オルタナティブ・ブログ > すなだかおるの読書&エッセイ >

今の本、昔の本を題材に考えたことや思い出したことをのんびり綴ります。

汎用技術の視点からリスクを考察した『THE COMING WAVE』

»

『情報システム進化論』の参考文献の中から紹介したい3冊目は、ディープマインド創業者でマイクロソフトAICEO、ムスタファ・スレイマンらの著作『THE COMING WAVEAIを封じ込めよ』。

814K9PcpKFL._SL1500_.jpg

2023年(日本語訳は2024年)に出版された本書は、技術進歩がもたらす来るべき次の波はAIと合成生物学の融合によってもたらされ、人類に大きな恩恵だけでなく計り知れないリスクももたすと警告を発して注目された。

スレイマンは、628日の本ブログで紹介した『Economic Transformations: General Purpose Technologies and Long Term Economic Growth』の汎用技術(GPT)研究を参照しつつ、「テクノロジーの波とは、ひとつ、ふたつの汎用技術だけから成るのではない。それらの汎用技術を軸にして同時発生的に広範に広がるテクノロジーのクラスターこそが波である」(日本語訳146頁)と語っている。

『情報システム進化論』第2章で、「技術革新の星座」という表現を使って、新しい市場やパラダイムの形成は画期的な単独の技術革新によるのではなく、それに関連した技術革新が周辺で連鎖的に起こることによって生まれると論じた。「テクノロジーのクラスターこそ波である」とは、まさに同様の現象を説明しているといえるだろう。

そして、スレイマンは周辺の重要な技術としてロボット工学と量子コンピュータをあげ、それらがAIや先端生命工学と結びつくことで「アドバンスド・ナノテクノロジー」の呼べる新領域がつくられ、技術進化はより急速になっていき「超進化」を遂げるだろうと予測している。

テクノロジーは善い目的に使われるとは限らない。だから、AIも核と同様に、人類の滅亡を招くことがないように管理してリスクを封じ込める必要があるというのが本書の主張だ。汎用技術という歴史的な視点から次のテクノロジーの波を予測し、AIの専門家としてAIの最大のリスクを積極的に発進していることに敬意を表したい。

Comment(0)