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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

キロ単価が安ければネットワークがすぐ組める - インフラ輸出品目としてのBRT(下)

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BRTは単価が安いから商売にならない、日本のインフラ輸出の対象としてふさわしくない…と考えるのは早計かもしれません。

■キロ単価は安いが総延長が長いプロジェクトが組める

インドのムンバイメトロの場合、フェーズ1(2011〜2016)〜フェーズ3(2016〜2021)までの総事業費は5,400億円もあり、巨大なプロジェクトとなっていますが、総延長は140kmに留まります(km単価約40億円)。
一方、BRTは、km当たり初期投資が5,000万円〜15億円と安いものの、ジャカルタのBRTトランスジャカルタの場合で2004年の1路線による操業開始から数年で総延長約170km、7路線のネットワークを作り上げています。km単価5億円としても850億円になり、ムンバイメトロのフェーズ1つ分1,800億円と比較してもさほど見劣りしない水準だと言えます。

BRTの場合、キロ当たりの初期投資額が少ないため、早期に路線を延長することができ、公共交通の必須条件とも言える「ネットワーク性」が早期に得られることが大きな特徴です。

前投稿でご紹介したLloyd Wright氏による"Introduction to BRT"の中に同じ10億米ドルでどれだけの路線が引けるかを比較したわかりやすい資料があります(下敷きになっている地図はバンコクのようです)。BRTだと426km。高架式都市鉄道だと14km。地下鉄では7km。都市交通としての「ネットワーク性」を出そうと思うと、何に軍配が上がるかは一目瞭然です。

Samecost

■都市交通ではネットワーク性が大事

素人として考えてみても、数km程度の路線が1つぽつんと敷かれたただけでは、乗客があまりいないであろうことはすぐにわかります。
都市交通の場合、東京を例に出すまでもなく、様々な路線が入り組み、ネットワーク状になっていることで、多種多様な人の移動ニーズに対応でき、それがために利用客が幾何級数的に増えるのではないでしょうか。つまり、採算性を上げるには、路線をネットワーク的に増やして行く必要があります。
それが前投稿でも触れたように、乗車賃収入に限りがある新興国では、高架式都市鉄道も地下鉄も初期投資がかさんで、なかなかスピード感のある敷設ができず、当初計画の3路線はおろか、1路線目で計画終了ということになりかねない状況があります。

Lloyd Wright氏の別なページでは、「単一の路線に意味はなく、複数の路線がネットワークを形成することが大事だ」ということを説明しています。ここにある図は路線数が増えると、乗客が利用できる「乗換の便宜」が増えることを表しています。移動ニーズに応えるためには、多数の乗換の便宜が提供されることが望ましく、そのためには、キロ当たり初期投資の小さい交通手段で精力的に路線数を増やすのが得策です。

Networks

商売として考えてみても、準備を入れると1路線に10年単位の時間がかかる高架式ないし地下鉄よりは、半分以下の期間で済みそうなBRTの方が手がけやすい案件になるのではないでしょうか。また、1路線の建設が終わると、次のファイナンスが付くまで数年かかってその間は休業状態になる高架式/地下鉄よりは、柔軟に路線を継ぎ足していけるBRTの方が継続的なビジネスになりそうです。
なんと言っても、現在はファイナンス面で高架式/地下鉄が非現実的な大都市にでも、BRTなら比較的容易に入れていくことができることも大きいです。市場規模を試算した資料はありませんが、トラムなどよりはかなり大きいと思います。

■新型の個人用高速移動体システムも

BRTにかなり近い位置にある都市交通システムにSkyTranという米国で考案されたPRT(Personal Rapid Transit)があります。昨年、仕事で少し調べさせてもらいました。ここでは、ウェブサイトをリンクするに留めておきます。なかのページを細かくチェックすると、ネットワーク性を実現するのに非常にうまくできあがっているシステムであることがわかります。

ということで、日本の製造業が取り組めそうな都市交通システムはまだまだ選択肢がありそうです。

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