NVIDIA/Disney/GoogleによるフィジカルAIの最高傑作"Blue"。オフラインのリアルタイムシミュレーションがなぜパラダイムシフトだったのか?
去年の3月のNVIDIA GTC 2025でジェンセン・フアンがお披露目したよちよち歩きがかわいらしい二足歩行ロボット"Blue"。NVIDIAとDisney ResearchとGoogle DeepMindが共同開発した当時としても現在においても世界最高傑作のフィジカルAIです。下の動画をご覧下さい。わかる人にはわかる超高度なよちよち歩きです。
Jensen Huang Introduces Blue: NVIDIA & Disney Research's AI Robot | GTC 2025
Nvidia "Blue" Review: The Ultimate AI Robt Unveiled
この"Blue"を動かしている技術の詳細を、昨年6月にChatGPT + Deep Researchに「世界最高のロボット工学の専門家」という役割を与えて分析させ、1万2,000字の報告書「自律型ロボット「Blue」と物理AIに関する調査報告」を得ました。NVIDIAのフィジカル技術の詳細がぎっしり詰まった大変に価値の高い報告書です。
それを昨年6月に投稿
NVIDIAがGTC2025でお披露目した茶目っ気のあるAI搭載ロボット「Blue」の技術詳細とフィジカルAI(2025/6/28)
で全文共有したのですが、時期が時期が早すぎたため、ほとんど読まれずに埋もれてしまいました。「フィジカルAI」というワードが早すぎました。
最近この報告書を読み直してみて、「やはり現在的な価値があるなぁ」と思い、内容のハイライトを記述するブログを作成しました。(裏でAIが動いています)
ロボット筐体にオフラインで動作するAIエッジコンピュータを搭載し、カメラやLiDAR等複数のセンサーから上がってくる入力をリアルタイムで処理し、次の瞬間の動作を何万通りもリアルタイムシミュレーションして最良の結果をアクチュエーターの出力として出す。それが一歩一歩Disneyらしいよちよち歩きとして生成される...。これがいかに高度な技術的パラダイムシフトであるのか?それがわかる内容です。
もっともっと突っ込んだ技術の詳細が必要な方は上のリンク先投稿の報告書本体をお読み下さい。
2025年のGTCで披露された自律ロボット「Blue」は、単なるデモ機ではありません。NVIDIA・Google DeepMind・Disney Researchが結集して作り上げた、物理AI(Physical AI)の到達点を示す実装例です。本稿では、公開された調査報告書(「自律型ロボット『Blue』と物理AIに関する調査報告」)の内容を踏まえ、Blueの核心技術、とりわけ「エッジでリアルタイム物理シミュレーションを回している」点の技術的意味を解説します。
1. フィジカルAIとは何か ― Brain・Body・Environmentの統合
まず、フィジカルAIの重要な三要素。
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Brain:AI推論・学習(ディープラーニング、強化学習)
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Body:アクチュエータ、機構、リンク、駆動系
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Environment:センサーと物理法則の支配する実世界
従来ロボットは「プログラムされた通りに動く存在」でした。しかし"Blue"は、センサー入力 → AI推論 → 物理モデル照合 → 動作決定をリアルタイムで繰り返す構造を持ちます。これは「知覚して、理解して、先読みして動く」存在です。
2. なぜリアルタイム物理シミュレーションが革命なのか
ロボット開発では、仮想空間で学習させる「シミュレーション」が不可欠です。しかし問題はSim-to-Real Gapです。
仮想でうまく動いても、実機では失敗する。このギャップがロボティクスの最大の壁でした。
Blueの革新はここにあります。
従来
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シミュレーションは開発段階で使うもの
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実機ではルールベース制御+推論モデル
Blue
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オフラインの実機上でリアルタイムに物理シミュレーションを回す
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行動を決定する直前に、仮想環境で先読み評価する
これは制御構造として見ると、
というModel Predictive Control(MPC)と強化学習のハイブリッド構造に近いと推察できます。(今泉注:これは"Blue"に搭載されているエッジAIコンピュータ=オフラインで動作するAIコンピュータの性能が飛躍的に優れていることから来る。そうした超高性能を持ったデバイスとして後に発売されたのがJetson Thor)
3. Newton物理エンジンの技術的意義
Blueの基盤には、NVIDIA・DeepMind・Disney Research共同開発の新物理エンジン「Newton」があります。
Newtonの技術的特徴
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GPU最適化(Warp基盤)
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CUDAベースの並列物理演算
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剛体衝突、摩擦、接触ダイナミクスを高速処理
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MuJoCo-Warp統合
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DeepMindのMuJoCoをWarp対応化
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ヒューマノイドで70倍以上の高速化
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微分可能物理(Differentiable Physics)対応の将来性
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物理パラメータを学習で最適化可能
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方策勾配法との統合が可能
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Newtonは単なるシミュレータではありません。
ロボット学習のための物理計算プラットフォームです。
これを実機に載せている点がBlueの本質です。
4. エッジAIコンピューティングの決定的進化
Blue内部には2基のNVIDIAコンピュータが搭載されています。おそらくJetson Orin系です。(今泉注:2025年8月末に発売されたのがOrinの後継機NVIDIA Jetson Thor。おそらくBlueの中には発売前のJetson Thorが2基搭載されており、高度なパフォーマンスを示していたのではないかと推察される)
Jetson Orinの性能:
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最大275 TOPS
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小型SoC
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高効率推論
この計算能力により、以下がオンボードで可能になります。
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画像認識(物体検出・セマンティック分割)
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SLAM(自己位置推定)
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強化学習推論
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物理シミュレーション
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行動計画
通信遅延ゼロで意思決定できるため、テーマパークのような混雑環境でも安全性が確保できます。
5. センサーフュージョンの高度化
Blueは以下のセンサーを統合しています。
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ステレオカメラ
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LiDAR
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IMU
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オドメトリ
これらを融合することで、
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Visual-Inertial Odometry
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3D障害物検出
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動的環境マッピング
が可能になります。
重要なのは、センサーデータがNewtonの物理モデルに入力される点です。
つまり、単なる検出ではなく、
「物理的にどう動くと衝突するか」
「この加速度だと転倒するか」
をリアルタイムに評価できます。
6. 強化学習とFoundation Modelの統合
GTC 2025ではIsaac GR00T N1というロボット向けファウンデーションモデルも発表されました。
これはロボット版ChatGPTのような存在で、
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汎用動作理解
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マルチモーダル推論
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タスク一般化
を目指します。
Blueはエンタメ用途ですが、背後の技術は汎用ロボティクス時代への橋渡しになっています。
7. なぜ日本にとって重要なのか
日本のロボット企業は、
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精密機構
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高品質アクチュエータ
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センサー部品
で強みを持ちます。
しかしBlueが示したのは、
ハード優位ではなく、
物理シミュレーション×AI×GPUが主戦場
という構図です。
今後重要なのは:
-
GPU最適化物理計算への対応
-
強化学習パイプライン構築
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シミュレーション→実機統合設計
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エッジAI前提の制御アーキテクチャ
です。
8. 技術的核心まとめ
Blueの凄さは以下に集約されます。
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オンボードGPUでリアルタイム物理シミュレーション(オフラインのGPUで処理される)
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NewtonによるGPU並列物理演算
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センサーフュージョンと物理モデル統合
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強化学習+MPC的先読み制御
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エンタメ用途での実用化デモ
これは、
「ロボットが物理を理解しながら動く時代」
の到来を意味します。
結論:これは新しいロボティクスの起点である
Blueは単なるかわいいロボットではありません。
これは、
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デジタルツインの実機融合
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シミュレーションと現実の境界消失
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エッジAIの自律進化
を示した「古典的傑作」です。
フィジカルAIはすでに概念ではなく、2025年3月の段階で実装フェーズに入りました。
2025年は確かに「フィジカルAI元年」と呼ぶに値しました。
本質は一つです。
未来のロボットは、動く瞬間瞬間に物理を計算する。
ここにBlueの技術的本質があります。
ロボティクス&
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講師:今泉 大輔(株式会社インフラコモンズ 代表)
主催:一般社団法人企業研究会