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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

Global Infrastructure Partnersからインフラ投資の基本を学ぶ

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今日は、ブリズベーン港の99年リースを落札したインフラファンドGlobal Infrastrucuture Partners(GIP)の全体像を確認してみたいと思います。GIPをよく知ることによって、インフラ投資の基本的な考え方が理解できると思います。

■100の機関投資家等から46億ドル以上を集める

GIPは、General Electric(GE)とCredit Suisseが各々5億ドルずつを出資して設立したインフラ投資専門のファンドです。航空機エンジン、鉄道設備、水関連施設、電力関連施設などインフラ投資に直結する諸分野で世界展開するGEと、国際的に投資銀行業務を手がける最大手金融機関のCredit Suisseがタッグを組んだというところに、このGIPのユニークさがあり、他の投資家にもアドバンテージとして映っているようです。2008年に他の機関投資家等に出資を呼びかけ、2008年5月に56億4,000万ドルを集めてファンドがスタートしました。出資に応じたのは、26カ国から集まった約100の組合、私的・公的年金資金、政府系ファンド、企業、保険会社、基金、大学、アセットマネジャー、富裕層。うち富裕層の出資比率は7%に上るそうです。運用期間は10年となっています。(大学が入っているのは、米国の私立大学では寄付金などを基金として運用しており、年々相応のリターンを出すべく専属のファンドマネジャーを登用している例があるためだと思われます。一時期、金融系の投資信託より大学基金の方がよいリターンを出して、担当ファンドマネジャーが時の人になったことがあります。)

資金を集めた当時、インフラ投資は、これらの投資家たちには新しいタイプのアセットクラスとして認識されていたようです。すなわち、他のアセットクラスにはないリスク特性を持ち、相応のリターンが見込めるオルタナティブ投資の対象と見なされていました。それがGEとCredit Suisseの音頭取りでファンドを組成するというので、すぐに出資者が集まったのでしょう。資金の4割は米国からだそうです。
なお、インフラ投資のアセットクラスとしての特性については、弊ブログ「三菱UFJが英国RBSのインフラ融資部門を買収するというニュースから」の小見出し「インフラ投資のメリットとリスク」において記しています。ご参考まで。

ファンドがスタートした当時にGIPのチェアマンAdebayo Ogunlesi氏にインタビューしたPublic Private Partnership専門誌の記事が見つかりましたので、それを元にGIPの特徴を書き出してみましょう(At The Cutting Edge of
Infrastructure Investing
)。同氏はGIPチェアマン就任以前、Credit Suisseでグローバル投資銀行業務のヘッドを務めていました。

■GIPのインフラ投資の基本姿勢とその強み

GIPが行うインフラ投資は、対象となる空港、ゴミ処理会社、発電施設等にお金を出してリターンを待つというタイプの投資ではなく、積極的にオペレーションに参加して、よりよいキャッシュフローを得るというタイプの、いわば営業参加型インフラ投資です。
インフラ投資の対象は大別すると"Green Field"と"Brown Field"に分かれます。前者は、まっさらな状態から当該施設を建設し、その運営から上がるリターンを目的とする投資。後者は、すでに営業を行っている施設に投資し、何らかの改善等を行ってより高いリターンを得ることを目的とした投資。このうちGIPが狙うのが後者のBrown Fieldだそうです。

同記事冒頭でOgunlesi氏は、インフラ投資の成功の本当の肝は「資産をどのように管理するかだ」と述べています。この「資産の管理」、英語で言えば"Asset Management"の考え方は、ITの世界で言うEnterprise Asset Management System(EAM)や、建設業の世界で言う「社会資本のアセットマネジメント」と言う時の「アセットマネジメント」の考え方に表われているもので、金融プロパーの世界で考えるアセットマネジメントとは若干様相を異にするので注意が必要です。
簡単に言えば、発電所等の現物資産において、適切な保全や適切な修繕等を行って、資産の営業期間の最大化を目指すと同時に、保全・修繕コストおよび追加設備投資の最小化を図るのが、この世界で言うアセットマネジメントです(私事ながら、以前電力会社のEAM導入の仕事をしたことがあるので若干知識があります)。

このアセットマネジメントをしっかりと行うことによって、投資対象から上がるリターンが最大化できるということをOgunlesi氏は言っているわけです。それはすなわち、オペレーションに深く入り込んで、キーとなる指標の改善を図るべく、必要な措置を逐次講じていくということを意味します。そしてそのためには、当該業界に関する深い知識と経験が必要です。

業界の深い知識と経験が必要という意味において、GEを母体としているGIPは非常に大きな強みがあるようです。すなわち、投資対象がGEの得意領域であるとすれば、GE社内にいる専門家の知見を得た上で、リターンの最大化に必要な措置を考案することができます。Ogunlesi氏もそれが強みだと述べていました。
ここで先ほどのGreenとBrownについて付言すれば、そうした業界知識を生かすことで、なおいっそうリターンを増やすことができるのがBrown Fieldだということになるようです。Green FieldではGEの強みは生きない(他のインフラファンドとの競争において相対的には生きない)ということです。

■主な投資対象

GIPが投資するのは、株式会社形態を取っているインフラ設備です。具体的には、空港、ゴミ処理会社、港湾、風力発電所、電熱供給施設、その他米国の民間エネルギー施設となっています。その他、貨物鉄道、水関連施設にも目を向けています。興味深いのは同チェアマンが有料道路には興味がないと発言していた点です。有料道路においては業界の知見等を生かしてキャッシュフローを増大させる方策を講じにくいからだとのことです。また、新興国のインフラ投資機会は潤沢にあることを認めながらも、多くの場合はGreen Field投資になるのでやらないとのことです。
空港ではイギリスのLondon City Airport、Gatwick Airportなどに出資し、前者は最初期から営業に関与していることもあって好業績を上げているそうです。
先日報じたオーストラリアのブリズベーン港の営業権益を99年リースで得たのも、GEの知見を使って収益改善を図ることができるからと踏んだからでしょう。

一般的な投資案件は同社の資本金だけで投資対象の株式を購入し、一部の案件では50%程度の銀行からのプロジェクトファイナンスも併用することがあるそうです。

米国で投資していたガス関連企業Chesapeake Midstream Partnersは、ニューヨーク証券取引所に上場することが決まりました。

■まとめ

以上、GIPの概要を見てくると、インフラ投資の1つのあり方がよく理解できます。重要な点を挙げれば、
・投資対象は株式会社形態のインフラ設備である(経営権が得られるという意味で)
・営業に入り込み、その業界に関する知識や経験に基づいて何らかの改善を行い、より高いリターンの獲得を目指す
・アセットマネジメントの考え方を適用し、資産価値の最大化を図る
・投資資金は、自己資本の他にプロジェクトファイナンスを併用することもある
・一部の投資ポートフォリオ(投資先)がIPOによるエグジットに至るケースもある
となるでしょう。

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