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「プライベートも仕事の勉強をすべきですか?」という問いへの答え(白川版)

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同じオルタナブログで、斎藤さんが「プライベートも仕事の勉強をすべきですか?」という問いについて書いていた。

「プライベートも仕事の勉強をすべきですか?」という問いへの答え

斎藤さんが書いていることに共感するが、近年大事になってきた問いでもあるので、僕自身の言葉で改めて書いてみよう。


★まずシンプルな話。
僕の周りで、組織に縛られずに自由に、かつ楽しそうに生きている人は、ほぼ例外なく、就業時間かどうかなんて意識せずに勉強してきた方である。
「楽しそうに仕事している人」ではない「楽しそうに生きている人」だ。もちろん「仕事に使う時間を最小限にして、その代わりに趣味に全振り」という路線で人生を楽しんでいる人もいるにはいる。でもそういう人って、結構仕事に縛られている。
それに比べて勉強してきた方は、自分の仕事をコントロールしやすいらしく、仕事以外のことでも楽しそうなのだ。

例えば僕の同僚に、ACミランが好きとかいって、仕事を長めに休んでイタリアにちょくちょく行くヤツがいる。彼が時間とお金を自由にできるのは、余人を持って代えがたい能力があるから。そのためにめちゃくちゃ勉強している。


これを読んでいる若い人の中には「就業時間以外も勉強しないと、人生を楽しめない」という考え方自体を時代錯誤と感じる人もいるだろう。僕も父親たち昭和人の会社人間っぷりを否定して生きてきたので、気持ちはわかる。
でも「定時内だけ勉強してました、と言いながら軽やかに人生を楽しんでいる人があまり見当たらない」という事実は結構大きい。無視してもいいけど、結構リスクがある様に感じる。
まあ「そんな平成人たちの人生をなぞるなんてまっぴらだ!」と、いうのは自由だけど。


★勉強の解像度をあげてみる(その1)
サラリーマンにとって、勉強への「構え」を整理すると、以下の様に分類できる。

a)定時内、定時外を問わず勉強する
b)定時内で暇があったら勉強する
c)勉強しない

もちろん、勉強の量と成果はa>b>cとなる。
cについては特に言うことはない。
一方でbの人は絶対にaの人にかなわない
bを目指すほとんどの人は、「本業が忙しい」という理由で、結局cと大差ないから。
例えばウチの会社は、わざわざ「金曜日は自己研鑽のために時間を使おう。アサインされているプロジェクトの仕事を必ずしもしなくていいよ」と言っているが、それでも。

会社にいる、いないを問わず、就業時間内である、ない、を問わず、勉強するような人に、仕事の隙間で勉強している人がかなう訳ないでしょう。

とはいえ、別にすべての人がa)であるべき、という話では全然ない。
勉強がとても苦痛で、金を貰わずにやってたまるか、という考えはもちろんアリだ。
(時間外の勉強は多かれ少なかれ人を成長させるので、完全年功序列でない限り、時間差では給料に差はつくが)

逆に、時間を問わずに勉強し、他の人よりも早く成長し、より責任ある仕事を任されたり、給料をたくさんもらうのが嬉しい、という人がいてもいい。


★勉強の解像度をあげてみる(その2)

仕事と勉強の関係を、別の角度でも分類してみよう。

①仕事に関係ないことも勉強する(楽しいから)
②仕事に関係ないことも勉強する(プロフェッショナルだから)
③仕事に関係あることだけ勉強する
④勉強しない

同じ「仕事に関係ないことも勉強する」でも、①のタイプと②のタイプがいる。
僕は完全に①で、興味のあることしか勉強しない。そもそも勉強といっても「本を読んでそれについてアレコレ考える」がメインなのだが、読書は役に立つとかじゃなくて、単なる趣味なので。
そして「資格に向けた勉強」には全然モチベーションが沸かない。全然いいことではないので30歳まではチャレンジしてみたが、あまりに成果があがらないので、すっぱりやめた。

心情的には「①のタイプのほうが、義務感にかられて勉強する②よりも成果が上がる!」と言いたいところだが、そんなこともなさそうだ。
さっき例にあげたACミラン好きの同僚は②のお化けみたいなヤツだ。「自分は不器用なんで、とにかく勉強するしかないんです。プロフェッショナルとして恥ずかしくないように」とか言いながら、20年とか30年の間、ずっと勉強し続けている。
僕もよく仕事で相談に乗ってもらうが、めちゃくちゃ頼りになる。仕事に関係ないこともとにかく勉強しているから、何を聞いてもコメントが返ってくるのだから。

一方で、①や②に比べると、③ははっきり落ちる。もちろん④は論外でそれよりはマシなのだが、「人間がその時やっている仕事」なんて狭いもの。そこしか勉強しないと、狭い知識、偏ったものの見方しか身につかない。領域横断的なアイディアも出せない。

論外といいつつ、ちょっとだけ④についても触れよう。
④の人って不思議なんですよね。
自分が担当している仕事は、なるべくうまくやれたほうがいい。その方が良い人事評価がもらえるというのもあるけど、うまくやれたほうが楽しいし、会社に貢献できたほうが(できないより)気分がいいし、早く終わったらプライベートタイムも増える。
で、担当している仕事をうまくやるためには、社内外に蓄積されたノウハウを勉強するのがセオリーだ。当たり前ですね。
でも、それすらやらない人が多いんですよね。丸腰で難しい仕事に挑むの、しんどくないのかな・・。


★業務に関係のない勉強の意味
もう少し、この2つの切り口、つまり「就業時間内/外」と「眼の前の仕事に関係ある/ない」について考えを深めてみよう。

この2つは実は密接に関係している。
つまり「仕事時間以外に勉強すると、勉強するテーマを勝手に選べるので、自然と今やっている仕事に関係ないことも勉強しやすい」という現象が起きる。

ちょっと比較してみよう。
勉強A「経理部に配属されたので、定時内に仕訳の勉強をする。会計のトレーニングに参加する」
勉強B「経理部に配属されたけど、定時後に経営戦略の本を読む。プログラミングしてみる」

勉強Aは業務命令で勉強している状態だ。業務遂行上必要な知識を身につける。まあ普通ですね。
でも勉強Bは誰にも命令されない。
・いつか役に立つかも
・面白そう
・これくらい知っとかないと、なりたいビジネスパーソンになれない気がする
などをモチベーションの源泉として、とりあえず勉強してみる。

勉強Aに比べてBが有利な点がいくつかある。
まず、命令されて勉強するより、自発的に勉強したほうがずっと身につく。誰だって親に小言を言われながら漢字を10回書いて「これ、意味あんのか?」とか思ったことありますよね。それに比べて、自分が選んだテーマを自分が好きで勉強した方が効率がいいに決まっている。

もう一つ、「いまの仕事に役に立たない知識」は、5年ぐらいのスパンで考えたら結構高確率で役に立つ、ということ。僕自身の経験で言うと、
・一介のプログラマーだったけどデータベースの勉強をした⇒半年後に役に立った
・仕事で一切使わなかったけど、アカウンティングの勉強をした⇒1年後に役に立った
・趣味だったので経営学の本を読み続けていた⇒5~10年後に役に立った
という感じ。20年単位で考えると、無駄だった勉強はあんまり思いつかない。

仕事をちょっとでも高い視座で考えようとすると、部門横断的な知識が必要になるし、他業界からヒントをもらうことも多い。だから業務に関係ない勉強って、直感よりずっと役に立つんですよね。


★好きなようにしてください
「ストーリーとしての競争戦略」で有名な楠木先生が書いた「好きなようにしてください」という本がある。キャリアについての相談に先生が回答するのだが、ほぼすべての回答は「好きなようにしてください」で始まる。

今回のテーマで言えば・・
問い「プライベートも仕事の勉強をすべきですか?」
答え「好きなようにしてください」

そう、自分がどう働くかなんて、その人が好きなようにすればいいのだ。
・一切勉強せずに、うだつの上がらないサラリーマン人生を送る
でもいい。
・定時間内にしか勉強せずに、それなりの仕事をする。その代わりにプライベートタイムが充実する
でもいい。
・見境なく勉強し、プロフェッショナルとして自分を磨き続ける
でもいい。

僕の場合は、
・気が向いたテーマについて、気が向いた時に勉強する。それが役に立つ時が来たり来なかったり
という感じだが、そういう人生を歩んでいることに特に後悔はない。
好きなようにした結果なので。

+++++++++++++新刊「プロジェクトを失敗させる55の罠」情報
罠について罠01から罠55まで順番に語っているので、1つの罠に1つずつイラストをつけている。「システムを作らせる技術」の時と同じ、元同僚の今村さんに担当してもらっているのだけど、どんなイラストにするかはお任せなので「ほう、この罠をこんな表現にするか」とか「え、、こうきたか」みたいに、僕もレビューしながら楽しんでいます。ややこしい罠を直感的に伝えるためにも、イラストはめちゃくちゃ重要なんですよね。

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