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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[ニュースの背景] フロリダ高速鉄道にJR東海など日本企業グループが応札(下)

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■Public-Private Partnership (PPP)としてのフロリダ高速鉄道プロジェクト

PPPは、国や地方自治体がオーナーとなるプロジェクトに対するインフラ投資ではよく見られるリスク分担フォーマットです。PPPについては、理解を深めるために今後も様々な題材を取り扱っていきたいと思いますが、現時点では、次のように定義します(英文版Wikipediaによる定義を一部修正)。

[PPPの定義]
PPPは、国や自治体など公共部門の主体と民間企業とが契約を結び、公共サービスの提供や公共系プロジェクトの推進を行うもので、財務面、技術面、営業面のリスクを民間企業側が負うことがある。また、初期投資や運営コストは納税者の負担とはせずに、当該サービスの利用者が支払う使用料によって賄われることがある。PPPはいわゆるPFIを包含する。

あくまでも暫定的なものですが、今はこれぐらいにしておきましょう。

米英系の発想だなと思うのは、多くの場合、PPPの定義に、リスクを民間側が負うものであるという記述が明示的になされている点です。リスクの所在をあいまいにしたがる日本的な発想からすれば、非常に刺激的です。
このフロリダ高速鉄道の民間側に対する情報提供においても、「旅客収入のリスクは民間側が負う」(Assumption of ridership revenue risk)ことが強調されています。

■民間の役割はDBFO&M

フロリダ高速鉄道は2015年末の開業が予定されています。すぐにでも本格的な準備を始めて着工にこぎつけなければ間に合いません。開業までのスケジュールは次の通り。

・2010年11月8〜9日 応札企業グループによる提案内容ハイライトのプレゼンテーション
・2010年11月半ば 応札企業グループによるRequest For Qualifications(一種の資格審査)書類提出
・2010年11月末〜12月初め 連邦政府鉄道局(FRA)の判断を仰いで、Request for Proposals(プロジェクト提案書の提出要請)を要請する企業グループを3ないし4程度で決定
・2011年中 応札企業グループによるプロジェクト提案書の提出、落札企業グループの決定
・2012年初め 設計・建築の開始
・2015年末 営業開始

フロリダ州運輸局が応札企業グループに求めているのは、彼らの言う"DBFO&M"。すなわち、Design-Build-Finance-Operate & Maintainです。設計、施工、ファイナンス、営業、メンテナンス、ということは高速鉄道事業のすべてということですね。少し調べて見ると"DBFO&M"も使われていますし、メインテナンスを除く"DBF&O"という言い方も用例があります。プロジェクトの担当範囲を示す業界用語的な語法ということでしょう。
いずれにしても設計から営業、メンテナンスまですべてを包括的に引き受けるプロジェクトであるわけです。
なお、契約期間は30年となっています。

■ファイナンシングの枠組み

応札する企業グループにとってもっとも大事なポイントであるファイナンシングについては、ある程度までは明確になっていますが、詳細に踏み込んだ内容については、資格審査でプロジェクト提案書を提出するように求められた企業グループに送られるRFPで記述されるようです。なお、非常に大きなプロジェクトであるだけに提案書作成には相応の費用がかかりますが、これについてはフロリダ州輸送局が200万ドルのコスト補填を行う用意があるとのことです。

明らかになっている事項を1つひとつ見ていきましょう。
・資格審査フェーズにおいて応札企業グループに求める条件は、本鉄道事業の共同事業体において30%以上の出資比率を持つ企業が、過去7年のうちに、以下の要件を満たすPPPプロジェクトを5つ以上手がけていること。
 - 各々3億ドル以上のファイナンシングがなされていること
 - 各々のファイナンシングがすでにクローズしていること
 - 少なくとも1つのプロジェクトが"availability-based financing"であること
 - 少なくとも1つのプロジェクトは米国内でなされていること
 - 少なくとも1つのプロジェクトは"demand-based financing"であること

"availability-based financing"と"demand-based financing"については、米国のPPPの世界で用いられる非常に専門性の高いスキームであり、もう少し関連文書を読み込んだのち、取り上げたいと思います。おそらくは、前者が公共側から受託企業グループに対してなされる収入保証のような枠組み、後者が当該サービスから上がる使用料のみを前提に受託企業グループが収益を得る枠組み、だと思います。
PPP先進国である米国のPPPの実績をかなり積んでいる企業がメンバーに入っていないと応札できないように、このような条件が設定されているのだと思います。

"availability-based financing"を少し調べてみると、PPPの陰の面、すなわち、受託した企業グループ側において採算が取れない事例がいくつか発生していることを報告している資料が見つかります。例えばこの資料→Project Finance and Infrastructure Finance - North America Infrastructure Report 2010(リンクがうまくできないので検索で探して下さいませ)。また、この報告書にはフロリダ州がカリフォルニア州と並んでPPPの最先端を行っているとの記述があります。そういうPPPの先端を行くパブリックセクターの担当者と、細かなリスクに踏み込んでファイナンシングの話をするには、やはり先端的なPPPの実績が必要ということなのでしょう。

補足が長くなりましたが、その他の事項を見ていきます。

・初期投資のための費用として、連邦政府から出た米国再生・再投資法対策費の計20億500万ドルを充てる。一方、用地買収や、本格着工に先立つ準備プロジェクトの費用としても20億500万ドルは使われている(内訳は不明)。

受託企業グループは用地買収のことは考えなくてもよいということです。用地買収の進捗状況については、こちらの資料に報告があります。必要な用地の92%は買収が済んでいるそうで、本格着工までには買収が完了するとのこと。

・連邦政府対策費を使う条件としてフロリダ州輸送局側が2億8,000万ドルを拠出しなければならないが、これは、受託企業グループ側が負う。ただし、後に設定される施策により、この分をカバーできる支払いをフロリダ州輸送局が行う。施策としては、地方債(Private Activity Bondと呼ばれる地方債)の活用、連邦政府のTIFIAと呼ばれる輸送関連施策の活用を検討中。

ここでわかるのは、フロリダ高速鉄道の建設にあたっては、フロリダ州側の初期投資負担が発生しない形で建設を進め、後々にスキームを作って、民間側の負担をカバーする形になっているということです。<br />

・受託企業グループ側が負うオペレーションとメンテナンスの費用には、旅客収入が充てられる。

旅客収入のうち、一定割合はフロリダ州鉄道局が取るスキームになっている模様ですが、現在のところ詳細が確認できません。

・新駅は個々に異なる採算スキームを持ち、ステークホルダー(デベロッパー等)がそれぞれ存在する。受託企業グループは、新駅における広告や小売の事業機会を得ることができるが、その詳細はRFPで明らかにされる。

ステークホルダーがすでに存在しているため、新駅からの収入は、あったとしても、ごくわずかなのではないかと想定されます。

以上がファイナンシングに関して明らかになっている事柄です。

■日本企業にとっても好ましい事業機会

応札企業グループが提出するプロジェクト提案書の中で求められている項目には、旅客収入見通しを得るためのリサーチ結果とシミュレーションモデルも含まれています。旅客収入見通しについて簡易な調査はすでにフロリダ州側で行っているようですが、詳しいところは応札企業グループ側が作業をしなければなりません。(なお、そうした費用について200万ドルの補填があることは先述しました。)

営業地域としては、ディズニーワールドなどのテーマパークを含み、人口増加がまだ続いている地域ですから、相当数の旅客は見込めるはずです。また、米国初の高速鉄道ということで、それだけで内外から観光客を引きつけることも想定されます。
さらには、距離が数倍長いOrland-Miami間の路線の準備もこれから始まりますし、Orland-Tampa区間の応札企業グループは相当に高い確率でOrland-Miami間の受託も獲得する可能性があります(現時点では明記されていません)。

日本企業グループにとっても、大きなオポチュニティだと言えるのではないでしょうか。

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