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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

キロ7億円で建設でき、1時間に1万2,500名を運べるskyTran

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前回の投稿では、2020年に開催される東京五輪の1日92万人の観客をどう運ぶかということについて、特に都心と臨海地区との間の人の流れの部分は既存の公共交通ではさばききれないだろうということを確認しました。

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■NASAの技術が使われている

さて、skyTranです。skyTranにはNASAで開発された動体制御の技術が使われており、米欧の雑誌記事などで紹介される場合には必ず、「NASA発の」ということが枕詞のように付いています。skyTranの事業化の権利を持ち、米国シリコンバレーおよびイスラエル・テルアビブなどにおける具体化を取り仕切っているskyTran LLCも、拠点はカリフォルニア州のNASA Ames Research Center内にあります。(不肖わたくしも一度伺ったことがあります。以下はその時の写真)

Skytranphoto04

以下はテルアビブでのskyTranプロジェクトについて報じている今年3月のBusinessWeekの記事。メディアとしては「NASA」は見出しになりやすいわけですね。

NASA Pod Transports Are Close to Reality—in Tel Aviv

■交通渋滞の解消を狙ったインテリジェントな交通システム

skyTranは自動車による都市部の交通渋滞を根本的に解決するインテリジェントな交通手段として発想されています。どういうことでしょうか?
交通渋滞の弊害は、何と言っても、個人が自分の移動のことだけを考えて自動車に乗り道路に出てきた結果、同じことを考えている多数の個人の自動車に遭遇し、本来の目的であった移動が阻害されているということに尽きます。一言で言えば、多数の個人の移動欲求をさばく仕組みがなく、カオス状態になっています。ジャカルタの交通渋滞を何度か経験しましたが、あれはカオス以外の何物でもありません。

これに現代的なコンピュータ制御による解を組み入れるなら、都心部にメッシュ状の路線網を張り巡らし、通勤時に移動したい人をポイントAで拾い、目的地のポイントBまでの経路選択はコンピュータに任せ、交通システム全体としての最適化を実現する、ということになるでしょう。以下のスライドは、このコンセプトをアニメーションで示したものです。PPTスライド(1枚だけ)をダウンロードしてプレゼンテーションモードでご覧ください。1クリックすると自動ルーティングの様が表示されます。(出典:skyTran LLC)

Physical_Internet.pptをダウンロード

メッシュ状の路線網においてポイントAからポイントBまでの経路を自動的に選択するというのは、まさに、インターネットのプロトコルであるTPC/IPのルーティングの原理であり、大変に興味深いものです。skyTranでは時々自らのキャッチフレーズとして「フィジカル・インターネット」という言葉を使っています。IT系の方は、このへんのよさを直感的に理解しますね(^^;。

■時間当たり最大1万1,500名の輸送能力

skyTranの主な特徴を箇条書きにすると…。

・走行距離1km当たりの電力消費が75ワット時ときわめて小さい「パッシブ式(passive maglev)」と呼ばれるタイプのリニアモーターカーの原理で推進力を得て、都市部では時速75km程度、郊外では速度を上げて走行し、乗車駅から降車駅までノンストップで走る。

原理的には時速160kmはラクに出せますが、都心部での営業速度が75kmということです。それでもノンストップで走るので既存の交通手段では太刀打ちできないほど移動時間が短くて済みます。

・2人乗りの「ポッド」と呼ばれる車両は、発進、加速、ルート選択、減速、停車のすべてがコンピュータ制御されており、全自動で走行する。乗客は乗車中に読書をしたり、スマートフォンを操作したりしていてよい。(ポッドの制御に上記のNASAが開発した動体制御の技術が応用されている模様)

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・1本のガイドウェイ上で1時間に5,000台以上のポッドを走行させることができ、1時間当たり最大で1万1,500名の乗客を輸送することができる。(1ポッドに2名乗車)。通例、往復の複線で展開するため、1時間当たりの実質的な最大輸送能力は2万3,000名。

こちらのskyTranを紹介したテレビ番組の3:28〜3:35にラッシュアワー時の無数のポッドのふるまいがアニメーションで示されています。


YouTube: skyTran Masters of Innovation

・運行スケジュールはなく、基本的に、タクシーのように「呼んで」、近くの駅に来させて、乗り込んで、ノンストップで目的地の駅まで移動する。ポッドを呼ぶには、スマートフォンやPCなどからインターネット経由で連絡する。

・以下に記す建設費の安さから、都市部においてメッシュ状の路線網を組みやすい。これによって、自家用車ないしタクシーを代替するポイント・ツー・ポイントの交通機関になり得る。

公共交通機関において路線を1〜2本で構成するのではなく、何本も組み合わせて「路線網」にすることの効用は、以前にBRTを論じた時にご説明しました。

キロ単価が安ければネットワークがすぐ組める - インフラ輸出品目としてのBRT(下)

・建設にあたって専用の用地を確保する必要はなく、既存の道路の脇を使って、電信柱と同等のポールを立て、一定間隔で並べたポールでガイドウェイを支えて路線を形作ることができる。従って、用地買収にかかる長い準備期間を短縮することができ、完工までの期間がきわめて短い。

前投稿でも貼り付けましたが、この動画がポールとガイドウェイの感じをよく表現しています。


YouTube: skyTran Urban Integration Concept

複線で建設すると時間当たり最大で2万3,000名の乗客を運ぶことができることから、前回の投稿で記した東京五輪の都心と臨海地区を結ぶ追加的な交通手段としては、十分役立ちそうです。ゆりかもめとりんかい線だけでは7万人程度までしかカバーできませんでした。選手・関係者を含むと10万人程度は移動が見込まれる都心・臨海地区間では、skyTranはうまく機能するのではないでしょうか。メッシュとして路線網を構築するともっと多くの乗客を吸収できるでしょう。
ちなみに選手村と西新宿にある東京都庁とをskyTranで移動すると、時速75kmとは言えノンストップなので、15分弱で移動できてしまいます。渋谷、新宿、池袋、西日暮里、上野、秋葉原、東京、品川などのターミナル駅から競技場や選手村が集中する臨海地区に人を運ぶのにも使えそうですね。

■キロ当たり7億円で建設できる

skyTranの最大の特徴はその建設費の安さです。同社CEOのJerry Sanders氏から直接いただいた情報では、商用化された段階では、キロ当たりの建設コストは700万ドルで済むとのことでした(単線)。1ドル100円のレートでは7億円。毎時最大1万1,500名を運べる公共交通手段としては劇的な安さです。
主な公共交通の建設費との比較(同社資料)を以下に載せます。

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skyTranは歩道の4倍強で建設できます。なぜ、こんなに安いかと言うと、skyTranのポッドはエンジンも何もない単なるハウジングであり、車両として見ると大変に軽いため、それを走行させるガイドウェイも、ガイドウェイを支えるポールも軽量のもので済み、もってキロ当たりの建設コストが安いということのようです。同じリニアモーターカーでもパッシブマグレブと呼ばれる方式なので、常時線路に通電しておかなくてもよいという事情も関係しているでしょう。なお、上の建設費にはポッドのコストは含んでいません。

建設コストの参考資料ということで、日本の資料から抜き出してみました。skyTranの安さは際立っています。(出典:国交省サイト。公共交通のシステム比較

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「LRT」とはLight Rail Transitで一言で言えばライトレール。路面電車の現在版です。国交省および地方自治体がライトレールのことを言う場合には「LRT」という表記を使うのが一般的です。「新交通システム」とは一部に道路を走る区間があっても、基本的には道路から区分けされた専用軌道を持つ公共交通を指します。首都圏のゆりかもめや舎人ライナーが該当します(いずれも道路は走りませんが)。

■最小単位の駅は2,000万円

駅の建設コストが安いこともskyTranの特徴です。上のキロ当たり700万ドルには駅の建設コストは含まれていないと認識しています。バス停感覚で、人が歩いていける範囲内に建設することが想定されている最小構成の駅の場合、20万ドルという数字を聴いたことがあります。2,000万円ですね。(訂正:80万ドルでした。8,000万円です。)構成のシンプルさを考えれば、それも当たり前かなという気もします。

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この程度の駅建設費であれば、必要がある場所に逐次、用地を確保して、バス停並みのアクセスの容易さを確保するということもできそうです。また、大型駐車場にskyTranの駅を併設することも容易でしょう。

次回はこのskyTranを日本の東京五輪で実現する際に、何が必要になるかを考えてみます。

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