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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

インドの旺盛なインフラ投資需要とデットファンドによる資金調達

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■9年で国民1人当たり所得を2倍に

周知のようにインドでは高い成長率が続いていて、日本の旧経済企画庁に相当するインド政府計画委員会のトップ(副議長、他省の大臣に相当)Montek Singh Ahluwaliaは、「国民1人当たりの所得は9年で2倍になる」と公言しています。インドでは現在、同委員会が策定した第11次5カ年計画が実施されており、リーマンショック後の経済危機を早期に脱して年8%台の成長に戻っています。2012年から始まる第12次5カ年計画ではさらに高めに設定されており、9〜10%の達成が目されています。そのペースが維持できれば、9年で収入が倍になると訴えているわけです(発言を引用している記事には続きがあって、同じペースで成長が続くならば、18年で4倍、27年で8倍になるとしています)。この高い成長を維持するには当然のことながら、成長の阻害要因となっている電力、道路などのインフラ投資がハイピッチで実施されなければなりません。

■膨大なインフラ投資需要に民間資金を期待

最近読み進めている国際協力銀行の加賀隆一氏が書いた「国際インフラ事業の仕組みと資金調達」(中央経済社、2010年6月)でも、インドのインフラ投資事情を次のように記しています。

 インド政府は2012年までに少なくとも4,750億ドルがインフラ投資に必要としている。発電に関しては、現在の141,000MWの発電能力を2032年までに800,000MWまで増やす必要があるとする。現在進行している第11次5カ年計画(2007年〜2011年)では、78,577MWの発電能力増強を予定している。うち14,000MWは再生可能エネルギーとする。なお、同計画では増設分の13.7%に当たる10,760MWは民間投資を見込んでおり、そのためには1,000億米ドルの資金調達が必要と言う。

PPPによる民間の参画を大いに当てにしているわけです。インフラ投資の資金調達手法について検討しているインド政府の公式文書"Report on India Infrastructure Debt Fund"(2010年6月)においては、以下が確認されています。

  • 第10次5カ年計画におけるインフラ投資総額2,270億ドルに対して、第11次では5,136億ドル。
  • 第10次ではインフラ投資総額の24%(560億ドル)が民間から調達されたのに対して、第11次では36%(1,850億ドル)が民間から調達される必要がある。
  • 第11次で想定されている1,850億ドルの民間調達のうち、560億ドルはエクイティによる投資、1,300億ドルは融資(デット)を想定。さらにその後に必要となった1,260億ドルを加えると、必要融資総額は2,570億ドルとなる。
  • 現在までに手当が済んでいる分を勘案すると、必要融資総額まで500億ドルのギャップがある。

■デットファンドが必要な理由

こういうなかで、そのギャップをどう埋めようとしているのか注目されます。今年11月の韓国開催G20に合わせて米オバマ大統領がインドを訪問しましたが、それに先立つ6月、米政府と米産業界はインド政府に対して、膨大なインフラ投資の資金を調達するために100億ドル規模の「デットファンド」(Debt Fund)を設立してはどうかという提案をしました。

デットファンド、日本語では定訳がないようで、カタカナで記しておきますが、一般的なインフラファンドが、対象国のインフラの事業運営会社のエクイティに対して投資するものであるのに対して、デットファンドは、事業運営会社に対する貸付、ないしは事業運営会社が発行する債券を購入するファンドということになります。

デットファンドが提案されている背景は次のようになっています。

  • 従来インフラ投資にプロジェクトファイナンスの形で長期融資を行ってきた国際展開を図る銀行が金融危機以降、長期融資を引き受けたがらなくなっている(長期融資とは20〜30年の融資)。バーゼルIIIの新しい資本規制が発効するのに際して、銀行が資産を圧縮しようとしている事情もある。
  • インフラプロジェクトへの長期投資に耐えうる資金としては保険や年金があるが、一般的にそれらの資金はグリーンフィールドへの投資に対しては及び腰であった。

銀行がインドの旺盛なインフラ投資需要に対してプロジェクトファイナンスに渋るようになっているなかで、各国の年金資金などを呼び込むためにはデットファンドの形態がふさわしいということです。

上でも出した"Report on India Infrastructure Debt Fund"は、米国政府と米国産業界がインド政府に対して「デットファンドを作ってみてはどうか?」と提案した今年6月に作成されたレポートです。同時期ですので、おそらくは、インドの事務方が作成したレポートについて米国事務方に通知し、口裏を合わせる形で米政府からインド政府に言ってもらったということなのではないかと思います。この米国の提案を受けて、計画委員会副議長Ahluwaliaは早速、財務大臣に対してこの提案を検討するように書簡を書いています。

関連の法制度などの改正が済み、デットファンドが作れる枠組みができると、米系の年金基金などがこれに投資をすることになるのではないでしょうか。もちろん、投資に先立っては、このデットファンドからインド国内のプロジェクトに融資等がなされる際にインド政府の保証ないしそれに類似した方策が要求されることになるでしょうけれども。

■元気な中間層の成長がインフラ投資家を満足させる

ともあれインドでは今後10年20年単位で成長が目されているだけあって、インフラ投資の旺盛な資金需要についても、しっかりとした枠組みが用意されれば国際的な資金を呼び込むことは可能なようです。お金の流れとしては、経済成長の源泉である中間層が最終顧客となって電力料金などの料金を支払い、それが回り回ってインフラ投資を引き受けた側にリターンとなって戻るという形になります。

上の加賀隆一氏の著書にもあるように、電力だけとっても「現在の141,000MWの発電能力を2032年までに800,000MWまで増やす必要」があるわけです。必要分の650,000MWは、標準的な原子力発電所の発電容量を1,000MWとすると650カ所分に相当します。電力だけをとってもインドのインフラ投資には膨大な事業機会が眠っていると言えそうです。

なお、付記しておくと、日本政府や日本の産業界も「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想」において、2006年からインフラ投資需要を先取りする形で具体的な活動を始めています。

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