BMWで働き始めているヒト型ロボFigure 02:ヒト型ロボの実用化最前線
──ヒューマノイド導入がもたらす現場の変化と試算
近年のヒューマノイドロボット開発の中でも、最も商用化に近づいているのがアメリカ・シリコンバレー発のFigure AI社だ。同社が開発する汎用型ヒューマノイド「Figure 02」は、すでにBMWの米国工場でパイロット運用が始まり、24時間体制での現場テストが実施されている。
いよいよ、2026年以降、日本の製造・物流現場にもこのようなロボットがやってくる可能性が現実味を帯びてきた。
本稿では、Figure 02の技術的特徴、導入効果のシミュレーション、マネジメントへの影響、競合製品との比較を踏まえ、経営視点からヒューマノイド導入を検討する際の着眼点を整理したい。
Figure 02はすでにBMWで稼働中
人手不足と24時間稼働の現場における意味
ドイツのBMWは、アメリカ南部にあるサウスカロライナ州の工場において、Figure AI社のヒューマノイド「Figure 02」を試験導入している。パイロット段階では、部品の搬送や棚への補充といったタスクを、数週間にわたり24時間体制で繰り返す耐久テストが行われた。
ここで注目すべきは、単なる「技術デモ」ではなく、実環境下での人手不足を補うオペレーションの一環として使われているという点である。工場の夜勤帯や急な欠員時、定型的な搬送業務など、従来人間で埋めていた穴を補完する役割を果たしている。
日本でも人手不足が加速する中、同様の導入事例が遠くない未来にやってくるだろう。
Figure 02のスペックと対応タスク
五指ハンド、会話型AI、複数体の同時制御
Figure 02の特徴を一言で言えば、「AIで動き、AIと話す、人型の汎用作業者」である。
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サイズ・動作:身長約160cm、重量約60kg。自律歩行速度は1.2m/s(人間と同程度)。
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マニピュレーション:16自由度の五指ハンドを搭載し、最大25kgの荷物を持ち上げ可能。
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視覚認識:6台のカメラ+ステレオビジョンによる全方位視覚。
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音声対話:マイクとスピーカーを備え、音声での指示に対応。
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AIスタック:独自のHelix VLAモデルにより、初見のタスクでも言語から行動を生成可能。
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マルチロボット制御:複数台を一つのAIインスタンスで同時制御する"ハイブマインド構成"。
つまり、単なる自動機ではなく、「会話からタスクを理解し、自律的に動く」ことができる点で、従来の産業用ロボットとは一線を画している。
導入可能性シミュレーション
1台=約270万円。5台導入時のコスト効果とは
Figure AI社は、将来的にFigure 02の販売価格を2万ドル以下(約270万円)に抑える方針を打ち出している。
仮に、物流倉庫で5台導入した場合、初期投資は約1,350万円となる。これは、正社員作業者を5人新規雇用するコスト(年間給与+採用・教育コスト)と同程度、あるいはそれ以下だ。
さらに以下の点が考慮される:
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夜間・休日を含む24時間稼働
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社保・福利厚生不要
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トレーニング不要(音声指示だけで稼働)
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疲労・離職のリスクがない
稼働年数3年と仮定した場合、1台あたり年間90万円(1日換算で約2,500円)で稼働する"ロボット人材"を雇うことになる。
「24時間・指示語だけで動くロボット」が変えるマネジメント
Figure 02は、単なる「人の代わり」ではない。導入すると、マネジメントそのものが変わる。
従来、人間にタスクを教えるには、OJT、マニュアル、手順書が必要だった。だがFigure 02は、口頭で「この棚にこれを置いて」と指示するだけで理解する。
つまり、教育コストゼロで、タスク割り振りも柔軟になる。
たとえば、当日の出荷量や人員構成を見ながら、「今日はこのゾーンをFigureに任せよう」といった即時判断が可能になる。人とロボットが混在する職場において、ライン長やフロアマネージャーの役割も、タスク設計やロボット配置の最適化へとシフトするだろう。
競合製品との比較
ヒューマノイドロボットの商用化を目指す企業は複数存在する。
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Agility Robotics(Digit):物流特化型の二足歩行ロボット。Amazon倉庫で導入開始。手先は二指。
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Tesla(Optimus):AIチップを内製し、低価格量産を目指すが、現時点では会話能力は未成熟。
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Sanctuary AI(Phoenix):遠隔操作と自律制御のハイブリッド。手先作業は可能だが商用性は未検証。
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1X Technologies(NEO):家庭向けを志向。小型軽量で安価、対話能力は限定的。
Figure 02の優位性は、五指ハンド+言語理解+リアルタイム自律動作の三拍子が揃っている点にある。さらに、NVIDIAとの連携により、AIの改良サイクルも高速に回っている。
まとめ:2025年〜2030年は"ロボット人材"調達戦争の時代
今後5年間は、「どの企業が最初に汎用ヒューマノイドを量産導入するか」が、現場の生産性だけでなく、採用競争力、コスト構造、企業イメージまでも左右する時代に入る。
Figure 02は、「一部の研究機関の夢」ではなく、すでに商用化段階に入った現実的な選択肢だ。価格は下がり、性能は上がる。大量導入に向けた体制も整いつつある。
製造業・物流業の経営者にとって、ヒューマノイドはもはや「夢」ではない。"人材"の一つとして検討すべき戦略的リソースである。
貴社の工場にFigure 02がやってくる日は、思っているより早いかもしれない。
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[構成]
1. エグゼクティブサマリー
2. Figure AIの設立背景と企業戦略
3. Figure 01・Figure 02のハードウェア・ソフトウェア特徴
4. NVIDIA技術スタックの活用
5. AI訓練データの生成・活用方法:デジタルツイン環境での模倣学習と 自律学習
6. 商用化への展望(量産計画、市場投入時期、競合比較)
7. 日本のロボティクス業界への戦略的・技術的示唆(特に介護ロボット 分野)
8. 参考文献一覧