オルタナティブ・ブログ > インフラコモンズ今泉の多方面ブログ >

株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

鉄道相更迭、巨額負債、安全性懸念で大きく揺れる中国高速鉄道(上)

»

中国の高速鉄道はすごいと常々思っておりまして、このブログでも何度かご報告してきました。

[速メモ]中国高速鉄道の大型ニュース数本(2010/12/9)
カリフォルニア高速鉄道の獲得に意欲的な中国(2011/1/25)
カザフスタンの高速鉄道に進出する中国、国内高速鉄道網をASEANにも延伸(2011/2/24)

■劉志軍鉄道相の更迭

しかし先頃、この巨大なプロジェクトの陣頭指揮をしてきた中国鉄道省のトップ劉志軍鉄道相が収賄の容疑で更迭され、それをきっかけに2つの重大な事実が明らかになりました。

まず、劉志軍元鉄道相について。高速鉄道の入札に際して業者から受注額の2.5%、あるいは約300万元の賄賂を受け取っていた疑いがあり、2月中旬、中央政府の核である全国人民代表大会常務委員会は「重大な規律違反があった」として劉鉄道相を解任しました。解任というのは、よほどのことがなければ行われないそうです。前後して高速鉄道建設のリーダーである中国鉄道部運輸局局長、鉄道部副総工程師の趙曙光氏も取り調べを受けています。
劉氏失脚の背景については、こちらの記事が詳しいです。

産経ニュース:鉄道相失脚でみえる熾烈な権力闘争

■あまりに壮大な計画

ここで中国の高速鉄道計画がどれだけ規模の大きなものであったかを確認しておきましょう。

中国の高速鉄道の営業距離は今年1月現在8,358km。これは日本を含む他の国々の高速鉄道の営業距離の合計よりも長いです。8,358kmのうち2,197kmでは最高速度350kmの運行が可能。1日平均の利用者数は2010年で79万6,000人。ちなみに日本の新幹線は2009年で1日約11万5,000人が利用(国交省資料)。

2020年までの計画では、高速鉄道網の総延長は16,000km〜18,000km(参考までに先日お伝えした重慶からロッテルダムまで伸びる渝新欧鉄道が10,000km)。中国の50万人以上の都市あるいは総人口の90%において高速鉄道を利用可能にするという壮大な計画です。その先ではラオス、ベトナム、タイ、ミャンマー、カザフスタンなどへの延伸が予定されています。

中国という国はインフラ整備にあたって、昔の日本と同じように国家財政から潤沢な予算を投じるため、他のアジアの国々のようにPPPで民間資金を呼び込む必要がないのだと私は思っていました。しかし、この高速鉄道に投じられている資金の大半は、後述するように負債だったんですね。関連する数字を抜き書きしてみます。

  • 2010年に終了した第11時5カ年計画における鉄道インフラへの投資総投資額は1,900億米ドル。これは当時、中国史上最大のインフラ投資だと言われた。
  • 2008年に中国政府は、2020年までの鉄道インフラ投資に2兆元(当時のレートで2,920億ドル)を投じることを決定。これは上記の1,900億米ドルとは別枠。

こうした鉄道インフラ投資が中国という国家にとってどれだけの規模を持つのか。この記事では(Do China’s High-Speed Rail Investments Make Sense?)、世界銀行の試算として、鉄道省の投資は中国全体の債務の10%に上ると伝えています。鉄道関連できわめて巨額の債務が累積している可能性があります。

■一部のメディアは負債総額2兆元(3,030億米ドル)以上と報道

先日たまたまビジネスウィークで「中国では鉄道省の旺盛な起債により過去最大規模の債券発行が行われている」と述べている記事を見つけ、何のことだろうと思っていました。
この2010年10月13日付ビジネスウィークの記事では(Yuan Bond Sales Climb to Record Led by Railways: China Credit)、政府がインフレ抑制目的で貸出規制を行っているために、中国の銀行はあまった大量の資金を鉄道省の債券に振り向けており、金利が奇妙な低水準で推移していることを報じています。マクロな資金の流れにゆがみがありそうですね。

同記事によると高速鉄道関連の各主体が2010年に発行した債券は鉄道省が1,600億元(243億米ドル)、中国鉄道集団が77億元(11.7億米ドル)、中国鉄建が50億元(7.6億米ドル)、太原高速鉄道投資が20億元(3億米ドル)となっています。これが高水準であるのかどうか同記事だけではわかりませんが、中国全体としてこの年の債券発行が最大規模だったということですから、高水準と見て間違いないでしょう。またそれを消化する銀行の側にも課題がありそうです。

こうした債券発行などもあいまって、劉志軍元鉄道相解任と前後して明らかになった鉄道省の負債総額は、中国系メディアによると約1兆3,000億元(約1,980億米ドル)。ウォールストリートジャーナル内の中国セクションの記事によると2兆元(3,030億米ドル)以上。非常に大きな金額となっています。

-------
はげみになりますので、以下をぽちっとお願いします(^^)。おひとり1回押していただくと済む形式に改めました。

Comment(0)