台湾から半導体人材を得るには給与をいくら払えばいいか?【経営者のChatGPTディープリサーチ】
ChatGPTのディープリサーチ機能を経営者がどのような場面で使えるか?そのケーススタディとしてこの投稿を書いています。
こうしたものを書かせていただく小職のバックグラウンドについては、以下の投稿の冒頭で記しています。
【ChatGPT経営】ケーススタディ:シャープのSWOT分析はディープリサーチで高品質に
ラピダスが日本政府の半導体産業再興政策の対象になった経緯
日本の半導体産業は1980年代後半から1990年代前半に世界首位の立場にありました。売上ランキング上位10社のうち6社が日本企業(NEC、東芝、日立、富士通など)だったそうです。しかしその後、韓国や台湾に追い越されてしまいました。
現在、日本政府はラピダスを全面に打ち出して、日本の半導体産業を世界の最先端に追いつかせる政策を行っています。以下はChatGPTのまとめの引用です。
◉産業復興の象徴としての期待
日本企業(ソニー、トヨタ、キオクシアなど)が共同出資し、官民一体の国家プロジェクトとして2022年にラピダスを設立。
政府は2022年以降、数千億円規模の補助金を投じている(NEDOなどを通じて支援)。
◉IBMとの技術提携(2022年11月発表)
ラピダスがIBMから2nmプロセスの技術供与を受けることで、一気に「先端」にジャンプアップできる可能性が出てきた。
これは日本政府にとっても「これは投資する価値がある」と判断する決定的な材料となった。
半導体製造は高度な人材が不可欠であるため台湾の高度人材の給与水準を知る必要
ここからがケーススタディの本論です。ラピダスのような日本の半導体製造会社が、世界の最先端に追いつくために必要なのは、やはり人材です。
半導体製造プロセスについては以前にある案件で調査したことがあり、人材の質が半導体製造の質を向上させるのに極めて重要な役割を果たしていることを理解しています。半導体製造は物理と化学と光学が複合した精密機器の最先端技術を用いているため、各分野の修士、博士レベルの優秀な人材が工場内に常勤していることが不可欠です。つまりそういう人達がいないと半導体は作れないのです。単にASMLの最先端のEUV露光装置を買ったからと言って、最先端の2nmの半導体はできません。
参考資料:ASMLの主顧客→TSMCの主顧客→NVIDIAの主顧客→OpenAIというAI顧客チェーンの最初にいるASML
それを動かすことができる先端的な人材が各プロセスに不可欠です(半導体製造装置は一連のプロセスを担う複数の精密機械ユニットを連結する形で出来上がっています)。
周知のようにNVIDIAの最先端のAI半導体は、全て台湾のTSMCで受託生産されています。世界トップレベルの先端半導体は全てTSMCで作られていると言って過言ではありません。日本の半導体製造会社が世界トップに追いつくためには、最先端半導体製造の現場を知っている台湾の高度人材の採用が不可欠なのです。
ということで半導体製造会社の経営者が台湾の高度な半導体人材の給与水準を知るために、ChatGPTディープリサーチの優れた調査執筆機能を活用するという設定にしましょう。
以下のような高度な英文のプロンプトが得られました。なぜ英語になるかと言うと、日本語のプロンプトでは日本語文献を広く調べる傾向があるからです。これはChatGPTに限らず他のAIでも同様です。
台湾の中国語(台湾華語)の資料を広く調べて報告させるには、ChatGPTには英語で指示を与えるのが現実的です。以下のような英文プロンプトを得るテクニックについては、いつかお話しする機会があればと思います。
英文プロンプト
Please investigate the current salary levels of high-skilled talent in Taiwan's semiconductor industry--especially those working at TSMC and similar advanced logic semiconductor companies (e.g., UMC, MediaTek, ASE, PSMC).
Your research should be based as much as possible on original Chinese-language sources from Taiwan, such as:
Local news reports
Academic studies
Government publications
Job listing platforms (like 104人力銀行, 1111人力銀行, CakeResume)
Specifically, break down salary levels by:
Educational background (e.g., Master's, Ph.D.)
Job titles (Engineer, Senior Engineer, Manager, Director, etc.)
Use figures in New Taiwan Dollars (NTD)
Highlight any differences in salary by years of experience or specializations (e.g., EUV lithography, advanced packaging, etc.)
Include any trends regarding talent mobility--especially from Taiwan to Japan (e.g., for Rapidus or other Japanese firms hiring Taiwanese experts)
Please provide citations and links to the original sources where possible. Summarize your findings in report format.
このプロンプトをChatGPTディープリサーチに走らせて得られた台湾半導体人材の給与水準に関する報告書を以下のリンクに置きました。ぜひ現物をご覧下さい。
台湾の先端ロジック半導体業界における高技能人材の給与調査
なんと、台湾の情報源にアクセスしまくって調べた報告書が台湾華語で生成されてしまいました!しかし焦らないで下さい。
まずこれは、指示通りに台湾華語の情報に律儀に当たって調べてくれたことを正直に物語っています(細かく出典をチェックすると台湾系の英語情報にもかなり当たっています)。プロンプトによっては台湾の英語情報のみに当たって調べるケースもあります(TSMCに関する調べ物の場合など。英語情報が豊富なので)。私たちが知りたいのは日本人一般が読むことのできない台湾華語で書かれた情報です。そこに価値があります。この台湾華語の報告書画面は、ChatGPTディープリサーチがそのような現地語による調査をちゃんとやってくれたことを証明しています。ヨシヨシと褒めてやるぐらいの態度が必要です。
これを日本語で読むには、ChatGPTに誤解の余地のない指示を出して、日本語に訳させればいいのです。私の場合は、以下のように英文で指示を出しました。
Can you translate the report above fully in accurate Japanese for Japanese executives?
上のレポートを日本人のエグゼクティブが読めるよう(そのような報告書として)に正確な日本語で全文翻訳して下さい。
誰が読むための報告書として翻訳させるか、明快に意図を伝えるのがコツです。
全文正確に翻訳して下さいと伝えないと、情報内容を丸めて要約して訳す場合があるので要注意です。
台湾の半導体高度人材の給与水準が明らかになった
そのようにして得た日本語の報告書の概要は以下の通り。
・この報告書では、台湾国内に勤務するプロフェッショナル人材の給与水準を以下のランクに応じて記している。(プロンプト作成時にそのように指示したため)
学歴別(修士、博士)
職位別(エンジニア、シニアエンジニア、マネージャー、ディレクター)
年次(経験年数)
専門分野別(EUVリソグラフィー、先端パッケージングなど)
・現地の求人情報(104人力銀行・1111人力銀行など)・報道・政府資料を基に新台湾ドル(NTD)で報告している。
・日本企業(Rapidus等)への人材流動の動きもまとめている。
結論部分は次のように記しています。
【6】総括
・台湾の半導体業界では、修士卒新入社員で既に年収200万NTD前後が狙える高水準
・職位と経験年数により、シニア層は300~600万NTD超の報酬も可能
・IC設計分野が特に高給で、TSMCの製造系も分配金で高収入を実現
・景気変動により分配金の上下はあるが、基本給は年3~5%の上昇傾向
・日本を含む海外企業による「台湾人技術者引き抜き」が顕著で、人材確保競争が激化している
台湾半導体業界のシニア層は300万NTD(1,360万円)〜600万NTD(2,720万円)という水準だそうです。台湾から引き抜くのですから当然台湾よりも高い給与を出さないと来てくれません。また日本で言う外国滞在手当のような割増も必要でしょう...。ということで現実的な給与水準を設定していくと、その会社の社長よりも多い水準になる可能性は十分にありそうです。
日本の半導体製造会社が世界との競争に勝っていくためには、場合によっては、経営者よりも多い給与を払ってでも高度人材を呼び寄せなければならない...。そういう事実を知ることができたというだけでも、ChatGPTディープリサーチの優れた調査執筆機能および海外現地語調査機能は、ものすごく経営者にとって使いでがあります。
夜、自宅で寝る前に「あ、台湾の給与水準を調べておかなければ」となった際にも、15分ほどやりとりして適切なプロンプトを得て、それをChatGPTディープリサーチにかければ、朝には目の覚めるような報告書が出来上がっているのですから。
関連投稿
1本300万円のインド市場調査を一晩でやらせるケース【経営者のChatGPTディープリサーチ】
追記:
この調査も、外部に発注すると300万円級です。