ASMLの主顧客→TSMCの主顧客→NVIDIAの主顧客→OpenAIというAI顧客チェーンの最初にいるASML
NVIDIAの最先端GPUはASMLの最先端EUV露光装置があるから製造できる
オランダに本社がある半導体露光装置メーカー最大手ASMLについては、以前に業務で調べたことがあり、この時に半導体業界の構図がほぼ理解できました。
簡単に言うと、NVIDIAの最先端GPUはASMLの最先端EUV(Extreme Ultraviolet Lithography、極端紫外線リソグラフィ)露光装置がないと製造できません。
ASMLによる公式YouTube動画。1 分でわかる ASML
上の動画の中から、EUV露光の一場面。
EUV露光装置分野ではASML一強の図式があり、競合が米国に存在するもののASMLが築いたEUV市場トップの位置を脅かすまでには行っていません。日本の半導体製造装置メーカーも、ASMLが受け持つEUV露光とは違う領域で存在感があるということです。
↓ASMLによる最先端のEUV露光技術の紹介動画。数nmの超微細な半導体チップがどう製造されるかがよく分かります。
Computational lithography: Driving nanometer precision in microchip manufacturing | ASML
↑のASML公式YouTube動画から。EUV露光の概念図。
現在のGPUの最先端製品Blackwell(NVIDIA)は3nmないし4nmの微細化技術によって作られていますが、半導体をどれだけ微細にできるか?という最もクリティカルな部分でEUV露光が不可欠であり、そのEUV露光装置はASMLにしか作れないということです。
そしてそのASMLの主たる顧客は台湾に本拠地があるTSMC(台湾積体電路製造)であり、TSMCの主たる顧客は先端的なGPU製品を送り出しているNVIDIAであり...という顧客チェーンがあります。
世の中的にはほとんど知られていませんが、NVIDIAは自分でGPU製品を作っているのではなく、TSMCに製造委託しています。半導体業界ではよく行われていることで、半導体を設計する頭脳の部分を誰かがやり、その設計に基づいてTSMCのようないわゆる「ファウンドリ」が受託製造します。ファウンドリについては以下の記事がわかりやすく解説しています。東京エレクトロンが運営する半導体専門誌の中の記事です。
TELESCOPE: 半導体業界用語「ファウンドリ」をわかりやすく解説
ファウンドリに対して、設計を行う頭脳の役割を果たし、ファウンドリが製造した半導体製品を法人顧客に売る手足の役割を果たすのがいわゆる「ファブレス」です。NVIDIAはAIデータセンターに不可欠な先端的なGPU製品を設計して販売する、世界で最も成功したファブレスと言えます。
そしてNVIDIAの先端的なGPUをガンガンに動かすAIデータセンターをブンブン回して先端的なLLMモデルを世に送り出している代表的な顧客がOpenAIということになります。OpenAIやGoogle (Alphabet)、さらにはソフトバンクとOpenAIによるStargateプロジェクトは数兆円〜数十億円規模の大規模AIデータセンターを作る訳ですから、NVIDIAにとっては得意客中の得意客ということになります。
顧客チェーンで言えば、ASMLの主たる顧客がTSMCであり、TSMCの主たる顧客がNVIDIAであり、NVIDIAの主たる顧客がOpenAIやGoogleであるという図式があります。
日本で言う「NVIDIA関連銘柄」は何らかの形でNVIDIAの受託製造を行なっているTSMCに半導体製造装置、半導体検査装置、半導体材料などを納入している日本企業ということになります。東京エレクトロン、
アドバンテスト、
レーザーテック、
SCREENホールディングス、
信越化学工業、
SUMCO
などです。
ASMLのEUV露光装置一式の運送にはジャンボジェット3機を使う
話をASMLに戻すと、同社が製造販売するEUV露光装置は、TSMCなどの顧客に納入する際に、非常にセンシティブな取り扱いがなされ、航空機で運ばれます。
半導体製造装置は超微細なプロセスを扱うため、製造装置そのものも超センシティブな形で運ばないと装置がおかしくなってしまうからです。ASMLの装置一式はジャンボジェット輸送専用機3機で運ばないといけないと言われており、その梱包はおそらく数億円のアート作品を梱包する時に用いられる超センシティブなものであるようです。
↓貨物用ジャンボジェットでASML製品を梱包したコンテナが運ばれ、設置されるプロセスがよくわかる動画。
Intel Receives ASML's First High NA EUV system
↑画像はいずれも上のIntelの動画から。ASMLの製品を運ぶ専用コンテナには衝撃吸収のメカニズムがある。丁重にラッピングされた装置が半導体製造工場に搬入され、設置される。
日本でASMLのEUV露光装置を購入した最初の顧客がラピダスです。北海道のラピダスの半導体製造工場にASMLのEUV露光装置が設置されたそうです。
NHK:ラピダス「EUV露光装置」導入へ 新千歳空港で記念式典 北海道
EUV露光装置は、その前の工程とその後の工程を受け持つ数多くの専門的な装置を必要とし(できあがった3nm、4nmのウェハーからチップを取り出す装置や、チップの検査を行う装置など)、全体の装置チェーンがうまく動作するようにするチューニングがかなり大変だそうです。装置を設置してしまえばすぐに生産に取り掛かれるような世界ではないそうです。
製造プロセスの個々の部分に専門的な装置が存在し、その専門的な装置を動かしたりチェックしたりする専門家が必要であり...という、専門家が束になって全体がうまく動くというのが最先端の半導体製造です。
こうした専門装置のチェーンからNVIDIAのBlackwellが生み出され、そのBlackwellが多数動くAIデータセンターでOpenAIなどの先端的LLMモデルが生み出されています。
米国で現在建設中のAIデータセンターでは、1ヶ所のDCで原子力発電所1基分の電力(1GW=1000MW=100万kW)が必要とされています。
AIデータセンター建設にも用地取得からDC内のサーバーラック設置まで様々な分野の専門企業が存在します。そこで動くGPUはASMLなどのAI顧客チェーンから生み出されています。GPU製造からAIデータセンターの運営まで、AI全体のチェーンを最上流から最下流まで全部見渡している人は...おそらくいないのではないでしょうか?