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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[ニュースの背景] フロリダ高速鉄道にJR東海など日本企業グループが応札(中)

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フロリダ州運輸局(Florida Department of Transportation)および同局が設立したFlorida Rail Enterpriseが公開している資料を読み込むことによって、フロリダ高速鉄道の具体化方法が見えてきました。

■公開されている膨大な資料

まず、公開されてる資料をリストアップします。調達の応札に必要な情報はすべて公開されています。前投稿で使った資料を含めてすべてリストアップしてみましょう。

・Orland-TampaおよびOrland-Miami間の高速鉄道計画概要(その1その2
・フロリダ州運輸局が2010年10月13日に応札希望者に対して開催した説明会で使われたフロリダ高速鉄道計画の現況と応札条件
Orland-Tampa区間の路線計画図低解像度版(個々の数字をクリックすると当該区間の路線計画図が表示されます)
Orland-Tampa区間の路線計画図高解像度版、その他のテクニカルな文書
・民間企業グループの応札に先立って行われるRequest For Qualifications(RFQ)について詳細を記した文書(応札=Request For Proposalへの応募を行うためには、RFQプロセスを通過する必要がある。一種の資格審査。審査には連邦政府のFederal Railroad Administrationも参加する)(2010年9月29日に暫定版、10月27日に改訂版を公開)
応札しようとしている各国の企業グループリスト
・フロリダ州運輸局が2010年11月8〜9日に応札企業グループと他のステークホルダー(新駅建設関係者等)に対して行った説明会の諸資料
 - フロリダ高速鉄道計画の詳細と応札に必要な諸情報
 - Tampa新駅に関連したプロジェクトの情報(その他各新駅に関連したプロジェクトの情報
 - 2010年11月8〜9日説明会のサマリー

こうした資料の山を目の前にするとまずは圧巻という他ありません。フロリダ州運輸局は、今年1月に連邦政府から12億5,000万ドルの米国再生・再投資法対策費がついた段階で、フロリダ州の高速鉄道は海外の企業グループに門戸を開放しよう、資金面でも彼らの力を借りようということをすぐに決断し、公開入札のための準備を重ねてきたものと思われます。
応札する企業グループは総額数十億ドルに上る高速鉄道の建設と運営に関与するわけですから、かなりの情報量がないと応札するか否かの意思決定ができません。そういう意味では必要最低限の情報が公開されていると言うこともできます。

■応札しようとしている各国の企業グループ

米国内には高速鉄道のノウハウがないため、実現するためにはやはり海外の実績ある企業に協力を仰がなければなりません。今年7月に簡易な説明会を行っていますが(その時の資料)、その時には日本やフランスなど、高速鉄道で実績のある企業などにはお声がかかっていたものと推察されます。
というのも、暫定版の入札条件公開が9月29日。その後に開催された11月8〜9日の会合では各応札企業グループが自らの提案のハイライトをプレゼンする必要がありましたから、都合1ヶ月しか準備期間がありません。おそらく、9月29日以前に応札が想定される企業等に打診があったはずです。

応札しようとしている各国の企業グループリストから注目されるグループを抜き出すと、

韓国系
Team 3 - Parsons-Samsung-Korail
Parsons (United States) Samsung (South Korea) Korail (South Korea) KRTC (South Korea) GRDC (South Korea) KRRI (South Korea) Korean Consortium (South Korea) Korea Railway Association (South Korea) Hyundai Rotem USA (South Korea)

日本系
Team 4 - Fluor-Balfour Beatty-FHSR/Japan Group
Balfour Beatty Rail (United Kingdom) HDR (United States) Parsons Brinckerhoff (United States) PCL Civil Constructors (United States) Lane Construction (United States) Mitsubishi International (Japan) Central Japan Railway Company (Japan) Florida High Speed Rail, LLC (Japan) Sumitomo Corporation of America (Japan) Japan Bank for International Cooperation (Japan)

GE系
Team 5 - ASC-Dragados-Odebrecht-GE-CRCC-CSR
ACS Infrastructure Development (Spain) Dragados USA (Spain) T.Y. Lin International (United States) TSDI (China)
G.E. Transportation (United States) CSR SF China Odebrecht Infrastructure (Brazil) CRCC China

シーメンス系
Team 6 - Florida Rail Ventures
Siemens (German) Veolia (France) Global Via USA (Spain) FCC (Spain)
Granite (United States) Jacobs (United States) Skanska (Sweden)

フランス系
Team 7 - Vinci-OHL USA-Alstom-Virgin
Alstom (France) Vinci Concessions (France) OHL USA (Spain) PBS&J (United States) AECOM (United States) Hubbard Construction (United States) Archer Western Contractors (United States) Virgin Group (United Kingdom) Virgin Rail Group (United Kingdom)

があります。

日本系のTeam 4には米国の企業が複数入っていますが、これには次のような2つの条件があるからだと推察されます。第一は、応札参加チームはチーム内に4つの専門職を所属させる必要があり、各職種には各々人数や経歴等の要件がある。第二は、ファイナンシングに関して、米国内でPPP(Public Private Partnership)の枠組みで実施されたプロジェクトに関与して、ファイナンシングをクローズした実績を要するという条件です。

専門職の要件では、高速鉄道のインフラ設計エンジニアリングに関連して、3人以上の専門技術者がおり、うち1人は10年以上の高速鉄道の経験を持つ、あるいは、10年以上の高速鉄道の経験を持つアドバイザーが2人いること、といった記述がなされています。

高速鉄道の技術者に関しては日本はまったく問題がないと思うのですが、"Multimodal Passenger Station Design"という、新駅において他の都市交通(市電的な都市交通)やバスとの連携を図るための設計に関する要件では、20年以上の商業施設設計、5年以上の新駅設計の経験を求めています。

また、"Maintenance Facility Design"という鉄道整備保全のための施設の設計については、5年以上の鉄道整備保全施設の設計の経験を求めています。特に後者については米国における鉄道整備が想定されているでしょうから、勝手がわかる米国系企業の協力を仰がざるを得ません。速やかに専門家を雇うという手もあるのでしょうが、資格審査書類応募時にはこれら専門家の経歴書の添付も求められていますから、時間的には非現実的です。

ということで、どの国の企業グループにも言えることですが、米国のこの関連の状況に関与した経験のある企業をメンバーに加えざるを得ない条件になっていると思います。とはいえ、高速鉄道そのものの建設、車両納入などについては、日本を含めてその国の実績がダイレクトに生きる枠組みになっているようです。

フロリダ高速鉄道計画が求めているファイナンスの枠組み、運営の役割分担については、次回(下)でまとめたいと思います。

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