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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

カリフォルニア高速鉄道の獲得に意欲的な中国

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■GE鉄道車両子会社と中国鉄道省との覚書

先日の中国胡錦濤主席の米国訪問に機を合わせて、中国鉄道省とGEの鉄道車両製造子会社GE Transportationとの間で総額14億ドルに上る商取引の覚書の取り交わしが発表されました(GE Signs LOIs with China’s Ministry of Railways Valued at $1.4 Billion; GE to Provide $350 Million in Locomotive, Services and Signaling Products)。

具体的な事業活動としては、中国の鉄道車両製造メーカー最大手かつ高速鉄道車両「和諧」(CRH)の製造元である中国南車(CSR)が、GE Transportationと米国内に合弁会社を設立して、米国における高速鉄道および都市交通用の車両需要の取り込みを狙う。また、GE Transportが鉄道車両部品および信号関連機器を3億5,000万ドル分中国に輸出することが挙げられています。

関連の状況を総合すると、中国南車が高速鉄道車両技術をGE Transportに供与し、米国内において「和諧」をベースにした高速鉄道車両を製造するのではないかと思われます。3億5,000万ドル分の米国から中国に対する輸出については、ある意味では中国側のはなむけのようなものなのかも知れません。

このような米中の合弁会社を設立し、一方から他方へと技術を移転して、相手国側の製造工場でハイテク系の製品を生産するというパターンは、すでに、GEと中国の間で前例があります。風力発電分野でGEは、中国に合弁会社を設立し、同社の技術を中国に供与して現地で生産するというパターンでそれを行っています。今回のパターンは、ハイテクを中国側が握っており、それの供与を受けるために合弁会社が米国内に設立され、中国の技術を元にした米国製の高速鉄道車両が作られるという逆のパターンになります。

米国の高速鉄道の関連のニュースを読んでいると、必ずと言っていいほど、その提携や新たな動きが、現地においてどれほどの雇用を生むのかが強調されています。今回のニュースでも、GE Transportationによる3億5,000万ドル分の中国への輸出が同社拠点のある地域において2,000名分の鉄道技術系従業員の雇用を維持ないし新たに生むことが記されています。米国の高速鉄道は、そもそもがオバマ政権が米国再生再投資法の枠組みの中で加速化してきた経緯がありますから、雇用に結びつかないプロジェクトでは現地の理解が得られないのかも知れません。

■カリフォルニア高速鉄道の現況

昨年の中間選挙までは、米国各州の高速鉄道のプロジェクトが花盛りといった観がありましたが、オバマ政権の税金を使った経済復興に異を唱える共和党の候補が知事に選ばれた州では、高速鉄道の建設は不要として、連邦政府から割り当てられた助成金を返上する動きがいくつか出ました。アイオワ州やウィスコンシン州などです。
結果として、現在でもしっかりとした進捗が報じられているのは、フロリダ州とカリフォルニア州という状況です。

フロリダ州については昨年11月下旬にお伝えした時から大きな動きはないようです。(追記。先の中間選挙では高速鉄道に反対の立場をとる共和党の候補が勝ったため、フロリダ州の高速鉄道そのものがやや先行き不透明になったということはあります。)

[ニュースの背景] フロリダ高速鉄道にJR東海など日本企業グループが応札(上)
[ニュースの背景] フロリダ高速鉄道にJR東海など日本企業グループが応札(中)
[ニュースの背景] フロリダ高速鉄道にJR東海など日本企業グループが応札(下)
フロリダ高速鉄道こぼれ話

カリフォルニア州の高速鉄道計画については、本ブログではまだお伝えしたことがありませんでした。今回ざっと状況を眺めてみると、以下が判明しました。

  • カリフォルニア州の高速鉄道計画は、2010年1月の第一次高速鉄道助成金割当で22億5,000万ドルを連邦政府から獲得。同年10月の二次割当は7億1,500万ドル、また同年12月には助成金を返上した州の分の再割当で6億2,400万ドルを獲得した。また、同年9月には別な連邦予算から1億9,400万ドルを得ている。
  • これらの資金が得られたことで、BakersfieldとFresno間の120マイルから鉄道建設がスタートする予定。Los AngelesとBay Areaを結ぶ区間についても建設開始予定。
  • 2010年半ばの時点で、カリフォルニア州のHigh-Speed Rail Authority(HSRA)と、高速鉄道の車両や信号機器などを売り込みたいベルギー、スペイン、フランス、日本、ドイツ、イタリア、中国、韓国の8つのコンソーシアムとの間で、互いに情報交換を行っていく旨の覚え書きが取り交わされている。
  • 2010年10月6日にはHSRAが第一回目のヒアリングを開催、ベルギーのHigh-Speed Line Networkの代表からプレゼンを受けた(The Select Committee on High-Speed Rail for California Finds Help from Other Countries)(その時のプレゼンがページ末尾にあります)。また、加州側スタッフがまとめた各国の高速鉄道に関するブリーフィングも行われた。
  • 加州High-Speed Rail Authorityでは、今後も各国チームからのヒアリングを続けていくとしているが、その進捗状況や予定が明らかになっているわけではない(入札情報やスケジュールなどを公開しているフロリダ州とは一線を画した態度)。

■中国鉄道省代表がカリフォルニア高速鉄道の建設起点Fresnoを視察

このようにカリフォルニア州の高速鉄道では、これから車両などの調達先が決まるというところです。

この大事なタイミングにおいて、去る1月上旬、中国鉄道省および中国鉄道建設社(China Railway Construction Corp)の代表がカリフォルニア高速鉄道の建設起点となるFresno郡を訪問、車両整備基地用地などを視察しました。

Chinese high-speed rail officials visit Fresno

Fresno郡の地方ニュースサイトに掲載された上の記事によると、中国は、高速鉄道の軌道の建設、車両の販売・整備、高速鉄道サービスの運営に興味を持っており、今回の視察で車両整備基地となる敷地を確認したとのことです。
上で述べたGE Transportationとの提携と、このFresno訪問の間に関係があるのかどうか不明ですが、中国側の積極的な姿勢がよく伝わってくる動きです。いずれの動きも一方の主語は「中国鉄道省」になっています。

Fresno郡役所では、カリフォルニア高速鉄道の建設起点となり、整備基地が置かれることによって生まれる雇用に多大な興味を持っています。それらを誘致することができれば、1,500名の固定的な雇用が生まれるとのことです。中国側もそれを理解しています。

同記事の末尾では、Fresnoの関係者たちが、カリフォルニア高速鉄道に名乗りを上げている他国のチームにもどしどし訪問してもらって、情報交換を行いたい意向を持っていると記されています。

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