日本のSIerがM&Aで企業価値を増大させるにはAIをどう活用すればいいのか?
ここのブログでは、ChatGPTのDeep Researchを活用したM&Aの手法について、モデルケースという意味で、何本かのブログを書いてきました。まだ日本の経済人にはほとんど知られていませんが、ChatGPTは米国の先端的なM&A実務の詳細や実際の事例を幅広く学習していて(以下で詳述)、プロンプトを工夫するならばかなり実務に耐えるM&Aコンサルタントとして機能します。以下の投稿でそれを展開してみました。
ケーススタディ:信越化学工業のM&AアドバイザーとしてChatGPTディープリサーチを活用するテクニック(1)
ケーススタディ:信越化学工業のM&AアドバイザーとしてChatGPTディープリサーチを活用するテクニック(2)
ケーススタディ:パナソニック社長がゴールドマンサックス調査主任級を使う想定で一晩でChatGPTに書かせた成長戦略
サイバーエージェントを真の「AI銘柄」にして時価総額を上げるM&A戦略のケーススタディ
Geminiの実力はマッキンゼー以上。サッポロHD戦略的M&A提言書【Gemini 2.5 Proディープリサーチ】
ビジネススクールではHBRのケーススタディなど実在する企業をケーススタディにすることはよく行われています。ここではそれに倣って実在する企業を使わせていただきました。ChatGPT Deep Researchの能力試験として、実在する企業を使う事には大きな意味があります。
M&Aのケーススタディでは架空の企業だとリアリティがなくなるということ以前に、ChatGPT Deep ResearchでM&A提言書を作成する際に、実在する上場企業の場合だとその企業のウェブサイトの中に必ずある「IRセクション」で公開されている投資家向けの豊富な資料が使えます。これがChatGPTの分析に欠かせないインプットデータになるのです。これがあるのとないのとでは大違いです。(従ってIRセクションのない未公開企業には本投稿の手法は使えません。)
M&Aだけでなく、その企業を投資対象と見て投資の適否を判断する報告書や、その企業の営業戦略を提案させる提案書をChatGPT Deep Researchに書かせる時、「IRセクション」の豊富な資料を読ませてから、分析→執筆させると、豊富なインプットが奏功してプロのコンサルタントやリサーチャーが執筆する報告書/提案書よりもレベルが上の成果物ができます。そういう理由で実在する上場企業をケーススタディに使わせていただいています。
話を短くすると、ChatGPTをM&Aのプレリサーチや買収対象の発見などの調査に使う際には、必ず、自社の「IRセクション」の豊富な文書群を読ませて、ChatGPTに自社の全体像を把握させた上で、M&Aの提案書なり買収対象候補調査書などを書かせると良いのです。必ず、目を疑うようなレベルの成果物が出てきます。その例は上の投稿でリンクしている調査報告書/提言書にある通りです。
SIerにおけるM&A準備プロセスでのChatGPT Deep Research活用方法
さて、ここからが本論です。ここはITmediaのサイト内ですので、IT業界のM&AにChatGPT + Deep Researchがどう使えるかを見ていきます。ズバリ、日本のIT業界の典型的な業態であるSIerを取り上げます。M&Aは企業価値向上のため、時価総額増大のため、他業界では積極的に使われています。しかしSIerではあまり見かけません。これからはアクティビストにとやかく言われることの防御としても、時価総額を上げる分別が必要になります。最短の距離はM&Aでしょう。他業界ではすでに始まっています。
NTTデータ(NTTの完全子会社になりますが)、富士通、NEC、日立ソリューションズ、伊藤忠テクノソリューションズ、SCSKなどの大手SIerは、ChatGPT + Deep Researchを使うと、M&Aに関して何ができるのか?以下で整理してみましょう。
1. 自社の「最適M&A領域」の特定
活用方法:業務分析 × 市場トレンド × 成長領域のマッピング
簡単に言うと、社内にいたのでは見えない客観的な分析に基づく「M&Aを行うことによって強化できる領域」がChatGPT + Deep Reseachの調査報告書により、はっきりと見えるのです。大前提は上で記したように、まず自社サイトのIRセクションの文書群を全部参照させることです。
ChatGPTの使い方:
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過去3年分の自社IR資料・決算資料・中計をインプットし、事業構造を要素分解
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ChatGPTに以下のプロンプトで分析させる:(モデル的なプロンプトということで、フワッとしています。現実にはChatGPTとかなり議論をした上で、これこれこういうものを調査報告書として作成して下さいとリクエストします。)
あなたは日本で最も優れたM&A戦略コンサルタントです。日本の主要なM&A事例にも非常に通じており、M&Aの実務についても最高度の知識を持っています。それをベースに、以下の富士通の事業構造・IR資料を読み込み、事業別に「M&Aによって補強または拡張すべき業務領域」を洗い出してください。また、生成AI・DX・クラウド・セキュリティといった急成長領域との親和性を分析してください。
出力される例:
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「業務アプリ開発領域 × GPTによる自動仕様生成」→ スタートアップ買収で加速可能
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「クラウドネイティブ運用 × DevOps自動化」→ 欧州の特定SaaS運用ベンダーとの提携が有望
- ChatGPT + Deep Researchで分析させると1万字超の提言書として生成されます。内容のレベルは上の弊ブログ過去投稿を参照。
2. 国内外のM&A候補企業のスクリーニング
活用方法:業種・技術・従業員数・資本関係などを条件にフィルタリング
ChatGPT Deep Researchに様々な条件に合致したM&A候補を見つけさせるのは大変に便利な使い方です。この用途で以下のブログを書いたことがあります。日本の場合は上場企業に限りますが、国によっては未公開企業でも見つけてくることがあります。以下はドイツで未公開企業をリストアップしたケーススタディです。ブログタイトルにもありますが、同じ内容で調査会社に発注すると、ドイツ語は難易度が高いので500万円は取られます。
ドイツで交通インフラのM&A候補を探す。500万円級のコンパクトな報告書【経営者のChatGPTディープリサーチ】
目的:
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自社の中長期戦略に合致するM&A候補(スタートアップ、中堅IT、海外SaaS企業)を一覧化
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ChatGPTに調査・比較・評価を任せることで、企画段階の情報収集を効率化する
ChatGPTの使い方:(モデル的なプロンプトということで、フワッとしています。現実にはChatGPTとかなり議論をした上で、これこれこういうものを調査報告書として作成して下さいとリクエストします。)
日本国内で以下の条件に当てはまるM&A候補企業を10社リストアップし、技術特性・売上規模・資本構成・提携メリットを表形式でまとめてください。
条件:
・業種:AIを活用したソフトウェア開発支援(Prompt Engineering含む)
・社員数:30~300名
・上場/非上場問わず
・自社(富士通)のSI/クラウド/業務アプリ領域とのシナジーが見込める
3. M&A後のシナジー仮説とPMI設計
活用方法:PMI(統合)フェーズでの組織・人事・システム統合案の設計
M&Aが本当に成功したと言えるのは、M&A後のPost Merger Integration(合併後の統合)が順調に進んで合併効果が出始めた時です。PMIは、日本の企業には不得手なようで、大型合併でもしばらくして失敗が明らかになるケースが複数ありました。以下は代表例です。
日本板硝子 × Pilkington(2006年)
日本たばこ産業(JT)× ガラハー(2007年)
PMIがうまく行かないのは、双方の文化の違いが吸収できなかった、ビジネスプロセスを統一できなかったなど合併後にわかった種々のはざまが埋め切れないからです。
しかし米国を見ればM&Aを数多く成し遂げて業容を大きくしている企業は沢山あります。つまり、PMIにもゴールデンルールのようなものはあるのです。当然ながらM&Aのノウハウに長けた外資系コンサルティング会社などのもそのノウハウはあるのでしょうけれども、ここはChatGPTです。彼の学習項目には以下があります。ChatGPTに事前にPMIの計画書を作成させることには大きな意味があります。出来が良くなければ何度も作り直せば良いのです。kストはゼロに近いですから。
1. グローバルM&Aレポート・教科書の知識
Harvard Business ReviewやMcKinsey Quarterly、Bain & CompanyのM&A戦略記事
PEファンドの投資判断プロセス(例:KKR、Blackstoneのケース)
MBAスクール(ハーバード、スタンフォード、INSEADなど)のケーススタディ
2. 実務家のロジックとナラティブパターン
投資銀行のピッチ資料・IM(Information Memorandum)に含まれる言語スタイル
実際の売却案件で用いられる「バイヤーの説得フレーム」
戦略コンサル(特にBCGやStrategy&)による事業ポートフォリオ再編の手法
3. 日本企業特有の意思決定構造への理解
日本企業での事業売却・スピンオフは「構造改革」として進められるため、表現や政治的配慮(例:「ブランド毀損を避ける」「雇用維持のストーリー」)が重要
経営者の発言、日経新聞・ロイターなどのインタビューからリアルな内部構造を学習
4. ChatGPT Deep Research の強み
通常の検索では拾えない"複数情報の統合・構造化"が可能
「戦略 × ファイナンス × 組織論 × ブランド論」など、多角的な観点を一気に扱える
実務家が頭の中で行う「仮説生成→構造化→提案」プロセスを再現
M&A関連の強化学習の中身
●構造理解
多くのMBA教材に基づいた「M&Aの理論的フレームワーク」を理解している(例:買収プレミアム、シナジー評価、バリュエーション技法)
●実際の事例学習
公開されている有名M&A案件(例:Disney × Pixar、Facebook × WhatsApp、KDDI × J:COM)などの構造・課題を学習済み
●意思決定フレームの再現
ビジネススクールで使われる「ハーバード式ケーススタディ」のような設問→分析→提案の流れを模倣可能
●ドキュメント生成能力
レター・ティザー・LOI・DDチェックリスト・事業戦略レポートなどを"体裁込みで出力"できる
ChatGPT +ディープリサーチで拡張
●ターゲットスクリーニング
業界/地域/シナジー条件から絞り込み+企業データの横断比較
●バリュエーション
DCF、マルチプル法、過去取引比較法のロジック説明とモデル雛形
●シナジー分析
コスト削減/収益向上の両面での想定シナリオの構築支援
●PM(ポストマージャー)課題整理
組織統合・文化融合・IT統合などのベストプラクティスの抽出
●戦略的意思決定の視点整理
「なぜ買うべきか?今か?この価格か?」という意思決定会議向けの構造整理
数百万冊の実務書・論文・ビジネス書を学習済み
大量の実務書、MBA教材、技術解説書、経営論文、ホワイトペーパー、スタートアップのピッチ資料などを訓練データとして学習。
その中には以下が含まれる。
『HBR(Harvard Business Review)』の記事や特集
GartnerやMcKinsey、Deloitteなどのレポート構成
O'Reillyや日経BP系の実務書フォーマット
これだけ学習しているM&Aのプロフェッショナルは日本には居ないと言って良いと思います。米国の事例は日本人にはカバーしきれません。
米国でもChatGPTの学習量と肩を並べるM&Aプロフェッショナルは居ないでしょう。属人的な特殊なM&Aのノウハウを持っており、毎年、数件の高度な案件を成功させているプロ中のプロと言える人はいるでしょうけれども、それとて学習量ではChatGPTにかないません。
何を申しているかと言うと、M&Aをやろうと考えている方々は、まずプレリサーチでChatGPTを当てにして良いのです。少なくとも日本一のノウハウが彼にはありますから。(上の過去投稿にリンクされているChatGPT Deep Researchが生成した報告書複数を熟読なさって下さい。彼の実力がわかります)
と言うことで、PMIの計画書も彼に書かせることができます。もちろんAIが生成する訳ですから細部をチェックすると欠けはあると思います。そこは人間が適宜手を添えて補強すれば良い訳です。
活用方法:PMI(統合)フェーズでの組織・人事・システム統合案の設計
目的:
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M&A後の**"価値創出の道筋"を事前にシミュレーション**し、買収可否の意思決定を支援
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特に中堅SIerではPMI失敗リスクが高く、AIによる定量予測が重要
ChatGPTの使い方(実践的なプロンプト例):(モデル的なプロンプトということで、フワッとしています。現実にはChatGPTとかなり議論をした上で、これこれこういうものを調査報告書として作成して下さいとリクエストします。)
以下の2社(買収側:A社、買収対象:B社)の事業構造、人員構成、ERPシステム、主要顧客を元に、M&A後のPMI方針を作成してください。
・人的リスク(流出防止)
・業務プロセス統合方針(開発・営業・管理部門)
・ERPとクラウド基盤の統合案
・想定されるコストとリスクを含む
以上で、ChatGPT + Deep ResearchがSIerのM&Aの準備段階の成果物作成に使えそうだ...ぐらいはおわかりいただけたと思います。
実際に現場で役立つ成果物を作成させるには、経営企画部に専任を置くなどして、その人が徹底的にChatGPT + Deep Researchを使いこなし、ChatGPTにお願いできるのは何か?ChatGPTにお願いしても意味がないものは何か?その線引きがはっきりと自分の頭の中でできるまで、ひたすら、調査報告書を作成し続けるのが良いです。
以下で販売している調査報告書なども、
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数え切れないほど多種多様な調査報告書をChatGPT + Deep Researchで作成してきて、これならプロの需要に応えられるというものができてきた...そういうものをピックアップしています。
こういう仕事ができる専任を経営企画部門に1人か2人置くと、部門から上がる成果物の質と量とがグーンとアップします。