あなたは3年後にも必要とされる存在ですか?
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」
鴨長明『方丈記』の有名な冒頭ですが、現代のビジネス環境はまさにこの激流そのものです。昨日までの常識という水は流れ去り、今日には全く新しい水が流れています。
先日、ある経営者から、断腸の思いで行ったリストラのお話を伺いました。その際、誰を残すべきかの評価基準として、以下の「3つのランク」を設けたそうです。
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3年後に、この会社にいてもらわないと困る人
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今はいてもらわないと困る人
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今も代替がきき、3年後に期待できない人
退職の対象となったのは(3)の方々でした。
かつての成功体験や古いスキルにしがみつき、変化を拒めば、どれほど過去に貢献した人であっても、未来の席は用意されません。
中国の古典『韓非子』に「守株(しゅしゅ)」という故事があります。
ある農夫が、偶然切り株にぶつかって死んだ兎を手に入れました。彼は味をしめ、鍬(くわ)を捨てて、また兎がぶつかるのをただ切り株を見守って待ったものの、二度と兎は現れず、国中の笑いものになったという話です。
「昔はこのやり方でうまくいった」「俺の若い頃はこうだった」
「昔はよかった」と過去に安住し、自身のアップデートを怠る姿は、あの農夫と何ら変わりません。
「温故知新」と「学んで思わざる」
では、どうすれば(1)の「3年後も必要な人」になれるのでしょうか。
変化の速いこの世の中でプロフェッショナルであり続けるには、学び続けるしかありません。
学びを怠ることは、単なる「停滞」ではなく、「後退」です。なぜなら、私たちが立ち止まっている間にも、未来はどんどんと新しく創られ、世界は先に進んでいくからです。相対的に、私たちは古くなっていくのです。
では、日々「後退」しないために、私たちはどのような意識で仕事に向き合うべきなのでしょうか。改めてプロフェッショナルというものの定義を捉え直してみましょう。
例えば、一流の寿司職人を想像してみてください。
彼らは「修行は終わった」とあぐらをかいて、昨日と同じ仕事を繰り返しているわけではありません。海の状態は刻一刻と変化し、お客様の舌も進化していることを知っているからです。
だからこそ、魚が育った海流や季節(歴史・背景)を常に学び直し、その素材が最も輝く締め方や寝かせ方(理論)を追求し続けます。そうやって自身の技術を毎日アップデートしているからこそ、「感動」という体験を創り出せるのです。
翻って、私たち自身の現在の仕事ぶりはどうでしょうか。
昨日の知識をそのまま今日の商談で使い回し、自ら「後退」を選んではいないでしょうか。
例えばクラウドなどの最新技術を語る際、ただカタログスペックを暗記して「説明」した気になっているのは、思考を止めた証拠です。孔子の『論語』にこうあります。
「学びて思わざれば則(すなわ)ち罔(くら)し」
(知識を学んでも、自分の頭で考えなければ、物事の道理は身につかない)
単に「言葉」を知っていることと、その意味を深く理解していることは、似て非なるものです。
職人が素材を知り尽くすように、私たちもクラウドが登場した歴史的背景を学び、その必然性を理解する必要があります。「温故知新(古きをたずねて新しきを知る)」の精神で歴史の法則を掴んでこそ、お客様の業務という「価値」に結びつけた提案ができるのです。
「ちゃんと説明しました!」と胸を張る人がいますが、それは自分の真実に過ぎません。「伝わった」という相手の真実を実現できて初めて、プロの仕事と言えます。
情報の「枝葉」を切り捨て、「幹」を見る
とはいえ、学ぶといっても、ただ情報を詰め込めばいいわけではありません。
ネット上の情報は膨大ですが、実はその多くが重複やノイズです。メディアは生き残りのために情報を増幅させていますが、私たちに必要な「本質的な価値」がある情報は、実はもっと限られています。
大切なのは、個別の事象(枝葉)に振り回されるのではなく、その根底にある「本質(幹)」を見極めることです。
そのために有効なのが、「歴史的な背景(時間軸)」と、事象ごとの「相関関係(関係性)」という2つの視点です。
この視点で情報を整理すると、バラバラに見えていたニュースが一本の「トレンド」としてつながって見えてきます。本質さえ掴んでしまえば、それが強力なフィルターとなり、不要な情報を捨てることができます。これが「情報の圧縮」です。
この「情報の圧縮」と「本質への到達」においてこそ、生成AIは極めて有効な武器となります。
AIは膨大なデータから瞬時に文脈を読み解き、ノイズを取り除いて要約する能力に長けています。彼らを壁打ち相手にすることで、私たちは独力よりも遥かに速く、深く、「幹」を見つけ出すことができるのです。
「鬼に金棒」とするために、身銭を切る
新入社員に「君たちは今、修行中の身だ。寸暇を惜しんで学べ」と言うと、彼らは目を輝かせます。彼らには「初心」があるからです。
翻って私たち大人はどうでしょう。「自分は一人前だ」と慢心し、学ぶことを止めてしまってはいないでしょうか。
今、私たちの目の前には、先述した「生成AI」や「AIエージェント」という、かつてない強力なパートナーがいます。
ことわざに「鬼に金棒」とありますが、これは「強いものがさらに良い武器を持つことで、無敵になる」という意味です。
自分自身の経験や知見(=鬼としての強さ)に、AIという最新の武器(=金棒)を掛け合わせることで、私たちの「自分力」は飛躍的に向上します。
ここで「会社がChatGPTを禁止している」「セキュリティが......」と足踏みをするのはナンセンスです。
会社で使えないなら、個人で契約して使えばいいのです。
自腹を切って本を買い、独学するのと同じことです。自分の未来への投資を、会社の経費やルールの有無に委ねてはいけません。月額数千円の投資を惜しんで、自分の市場価値を陳腐化させることこそが最大のリスクです。
会社は「自分磨きの土俵」である
忘れないでください。自分の人生は、自分自身のためにあります。
会社という組織は、あなたが人生を輝かせ、自分自身を磨き上げるための「土俵」に過ぎません。
よく「会社のために」と言いますが、真剣に仕事に取り組み、難題に挑むことは、巡り巡って自分の能力という刀を研ぐ機会となります。「会社のため」に行う努力も、結局は自分自身に還元されるのです。
全ては自分力を高めるためです。そう考えれば、会社の制約や環境のせいにする暇などないはずです。 自らの財布を開いてでも最新の「金棒」を手に入れ、使いこなす気概を持ってください。
そうやって主体的にこの土俵で汗を流し、変化し続ける人だけが、「守株」の罠に陥ることなく、3年後も、その先も、社会から真に必要とされる、代替不可能な人材であり続けられるのです。
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