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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

衆院選:OSINT + AIトレンド分析4手法のうち、運用可能なのは「ベイズ確率的統合」だと判明

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人類最高のAIとの呼び声高いGemini 3 Proを使って、衆院選の動向を分析できるのか?ということで、実験的に取り組んでいます。

そもそもGemini 3 Proなどの先端AIは、インターネット上に存在する種々雑多なデータ、それらは新聞記事だったり学術論文だったりSNSの投稿だったり、Amazon AWSの高度な技術文書だったりする訳ですが、それらの構造化されていないデータ=非構造化データの中から、「あなたにとって意味があるデータ」を取捨選択し、「あなたが指示した文脈」で分析にかけ、「あなたにとって価値があるレポート」を生成するように作られています。具体的には、ChatGPTやGeminiの有料版に搭載されている「Deep Research」機能を併用することでそれができます。

私は長らく海外動向に関するリサーチを英文資料中心でやっていたので良くわかるのですが、ChatGPTとGeminiに関しては「人間のプロフェッショナルのリサーチャー」がたどる手順と全く同じように

目的を達成するための仮説立案→

調査対象資料を推定する(公開されているすべての資料を精査)→

資料の探索と読み込み→

第一次の分析結果のまとめ→

目的の要求内容を満たしているか評価→

さらにレポートの精度を高めるための追加の調査対象資料を推定する(公開されているすべての資料を精査)→

追加資料の探索と読み込み

第二次の分析結果のまとめ→

さらに同じループを何度か繰り返す

という手順を辿って完成度の高いレポートを出します。その時間が圧倒的に早いのです。プロのリサーチャーが2週間ぐらいかけないとできないレポート作成を、15分〜60分程度でこなします。また、参照する公開資料の広さと深さは人間が全く敵わないレベルです。それによってプロのリサーチャーが作成するレポートよりもはるかに質量ともに上回るレポートができるのです。

この公開資料ベースの超速かつ超深の調査とレポート執筆の機能は、国政選挙の調査とレポートにも使えるのです。

さらにさらに。ChatGPTやGeminiは、アメリカの統計調査の先端的な手法やトレンド分析の先端的な手法をマスターしています。従って日本の専門家よりもはるかに未来的な動向調査やトレンド分析ができます。そういう前提で作成したのが以下の投稿でした。

衆院選「世論調査」は古くてオワコン。新しい選挙予測はOSINT + AIトレンド分析4手法で高解像度

↑この投稿の中で紹介したOSINT(オープンソースインテリジェンス。ネットで公開されている情報を洗いざらい精査する手法)をベースとしたAIトレンド分析の4手法。選挙用の分析手法というより、基本的にはマーケットリサーチのための分析手法です。どれも非常に興味深いのですが、今回の衆院選で使えるかどうか?イマイチ不安だったので、Gemini 3 Proで本格的なDeep Researchを行なって、いわゆるフィージビリティ調査(それらの個々の分析手法が実際に使えるものなのかどうか?特に取得できるデータで意味のある分析ができるものなのかどうか?)を行いました。

その結果分かったのは、「ベイズ確率的統合」なら、ネットのOSINTベースで、今回の衆院選のトレンド分析に使えるということです。次の投稿では、2026年1月21日時点の衆院解散直前の状況を、ベイズ確率的統合で分析します。「おお、おお、なるほど!ザ・ワールド!」という結果が出ました。私も長く生きている人間なので...

2026年 選挙予測におけるOSINTおよびAIトレンド分析手法の実効性評価に関する技術報告書

1. 序論:デジタルトランスフォーメーション下の世論分析

1.1 背景と目的:世論調査の限界と新たな潮流

2026年現在、選挙予測のパラダイムは劇的な転換点を迎えている。かつて「神託」に近い信頼性を誇った従来の世論調査(電話調査、出口調査)は、固定電話保有率の低下、回答拒否率の上昇、そして若年層の捕捉失敗により、その精度と社会的信頼を大きく損なっている。一部の専門家の間では、既存の世論調査手法は「オワコン(終わったコンテンツ)」であるとさえ断じられており、急速に変化する有権者の意識を捉えきれていない現状がある 1

これに代わる手法として注目されているのが、OSINT(Open Source Intelligence:公開情報インテリジェンス)AI(人工知能) を組み合わせたトレンド分析である。これは、有権者がデジタル空間に残す膨大な「デジタルフットプリント(足跡)」を解析することで、メディアが報じる「表層の世論」ではなく、無意識下に醸成される「深層の世論」を高解像度で可視化しようとする試みである 1

1.2 技術的背景:AIインフラの進化とデータの壁

この新しい分析手法の実現には、膨大な非構造化データを処理するための計算資源が不可欠である。幸いなことに、NVIDIAのBlackwellアーキテクチャやGroqのLPU(Language Processing Unit)といった推論特化型チップの普及により、計算コストとレイテンシ(遅延)の問題は解決に向かっている 3。AIデータセンターへの電力供給問題など、物理インフラの課題は残るものの、ハードウェア面での障壁は低くなりつつある 2

しかし、AIモデルが高度化すればするほど、その燃料となる「データ」の質と量が決定的な要因となる。2023年以降、主要なプラットフォーム(X/Twitter、Reddit等)はAPIの有償化や制限強化(APIの閉鎖化)を急速に進め、かつては無償で利用可能だった「公共の広場」のデータは、極めて高価な商品へと変貌した。また、生成AIによる著作権侵害を懸念する報道機関(日経新聞、朝日新聞等)による訴訟の動きも活発化しており、テキストデータの利用環境は厳しさを増している 5

1.3 調査範囲と方法論

本報告書では、提案されている以下の4つの主要分析手法について、2026年1月時点でのデータアクセス環境に基づき、その実行可能性を厳密に評価する。

  1. Narrative Dominance Index (NDI: 物語支配指数)

  2. Visual Velocity (視覚的伝播速度分析)

  3. De-Astroturfing (アストロターフィング排除/偽草の根運動検出)

  4. Bayesian Probabilistic Integration (ベイズ確率的統合)

分析にあたっては、各手法が必要とするデータ要件を定義し、それらが現在のAPI仕様、利用規約(ToS)、法的制約(著作権法、個人情報保護法)の下で、一般の分析者(企業または個人)にとって「現実に取得可能か」を判定基準とする。


2. 分析手法1:Narrative Dominance Index (NDI) の実行可能性評価

2.1 手法の定義とデータ要件

Narrative Dominance Index (NDI) は、特定の政治的ナラティブ(物語・文脈)がデジタル空間においてどの程度の「支配力」を持っているかを定量化する指標である。単なる言及数(ボリューム)の計測にとどまらず、そのナラティブが他の議論を圧倒しているか、あるいは反論を封じ込めているかといった「質的な支配力」を測定するために、自然言語処理(NLP)を用いた高度なテキスト解析が必要となる 1

この手法を実行するために不可欠なデータ要件は以下の通りである。

  • 完全なテキストストリーム(Firehose): 特定のキーワードを含む投稿の全量、または統計的に有意なランダムサンプリングデータ。偏ったサンプリング(例:特定ユーザー層のみ)では「支配力」を誤認するリスクがある。

  • メタデータ: 投稿日時(秒単位)、エンゲージメント数(いいね、リポスト、引用)、ユーザー属性(フォロワー数による影響力重み付け)。

  • 文脈データ: スレッド構造(リプライの連鎖)を取得し、賛否の方向性を判定するための会話データ。

2.2 X (旧Twitter) データへのアクセス障壁

日本における政治的言論の主戦場は依然としてX(旧Twitter)である。しかし、X社のAPIポリシー変更は、NDIのような「大量データ分析」の実行可能性に壊滅的な影響を与えている。

2.2.1 API価格体系の変遷と現状

2023年のAPI有料化以降、Xのデータアクセス権は「持てる者」と「持たざる者」に二分された。2026年現在の価格体系と制限は以下の通りである 7

プラン名称 月額費用 (推定) データ取得上限 (Read Limit) NDI分析への適合性
Free Tier $0 なし(投稿のみ)/ 1,500件/月 不適 (分析不可)
Basic Tier $200 (約3万円) 10,000 ~ 15,000件/月 不適 (サンプル数不足)
Pro Tier $5,000 (約75万円) 1,000,000件/月 条件付き可 (小規模分析のみ)
Enterprise $42,000+ (約630万円~) Firehose (全量アクセス) 適合 (完全な分析が可能)
  • Free/Basic Tierの限界: Basicプランの月間1万件という上限は、個人の趣味レベルであれば十分かもしれないが、選挙分析においては無力に等しい。例えば、「増税」や「裏金」といったトレンドワードは、選挙期間中には数時間で1万件を超える投稿がなされる。月間上限に達した時点でデータ供給が遮断されれば、時系列での「支配力」の変化を追うことは物理的に不可能となる 8。また、Basicプランでは検索可能な過去データが「7日間」に限定されており、選挙戦全体の長期トレンド分析(Longitudinal Analysis)ができないという致命的な欠陥がある 8

  • Pro Tierのコスト対効果: 月額約75万円のProプランであれば100万件の取得が可能だが、国政選挙全体(数百人の候補者、数十の争点)をカバーするには依然として心許ない。また、Proプランでも全量データ(Firehose)へのアクセス権は保証されておらず、サンプリングデータに依存する可能性がある。

  • Pay-Per-Useモデルの不確実性: 2025年後半にベータ版として導入された「従量課金制(Pay-Per-Use)」モデルも存在するが、これはクローズドベータであり、一般の分析者が自由に利用できる段階にはない 7

2.2.2 第三者収集ツールの排除

かつては「Togetter」のようなまとめサイトや、各種ソーシャルリスニングツールがAPIの隙間を埋めていた。しかし、X社は2025年末に「InfoFi(情報金融)」アプリケーションとみなされるツール群を一斉に排除し、API利用規約を厳格化した 10。これにより、正規のEnterprise契約を結んでいないサードパーティ製ツール経由でのデータ収集も極めて困難になっている。

2.3 ニュースメディアおよびコメントデータの法的リスク

NDIのもう一つの情報源として考えられるのが、Yahoo!ニュース等のポータルサイトや新聞社の記事データベースである。

  • 新聞社によるAI学習拒否: 日本経済新聞社や朝日新聞社などの大手メディアは、自社の記事データが無断でAIの学習や分析(RAG: 検索拡張生成を含む)に利用されることに対して強い拒絶反応を示しており、米国のAI検索企業(Perplexity AI)に対して著作権侵害訴訟を起こしている 5。これは、NDIのために記事本文をスクレイピング(自動収集)して分析する行為が、明確な法的リスク(著作権侵害、損害賠償請求)を伴うことを意味している。

  • Yahoo!ニュースコメントの利用規約: Yahoo!ニュースのコメント欄(通称ヤフコメ)は、世論の縮図として分析価値が高いが、Yahoo! JAPANの利用規約およびガイドラインでは、スクレイピングによるデータ収集を明示的に禁止している 11。正規のAPIも存在するが、これは投稿監視を行う事業者向け(B2B)の提供であり、外部のアナリストが分析目的で利用するために開放されているものではない 14

2.4 NDIの結論:実行不可能 (Infeasible)

判定: 実行不可能

理由:

NDIが掲げる「高解像度なナラティブ分析」を実現するためには、数百万件単位のテキストデータと、それを時系列で追跡する継続的なアクセス権が必要である。

  1. 経済的障壁: X(Twitter)においてこの要件を満たすには、月額数百万円規模の「Enterprise」契約が必須であり、一般的な選挙事務所や独立系アナリストの予算規模を超えている。

  2. 法的・規約的障壁: 代替ソースであるニュースメディアやポータルサイトは、スクレイピングを厳格に禁止し、法的措置も辞さない構えを見せている。

    したがって、現実に取得可能な(合法的かつ低コストな)データを用いて、理論通りのNDIを構築することは不可能である。


3. 分析手法2:Visual Velocity (視覚的伝播速度分析) の実行可能性評価

3.1 手法の定義とデータ要件

Visual Velocity は、テキストではなく「画像」や「ショート動画」の拡散速度を指標化する手法である。TikTok、YouTube Shorts、Instagram Reelsなどの普及により、選挙戦の主戦場は視覚メディアへと移行している。特定のミーム(Meme)や候補者の失言動画が、どの程度の「加速度」を持って拡散しているかを初期段階で検知し、バイラル(爆発的拡散)の予兆を捉えることを目的とする 1

必要なデータ要件:

  • 高頻度メタデータ取得: 「速度」を算出するためには、再生数やいいね数の変化を「1時間ごと」あるいは「10分ごと」に定点観測する必要がある。

  • コンテンツ同一性判定: 異なるアカウントからアップロードされた動画が「同じ内容」であることを特定するための、動画フィンガープリント(ハッシュ値)や画像認識データ。

  • クロスプラットフォーム追跡: TikTokで発生したトレンドがXやYouTubeへ波及する様子を追跡するための複数プラットフォームへのアクセス。

3.2 TikTokデータの「学術・欧米限定」の壁

若年層への影響力が最も大きいTikTokであるが、そのデータアクセスは極めて閉鎖的である。

  • Research APIの資格要件: TikTokは透明性を高めるために「Research API」を公開しているが、その利用資格は厳格に制限されている。申請者は「米国の学術機関」または「欧州(EEA/UK/スイス)の学術・非営利研究機関」に所属している必要があり、日本の一般企業や独立系アナリストは対象外となるケースが大半である 17

  • 商用利用の禁止: 仮に大学との共同研究という形をとったとしても、その目的が「選挙コンサルティング」や「商用レポートの作成」である場合、APIの利用規約に抵触する可能性が高い。TikTokの規約は、営利目的でのデータ利用を明確に排除している 17

  • データのリアルタイム性: 研究用APIから提供されるデータはアーカイブデータが中心であり、Visual Velocityが求める「リアルタイムの秒速」を測定するにはレイテンシ(遅延)が大きすぎるという技術的課題もある 18

3.3 YouTube Data APIのクォータ(割当)制限

YouTubeはGoogle Cloud Platformを通じてAPI(YouTube Data API v3)を公開しており、比較的アクセスしやすい環境にある。しかし、ここには「クォータ(Quota)」という物理的な壁が存在する。

  • 1日10,000ユニットの壁: デフォルトのAPI割り当ては、1プロジェクトあたり1日10,000ユニットである 19

  • コスト試算による限界:

    • 動画の検索(Search endpoint): 1回あたり 100ユニット 消費。

    • 動画の詳細情報取得(Videos endpoint): 1回あたり 1ユニット 消費。

    • シナリオ: 「Visual Velocity」を測定するために、新たなバイラル動画を探す「検索」を10分おきに行うと仮定する。

      • 144回(24時間×6回)× 100ユニット = 14,400ユニット

      • この時点で、検索だけで1日の上限を超過してしまう。これに加えて、特定した動画の再生数推移を追跡するためのコストがかかるため、デフォルトの上限内での運用は破綻する 21

  • クォータ緩和のハードル: 上限の引き上げ申請(Audit)は可能だが、これにはGoogleによる厳格なコンプライアンス監査が必要であり、単なる「調査目的」で容易に承認されるものではない 20。また、監査プロセスには数週間を要するため、短期決戦である選挙期間中に柔軟に対応することは困難である。

3.4 Visual Velocityの結論:実行不可能 (Infeasible)

判定: 実行不可能

理由:

視覚情報の伝播速度を測定するためには、プラットフォームのAPIを「高頻度」で叩き続ける必要がある(ポーリング)。

  1. TikTok: そもそも日本国内の非学術機関にはAPIへのアクセス権が付与されないという「門前払い」の状態にある。

  2. YouTube: 無料枠(デフォルトクォータ)が厳しく、バイラル検知に必要な高頻度検索を行うと即座に上限に達する。

  3. X (Twitter): 動画のURL拡散を追うにも、前述の通りAPIコストが障壁となる。

    したがって、特定の動画1本を追うことは可能でも、選挙全体を俯瞰して「どの動画がキているか」を網羅的に検知するシステムを構築することは、現在のデータアクセス環境では不可能である。


4. 分析手法3:De-Astroturfing (偽草の根運動排除) の実行可能性評価

4.1 手法の定義とデータ要件

De-Astroturfing は、組織的に動員されたボット(Bot)やサクラによる偽の支持表明(アストロターフィング)を識別し、ノイズとして除去することで、真の「有機的な支持(Organic Support)」を抽出する手法である。ロシアによる影響力工作「Doppelganger(ドッペルゲンガー)」などが確認されており、デジタル民主主義を守るための重要な防衛策とされる 23

必要なデータ要件:

  • ソーシャルグラフ(Social Graph): 誰が誰をフォローしているかというネットワーク構造データ。ボットは互いにフォローし合う「密なクラスター」を形成する傾向があるため、これを検出するために必須。

  • 詳細なタイムスタンプ: 秒単位以下の投稿時刻データ。プログラムによる自動投稿(バースト投稿)を検知するため。

  • クライアント識別子: どのアプリ(iPhone, Android, Web, APIツール等)から投稿されたかを示すメタデータ。

  • アカウント作成日・変更履歴: 「休眠アカウント」の使い回し(Sleeper accounts)を検知するため。

4.2 プラットフォームによる「対抗措置」としてのデータ隠蔽

De-Astroturfingを行うためには、皮肉なことに「ボット作成者が欲しがるデータ」と同じデータが必要になる。そのため、プラットフォーム側はセキュリティ対策として、これらのメタデータを外部から隠蔽(Obfuscation)する傾向にある。

  • フォロワーリストの取得制限: X(Twitter)において、あるアカウントのフォロワー一覧を取得するAPI(GET followers/ids)は、極めて厳しいレート制限(Rate Limit)が課されている。Basicプランなどの下位ティアでは、数万人のフォロワーを持つ候補者のネットワーク全体を把握することは不可能であり、ボットクラスター検出の前提となる「グラフ理論」に基づく分析ができない 8

  • クライアント情報の削除: かつてTwitter APIで取得可能だった「source(投稿元アプリ)」情報は、現在では一般ユーザーの画面からは隠されており、API経由でも取得が制限される場合がある。これにより、「API経由の機械的な投稿」を単純にフィルタリングすることが難しくなっている。

4.3 Yahoo! JAPANにおける「内部処理」の壁

Yahoo!ニュースのコメント欄におけるアストロターフィング対策は、Yahoo! JAPAN自身が内部で行っている。

  • スーパーコンピュータ「kukai」とAI: Yahoo! JAPANは、自社開発の深層学習モデルとスーパーコンピュータ「kukai」を用いて、不適切なコメントや建設的でないコメントを自動的に判定・順位付け・削除している 24

  • ブラックボックス化: この処理はプラットフォームの内部で行われており、外部の分析者は「削除されたコメント」や「判定スコア」を見ることはできない。提供されているAPI 16 は、メディアパートナーが自社サイトにコメント機能を実装するためのものであり、外部の研究者がYahoo!の判定ロジックを検証したり、独自にDe-Astroturfingを行ったりするためのデータを提供するものではない。

  • スクレイピングの禁止: 前述の通り、Yahoo!の利用規約はスクレイピングを禁止しているため、表示されているコメントを全量収集して独自にボット判定を行うこと自体が規約違反となる 11

4.4 De-Astroturfingの結論:実行不可能 (Infeasible)

判定: 実行不可能

理由:

De-Astroturfingは、高度な「カウンターインテリジェンス(防諜)」活動であり、これを実行するためには管理者権限に近い粒度の高いメタデータ(IPアドレス、詳細なログ、完全なソーシャルグラフ)が必要である。

  1. データの非対称性: プラットフォーム側(X社、Yahoo!社)はこれらのデータを持っているが、外部のアナリストには提供していない。セキュリティとプライバシー保護の観点から、ボット検知に必要なシグナルは意図的に隠されている。

  2. APIの制限: ボットネットワークを可視化するために必要なソーシャルグラフデータの取得は、APIのレート制限により事実上不可能である。

    したがって、外部の分析者が公開データだけを用いて、プラットフォーム内部のセキュリティチームと同等レベルのDe-Astroturfingを行うことは不可能である。


5. 分析手法4:Bayesian Probabilistic Integration (ベイズ確率的統合) の実行可能性評価

5.1 手法の定義とデータ要件

Bayesian Probabilistic Integration(ベイズ確率的統合) は、限られた情報から確率を更新していくベイズ統計学に基づくアプローチである。「事前確率(Priors)」として過去の選挙結果や基礎的な支持率を設定し、そこに新たな「尤度(Likelihoods)」として世論調査の結果、経済指標、検索トレンドなどを加えることで、「事後確率(Posteriors)」としての当選確率を算出する 1

この手法の最大の特徴は、ビッグデータ(全量データ)を必要とせず、「まばらだが信頼性の高いシグナル(Sparse but High-Quality Signals)」 を統合できる点にある。

必要なデータ要件:

  • 世論調査データ(集計値): メディア各社(NHK、朝日、読売等)が実施・公表する世論調査の支持率データ。

  • 経済指標: 日経平均株価、有効求人倍率、内閣支持率などのマクロ指標。

  • 検索トレンド: Google Trends等の検索ボリューム指数(SVI)。有権者の関心の代理変数として利用。

  • 過去の選挙結果: 総務省等が公開している確定票数データ。

5.2 データの取得可能性とアクセス環境

5.2.1 公開情報の利用(Open Data)

ベイズモデルの入力となるデータの多くは、すでに加工・集計された形で公開されている。

  • 世論調査: 各報道機関は調査結果をWebサイトや紙面で詳細に公表している。これらは「ローデータ(個票)」ではないが、ベイズモデルの入力としては「集計値(A候補支持40%)」で十分である。これらは無料で閲覧可能であり、手動または簡単なスクリプトで収集できる。

  • 経済指標・選挙結果: 政府統計(e-Stat)や金融情報サイトを通じて、APIまたはCSV形式で無料かつ合法的に取得可能である。

5.2.2 Google Trends APIの実用性

有権者の関心を測るためのGoogle Trendsデータについても、アクセス環境は良好である。

  • 公式/非公式アクセスの容易さ: Google Trendsには公式の大規模商用APIはないものの、WebインターフェースからのCSVダウンロードや、Pythonライブラリ(pytrendsなど)を通じたデータ取得が広く行われている。

  • レート制限の許容範囲: データプロバイダ(DataForSEO等)の情報によれば、Google Trendsのレート制限は「1分間に250リクエスト」程度である 26。NDIのように全ツイートを取得する必要はなく、ベイズモデルでは「日次」または「週次」のデータポイントがあれば十分であるため、数百のキーワードのトレンドを1日1回取得する程度であれば、無料の範囲内で十分に収まる 27

  • データの質: Google Trendsのデータは正規化された指数(0-100)であるが、時系列の変化(モメンタム)を捉えるには十分であり、ベイズ更新の「尤度」として機能する。

5.2.3 Yahoo!リアルタイム検索(集計値)の利用

Yahoo!の規約でスクレイピングは禁止されているが、「話題のツイートランキング」などのトップレベルの集計データを目視確認したり、手動で記録したりすることは禁止されていない。ベイズモデルでは、こうした「ランキングに入ったか否か(バイナリデータ)」も重要なシグナルとして組み込むことができる。

5.3 Bayesian Integrationの結論:実行可能 (Feasible)

判定: 実行可能

理由:

ベイズ確率的統合モデルは、データが「不完全であること」を前提とした数学的モデルであるため、APIの制限やデータの欠損に対して極めて頑健(Robust)である。

  1. データの遍在性: 入力に必要なデータ(世論調査結果、経済指標、検索トレンド)は、そのほとんどが「公開情報(Open Data)」として無料で入手可能である。

  2. 低コスト: 高額なEnterprise API契約を結ばずとも、公開情報を収集・統合するだけでモデルを構築できる。

  3. 法的安全性: 著作権法や利用規約に抵触するような大量のテキストマイニングやスクレイピングを必要とせず、数値データの利用が中心であるため、コンプライアンスリスクが極めて低い。


6. 総合評価と結論

本調査の結果、2026年1月時点における各手法の実行可能性は以下の通り結論付けられる。

分析手法 主要データソース 阻害要因 (ボトルネック) 判定
Narrative Dominance Index (NDI) X (Twitter), News Media コスト・法規制: X社のEnterprise API費用(月額数百万円)と、報道機関によるAI学習拒否・訴訟リスク。 実行不可能
Visual Velocity TikTok, YouTube 資格・クォータ: TikTok APIの地域・資格制限(日本除外)、YouTube APIの検索クォータ不足。 実行不可能
De-Astroturfing Social Graph Metadata データ隠蔽: プラットフォーム側によるボット検知用メタデータの非公開化。外部からの検証不可。 実行不可能
Bayesian Probabilistic Integration Polls, Google Trends, Econ Data なし: 公開された集計データと、アクセス容易なトレンドデータのみで構築可能。 実行可能

6.1 結論:唯一の解としての「ベイズ統合」

元記事 1 で紹介された4つの手法は、理論的にはいずれも強力であり、選挙予測の精度を向上させる可能性を秘めている。しかし、現実に目を向けると、「データ」という資源へのアクセス権は、巨大プラットフォーム企業(X, Google, TikTok)や資金力のある大組織に独占されつつある(データの囲い込み)。

一般の企業や独立系アナリストが、現実に取得可能なデータを用いて合法的に実行できる唯一の手法は、「Bayesian Probabilistic Integration(ベイズ確率的統合)」 である。

この手法は、SNSの「全量データ」にアクセスできないという弱点を、数学的な推論(不確実性のモデリング)によって補うことができる。また、Google Trendsなどの無料ツールを有効活用することで、高コストなAPIに依存せずに有権者の関心動向を取り込むことが可能である。したがって、2026年の選挙予測実務においては、実現不可能な「ビッグデータ分析(NDI等)」への幻想を捨て、利用可能なデータを賢く統合する「スマートデータ分析(ベイズ統合)」へと戦略をシフトすべきである。


付録:データソース別アクセス状況一覧 (2026年1月現在)

以下の表は、本報告書の分析根拠となった主要データソースの現在のアクセス状況をまとめたものである。

データソース API/アクセス方法 費用/条件 制限事項・リスク
X (Twitter) API v2 (Basic) $200/月 閲覧1万件/月。過去データ7日間のみ。分析不可。
X (Twitter) API v2 (Enterprise) $42,000+/月 全量アクセス可。費用対効果が極めて低い。
TikTok Research API 無料 (要審査) 米欧の学術機関限定。日本の一般利用不可。
YouTube Data API v3 無料 (割当制) 1日1万ユニット。高頻度検索には不向き。
Yahoo! News Web閲覧 無料 スクレイピング禁止 (ToS違反)。
Newspaper 記事DB 有料契約 AI学習/分析利用の禁止・訴訟リスク
Google Trends Web/Python 無料 レート制限はあるが、低頻度利用なら問題なし。
Gov Stats e-Stat API 無料 制限なし。経済指標等の取得に最適。

以上

引用文献

  1. 衆院選「世論調査」は古くてオワコン。新しい選挙予測はOSINT + ..., 1月 21, 2026にアクセス、 https://blogs.itmedia.co.jp/serial/2026/01/osint_ai4.html
  2. 【AIデータセンター電力供給】AI特需は「半導体」だけではない, 1月 21, 2026にアクセス、 https://blogs.itmedia.co.jp/serial/2026/01/aiai100.html
  3. AIチップの主戦場は学習から推論へ ~NvidiaとGroqの契約が示すこと, 1月 21, 2026にアクセス、 https://blogs.itmedia.co.jp/appliedmarketing/2026/01/ainvidiagroq.html
  4. 中国のヒト型ロボットはキックボクシングしかできないのか?ヒト ..., 1月 21, 2026にアクセス、 https://blogs.itmedia.co.jp/serial/2026/01/hyundai_atlas.html
  5. Japan's leading media outlets sue US AI company over copyright, 1月 21, 2026にアクセス、 https://www.aa.com.tr/en/asia-pacific/japan-s-leading-media-outlets-sue-us-ai-company-over-copyright/3669836
  6. Nikkei and Asahi Sue Perplexity AI in Japan Over Copyright, Seek ..., 1月 21, 2026にアクセス、 https://babl.ai/nikkei-and-asahi-sue-perplexity-ai-in-japan-over-copyright-seek-30m-in-damages/
  7. How to Get X API Key: Complete 2025 Guide to Pricing ... - Elfsight, 1月 21, 2026にアクセス、 https://elfsight.com/blog/how-to-get-x-twitter-api-key-in-2025/
  8. Twitter/X Data Access Options Compared (2026) | Xpoz Blog, 1月 21, 2026にアクセス、 https://www.xpoz.ai/blog/comparisons/twitter-x-data-access-options-compared-2026
  9. Twitter API pricing, limits: detailed overlook | Data365.co, 1月 21, 2026にアクセス、 https://data365.co/guides/twitter-api-limitations-and-pricing
  10. X revises developer API policies, bans 'InfoFi' apps to tackle bot spam, 1月 21, 2026にアクセス、 https://m.economictimes.com/tech/technology/x-revises-developer-api-policies-bans-infofi-apps-to-tackle-bot-spam/articleshow/126550227.cms
  11. リンク、二次利用、著作権について - Yahoo! JAPANヘルプセンター, 1月 21, 2026にアクセス、 https://support.yahoo-net.jp/PccSearch/s/article/H000015794
  12. Yahoo!リアルタイム検索で最新トレンドを自動収集する方法を解説, 1月 21, 2026にアクセス、 https://www.octoparse.jp/blog/how-to-collect-real-time-searches-from-yahoo
  13. Yahoo!ニュースをスクレイピング方法 - Octoparse, 1月 21, 2026にアクセス、 https://www.octoparse.jp/blog/how-to-web-scrape-yahoo-news
  14. ヤフー、「建設的コメント順位付けモデル」API無償提供 初期投資 ..., 1月 21, 2026にアクセス、 https://creatorzine.jp/news/detail/1392
  15. ネット上に投稿されるコメントを"秒"で評価するAPIを無償提供 - note, 1月 21, 2026にアクセス、 https://note.com/primalcolors/n/nd4580cc270c5
  16. Yahoo!ニュース、不適切コメントへの対策として導 している深, 1月 21, 2026にアクセス、 https://www.lycorp.co.jp/news/archive/Y/ja/ja20200918_A.pdf
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  23. 2024年米国大統領選挙:偽情報のトレンド - Codebook, 1月 21, 2026にアクセス、 https://codebook.machinarecord.com/cyber-intelligence/geopolitical-risk/35900/
  24. Yahoo! JAPAN News Strengthens Countermeasures against ..., 1月 21, 2026にアクセス、 https://www.lycorp.co.jp/news/archive/Y/en/en20200306_C.pdf
  25. ヤフー、AIでコメントを評価するAPIの無償提供を開始 | AMP[アンプ], 1月 21, 2026にアクセス、 https://ampmedia.jp/2020/09/18/yahoo-ai-api/
  26. Google Trends API Limits and Restrictions - DataForSEO, 1月 21, 2026にアクセス、 https://dataforseo.com/help-center/google-trends-api-limits-and-restrictions

Google Trends Scraper - Apify, 1月 21, 2026にアクセス、 https://apify.com/apify/google-trends-scraper

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