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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

日本では報道されないネクスペリア車載半導体供給問題を蘭・英・中の資料で真相深掘り【AI調査術】

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ビジネスパーソン向けに「Nexperia(オランダ/自動車用半導体メーカー)を巡る世界的な供給リスク」を整理してみます。日本の報道ではあまり触れられていないポイントにも言及しています。

① 何が起こっているのか

  • Nexperia は、ディスクリート素子(ダイオード・トランジスタ・ロジック・MOSFET 等)を専門とし、自動車用電子制御ユニット(ECU)をはじめとした幅広い用途向けに供給しているメーカーです。 Wikipedia

  • 2025年9月末、オランダ政府が Nexperia を「国家安全保障上の懸念」を理由に実質的に掌握しました。中国系親会社(Wingtech Technology)の所有下にあったため、欧州技術流出やガバナンスの問題が指摘されたためです。AP News

  • それを受けて中国側が反応。中国の Ministry of Commerce of the People's Republic of China(MOFCOM、中華人民共和国商務部)が、Nexperia 中国工場からの輸出を一時停止・制限しました。AP News

  • Nexperia 本社からも中国拠点向けのウエハ供給を10月末に停止したと発表され、「いつ/どの程度まで再開できるか」「品質・真正性を保証できない」という異例の通知が出ています。Nexperia

  • 自動車メーカーや部品サプライヤーは既に警戒を強めており、欧州では生産停止の可能性を示す発言も出ています。Reuters

  • 日本でも、例えば Nissan Motor Co., Ltd. が「部品供給の見通しが立たないため、国内工場の生産を調整する可能性あり」と報じています。Reuters


この辺の動きについて、割り込んで、さらにわかりやすく、ChatGPT 5に説明させてみます。

実はこの一連の流れは、「政治報復+企業内部統制の崩壊」が複雑に絡み合っていて、単純な「喧嘩の応酬」ではなく、両政府と企業の三層構造が動いています。順を追って、わかりやすく説明します。

全体像:三層構造で起きたこと

  1. オランダ政府が安全保障審査を発動(政治レベル)

  2. 中国政府(商務部=MOFCOM)が報復的な輸出制限を発動(政治レベル)

  3. Nexperia本社が社内統制崩壊を理由にウエハ供給を停止(企業レベル)

この3つが同時に動いたため、表面的には「中国が止めた → オランダも止めた」と見えますが、実際はそれぞれが別の理由で止めたのです。

① オランダ政府:安全保障名目の介入

Nexperiaは元々、オランダ企業ですが、2019年に中国のWingtech Technology(聞泰科技)に買収されました。
Wingtechは中国国内で半導体、スマホ、EV向けの受託生産も行っており、軍需転用リスク先端技術の流出懸念がEU・米国から指摘されていました。

そのため2025年9月末、オランダ政府が「国家安全保障法に基づく外資審査」を発動し、

「Nexperiaの経営支配について審査・制限を行う」

と公表。つまり、中国資本の企業が欧州の半導体製造を握っている状態に「待った」をかけたのです。

② 中国政府:報復として輸出制限を発動

オランダ側の介入に対し、中国商務部(MOFCOM)は

「オランダが技術覇権を政治利用している」
と強く反発しました。

そして報復措置として、

「Nexperiaの中国工場(広東省など)から欧州向けの製品輸出を一時停止または許可制に変更
という措置を取ります。
つまり、中国国内のNexperia拠点から製品を出すことに**"中国政府の許可"**が必要になったのです。

これが「Nexperia中国工場からの輸出停止・制限」です。

③ Nexperia本社:内部統制崩壊で"ウエハ供給を停止"

この状況下で、本社が最も恐れたのは「現地工場の統制が効かなくなること」です。

実際に、オランダ本社が10月末に発表した声明(英語)ではこう書かれています。

  • 中国子会社が本社の承認なしに銀行口座を開設した

  • 資金の流れが確認できない

  • 社印・公印が現地に占有されている

  • 本社が品質や知的財産を保証できない

つまり、中国子会社が半ば**独立状態(指揮命令が届かない)**になったため、

「この状態でウエハ(基板)を送ると、品質もIP(知的財産)も保証できない」
という判断で自ら供給を止めたのです。

要するに...

段階 主体 動機 結果
1 オランダ政府 安全保障上の懸念 中国資本支配の制限
2 中国政府(商務部) 報復措置 中国工場からの輸出制限
3 Nexperia本社 ガバナンス崩壊への危機感 中国拠点へのウエハ供給停止

この三段階が連続して起こり、「オランダが止めた → 中国が止めた → Nexperia本社も止めた」という負の連鎖になったわけです。

比喩で言えば...

確かに「売られた喧嘩を買う」的な構図もありますが、もう少し複雑です。
喧嘩をしているうちに、**現場(工場)が"誰の命令も聞かない状態"**になってしまい、
「これはもう危険だから原料(ウエハ)は送れない」と、本社が自らブレーキを踏んだ形です。

結果として何が起きたか

  • 世界中の自動車メーカー(日本・欧州・ブラジル)がディスクリート部品の供給不安に直面。

  • 本社と中国子会社の間で「品質保証ができない製品」が発生。

  • オランダ・中国の間で「技術支配」と「経済報復」の応酬が続く。

割り込み解説終了。

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② なぜこの事案が重要か(自動車業界の観点から)

  • Nexperia が扱う素子は"車載用"という意味で極めて汎用性が高く、かつ大量に使用される部位です。例えばエアバッグ、中央ロック、パワーウィンドウ、ECU電源管理など。こうした"すぐに代替できない"部材を手がけています。Reuters

Reuters: Explainer: Why Nexperia is at the centre of an autos chip crisis

  • 自動車生産は「部品ひとつ」でライン停止=コスト急上昇という構造。たとえ量的に少数でも"キーパーツ"が止まると影響が大きい。今回の事案では、量・代替難易度・認証の3点すべてでリスクがあります。

  • 代替サプライヤーを見つけても、車載品質(AEC-Qなど)認定や車両個別設計・信頼性評価が必要であり、数週間〜数ヶ月では切り替えが難しい。今回、報道では"代替数ヶ月"という言及があります。euronews

  • 地政学(オランダ政府・中国政府・米国制裁)が絡んでおり、純粋な"生産問題"ではなく"国家・技術制御"の側面を併せ持っているため、通常のサプライチェーン混乱以上の長期化リスクがあります。

③ 日本ではなかなか出てこない/注意すべきポイント

  1. ガバナンス/統制不能リスク

    • 本社側発表で「中国拠点のガバナンスが機能しておらず、製品の真正性・品質・技術適合性を保証できない」と明言されており、単なる供給停止ではなく"信頼性"そのものが問題化しています。Nexperia

    • これは「代替部材を選定しても安心できるか」という設計/品質保証部門のロジックを揺るがすニュースです。

  2. 輸出許可制/例外審査制の複雑化

    • 中国側が「輸出を例外許可制とする」と発表しており、単純に"停止⇒再開"とはなっていません。物流・通関・契約という"裏流れ"が時間を要する構造です。グローバルタイムズ

    • 日本企業が"在庫がある"と思っていても、"使える在庫かどうか(契約・認証・出荷資格付き)"という視点が重要になります。

  3. グローバル波及/日本だけではないという視点

    • 欧州(ドイツ)の自動車部品メーカーが"休業を検討"と報じられており、影響は日本以外でも既に顕在化しています。Reuters

    • 多拠点・グローバル生産を展開している日本の完成車/部品企業にとって、"欧州拠点・ブラジル拠点"など、海外工場での影響がフィードバックして日本へ波及する可能性があります。

  4. 量だけでなく「質」の在庫管理の必要性

    • 在庫品=安心ではなく、「認証済/将来の出荷保証付き/契約上の使用可能」が鍵です。今回、Nexperia は一部ロットの真正性を保証できないとしています。Nexperia

    • したがって、購買・設計・品質が在庫評価フローを早急に見直す必要があります。

④ 今後どう動くか/企業として何をすべきか

  • 供給状況のリアルタイム監視体制を強化:Nexperia発ロット・部材を把握し、契約条項・納期・輸出許可状況を三段階でモニタリング。

  • 代替部材の早期評価と設計準備:認証を要する部材については、Nexperia に依存しない設計(置き換え可能設計)を並行して進めておくことが望ましい。

  • 在庫の"状態"を棚卸:ただ「数がある」というだけでなく、「出荷可能か/契約変更が必要か/品質保証が継続されるか」を評価し、優先度別に整理。

  • グローバル拠点の影響を想定:例えば、欧州・南米の工場が停まると部品共有で日本拠点にも波及するため、工場別リスク評価・地域ごとのバックアップ策を検討。

  • サプライヤー・規制当局との対話強化:輸出許可・例外申請などが絡むため、法務・通関・政府対応部門とも連携し、リスク発生時の「代替シナリオ」を策定しておくことが重要です。

以上が、Nexperia を巡る最新の供給リスクの整理です。日本では「チップ不足」の文脈で語られがちですが、今回は「ガバナンス・地政学・品質保証」という"見えづらい事項"のリスクが浮き彫りになっています。

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