ヒト型ロボット量産4社の比較:Figure AI、Tesla、1X Technologies、Unitree。4社はどこまで進んでいるか?
中国のUnitreeが安価なヒューマノイド(ヒト型ロボット)を市場に投入し、量産に舵を切りました。
Unitree R1の技術的・経済的分析:5,900ドルヒューマノイドはいかにして可能になったか
ヒューマノイドの量産については、元々、イーロン・マスクが「人類の一人一人が1台のヒューマノイドを持つようになる」と大胆な発言をし、Optimusが今年中に市場に出てくるとの読みがあったのですが、8月になってもまだ発表がありません。
以下の記事によると今年中はOptimusがTesla車生産工場で数千体が使われるようになり、来年の半ば頃には新バージョンが外部の企業に販売されるそうです。何らかの事情により量産が遅れているのは確かで、マスク氏が言及していたレアアース磁石制約問題が影響している可能性があります。
一方で、同じ米国のFigure AIのBrett Adcock(ブレット・アドコック)もまた普及台数について大胆な発言をしており、やはり人類一人につき1台のビジョンを持っています。
Figureの最新モデルHelixの動画が昨日から話題になっています。これについては別な投稿で紹介します。
そういう中で中国のUnitreeが現実に手に取ることができるヒューマノイドとして、5,900ドルという価格で市場に投入し始めました。
以下では1X TechnologiesのNeoを加えて、4社の現状を比較できるようにしてみました。
ヒューマノイド量産4社の比較:Figure AI、Tesla、1X Technologies、Unitree。4社はどこまで進んでいるか?
Figure AI(米国)
1) 現在の状況
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Helix を発表。これは汎用の Vision-Language-Action(VLA)制御スタックで、完全にオンボードで稼働し、上半身全体を協調制御し、長期的なタスクを遂行し、さらには2台のロボットを同時に共有タスクで制御できる。
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公開デモでは、「何でも拾う」といった家庭内操作を自然言語プロンプトで実行する様子を強調。報道記事では、上半身全体の制御や約35自由度(DoF)/200 Hz 制御(DoF数値はHelixページではなく業界紙の報道による)を紹介。
2) 生産 / 展開
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BMW:2024年1月18日に商業契約を締結。BMWの公式ページは Figure 02 の仕様と、米サウスカロライナ州スパータンバーグ工場での「テスト成功」を記載。ただし、当時は工場配備の明確なスケジュールは「未定」としていた。
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Figure は 「BotQ」 と呼ばれる製造施設を発表しており、年間約12,000台のヒューマノイドを目標としている(創業者発表、複数の報道あり)。これは野心的な企業側の主張であり、現時点では第三者検証はない。
3) 技術的強み
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Helix VLA:知覚・言語・行動を統合した単一ニューラルネットワーク。手首、胴体、頭部、指の高速連続制御を実現。埋め込み型の低消費電力GPU上で稼働し、稼働時にデータセンター依存なし。
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自然言語プロンプトによるロボット間協調や、ロバストなゼロショット風の操作を実演。
4) 課題
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デモから工場レベルの稼働率・サイクルタイムへスケールさせることは、顧客現場でまだ実証されていない(BMWは展開スケジュール未定と明言)。
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BotQの生産台数目標は創業者による発言であり、独立した検証はない。
5) 戦略的ポジション
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資金調達:2024年2月29日にシリーズBで6億7500万ドルを調達、評価額26億ドル。Microsoft、OpenAI Startup Fund、NVIDIA、ジェフ・ベゾスらが参加。
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パートナー戦略の転換:2025年2月、Helix発表に先立ちOpenAIとのパートナーシップ終了を発表。
Figureを際立たせる要素
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生産志向のオンボードVLA(Helix)を持ち、巧緻な操作や長期タスクに特化。さらに大手自動車メーカーによる産業分野での実証を伴う。Helixのオンデバイス制御がスケールすれば、信頼性/遅延/展開コストで差別化要因となる。
Tesla -- Optimus(米国)
1) 現在の状況
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Optimusのパイロット生産ラインを2025年第1四半期アップデートで言及。Tesla社内工場での活用を視野に入れ、「近く有用な作業を行う」と説明。
2) 生産 / 展開
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2025年第1・第2四半期の投資家向け情報によると、フリーモント工場のパイロットラインで生産し、性能が整い次第、Tesla社内の工場へ幅広く配備予定。
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メディア報道では2025年後半に数千台規模という野心的な数値もあるが、供給網や設計上の課題があり、大量生産時期は不確定。
3) 技術的強み
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製造規模と供給網管理能力。Tesla工場内でドッグフード的に導入できる利点。自動運転スタックの学習基盤とデータ資産をロボティクスに転用可能。
4) 課題
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ロボットハンドの巧緻性や操作性能はまだ発展途上。外部報道では設計変更や一時停止が指摘されている。公式資料でも社外販売より社内パイロットを優先。
5) 戦略的ポジション
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巨大な資本力、ブランド力、垂直統合型製造体制を有し、性能が工場ニーズに達すれば、まず社内で数千台規模の配備が可能。
1X Technologies -- Neo(ノルウェー/米国)
1) 現在の状況
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NEO Beta(2024年8月発表):家庭環境をターゲット。
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NEO Gamma(2025年2月発表):静音性・安全性を強化し、家庭での試験運用を実施中。
2) 生産 / 展開
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ノルウェー・モスに自社製造(アクチュエータ/組立)施設を建設中。垂直統合体制で量産体制を整備。
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家庭内トライアルを限定的に開始し、その後規模拡大予定(家庭向け先行)。
3) 技術的強み
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車輪型ロボ「EVE」で培った安全性の高い駆動・制御技術。家庭内共生のための消費者向けUX設計。
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資金調達実績も強力(2024年1月にシリーズBで1億ドル、2023年にOpenAI Startup Fund主導のシリーズA2)。
4) 課題
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家庭向け優先戦略により、産業用途での耐久・稼働実績はまだ不足。消費者向け展開ではサポートや保守の規模拡大が課題。
5) 戦略的ポジション
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ノルウェーでの垂直統合製造+米国(パロアルト)拠点。家庭用ヒューマノイド特化という差別化ポジション。
Unitree(中国)
1) 現在の状況
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複数のヒューマノイド製品:フルサイズ二足歩行の H1(運動能力デモ多数)と、小型・研究/消費者向けの G1。
2) 生産 / 展開
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中国国内で2025年に1,000台以上の量産計画。国家的な供給網優位性を背景に複数メーカーが参入。
3) 技術的強み
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コスト競争力と供給網:H1の価格は9万ドル未満、G1は約1万6千ドルと公表。研究機関やスタートアップへの参入障壁を大きく下げる。
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中国のエレクトロニクス/EVエコシステムを活用した急速な製品改良。
4) 課題
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巧緻なハンドや統合VLAスタックはまだ発展途上。多くは中国国内での仕様やデモ中心で、国外での産業利用実績は限定的。
5) 戦略的ポジション
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ハードウェア主体、低価格量産により市場投入を加速。国家政策支援と密集した部品供給網を活かして、初期市場を席巻する可能性。
直接比較:現時点でのFigureの差別化
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オンボードVLAによる巧緻性:4社の中で、FigureのHelixは全上半身制御とマルチロボット協調を単一オンデバイスで実現することを最も明確に掲げている。遅延の少なさやクラウド非依存性は信頼性とコスト面で有利。Teslaは同様のオンデバイスVLAを公表しておらず、Unitreeと1Xはそれぞれハードウェア進化/家庭向けUXを重視している。
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産業検証ルート:自動車業界は最適な実証フィールド。FigureのBMWとの提携は、工場レベルでのKPI達成を意識した動き。Teslaは自社工場内での自己展開が可能だが、信頼性・安全性・サイクルタイム適合を大量規模で実現する必要がある。
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生産体制の姿勢:Figureは年間約12,000台規模の専用工場構想(BotQ)を発表。Teslaはフリーモントのパイロットライン、Unitreeは価格優位での幅広いハード供給、1Xはノルウェーでの垂直統合製造を進めている。いずれも具体的な台数は目標値であり、監査済み生産実績ではない。
クイックスコアカード(量産&巧緻性)
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Figure AI -- 巧緻性/VLAリーダー(オンボード、マルチロボット)、産業優先、野心的な工場計画(実績未検証)。
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Tesla Optimus -- 製造スケールと社内展開力、スケジュールは変動的、巧緻性は検証中。
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1X Neo -- 家庭用優先、ノルウェー製造、産業対応は現時点で主要目的ではない。
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Unitree -- 価格と供給力に優位、国家支援、産業巧緻性と統合VLAは未成熟。