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上海北京のトップ大学ではどのような新卒IT高度人材が獲得できるのか?【視察内容決定】上海・北京トップ大学新卒IT高度人材獲得ツアー

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上海北京のトップ大学ではどのような新卒IT高度人材が獲得できるのか?

第1部:エグゼクティブサマリーと戦略的提言

1.1. 中国におけるエリートIT教育の現状:政策、学術、産業の融合

中国のトップレベル大学におけるIT人材育成は、単なる学術活動にとどまらず、国家戦略と密接に連携したエコシステムとして機能しています。この構造を理解することは、日本企業が効果的な採用戦略を立案する上で不可欠です。中国政府が推進する「双一流(Double First Class University Plan)」政策や、米国のアイビーリーグに相当する「C9リーグ(九校連盟)」の存在は、大学間の熾烈な競争を促し、教育と研究の質を世界レベルにまで引き上げています

特に注目すべきは、これらトップ大学と、Huawei、Baidu、Alibaba、Tencentといった国内の巨大テクノロジー企業との間に構築された、深く共生的な関係です。この産学連携は、共同研究、寄付講座、インターンシッププログラムといった形で具体化されており、大学のカリキュラムが常に最新の業界トレンドや実用的な技術要件を反映する原動力となっています。結果として、これらの大学から輩出される卒業生は、高度な理論的知識と、即戦力となりうる実践的スキルを兼ね備えた、極めて魅力的な人材となっています 。日本企業がこの人材プールにアクセスするためには、個々の大学の学術的な強みだけでなく、こうした産業界との連携構造全体を把握した上で、戦略的なアプローチを取ることが求められます。

1.2. 一目でわかる大学別強み:主要IT分野におけるポジショニング

本レポートで分析対象とする主要4大学は、いずれも中国を代表する最高学府ですが、日本企業が求める4つの特定IT分野(クラウド、AI、車載ソフトウェア、ロボティクス)においては、それぞれ異なる強みと特色を有しています。採用活動の投資対効果を最大化するためには、これらの微妙な差異を理解し、目的に応じてターゲットを絞り込むことが重要です。

以下のマトリクスは、各大学の専門分野における相対的な強みを一覧化したものです。この評価は、関連学部・研究所の設置状況、国際的な評価、主要企業との連携実績、そして学術研究の成果に基づいて行われています。

例えば、清華大学はAIと車載ソフトウェアの分野で他を圧倒するリーダーシップを発揮しています。これは、世界的に著名なエリート育成プログラム「姚クラス(Yao Class)」や専門の「AI学院」の存在、そしてトヨタ自動車との大規模な共同研究機関の設立といった、具体的な制度的裏付けに基づいています 。一方で、上海交通大学は、ACM国際大学対抗プログラミングコンテストでの輝かしい実績が示すように、ロボティクスやクラウドコンピューティングといった、高度なアルゴリズム実装能力と実践的なシステム開発力が求められる分野で卓越した強さを見せています 。北京大学と復旦大学も、近年「知能学院」や「イノベーション学院」といった先進的な組織を設立し、AIやロボティクス分野で急速に存在感を高めています

表1:大学別強みマトリクス

大学名 クラウドコンピューティング 人工知能(AI) 車載ソフトウェア ロボティクス 総合IT評価
清華大学 (Tsinghua) Tier 1 Tier 1 (トップ) Tier 1 (トップ) Tier 1 他を圧倒する国内1位
北京大学 (Peking) Tier 1 Tier 1 Tier 2 Tier 1 国内2位、理論・AIに強み
上海交通大学 (SJTU) Tier 1 Tier 1 Tier 1 Tier 1 (トップ) トップ4、工学分野の雄
復旦大学 (Fudan) Tier 2 Tier 1 Tier 2 Tier 1 トップ4、CS/AIで急成長

1.3. 投資対効果を最大化する段階的採用戦略

上記の分析に基づき、以下の段階的な採用戦略が導かれます。

  • 最優先ターゲット(Tier 1):清華大学、上海交通大学 これらの大学は、貴社が求める4つのIT専門分野すべてにおいて、最も広範かつ深いレベルでの強みを示しています。特に、清華大学はAIと車載ソフトウェア、上海交通大学はロボティクスとクラウドコンピューティングにおいて、それぞれ最高峰の人材を輩出するエコシステムを構築しており、採用活動の最優先拠点とすべきです。

  • 専門分野特化ターゲット(Tier 1.5):北京大学 北京大学は、中国トップ2に位置する総合大学であり、特にAI分野における理論研究と人材育成能力は清華大学に匹敵します。Baiduとの強力な連携もあり、基礎研究から応用までを担う優秀なAI人材の宝庫です 。AI関連の専門職を求める際には、最優先ターゲットと同等の重要度でアプローチすべき大学です。

  • 二次的・新興ターゲット(Tier 2):復旦大学、北京理工大学 これらの大学も国内トップクラスの教育機関であり、優れた人材を輩出しています。復旦大学は、近年新設した一連の「イノベーション学院」を通じて、学際的なIT人材の育成に力を入れており、将来性が非常に高いです 。また、北京理工大学は、国防科学技術分野における国家重点大学であり、特にロボティクスや車両工学といった分野で高い専門性を持つ人材が期待できます 。最優先ターゲットでの採用チャネルが確立した後の、次の展開先として、あるいは特定の専門分野におけるニッチな人材を発掘する場として、有効な選択肢となります。

第2部:技術分野別詳細分析

本セクションでは、日本企業が求める4つの主要技術分野それぞれについて、どの大学がどのような強みを持つ人材を育成しているのかを深く掘り下げて分析します。

2.1. クラウドコンピューティング人材

クラウドコンピューティングは、現代のITインフラを支える基盤技術であり、その教育は主にコンピュータサイエンス学部の「並列分散処理」や「コンピュータネットワーク」といった研究分野に組み込まれています。この分野で特に注目すべきは、清華大学と上海交通大学です。

  • 主要大学と分析

    • 清華大学: 学術的なリーダーシップが際立っています。同大学コンピュータサイエンス学部の教員であるYong Cui教授やJinlei Jiang教授らは、クラウドコンピューティング、ネットワーク、ビッグデータに関する論文を国際的なトップカンファレンスで多数発表しており、その研究内容は世界的に高く評価されています 。このような最先端の研究活動が、大学院レベルのカリキュラムに直接反映され、高度な専門知識を持つ学生を育成する土壌となっています。

    • 上海交通大学: 制度的な強みが特徴です。同大学のコンピュータ科学与工程系(Department of Computer Science and Engineering)内には、「並列与分散計算研究所(Parallel and Distributed Computing Institute)」が明確に設置されており、その研究テーマとしてクラウドコンピューティングとビッグデータが公式に掲げられています 。このように組織として専門分野を特定していることは、当該分野に特化した人材が一貫して育成・輩出される安定したパイプラインが存在することを示唆しており、採用側にとっては非常に魅力的です。

  • 業界からの影響 中国国内市場はAlibaba CloudとTencent Cloudによって寡占されており、学生たちはこれらのプラットフォームに日常的に触れています。そのため、両社が提供するベンダー資格は、学術的な知識を補完する実践的スキルの証明として、学生の間で広く価値が認められていると考えられます。採用時には、これらの資格保有の有無が、候補者の実践能力を測る上での重要な指標となり得ます。

2.2. 人工知能(AI)人材

AIは、もはやコンピュータサイエンスの一分野ではなく、独立した学問領域として、国家レベルで戦略的に推進されています。特に北京に拠点を置く清華大学と北京大学は、この分野で世界的な競争を繰り広げています。

  • 主要大学と分析

    • 清華大学: この分野における議論の余地のないリーダーです。中国で初めてコンピュータ学部を設立した歴史を持ち 、近年では単科大学レベルの「人工智能学院(Artificial Intelligence Academy)」を設立し、AI研究と教育に特化した体制を構築しています 。さらに、世界中から天才学生を集めるエリート学部プログラム「姚クラス(Yao Class)」は、トップレベルのAI研究者やエンジニアを輩出する源泉として知られています 。同大学出身者が創業したユニコーン企業「智譜AI(Zhipu AI)」の成功は、学術的な卓越性が商業的なイノベーションへと直結する、成熟したエコシステムが学内に存在することの何よりの証拠です

    • 北京大学: 清華大学の強力なライバルであり、理論的な深みにおいて独自の強みを持ちます。学内には「智能学院(School of Intelligence)」と学際的な「人工智能研究院(Artificial Intelligence Institute)」が設置されており、AIに対する全学的なコミットメントを示しています 。特に、中国のAI分野を牽引するBaiduとの強固なパートナーシップは特筆に値します。「北京大学-Baidu人材育成実践基地(PKU-Baidu Talent Cultivation Base)」などを通じて、学生は最先端の深層学習フレームワークや大規模言語モデルといった、産業界の現実的な課題に触れる機会を豊富に得ています

  • 上海の大学の動向 上海交通大学と復旦大学も、この国家的な潮流に乗り遅れてはいません。上海交通大学は産業界と連携して「AI-X研究所」の設立を進めており 、復旦大学は「計算与智能創新学院(School of Computing and Intelligence Innovation)」を立ち上げるなど 、両大学ともに専門組織を設立し、AI人材のパイプラインを急速に拡大しています。

2.3. 車載ソフトウェア人材

車載ソフトウェアは、コンピュータサイエンス、電子工学、そして自動車工学が融合した高度に学際的な分野です。この領域で最高の人材を求めるならば、清華大学と上海交通大学が主要なターゲットとなります。

  • 主要大学と分析

    • 清華大学: この分野における同大学の優位性は、**「清華大学-トヨタ連合研究院」の存在によって決定づけられています 。この研究院は、単なる短期的な共同研究ではなく、5年単位で継続される大規模な戦略的パートナーシップであり、コネクティビティ、水素エネルギー、次世代モビリティといった未来の自動車技術に関する最先端の研究が行われています

      この連携の重要性は、単に資金や設備が提供されるという点にとどまりません。世界的な自動車メーカーであるトヨタが、これほど大規模な投資を長期にわたって継続しているという事実自体が、清華大学の研究レベルと人材の質が世界トップクラスであることの証左です。さらに、このエコシステムから、AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)規格に基づいた自動運転用演算プラットフォームを開発するスタートアップ企業「Novauto」**が生まれている点は極めて重要です 。AUTOSARは、現代の自動車業界における事実上の標準ソフトウェアアーキテクチャであり、非常に複雑です。この環境に身を置く清華大学の学生(特に車両・輸送学院や電子工学系の学生)は、一般的なソフトウェア開発スキルに加えて、自動車業界特有の、極めて価値の高い専門知識と実践経験を身につけています。これは、他の大学の卒業生にはない、明確な競争優位性です。

    • 上海交通大学: 伝統的に自動車工学分野に強い大学であり、その前身は上海交通大学の分校でした 。ボルボ社とエンジンに関する共同研究を行った実績もあり 、自動車産業との連携の歴史を持っています。また、同大学が強みとするオートメーション(自動化)やロボティクスの技術は、自動運転システムの開発に直接応用可能であり、高い親和性を持ちます。

2.4. ロボティクス人材

ロボティクス分野における卓越性は、国際的なコンペティションでの実績や、資金力のある専門研究機関の存在によって測ることができます。この観点からは、上海交通大学が特に際立っています。

  • 主要大学と分析

    • 上海交通大学: この分野における明確なリーダーの一角です。同大学は、プログラミング能力とアルゴリズム的思考の頂点を競う**「ACM国際大学対抗プログラミングコンテスト(ICPC)」において、複数回の世界チャンピオンに輝いています** 。このコンテストで求められる高度な問題解決能力は、複雑な制御システムや認識アルゴリズムを実装する必要があるロボティクス分野のスキルセットと完全に一致します。また、同大学の研究チームは、ロボティクス分野のトップ国際会議であるIROS(IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems)での論文発表など、学術面でも高い実績を上げています

    • 北京大学: 学内に「先進製造与機器人学院(Institute of Advanced Manufacturing and Robotics)」という専門組織を設置しており、ロボティクス研究に対する制度的な注力を示しています

    • 復旦大学: 近年、「智能機器人与先進制造創新学院(School of Intelligent Robotics and Advanced Manufacturing Innovation)」を設立し、この分野への戦略的投資を強化しています 。これは、同大学が将来的にこの分野で重要な役割を果たすことを目指している明確なシグナルです。


【正式告知/最終視察内容決定】

JTB上海・北京トップ大学新卒IT高度人材獲得ツアー

私たちインフラコモンズ株式会社では、先日ご紹介の「シリコンバレー最先端ヒューマノイド企業視察ツアー」に続いて、中国・上海および北京のIT人材教育に注力するトップ大学群を訪問し、日本企業が各大学の優秀なIT系人材――新卒のみならず、修士・博士課程の高度人材まで含めて――とつながるための視察ツアーを実施します。

【視察日程】

◉9月22日月曜日〜9月26日金曜日 申込締切8月26日火曜日

【視察設計のポイント】

  • IT人材教育を積極的に行なっている上海と北京のトップ大学における新卒/修士/博士課程人材窓口を訪問し、御社と各大学とのパスが構築できる機会を目指します。
  • ベテランの日本人中国語通訳が付きます。
  • 旅行会社はJTBになります。参加申込はJTBの予約申込ページOASYSから行っていただきます。8月上旬に開通したURLを告知、正式なお申し込みができるようになります。
  • 月曜出発、金曜日帰国。最少催行人数10名。最大20名(20名になった時点で締め切ります)
  • 中国における視察コーディネート会社:CARETTA WORKS。視察実施後の個別企業様と各大学との交渉等を個別のコンサルティングサービスとして請け負うことも可能です。
  • 視察代金は80万円(航空サーチャージおよび空港使用料別)

【対象となる企業】

  • 日本の大手IT企業。特にAIやクラウド人材を求めている大手IT企業

  • 日本の自動車メーカー及びティア1企業でSDV(Software Defined Vehicle)開発人材を求めている企業、及び、ADAS開発人材を求めている企業

  • 日本の大手企業において、業務部門内でアプリケーションを内製するチームの充実を図りたいとお考えの企業
  • 日本のIT人材企業で中国IT人材企業とのパイプを作りたいとお考えの企業

【視察スケジュール】

【Day 1】東京 → 上海

  • 午前:東京(羽田/成田)発

  • 午後:上海浦東空港着

  • 夕方以降:自由行動/休憩→歓迎会・オリエンテーション

  • 宿泊:上海市内ホテル

【Day 2】上海市内訪問(午前+午後で2大学) → 夜に北京へ移動

  • 上海交通大学、復旦大学の2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問

  • 夜便:上海 → 北京移動(例:19〜21時台便)

  • 宿泊:北京市内ホテル

【Day 3】北京訪問(午前+午後で2大学)

  • 清華大学、北京大学、北京航空航天大学、北京郵電大学、北京理工大学のいずれかのうち、2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問

  • 宿泊:北京市内ホテル

【Day 4】北京訪問(午前+午後で2大学)

  • 清華大学、北京大学、北京航空航天大学、北京郵電大学、北京理工大学のいずれかのうち、2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問

  • 宿泊:北京市内ホテル

【Day 5】北京 → 東京

  • 午前:自由時間/チェックアウト

  • 午後:北京首都空港または大興空港へ送迎

  • 夜便:北京発 → 東京着

【資料請求および旅行について】

 株式会社JTB  
 https://www.jtbcorp.jp/jp/
 ビジネスソリューション事業本部 第六事業部 営業第二課内 JTB事務局
 TEL: 03-6737-9362
 MAIL: jtbdesk_bs6@jtb.com
 営業時間:月~金/09:30~17:30 (土日祝/年末年始 休業)
 担当: 稲葉・野田
 総合旅行業務取扱管理者: 島田 翔


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