オルタナティブ・ブログ > 経営者が読むNVIDIAのフィジカルAI / ADAS業界日報 by 今泉大輔 >

20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

驚くべき上海交通大学のIT人材育成詳細とその即戦力志向。IT人材不足の日本にはチャンス

»

今度、9月下旬の視察で訪問する各大学のIT人材教育がどのようになっているか、AIで調べています。各大学とも日本にいては想像のできないようなハイレベルの、かつ、企業に入社したその日からある程度は即戦力として働けるような教育を実施しています。

以下の上海交通大学のIT人材教育の中身も、日本のSIerで人材採用に当たっている方、日本の自動車メーカーで車載ソフトウェア人材の面接に当たっている方、その他のIT企業や事業会社などのIT部門で人材採用に当たっている方が読むと、おそらく、垂涎の的...のような新卒人材が見えてくると思います。

この上海交通大学の来年6月卒業の新卒学生にアクセスできる視察が以下でご案内している「上海・北京トップ大学新卒IT高度人材獲得ツアー」です。

この2万字超のレポートは、日本のIT業界全体に非常に意味を持つものであると思いますので、端折らずにしばらくここで公開し続けます。上海に行って同大学と接点を持つと、このような人材に日本に来てもらって働いてもらうことができるようになります。

全て中国語情報源で調査しているため、日本ではほとんど知られていない事実がぎっしり詰まったレポートとなっています。

上海交通大学におけるIT人材育成エコシステムの分析:クラウド、AI、車載ソフトウェア、ロボティクス人材に関する戦略的レポート

エグゼクティブサマリー

本レポートは、中国の最高学府の一つである上海交通大学(SJTU)が、日本企業にとって戦略的に重要となる4つの分野(クラウド、AI、車載ソフトウェア、ロボティクス)において、いかにして世界トップクラスのIT人材を育成しているかを詳細に分析するものである。SJTUは、単なる教育機関ではなく、中国の技術的野心の中核を担う戦略的拠点として機能している。その強さの根源は、Huawei、Alibaba、SenseTimeといった中国のテクノロジー大手と深く、構造的に共生する独自の「産業ネイティブ」な教育モデルにある。

本学のIT人材育成は、伝統的な強みを持つ電子情報・電気工学部(SEIEE)や機械・動力工学部(ME)を基盤としつつ、市場の需要に迅速に対応するため、2024年に新設された人工知能学院や自動化・感知学院といった戦略的組織によって補完されている。これらの組織は、学術研究と産業応用をシームレスに連携させることを目的としており、特に上海市政府やSenseTimeとの共同設立による上海人工知能研究院(SAIRI)のようなプラットフォームは、研究成果の迅速な産業転化と、学生が実社会の課題に直接取り組む機会を提供する上で中心的な役割を果たしている。

各分野における人材育成の特徴は以下の通りである。

  • クラウド人材: 学生は、Alibaba CloudやHuawei Cloudといった商用プラットフォームを、授業やコンペティションを通じて実践的に使用することが半ば義務付けられている。これにより、理論的知識だけでなく、特定のプラットフォームに精通した「プラットフォーム・ネイティブ」な人材が育成される。

  • AI人材: SenseTimeとの深い連携が際立っており、共同で世界レベルの汎用視覚モデル「INTERN」を開発するなど、学生は最先端の研究開発に直接関与する。新設の人工知能学院、SAIRI、そしてSenseTimeとの共同研究所である清源研究院が三位一体となり、基礎研究から応用、産業化までを一気通貫で担うエコシステムを形成している。

  • 車載ソフトウェア人材: 機械・動力工学部内の智能汽車研究所を中核とし、Huaweiの自動運転部門(ADS)との強固な連携が特徴である。Huaweiの元トップエンジニアが教員として着任し、同社のハードウェアや開発プラットフォームが教育現場に導入されることで、Huaweiのエコシステムに即応可能な人材が体系的に育成されている。

  • ロボティクス人材: 従来の機械工学に加え、新設の自動化・感知学院が制御・知能化を担うことで、学際的な教育体制が強化されている。ソフトロボティクスや人間とロボットの協調といった最先端分野の研究が活発であり、SAIRIを通じてロボット関連のスタートアップが生まれるなど、研究から商業化への道筋も確立されている。

結論として、SJTUの卒業生は、単に学術的な知識を持つだけでなく、中国の主要なテクノロジー企業のツール、プラットフォーム、そして開発思想に精通した「産業ネイティブ」な即戦力である。

序論:上海交通大学 - エンジニアリングとIT人材の震源地

エリートとしての地位確立

上海交通大学(Shanghai Jiao Tong University, SJTU)は、単なる大学ではなく、中国の技術的野心の礎石である。同大学は、中国トップクラスの大学群であるC9リーグ、ならびに国家的な重点大学建設計画である「211工程」「985工程」、そして「双一流(世界一流大学・一流学科)」建設計画のメンバーであり、その地位は中国国内で不動のものである 。この背景は、SJTUが単なる教育機関ではなく、国家の技術戦略を担う重要な資産であることを理解する上で極めて重要である。

エンジニアリングとコンピュータサイエンスにおける世界的拠点

SJTUは、その卓越した学術実績により、世界的に高い評価を得ている。かつては「東洋のMIT」と称されたように、特に工学分野での名声は高い 。各種の世界大学ランキングがその実力を客観的に示している。

  • QS世界大学ランキング: 総合で世界46位にランクインし 特にコンピュータサイエンス分野では世界20位、中国国内では3位という極めて高い評価を受けている

  • タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)世界大学ランキング: 総合で52位、コンピュータサイエンス分野で33位、工学分野で26位に位置している 。2024年の工学分野ランキングでは、世界23位であった

  • 上海ランキング(ARWU): コンピュータサイエンス分野において、世界10位と評価されている

これらのデータは、SJTUがエリートエンジニアリング人材を輩出する第一級の供給源であることを定量的に裏付けている。

本レポートの目的と核心的論点

本レポートの目的は、日本企業が求める4つの主要なIT人材分野、すなわちクラウド人材、AI人材、車載ソフトウェア人材、ロボティクス人材の育成において、SJTUが有する能力を包括的に分析することにある。

本レポートの核心的な論点は、「SJTUの比類なき強みは、Huawei、SenseTime、Alibabaといった中国のテクノロジー大手との間に構築された、深く共生的な統合モデルに由来する」という点にある。このモデルを通じて、現代のテクノロジー業界が用いるツール、プラットフォーム、そして直面する課題に精通した「産業ネイティブ(industry-native)」な卒業生が育成されている。本レポートでは、この独自の教育・研究エコシステムを解剖し、日本企業にとっての戦略的意味合いを考察する。

(今泉注:中国の場合、長年続いてきたの国家建設の五カ年計画の一要素として、国家建設に不可欠な製造業に大学卒業生が送り込まれた場合、即戦力となるような教育を施す...という伝統が根強くあるものと推察される。)



【正式告知/最終視察内容決定】

JTB上海・北京トップ大学新卒IT高度人材獲得ツアー

私たちインフラコモンズ株式会社では、先日ご紹介の「シリコンバレー最先端ヒューマノイド企業視察ツアー」に続いて、中国・上海および北京のIT人材教育に注力するトップ大学群を訪問し、日本企業が各大学の優秀なIT系人材――新卒のみならず、修士・博士課程の高度人材まで含めて――とつながるための視察ツアーを実施します。

【視察日程】

◉9月22日月曜日〜9月26日金曜日 申込締切8月26日火曜日

【視察設計のポイント】

  • IT人材教育を積極的に行なっている上海と北京のトップ大学における新卒/修士/博士課程人材窓口を訪問し、御社と各大学とのパスが構築できる機会を目指します。
  • ベテランの日本人中国語通訳が付きます。
  • 旅行会社はJTBになります。参加申込はJTBの予約申込ページOASYSから行っていただきます。8月上旬に開通したURLを告知、正式なお申し込みができるようになります。
  • 月曜出発、金曜日帰国。最少催行人数10名。最大20名(20名になった時点で締め切ります)
  • 中国における視察コーディネート会社:CARETTA WORKS。視察実施後の個別企業様と各大学との交渉等を個別のコンサルティングサービスとして請け負うことも可能です。
  • 視察代金は80万円(航空サーチャージおよび空港使用料別)

【対象となる企業】

  • 日本の大手IT企業。特にAIやクラウド人材を求めている大手IT企業

  • 日本の自動車メーカー及びティア1企業でSDV(Software Defined Vehicle)開発人材を求めている企業、及び、ADAS開発人材を求めている企業

  • 日本の大手企業において、業務部門内でアプリケーションを内製するチームの充実を図りたいとお考えの企業
  • 日本のIT人材企業で中国IT人材企業とのパイプを作りたいとお考えの企業

【視察スケジュール】

【Day 1】東京 → 上海

  • 午前:東京(羽田/成田)発

  • 午後:上海浦東空港着

  • 夕方以降:自由行動/休憩→歓迎会・オリエンテーション

  • 宿泊:上海市内ホテル

【Day 2】上海市内訪問(午前+午後で2大学) → 夜に北京へ移動

  • 上海交通大学、復旦大学の2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問

  • 夜便:上海 → 北京移動(例:19〜21時台便)

  • 宿泊:北京市内ホテル

【Day 3】北京訪問(午前+午後で2大学)

  • 清華大学、北京大学、北京航空航天大学、北京郵電大学、北京理工大学のいずれかのうち、2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問

  • 宿泊:北京市内ホテル

【Day 4】北京訪問(午前+午後で2大学)

  • 清華大学、北京大学、北京航空航天大学、北京郵電大学、北京理工大学のいずれかのうち、2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問

  • 宿泊:北京市内ホテル

【Day 5】北京 → 東京

  • 午前:自由時間/チェックアウト

  • 午後:北京首都空港または大興空港へ送迎

  • 夜便:北京発 → 東京着

【資料請求および旅行について】

 株式会社JTB  
 https://www.jtbcorp.jp/jp/
 ビジネスソリューション事業本部 第六事業部 営業第二課内 JTB事務局
 TEL: 03-6737-9362
 MAIL: jtbdesk_bs6@jtb.com
 営業時間:月~金/09:30~17:30 (土日祝/年末年始 休業)
 担当: 稲葉・野田
 総合旅行業務取扱管理者: 島田 翔


お問い合わせは、株式会社インフラコモンズ (ホームページ下端の問い合わせ欄よりお送りください)まで



第1章:SJTUにおけるIT人材育成の構造的枠組み

SJTUのIT人材育成能力を理解するためには、まずその複雑かつダイナミックな組織構造を把握する必要がある。伝統的な強みを持つ巨大な学部と、新たな技術潮流に対応するために設立された俊敏な新組織が連携し、最先端のIT教育を実現している。

1.1. 伝統的な工学の拠点:SEIEEとME

SJTUのIT教育の根幹を成すのは、長大な歴史と規模を誇る二つの学部である。

  • 電子情報・電気工学部(School of Electronic Information and Electrical Engineering, SEIEE - 电院): IT人材育成の中心的ハブであり、その起源は1908年の電機専科にまで遡る 。学生数10,133名、教員数994名という巨大な規模を誇り、コンピュータサイエンス学科、電子工学科、自動化学科などを擁する 。この包括的な組織体制により、クラウド、AI、ソフトウェアエンジニアリングといった分野の基礎から専門知識までを網羅する、強力な教育基盤を提供している。

  • 機械・動力工学部(School of Mechanical and Power Engineering, ME - 机动学院): 1913年に設立された、ロボティクスや自動車工学といった「ハードテック」分野の中核を担う学部である 。学部内に「机器人研究所(Institute of Robotics)」 「智能汽车研究所(Institute of Intelligent Vehicles)」という、本レポートの調査対象と直接関連する専門研究所を設置しており 、物理的なシステムと情報技術の融合領域における人材育成を主導している。

1.2. 新時代に対応する戦略的新組織

SJTUは、伝統的な学部の強みに安住することなく、技術革新のスピードに対応するため、戦略的な組織再編を積極的に行っている。

  • 人工知能学院(School of Artificial Intelligence): 2024年4月に設立されたこの学院は、単なる新学科ではない 。上海市政府との連携で設立された「特区学院」であり、国家レベルでの高い戦略的重要性が与えられている。さらに、「工业创新研究院(Industrial Innovation Research Institute)」と一体で建設が進められており 、その使命が純粋な学術研究に留まらず、産業応用と経済的インパクトの創出に直結していることを示唆している。

  • 自動化・感知学院(School of Automation and Sensing): 2024年6月、既存の自動化学科と感知科学・工程学院を統合して設立された 。この再編は、制御理論(自動化)と環境認識(感知)のシームレスな融合を必要とする現代のインテリジェントシステムへの明確な対応である。公表されている研究領域には「智能机器人与具身智能(Intelligent Robotics and Embodied Intelligence)」 「医疗机器人(Medical Robotics)」が含まれており、ロボティクス分野への注力を鮮明にしている

SJTUの組織構造は静的なものではなく、中国の国家技術戦略と市場の需要に即応するために常に進化する、ダイナミックで適応性の高いエコシステムである。2024年というほぼ同時期に人工知能学院と自動化・感知学院が設立されたことは偶然ではない。これは、AIとインテリジェント製造という国家の優先課題に大学のリソースを直接的に振り向ける、トップダウンの戦略的再編を反映している。この俊敏性により、SJTUは市場が求める専門人材のパイプラインを迅速に構築することが可能となっている。

1.3. 産業界との連携を担う研究・転化プラットフォーム

SJTUの最大の特徴は、産業界との深い統合を実現するための専門組織の存在である。

  • 上海人工知能研究院(Shanghai Artificial Intelligence Research Institute, SAIRI): これは、SJTUの産学連携モデルを象徴する組織である。SJTU、上海市政府、臨港集団、そしてAIユニコーン企業のSenseTimeが共同で設立した独立法人であり 、その明確な使命は、AI分野の研究開発と産業転化を推進する機能的プラットフォームとなることである SAIRIは、 Huawei、Alibaba、SenseTimeといった業界の巨人と緊密に連携し、AI計算能力、大規模モデル、自動運転やロボティクスへの応用といった分野で共同研究を進めている また、国連工業開発機関(UNIDO)のCenter of Excellenceにも認定されており、国際的なハブとしての役割も担っている

  • 清源研究院(Qingyuan Research Institute): 2019年にSenseTimeとSJTUが共同で設立したもう一つの重要な研究機関である 。SenseTimeが持つ世界トップレベルの技術と、SJTUの研究人材を融合させ、次世代のコア技術を突破することを目的としている

これらの組織の存在は、SJTUの産学連携が、単なる共同研究や寄付講座といったレベルを遥かに超えていることを示している。SAIRIのように、大学、政府、企業が共同で独立法人を設立するモデルは、産業界のニーズ、政府の政策、大学の研究が構造的に融合する恒久的な橋渡し役を創出する。この仕組みにより、研究は「応用を前提として生まれ」、これらの研究機関に参加する学生は、初日から市場主導の現実的な課題に取り組むことになる。これは、欧米の大学で一般的に見られる産学連携の哲学とは根本的に異なるアプローチである。

1.4. SJTUの組織と育成対象人材のマッピング

以下の表は、SJTUの複雑な組織構造を整理し、日本企業が求める4つの人材プロファイルが、どの組織で重点的に育成されているかを明確に示すものである。

人材プロファイル 主要な学術拠点 主要な研究所・研究室 主要な産業統合プラットフォーム
クラウド人材 SEIEE(コンピュータサイエンス学科) 分散システム関連研究室 Alibaba Cloud, Huawei Cloud
AI人材 人工知能学院, SEIEE(CS学科), 致遠学院 ReThink Lab, MVIG Lab SAIRI, 清源研究院 (SenseTime)
車載ソフトウェア人材 ME(自動車工学科) 智能汽車研究所, 汽车动力与智能控制国家工程研究中心 Huawei (Intelligent Automotive Solution BU)
ロボティクス人材 自動化・感知学院, ME(机器人研究所) Soft Robotics Lab, 制御・操作・認識関連研究グループ SAIRI (Intelligent Robotics), 各種産業プロジェクト

第2章:クラウド・サイバーセキュリティ人材の開発

デジタル経済の根幹をなすクラウドコンピューティングとサイバーセキュリティ。SJTUは、この分野の専門家を育成するために、強固な基礎教育と、中国のクラウド大手との深い連携を組み合わせたアプローチを採っている。

2.1. 学術的基盤:コアカリキュラム

SJTUのクラウド・セキュリティ人材育成の土台は、SEIEEのコンピュータサイエンス学科が提供する体系的なカリキュラムにある。公式なシラバスは完全には公開されていないものの、学生がGitHub上で共有している講義ノートは、その内容を把握する上で極めて有力な情報源となる

  • 主要な関連科目:

    • CS236 Cloud Computing Technology: 学生の履修科目リストに明記されており、クラウド技術が大学院レベルの専門分野に留まらず、学部段階から導入されていることを示している

    • CS307 Operating System (D) および EI332 Computer Composition: これらの科目は、コンピュータシステムがどのように動作するかという根本的な知識を提供し、クラウドインフラを理解する上で不可欠な基礎となる

    • IS307 Basics of Cryptography and Information Security: サイバーセキュリティの理論的基盤を構築する科目である

    • 分散システム(Distributed Systems): SJTUに特化したシラバスは確認できないものの、この分野はクラウドコンピューティングの普遍的な前提知識である。他の中国トップ大学のシラバスでも重点項目として挙げられており 、SJTUでも同等レベルの教育が行われていると考えるのが妥当である。

これらの科目を通じて、学生はクラウドインフラを支えるオペレーティングシステム、コンピュータアーキテクチャ、ネットワーク、そしてセキュリティの原理を深く学ぶ。

2.2. 産業との統合:AlibabaとHuaweiのクラウドエコシステムへの没入

SJTUのクラウド人材育成における最大の差別化要因は、商用クラウドプラットフォームを教育の枠組みに直接統合している点にある。学生は理論を学ぶだけでなく、中国市場を支配する2大クラウドベンダーのツールとサービスを実践的に使いこなす能力を身につける。

  • Alibaba Cloudとの連携:

    • SJTUは、Alibaba Cloudの大学協力プログラムにおける重要なパートナーである。特に、SJTUとフランスの高等教育機関との共同学院であるパリテック学院(SJTU ParisTech Elite Institute of Technology)の上海キャンパスでは、Alibaba Cloudがパブリッククラウド、データ分析、AIに関するコースを提供し、学生一人ひとりに実践的な演習のためのクラウドプラットフォーム(ECSインスタンスを含む)へのアクセス権を与えている

    • 経済管理学部(ACEM)では、Alibaba傘下のTmallと共同で認定プログラムを提供しており、技術分野以外でも産業プラットフォームの導入が進んでいることがわかる

    • SJTUの博士課程修了者がAlibaba Cloudで重要な役割を担っている事例もあり 、大学から企業への直接的な人材パイプラインが確立されていることを示している。

  • Huawei Cloudとの連携:

    • SJTUとHuaweiが共催する「無人車チャレンジカップ」では、参加学生に対してHuawei CloudのAI開発プラットフォーム「ModelArts」およびAIアプリケーション開発プラットフォーム「HiLens」の使用が求められた 。これは、学生がコンペティションで成功するために、特定の商用AIクラウドサービスを習熟せざるを得ない状況を作り出しており、極めて実践的な学習機会となっている。

    • より広範なSJTUとHuaweiのパートナーシップには、学生のイノベーションを支援するための「計算能力プラットフォーム」の構築が含まれており、これは暗にクラウドベースのインフラを指している

    • 大規模な科学技術計算に不可欠な学内のハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)プラットフォームは、Huaweiとの緊密な協力のもと、同社のスケールアウトストレージ「OceanStor」を使用して構築されている 。これは、研究者と学生が、Huaweiの商用サービスを支えるものと同クラスのデータインフラ環境内で研究を行っていることを意味する。

2.3. 分析と洞察

SJTUのクラウド人材育成モデルを深く分析すると、単なる知識の伝達を超えた、戦略的な意図が見えてくる。

第一に、SJTUは「プラットフォーム・ネイティブ」な人材を育成しており、これにより国内のテクノロジー大手は採用と新人研修において著しい優位性を得ている。一般的なコンピュータサイエンスの卒業生がクラウドの概念を理論的に学ぶのに対し、SJTUの学生は授業、コンペ、研究を通じてAlibaba CloudやHuawei Cloudを実践的に使用する 。その結果、彼らは特定のAPI、サービススタック、運用ロジックを習得した状態で卒業する。AlibabaやHuaweiに採用された際、彼らの研修期間は劇的に短縮される。彼らは単に「クラウド」に詳しいのではなく、「自社のクラウド」の専門家なのである。これは、他社が容易に割り込むことのできない、強力で自己強化的な人材パイプラインを形成している。

第二に、大学と産業界の協力は、ソフトウェアの提供に留まらず、ハードウェアとインフラレベルでの深い統合にまで及んでいる。SJTUの中核的な研究基盤であるHPCプラットフォームがHuaweiのハードウェアで構築されているという事実は 、この連携が研究スタック全体に浸透していることを示している。学生と教員は、Huaweiの商用製品を支えるのと同じクラスのインフラ上で研究を行う。この深いレベルでの統合は、育成されるスキルと知識が、産業パートナーの技術ロードマップと完全に整合することを保証する。

第3章:次世代AI人材の鍛錬

AIは、SJTUが最も戦略的に資金とリソースを投下している分野と言っても過言ではない。その人材育成アプローチは多角的かつ産業界と深く統合されており、単なる技術者の育成を遥かに超える野心的なエコシステムを形成している。

3.1. AI教育の「三位一体」:相乗効果を生むエコシステム

SJTUのAI戦略は、それぞれ異なる役割を持つ3つの組織が連携する、三位一体のアプローチとして捉えることができる。

  1. 学術の中核(人工知能学院): 2024年に新設された専門学院は、体系的なカリキュラム、学位、そして学術的な厳密さを提供する基盤である

  2. 産業化の架け橋(SAIRI): SenseTimeと政府が共同所有するこの研究機関は、研究成果を市場投入可能なアプリケーションへと転換する役割を担い、学生に実社会のプロジェクト経験を提供する

  3. 最先端R&Dエンジン(清源研究院): SenseTimeとの共同研究所であり、より基礎的でフロンティアな研究に焦点を当てる。トップクラスの学生と教員が、産業界の研究者と共に次世代の課題に取り組む場となっている

この三位一体の構造により、基礎研究から応用開発、そして産業化までがシームレスに繋がり、学生はエコシステムのどの段階にでも関与することが可能となっている。

3.2. カリキュラムとコアコンピテンシー:基礎から最前線まで

SJTUのAI教育は、強固な基礎から最先端の応用までを網羅している。

  • 基礎科目: GitHubで公開されている講義ノートによれば、CS410 Artificial IntelligenceCS385 Machine LearningCS386 Digital Image Processingといった科目がカリキュラムの中核を成している

  • 詳細なシラバス分析: AI007 Artificial Intelligenceという科目のシラバスは、その内容の広さと深さを示している 論理、探索、機械学習、深層学習といった理論だけでなく、コンピュータビジョン、自然言語処理、推薦システムといった多様な応用分野、さらには交通、環境、エネルギー管理におけるケーススタディまで含まれている。これは、理論と実践の両方を重視する教育方針を明確に示している。

  • エリートプログラム: トップ教授であるJunchi Yan氏が率いる「致遠AIエリートクラス」の存在は、最も優秀なAI人材を選抜し、特別に育成するための特進コースが設けられていることを示している

3.3. SenseTimeとSJTUの共生関係:深い統合のケーススタディ

SJTUのAI戦略の中心には、SenseTimeとの極めて緊密な関係がある。これは単なるパートナーシップではなく、もはや「融合」と呼ぶべきレベルに達している。

  • 共同研究開発: 両者の協力は、汎用人工知能(AGI)分野における世界トップクラスの成果である、汎用視覚モデル「INTERN」の開発に結実した 。このプロジェクトに参加した学生は、AI研究の絶対的な最前線で活動したことになる。

  • 人材育成パイプライン: 「SenseTime奨学金」は、SJTUを含む中国トップ大学の最も優秀なAI専攻の学部生を「惹きつけ、維持し、育成する」ことを明確な目的として設立されている 。これは、将来の採用候補者を早期に特定し、育成するための直接的なメカニズムである。

  • 構造的統合: 第1章で詳述した通り、SenseTimeはSAIRIと清源研究院の共同設立者であり 、大学の研究・イノベーション構造そのものに深く組み込まれている。

3.4. 主要な研究室とその教育への影響

SJTUのAI教育は、世界的に著名な研究室の研究活動と密接に連携している。

  • ReThink Lab (SJTU-ReThinkLab): Junchi Yan教授が率いるこの研究室は、自動運転(think2drive)、量子AI、組み合わせ最適化といった、最も先進的で挑戦的なAI応用分野に取り組んでいる Yan教授がAI学院や致遠クラスで指導的役割を担っていることから、研究室の成果がカリキュラムに直接フィードバックされる体制が整っている。

  • MVIG (Mobile Vision and Graphics) Lab: Cewu Lu教授が率いるこの研究室は、ロボティクス、コンピュータビジョン、人間と物体のインタラクションに焦点を当てており 、実体を持つAI(Embodied AI)やロボティクス分野への人材を直接供給している

  • 広範な産業界とのエンゲージメント: SenseTimeとの関係が最も深い一方で、Tencent AI Labとの共同論文発表や協力 Microsoftによる研究室への支援 など、SJTUのAIエコシステムは多様な産業プレイヤーと連携しており、学生に幅広い視野を提供している。

3.5. 分析と洞察

SJTUのAI人材戦略は、単なる従業員の育成に留まらない。将来の技術リーダーとイノベーターを創出することを目的としている。INTERNモデルのような世界クラスの研究開発に学生を参加させ 、致遠クラスのようなエリートトラックを提供し 、SAIRIを通じて起業家精神を涵養する(実際に人型ロボット企業をインキュベートしている )ことで、SJTUはイノベーションとリーダーシップのマインドセットを育成している。彼らはAIを使うだけでなく、次世代のAIを創造する人材として育てられているのである。

さらに、SenseTimeとの深い統合は、強力な「フィードバックループ」を生み出している。SenseTimeは、自社が直面する最も困難な実世界の課題を清源研究院やSAIRIに持ち込む。SJTUのトップ研究者と学生がこれらの課題に取り組み、INTERNのような学術的ブレークスルーを生み出す 。そしてその成果は、即座にSenseTimeの製品にフィードバックされる。この「課題→研究→解決」という迅速なクローズドループのサイクルは、学術と産業の双方にとって強力な成長エンジンであり、学生に比類のない教育経験を提供している。

第4章:車載ソフトウェアの未来を設計する

インテリジェントカーおよび自動運転車産業は、中国が国家として注力する重要分野であり、そこで求められる高度に専門化された人材の育成はSJTUの重要な使命の一つとなっている。

4.1. インテリジェントカーのハブ:智能汽車研究所

この分野の学術的中核を担うのは、機械・動力工学部(ME)内に設置された**「智能汽車研究所(Institute of Intelligent Vehicles)」である 。この研究所は、国家レベルの拠点であり、重点的な資金配分と国家的な優先順位が与えられていることを示す 「汽车动力与智能控制国家工程研究中心(National Engineering Research Center for Automotive Power and Intelligent Control)」**によって補完されている

4.2. カリキュラム:機械工学の基礎から組込み知能まで

SJTUの車載ソフトウェア人材育成は、車両システム全体を理解するための機械工学の深い知識と、それを知能化するためのソフトウェア・制御技術を融合させたカリキュラムに基づいている。

  • ドメイン知識の習得: MEの学部課程では、汽车工程导论(Automotive Engineering Introduction)汽车构造与设计(Automotive Design)汽车电子技术(Automotive Electronics Technology)汽车制造工艺(Automotive Manufacturing Process)といった科目が提供され、卒業生が車両を一つの完成されたシステムとして理解するための強固な基礎を築く

  • ソフトウェア・制御技術: 控制系统理论(Control System Theory)机电一体化(Mechatronics)といった専門科目に加え、プログラム概要から推察される組込みシステム関連の教育が、ソフトウェアと制御に関する専門知識を構築する。

4.3. 自動運転への特化:Huaweiの影響力

SJTUの自動運転分野における人材育成は、中国のテクノロジー大手Huaweiとの極めて強固な連携によって特徴づけられる。

  • 産業界のDNAを持つ教員: この連携の重要性を象徴するのが、Qin Tong准教授の存在である 。彼は、 Huaweiのインテリジェント自動車ソリューションBU(Intelligent Automotive Solution BU)で、商用化されたHuawei ADS自動運転システムの開発に携わった元エキスパートであり、同社のエリート人材プログラム「天才少年(Genius Youth)」にも選出された経歴を持つ。彼のSJTUへの着任は、業界最先端の知識、技術、そして研究開発の哲学が、大学の教育・研究現場へ直接的かつ高レベルで移転されることを意味する。彼が現在取り組んでいる、強化学習を用いたナビゲーションに関する研究は、まさに業界のフロンティアを反映している。

  • 先進的な研究プロジェクト: 第3章で述べたReThink Labが推進するthink2drive(モデルベース強化学習による自動運転)やbench2drive(クローズドループ自動運転ベンチマーク)といったプロジェクトは、学生が最先端の自動運転研究に従事するためのプラットフォームを提供している

  • 産業主導のコンペティション: SJTUとHuaweiが共催する**「自動運転カップ(Automated Driving Cup)」(無人車チャレンジカップとしても知られる)は、実践的なトレーニングの基盤となっている 。このコンペティションでは、学生はSJTU独自のインテリジェントカープラットフォーム上でソリューションを開発することが求められるが、このプラットフォームには Huawei製のAIアクセラレータチップ**が搭載されている 。これにより、学生は業界の主要プレイヤーが使用する特定のハードウェアとソフトウェアスタックに関する、極めて価値の高い実践的な経験を積むことができる。

4.4. 分析と洞察

SJTUの車載ソフトウェア教育は、単なる学術プログラムではなく、Huaweiの事業戦略と深く連動した人材育成エコシステムとして機能している。

第一に、SJTUは、急成長するHuaweiの自動運転事業を支えるための、重要な学術パートナーとしての役割を担っている。Huaweiは、ADS(Autonomous Driving Solution)で自動車分野に大規模な投資を行っており、その実現には高度に専門化されたエンジニアの安定的な供給が不可欠である。SJTUとの連携--研究室へのハードウェア提供 、自社クラウドプラットフォーム上でのコンペティション共催 、そして元トップエンジニアの教員としての招聘 --は、Huaweiのニーズに合わせてカスタマイズされた人材を育成するための、体系的かつ戦略的な取り組みである。一方、SJTUは、最先端技術と実世界の課題を学生に提供するという利益を得ている。

第二に、車載ソフトウェアに関する教育アプローチは、「フルスタック」である。つまり、機械工学、制御理論、AI/MLを融合させたものである。有能な車載ソフトウェアエンジニアは、単なるプログラマーではあり得ない。彼らは、車両のダイナミクス(MEから)、制御システム(自動化学科から)、そしてAIベースの認識・意思決定(AI/CSから)を理解していなければならない。SJTUの組織構造は、これらすべての分野に強力な学科を持ち、智能汽車研究所のような学際的な研究所を擁することで、この包括的な教育を提供するのに最適な環境となっている。教員の経歴や研究プロジェクトの内容も、この学際的な融合を裏付けている。

第5章:ロボティクスと自動化における専門知識の構築

SJTUのロボティクス分野における人材育成は、伝統的な機械工学と現代的なAI技術を融合させた、学際的なアプローチを特徴としている。この分野は、中国の製造業の高度化(「中国製造2025」)と密接に関連しており、大学としても戦略的に力を入れている。

5.1. メカトロニクスの核心:学問分野の融合

ロボティクス教育は、主に2つの主要な組織によって支えられている。

  1. 机器人研究所(Institute of Robotics): 機械・動力工学部(ME)内に設置されており、メカトロニクスとハードウェアに関する中核的な専門知識を提供する 。教員名簿には、この研究所に所属する多数の教授陣が名を連ねており 、強力な研究・教育体制が敷かれていることがわかる。

  2. 自動化・感知学院(School of Automation and Sensing): この新設学院は、ロボットの「頭脳」を担う部分に焦点を当て、制御理論、知覚、AI技術の教育を行う。その研究指針には、智能机器人与具身智能(Intelligent Robotics and Embodied Intelligence)医疗机器人(Medical Robotics)が明確に含まれており 、先進的なロボティクス分野への強いコミットメントを示している。

5.2. インテリジェントシステムのためのカリキュラム

ロボットを知能化するためのカリキュラムは、複数の学科から提供される要素を組み合わせている。MEは机器人学(Robotics)机电一体化(Mechatronics)といったハードウェアに近い科目を提供する 。自動化・感知学院は、 控制系统理论(Control System Theory)人工智能理论与技术(AI Theory and Technology)といった理論的支柱を担う 。そして、コンピュータサイエンス学科が、不可欠な 机器学习(Machine Learning)计算机视觉(Computer Vision)のスキルを提供する 。この学際的なアプローチにより、ハードウェアとソフトウェアの両方を深く理解した人材が育成される。

5.3. フロンティアでの研究活動

SJTUのロボティクス研究は、世界的なトレンドの最前線に位置している。

  • Soft Robotics Lab: Gu Guoying教授が率いるこの研究室は、非常に高度で専門的なソフトロボティクスの分野に焦点を当てており、研究の深さを示している

  • Embodied AIとナビゲーション: Qin Tong教授の研究グループによる、狭い環境でのロボットナビゲーションに関する研究(Embodied Escapingや、Cewu Lu教授のMVIG Labによる人間と物体のインタラクションや行動理解に関する研究 は、Embodied AI(実世界で相互作用するAI)分野における最先端の研究事例である。

  • 産業・商業応用への展開: **上海人工知能研究院(SAIRI)は、智能机器人(Intelligent Robotics)を主要な研究開発分野の一つに挙げており、既に人型ロボットのプロトタイプを発表した智元机器人(Zhiyuan Robot)**という企業のインキュベーションにも関与している 。これは、学術研究から商業化への明確な道筋が存在し、学生がスタートアップエコシステムに触れる機会があることを示している。

5.4. 分析と洞察

SJTUのロボティクス分野における最近の動向は、明確な戦略的意図を反映している。

第一に、近年の自動化・感知学院の設立は、ロボティクスとインテリジェントシステムにおけるSJTUの能力を向上させ、統合するための戦略的な動きである。これまでロボティクス関連の専門分野は、MEと旧自動化学科に分散していた。自動化学科を感知科学と統合し、専門の学院を新設することで、SJTUはインテリジェントシステムの「頭脳」を開発するための統一された強力な拠点を創設した。これにより、より統合されたカリキュラム、より野心的な学際的研究プロジェクトが生まれ、ロボティクスプログラムのアイデンティティが明確になることで、優秀な学生や産業界のパートナーにとっての魅力が高まるだろう。

第二に、SJTUのロボティクスプログラムは、従来の産業用オートメーションを超え、複雑な環境を認識し、推論し、相互作用できるインテリジェントなロボット、すなわち「Embodied AI」に強く焦点を当てている。ソフトロボティクス 、複雑な空間での自律ナビゲーション 、人間と物体のインタラクション 、人型ロボット といった、様々な研究室で見られる研究テーマは、すべてこの方向性を指し示している。AI、制御理論、機械工学を統合したカリキュラムもこれを裏付けている。この焦点は、ロボティクス研究の世界的フロンティアと一致しており、SJTUが工場の生産ラインだけでなく、物流、ヘルスケア、サービスといった次世代の応用分野で活躍できる人材を育成する上で、有利な立場にあることを示している。

第6章:総合分析

本章では、これまでの分析を統合し、SJTUのIT人材育成モデルの全体像を明らかにする。

6.1. SJTUの「産業ネイティブ」人材モデル:総合分析

本レポートを通じて明らかになったSJTUの教育モデルの最大の特徴は、産業界との深く構造的な統合である。その主要なメカニズムは以下の通りである。

  • 共同所有の研究機関: SAIRIや清源研究院のように、企業(SenseTime)が単なるスポンサーではなく、設立パートナーとして名を連ねている

  • 統合されたプラットフォーム: 授業やコンペティションにおいて、Alibaba CloudやHuawei Cloud/ADSといった商用ツールチェーンの使用が組み込まれている

  • 産業主導のカリキュラム: Huaweiとの「授業-コンペ-イノベーション」モデルに見られるように、学習が産業界の課題に沿ったプロジェクトベースで進められる

  • 流動的な教員陣: Huawei出身のQin Tong教授のように、業界のトップ人材が教員として着任することで、カリキュラムが常に最先端に保たれる

このモデルが育成するのは、単に学術的に優秀なだけでなく、中国のテクノロジーセクターを支配する特定のツールやプラットフォームの**「ネイティブ・ユーザー」**である卒業生である。彼らは、入社初日から高い生産性を発揮できる即戦力として、国内大手企業にとって極めて価値の高い存在となっている。

6.2. SJTUのIT卒業生の能力プロファイル

SJTUの卒業生が持つと期待される専門能力を、分野別に以下に要約する。これは、人事部門や研究開発部門の管理者が採用戦略を立てる上で有用な指針となる。

  • クラウド人材: 分散システムとOSに関する強固な理論的基礎に加え、Alibaba CloudまたはHuawei Cloudのいずれかにおける実践的なハンズオン経験を持つ。専門的な資格を保有している可能性も高い。

  • AI人材: 機械学習・深層学習の理論を深く理解し、大規模モデルのトレーニングや応用開発(例:コンピュータビジョン、NLP)における実践的な経験を有する。トップカンファレンスでの論文発表経験や、SenseTime、Huaweiのプラットフォーム使用経験を持つ可能性がある。

  • 車載ソフトウェア人材: 車両ダイナミクス、制御システム、組込みソフトウェアの知識と、AIベースの認識・意思決定に関する実践的スキルを兼ね備えた「フルスタック」エンジニア。特にHuaweiのADSエコシステムに精通している可能性が高い。

  • ロボティクス人材: 機械設計、高度な制御理論、AI駆動の認識・操作技術を融合した学際的な専門家。Embodied AIやソフトロボティクスといった先進分野での活躍が期待される。

Comment(0)