に達しています 。 -
政府部門: 米国政府部門の売上高も前年比53%増、前期比14%増の4億2600万ドルと好調を維持しています
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収益性: 調整後営業利益は4億6400万ドル、利益率は46%に達し、GAAP純利益は3億2670万ドルとなりました
。さらに、成長率と利益率を合わせた「Rule of 40」スコアは94%という驚異的な水準に達しており 、堅牢なビジネスモデルを裏付けています。 -
契約獲得: 100万ドル以上の契約を157件、500万ドル以上を66件、1000万ドル以上を42件締結するなど、大規模契約の獲得も加速しています
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これらの数字は、Palantirが従来の政府・防衛産業に強く依存していたビジネスモデルから脱却し、商業分野、特に米国市場でのAIソリューションプロバイダーとしての地位を確立しつつあることを示しています。同社のCEO、アレックス・カープは「LLMはPalantirなしには現実世界では機能しない。これが我々の成長を後押しする現実だ」と述べています
AIが変える防衛・諜報活動:Palantir Gothamの役割
Palantirの技術は、その設立当初から防衛・諜報分野で深く活用されてきました。その旗艦プラットフォームであるPalantir Gothamは、主に政府機関、防衛、諜報、法執行機関向けに設計されています
AIを活用した意思決定支援システム(Project Maven, TITAN)
PalantirのAI技術は、具体的な軍事プログラムにおいて意思決定の高速化と効率化に貢献しています。
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Project Maven (Maven Smart System): Project Mavenは、2017年に米国防総省(ペンタゴン)で開始されたプロジェクトで、機械学習とデータ融合を活用し、監視映像や静止画像からオブジェクトや人間を自律的に検出し、タグ付けし、追跡するAI対応技術の開発を目的としています
。Palantirは、このプロジェクトにおいて主要なデータ融合プラットフォームを提供しています 。このシステムは、AIが衛星画像から戦車を識別し、人間がその判断を承認すると、AIシステムがM142 HIMARSに目標を攻撃するよう信号を送る、という形で、米陸軍初のAI対応砲撃演習に利用されました 。軍事作戦における「キルチェーン」(識別、位置特定、合法的な目標への絞り込み、優先順位付け、発射部隊への割り当て、発射)の6ステップのうち、Mavenは4ステップを実行できるとされています 。この技術は、2021年のカブール空輸では地上状況の表示に、2022年のロシアによるウクライナ侵攻ではロシア軍装備の位置特定に活用されるなど、実際の紛争でもその有効性を示しています 。Mavenの効率性は、Operation Iraqi Freedomで2000人規模の部隊が達成したのと同等の成果を、わずか20人で実現したと報告されており、AIが人間を置き換えるのではなく、人間を増強するというPalantirの「Human-in-the-Loop」哲学の成功例を具体的に示しています 。このシステムに対する「需要の増加」により、PalantirのMaven契約は2029年までに約13億ドルに増額されており 、現在、35以上の軍事サービスおよび戦闘司令部ツールで20,000人以上のアクティブユーザーが存在します 。 -
TITAN (Tactical Intelligence Targeting Access Node): TITANは、米陸軍がAIと接続された戦闘空間戦に大きく賭けるプロジェクトであり、AIと機械学習を搭載した移動式情報地上局です
。このシステムは、宇宙、高高度、空中、地上層からのセンサーデータを処理し、ターゲティングと状況認識のための情報支援を提供します 。TITANの目標は、「センサーから射手までの時間」を短縮し、作戦テンポを向上させることにあります 。Palantirは、この主要な軍事ハードウェアプロジェクトの主要なソフトウェア契約者であり、トラック自体を開発しているわけではありません 。これは、「ハードウェアがソフトウェアを中心に構築されている」という、ソフトウェア中心のアプローチを象徴するものであり、従来の防衛産業のサプライチェーンや開発モデルからの根本的な転換を示しています 。これは、防衛産業が「ハードウェア中心」から「ソフトウェア中心」へと移行している明確な兆候であり、AIやデータ処理能力がシステムの最重要要素となり、それに合わせてハードウェアが設計・調達されるという新しいパラダイムが生まれていることを示唆しています。ITプロフェッショナルにとって、これはソフトウェア開発が物理的なシステム設計を主導する、より高度なシステムインテグレーションの未来を示しており、他の産業(例:自動車、航空宇宙)における同様のトレンドへのヒントとなります。
政府機関との連携とAIの安全性
Palantirは、米国防総省(DoD)からミッションクリティカルな国家安全保障システム(IL5)の認証を受けており、厳格なインフラおよび運用基準を維持しています
AIによる「意思決定の高速化」は、現代の軍事戦略において決定的な要素となっています。Project Mavenがキルチェーンの4ステップを自動化し、TITANが「センサーから射手までの時間」を短縮するという事実は
主要な防衛・政府契約とAIの役割
プロジェクト/契約名 | 主要な顧客/機関 | AIの主な役割/機能 | 具体的な成果/影響 | 関連プラットフォーム |
Project Maven (Maven Smart System) | 米陸軍、国防総省、NATO | 機械学習、データ融合、オブジェクト検出、ターゲット識別、予測分析、意思決定支援 |
キルチェーンの4ステップを実行、米陸軍初のAI対応砲撃演習、カブール空輸・ウクライナ侵攻での活用、2000人規模の部隊の効率を20人で達成、契約額約13億ドルに増額 (2029年まで) |
Gotham |
TITAN (Tactical Intelligence Targeting Access Node) | 米陸軍 | AI/機械学習、センサーデータ処理、ターゲティング、状況認識、意思決定支援 |
「センサーから射手までの時間」短縮、作戦テンポ向上、ソフトウェア中心の軍事ハードウェア開発の先駆け |
Gotham, Apollo |
ICE (米国移民関税執行局) | 米国移民関税執行局 (ICE) | 不法移民・亡命希望者の特定・追跡、データ統合、行動パターン分析 |
大量強制捜査、家族離散、未成年移民の親の標的化を容易にしたとして批判 |
Gotham, Foundry |
NSA/GCHQ | 米国国家安全保障局 (NSA)、英国政府通信本部 (GCHQ) | 大規模監視プログラムの管理、データ融合 |
XKEYSCOREのような大規模監視プログラムを支援したとして批判 |
Gotham |
予測的警察活動 | 米国警察署 | 予測分析、ターゲット識別 |
貧困層や黒人コミュニティを不当に標的としたとして批判 |
Gotham |
NHS COVID-19 Data Store | 英国国家医療サービス (NHS) | データ統合、分析支援、接触者追跡、サプライチェーン最適化、パンデミック対応計画 |
患者の参加と信頼を損なうリスクがあるとして批判、役割と料金が増加 |
Foundry |
連邦データ統合イニシアチブ | 社会保障庁 (SSA)、内国歳入庁 (IRS)、国土安全保障省など | データ統合、行動パターン分析、詐欺検出、政策非効率性の特定 |
プライバシー擁護団体から「デジタルドラグネット」になる危険性を警告 |
Gotham, Foundry |
イスラエル・ガザ紛争への関与 | イスラエル | 情報・監視ツール提供 |
反戦運動から批判 |
Gotham |
AIが拓く商業分野の可能性:Palantir FoundryとAIP
Palantirは、その設立当初からの防衛・諜報分野での深い経験と、そこで培われた高度なデータ統合・分析技術を基盤として、商業分野においてもAIを実用化しています。特にPalantir FoundryとArtificial Intelligence Platform (AIP) は、多様な産業における業務効率化と意思決定支援に貢献しています。
ヘルスケア:AIによる患者ケアと業務効率化
Palantir Foundryは、ヘルスケア分野で大量のデータを統合・分析し、患者ケアの調整、ベッド稼働率と患者フローの管理、一貫した品質確保を支援します
COVID-19パンデミック時には、Palantirは各国政府や医療機関と協力し、データ管理、接触者追跡、サプライチェーン最適化、パンデミック対応計画の支援など、データ統合と分析支援を提供しました
製造業:AIで実現する生産性向上とサプライチェーン最適化
Palantir Foundryは、製造業において生産プロセスの最適化、歩留まりの最大化、ダウンタイムの防止、収益増加を支援します
サプライチェーンの領域では、PalantirのAIは混乱を自動的に検知し、代替サプライヤーやルートの選択肢を提供し、その影響をシミュレーションすることで、リスク管理を強化します
金融・その他産業:AIによる不正検知と業務自動化
Palantirは、金融機関向けにPalantir Metropolis(旧Palantir Finance)を提供しており、従業員の不正行為や潜在的な犯罪(盗難、共謀など)を検出するために、メール、GPS、閲覧履歴などをチェックする機能があります
さらに、PalantirのAIは多様な商業分野で成果を上げています。Wendy'sではサプライチェーンのアジリティを向上させ
ヘルスケアにおける「デジタルツイン」によるリアルタイムの病院運営最適化
Palantirの商業部門の収益は、2025年第2四半期に前年比93%増と著しい成長を遂げており
PalantirのAI技術の深層:オントロジーとジェネレーティブAI
PalantirのAIプラットフォームの核心には、その独自の技術的アプローチがあります。特に「オントロジー」と、それを基盤とした「ジェネレーティブAI」の活用は、同社のソリューションを他社と差別化する重要な要素です。
「オントロジー」がデータに意味を与える仕組み
PalantirのAIプラットフォームの中核にあるのが「オントロジー」です。これは、組織のデジタルツインとして機能するセマンティックレイヤーであり、データセットやモデルを、現実世界の「オブジェクト」(例:工場、設備、製品、顧客注文、金融取引)やそれらの間の「リンク」にマッピングすることで、組織の完全なデジタルイメージを構築します
オントロジーが「現実世界のデジタルツイン」であり、データに「意味」を与えるという説明は
AIPにおけるLLMとAIエージェントの活用
Palantir Artificial Intelligence Platform (AIP) は、ジェネレーティブAIとLLM(大規模言語モデル)を組織のデータと運用に接続するために設計されています
AIPには、以下のような特徴的な機能が含まれます。
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AIP Assist: LLMを搭載したサポートツールで、ユーザーがPalantirプラットフォームを操作し、理解し、価値を生み出すのを支援します。自然言語で質問し、リアルタイムで関連性の高い応答を受け取ることができます
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AIP Logic: LLMを搭載した関数を構築、テスト、リリースするためのノーコード開発環境です。これにより、開発環境やAPI呼び出しの複雑さなしに、オントロジーを活用した機能豊富なAI駆動型関数を構築できます
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AIP Agent Studio: 企業固有の情報とツールを備えたAIエージェントを構築するためのツールです。これらのエージェントは、オントロジー、ドキュメント、カスタムツールによって強化され、タスクを自動化し、手動でのアプリケーション操作を減らすことができます
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LLM Synthesizer: 複数のAIモデルをPalantirのオントロジープラットフォームに統合することで、AI生成された洞察の信頼性を高めることを目的とした機能です
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PalantirのAIは、人間のアナリストを置き換えるのではなく、彼らの能力を増強することを重視する「Human-in-the-Loop」のアプローチを採用しています
AIP Assistの「自然言語での質問応答」機能
議論されるべき側面:AIとプライバシー、倫理
Palantirの技術は、その強力なデータ統合・分析能力ゆえに、プライバシーや倫理に関する重要な議論を常に引き起こしてきました
データ利用における透明性と説明責任
Palantirの技術は、政府機関による大規模なデータ統合を可能にし、課税、公共給付、移民、公共安全に関連するデータセットを連携させることができます
しかし、この主張は、同社の「人権方針」と矛盾すると指摘されています
市民的自由への影響と批判
Palantirの活動は、設立当初からその「監視能力」を巡る論争の的となってきました
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ICE(米国移民関税執行局)との契約: 2025年4月、ICEは不法移民や亡命希望者の特定・追跡を支援するためにPalantirと3000万ドルの契約を結びました
。これにより、大量の職場強制捜査、家族離散、未成年移民の親の標的化が容易になったとして、アムネスティ・インターナショナルや元従業員から非難されています 。元従業員は、Palantirが「民主主義規範への広範な脅威」を助長していると警告しています 。 -
NSA/GCHQとの連携: エドワード・スノーデンによって暴露されたXKEYSCOREのような大規模監視プログラムの管理を支援したとされています
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予測的警察活動: 米国の警察署で「予測的警察活動」に利用され、貧困層や黒人コミュニティを不当に標的としているとして批判されています
。抗議者たちは、Palantirの技術が「人種差別的で政治的弾圧」を目的とした警察活動に利用されていると主張しています 。 -
NHSデータ利用: 英国国家医療サービス(NHS)の包括的なデータセットを「有利なターゲット」と見なし、COVID-19データストアの構築にサービスを提供しましたが
、その役割と料金が増加し、患者の参加と信頼を致命的に損なうリスクがあるとして批判されています 。英国医師会(BMA)や議員は、医療データの取り扱いにおける透明性の欠如や、防衛・保健システム間の相互運用性について深い懸念を表明しています 。 -
イスラエル・ガザ紛争への関与: Palantirは、イスラエル軍に情報・監視ツールを提供していることで、反戦運動からの批判を受けています
。専門家は、Palantirのデータマイニング技術が、ガザでの空爆を誘導するのに役立ったと指摘しています 。
これらの批判に対し、Palantirは「米国市民を不法に監視するためにデータを収集することは決してない」と反論しています
Palantirは自らを「データ処理者」と位置づけ、その技術は顧客の指示の下で使われると主張している一方で
民主党議員からの書簡
結論:Palantir AIの現在地とITプロフェッショナルへのメッセージ
Palantirは、その設立当初からの防衛・諜報分野での深い経験と、そこで培われた高度なデータ統合・分析技術を基盤として、AIの最前線を走る企業です。Gotham、Foundry、AIPといった独自のプラットフォームを通じて、政府機関の意思決定支援から、ヘルスケア、製造、サプライチェーンといった商業分野の業務効率化まで、幅広い領域でAIを実用化しています。特に、データに意味を与える「オントロジー」と、ジェネレーティブAI・LLMを統合した「AIP」は、AIを単なる分析ツールではなく、組織の「オペレーションのOS」として機能させるPalantir独自の強みです。また、「Human-in-the-Loop」のアプローチにより、AIが人間の能力を増強し、より迅速かつ正確な意思決定を可能にするという点で、競争優位性を確立しています。
Palantirの事例は、AIが単なる技術トレンドではなく、ビジネスや社会の根幹を再定義する強力な力を持っていることを示しています。ITプロフェッショナルは、Palantirの技術的アプローチ(特にオントロジーと運用AI)から、複雑なデータ問題を解決し、AIを実世界の業務に統合するためのヒントを得ることができます。
同時に、Palantirが直面するプライバシーや倫理に関する議論は、AI技術の導入と利用において、技術的な側面だけでなく、社会的な影響と責任を深く考慮することの重要性を浮き彫りにしています。Palantirの成功は、AIを「動く」システムとして現実世界に適用する能力にありますが、その「動く」AIが社会に与える影響は計り知れません。IT業界の専門家として、私たちは技術の可能性を追求しつつも、その倫理的な側面に対する意識と、透明性、説明責任を確保するためのガバナンス構築に積極的に貢献していく必要があります。これは、AIの持続可能な成長と社会受容のための不可欠な要素となるでしょう。PalantirのAIは、未来のITインフラとオペレーションのあり方を示唆しており、その動向は今後もIT業界にとって注視すべき重要な指標となるでしょう。