「デジタルツイン」を Lumada 3.0の中核に据える日立製作所
日立製作所は私ごときが言うのもなんですが、非常に興味深い企業で、過去10年のうちに変革に次ぐ変革を敢行して、最近では白物家電事業が売却予定であることが報道されています。総合家電の会社から全く違う会社に生まれ変わろうとしています。
ドイツではシーメンスがこれに近い変革を続けてきています。アメリカではGEが同様の変革を続けてきました。いずれも電気の登場とともに事業を拡大してきた大企業グループですが、日立製作所も同様です。変革なくしては成長がないということなのでしょう。
このブログではNVIDIAが関係するデジタルツインを何度か紹介してきました。「Omniverse」はNVIDIAのデジタルツイン用のOSです。この上で様々な用途のデジタルツインを構築することが容易になります。ロボティクスの訓練用のデジタルツイン(工場空間、倉庫空間のデジタルツイン)もOmniverse上で比較的容易に作れます。
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NVIDIAがデジタルツインのプラットフォーマーとして歩んでいるのに対し、日立製作所はフィジカルなインストールベース(顧客企業)を多数持つ強みを活かした「現業の変革者」として顧客にアプローチしているようです。デジタルツインがない時代から蓄積してきた膨大な経験値である「ドメイン知識」を、最新のAIとデジタルツイン技術で強化し、顧客企業に新しいタイプの投資効果をもたらそうというのがLumada 3.0の戦略です。
日立製作所のLumada 3.0はものすごい戦略, HIMAX鉄道デジタルツインの解説
上の投稿へのアクセスが定常的にありますので、その続編という意味で以下を作成しました。
デジタルツイン事業を Lumada 3.0の中核に据える日立製作所
日立製作所は、IoTプラットフォーム「Lumada」を基軸に、デジタルツイン(物理空間の仮想再現)技術を社会インフラ変革の中核に据えています。この記事では、Lumada 3.0への進化とそれに伴うデジタルツイン事業の全体像を整理します。
Lumadaの進化と位置づけ
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Lumada 1.0(2016年〜) は主としてIoTプラットフォームとしての構築に注力し、現場業務のデータ駆動型変革を支援しました。
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Lumada 2.0(中期経営計画期、2024年頃まで) では、グローバルロジック社の買収によってデジタルエンジニアリングが強化され、製品開発からサービスに至るバリューチェーン全体を対象とするデジタル化が可能になりました ヒタチ。
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Lumada 3.0(Inspire 2027 経営計画) では、日立の産業ドメイン知識とAIを融合し、既存のインストールベース(発電所、鉄道、工場など)を活用して社会インフラ自体の変革を目指します 日立製作所。
Lumada 3.0は、データ活用から価値創出に至るチェーンをAIとドメイン知識で強化することで、鉄道やエネルギー、産業など多分野における横展開の起点となっています。
デジタルツイン技術の具体像と応用領域
1. 製造業:工場(スマートファクトリー)向け
Lumadaの工場IoTプラットフォームでは、OT(現場機器)データとIT(生産計画・在庫など)データを収集・可視化し、独自の4M運用モデルに統合します。可視化→つながり→分析→測定→予測→共有の6段階からなる成熟度モデルに対応し、最終的にはサプライチェーン全体の最適化を支援します 日立製作所。
2. サプライチェーン
物流や在庫を含むサプライチェーン全体を仮想空間に再現し、需要変動や最適配送・在庫計画などのシナリオ試行が可能。リアルな業務への適用が容易になります ヒタチ。
3. 都市・交通・公共インフラ
交通流や人流のデジタルツインを活用する「TRAFFICSS」などによって、道路設計や都市計画における住民説明や合意形成を支援。三次元シミュレーションとグラフィックで直感的な理解を促し、住民からの理解や質問を反映しながら計画を進められます ヒタチ。
さらに、「Lumada Intelligent Mobility Management」の360Motionでは、鉄道・バス・チケッティング・EV充電などを統合し、都市交通ネットワーク全体の仮想モデル化を実現しています hitachirail.com。
4. 鉄道資産管理(HMAX)
日立独自の実績を持つ「HMAX」では、鉄道車両・信号・運行状況をリアルタイムで収集・分析し、車両やインフラの稼働を監視・予測するデジタルツイン技術です。センサー+AI+ドメイン知識により、保守コストの15%削減、列車遅延20%軽減といった成果を上げています。これらを他業界や他社設備にも横展開する構想が進行中です オルタナティブ・ブログ。
5. 原子力プラント向けメタバースプラットフォーム
2025年7月発表の「原子力メタバース」プラットフォームは、Lumada 3.0を体現し、原子力発電所内の設備や作業現場を仮想再現。安全作業支援、保全管理、投資計画支援などに活用されます。AIとドメイン知識を活用して、データ駆動型プラント管理の実現を目指しています 日立製作所。
また、AIエージェント学習により作業手順リスクを判断する安全高度化ツールとして、デジタルツインによる現場シミュレーションが注目されています ヒタチ。
経営戦略と数値目標
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Inspire 2027において、Lumadaの売上収益割合を80%、Adj. EBITAを20%へと高める「Lumada 80‑20」戦略を掲げています ヒタチ。(Adj. EBITA(Adjusted Earnings Before Interest, Taxes and Amortization) は、「利息・税金・償却前利益(EBITA)」に、一時的・例外的な要因を調整した指標)
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Lumada事業の売上は2024年度で約3.9兆円(比率38%)、2025年度はさらに拡大予定で、Adj. EBITA率も16〜20%を目標としています 日立製作所。
全体俯瞰図:Lumada 3.0 中心のデジタルツイン戦略
領域 | 技術・ソリューション | 適用例/成果 |
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製造(工場) | OT+ITデータ融合、4Mモデル、AI分析 | 生産効率向上、品質トレーサビリティ強化 |
サプライチェーン | 需要予測と在庫最適化、仮想シナリオ分析 | 在庫コスト削減・柔軟対応 |
都市・交通 | TRAFFICSS、360Motion、可視化シミュレーション | 住民合意形成、交通最適化 |
鉄道資産管理(HMAX) | ドメイン知識 × センサー × AI | 保守費15%削減、遅延20%低減 |
原子力・重電インフラ | メタバースプラットフォーム、作業AI安全支援 | プラント保全効率/安全性向上 |
Lumada 3.0において、日立はこれらの領域にまたがるデジタルツイン事業を横断的に統合し、「AI×ドメイン知識」を軸にした一体化戦略を推進しています。
まとめ
日立製作所は、Lumada 3.0をデジタルツイン技術の中核に位置づけ、鉄道、製造、都市計画、原子力プラントなど多様な社会インフラを対象とするDX推進を加速中です。
インストールベースという強みを活かしつつ、AIやセンサー、ドメイン知識との融合によって、社会的価値と事業成長の両立を狙っています。
今後も、Lumadaを基盤とするデジタルツイン技術がどのように拡大していくか、注視に値します。
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