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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[ニュースの背景] 三井住友銀行、インドに投資するインフラファンド立ち上げ

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3月10日付日経で「三井住友インフラ開発参画、インド投資250億円基金」という記事が出ていました。三井住友銀行がカナダ系アセットマネジメント会社Brookfield Asset Management、インドの中堅銀行Kotak Mahindra Bankとともに3億米ドル規模のインフラファンドを設立するという内容です。

■三井住友銀は1億8,000万米ドル前後を国内の機関投資家から募る

インド系のニュースサイトでやや詳細な内容が報じられていました。

Livemint.com: Kotak, SMBC to launch fund

記事のポイントは以下。
・新ファンドの運用総額3億米ドルのうち、三井住友銀が10%、Brookfieldが7.5%、Kotakが5%、計22.5%を出資。残りを各国の機関投資家等からの出資で調達。三井住友銀は1億7,500万〜1億8,000万米ドルを日本国内で、Kotakは5,000万米ドルをインド国内で募る予定。
・インド国内募集分は9月、国外分は12月に募集締め切り。
・運用開始後4〜5年で6〜8社のインドのインフラ運用会社を選定し、各3,000万〜4,000万米ドル規模の投資を行う予定。
・オルタナティブ投資調査会社Preqinによると、世界のインフラファンドのうち特定国を対象にしたファンドは対インドがもっとも多い(通例インフラファンドは複数国の案件に投資を行う)。インド国内のインフラに投資するファンドはすでに38本あり、うち25本で計95億米ドルを運用している。

投資対象として同記事では空港、道路なども上げていますが、インドではまず電力が逼迫していますから、まず手堅いところ発電事業になるのではないでしょうか。

インド発電市場の参考記事:インド超臨界プラント市場を席巻する中国
インドインフラ需要の参考記事:インドの旺盛なインフラ投資需要とデットファンドによる資金調達

■今後、日本系のインフラファンドが続々と登場する可能性も

日本国内では、機関投資家がインフラ投資に対して興味を抱いているという調査結果が出ていますが、実際にインフラファンドに資金を出している投資家は少ないようです。

参考記事 - ブルームバーグ:年金基金:インフラ投資選好一段と強まる、7割が検討中-大和総研

これは、日本で比較的容易に投資ができるインフラファンドが少ない、言い換えれば、日本の銀行などが関わっているインフラファンドが少ないからではないかと思われます。海外ではオーストラリアのマッコーリーグループなどが積極的にインフラファンドを立ち上げ、日本でも営業を行っているようですが、おそらく日本の機関投資家には、日本系の金融機関が関わるインフラファンドに投資したいという思いが強いのではないでしょうか。

今回の三井住友銀行によるインド対象のインフラファンド設立は、そうした状況に風穴を開けることが予想され、今後、他の大手銀行による類似のインフラファンド設立に道を開く可能性があります。

■インフラファンドの基本

日本ではなじみの薄いインフラファンド、インフラ投資について、改めて基本をまとめておきます。かなり簡略に記していますのでご了承下さい。

インフラファンドないしインフラ投資ファンドとは、ある国の政府や自治体が民間の資金によってインフラを整備するいわゆるPublic-Private Partnership(PPP、官民連携)の枠組みによって成立するインフラ運営事業に投資を行い、長期にわたって安定的なリターンを得ることを目的とするファンドです。通例、年金や保険など機関投資家が資金の出し手になりますが、海外では株式市場で取引されている上場インフラファンドもあり、これについては個人も投資できます。

投資対象は中長期にわたって安定的なキャッシュフローが見込めるインフラ事業、すなわち、有料道路、発電、鉄道、空港、港湾、パイプラインが主。発電分野では、風力発電や太陽熱発電など再生可能エネルギー系の発電事業の立ち上げにもインフラファンドがよく参画します。

インフラファンドの基本がわかる参考記事:Global Infrastructure Partnersからインフラ投資の基本を学ぶ

投資スキームとしては、特定のインフラの運営権を政府などから獲得したコンソーシアムが特別目的会社を設立。1,000億円を必要とする発電事業の例で言うと、コンソーシアム参加企業数社が分担して200億円を出資。200億円は複数のインフラファンドからの出資。残り600億円を銀行シンジケートによるプロジェクトファイナンスで調達し、発電施設の建設にかかります。
施設が完成したら、発電した電力は地域の電力会社に対して長期契約で売電。経費等を差し引いたキャッシュフローから、銀行への返済、出資者に対する配当を支払います。
インフラ事業を運営する特別目的会社がいわば大きな財布になっている格好です。このお財布が生む利益に対して投資をするのがインフラ投資ということになります。

これに投資するインフラファンドとしては、出資した特別目的会社の株式を市場で売ることはできないものの、買い取りたいという機関投資家などがあれば売ることもできます。
通例、インフラ事業では10数年で投資を回収し、その後の運営が純粋なリターンになるという超長期の投資となります。しかし、特別目的会社の株式を売却するという形で、比較的早期に投資を回収する方法はあるわけです。一般的にインフラ事業の早いフェーズでは高いリターンが見込まれ、それ以降のリターンはマイルドになります。一方、早いフェーズでは事業の収益が安定しない等のリスクが高く、それ以降のフェーズではリスクが緩和されます。早いフェーズで投資をして、後で売却できるのはこうしたリスク・リターン特性に変化が生じるためです。

インフラ投資のリターンは一般的に年率10%〜20%台になることが想定されており、かつ、長期的に安定したリターンが見込めることから、海外では長期運用の必要がある年金や保険などの資金が集まりやすいとされています。

日本にインフラファンドが存在しないのは、政府や自治体がインフラ運営事業をPPP(官民連携)という形で民間に委託する形態が実質的に存在せず(既存の国内のPFIは海外のPPPとは一線を画すという見方に基づきます)、国内にはインフラ投資の機会がないということに起因すると思われます。オーストラリアの例で言うと、ある時期から豪州政府がインフラ事業を積極的に民間に開放した結果、これに投資機会を見いだした国内金融機関がインフラファンドの設立を始め、数年でインフラ投資が1つのジャンルとして確立したという経緯があります。その後、豪州のインフラファンドは豪州以外のインフラ事業にも収益機会を見つけるようになり、インフラ投資がクロスボーダーな投資となっています。

インフラ事業はいずれも数十億円〜数千億円、場合によっては兆円単位の初期投資を必要とし、必然的に資金調達が大きな課題となります。政府や自治体が民間の資金力を当てにして行うPPP(官民連携)では、政府・自治体が民間に対して、安定的なインフラ事業環境を”特許”してくれることにより、民間側では独占の優位性を享受できることになります。インフラ投資はそうした独占による高いリターンを期待する、新しいタイプの投資だと言えます。

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