ジェンセン・フアンがダボス会議で語った「AIは『人類史上最大のインフラ整備』だ」をインフラ投資ジャーナリストだった経験から大解説
2011年から2017年にかけて「インフラ投資ジャーナリスト」という看板を掲げて、調査やインフラ案件開発を行なっていました。
未開発のガス田があるというのでJBICの融資で液化天然ガスプラントを東洋エンジニアリングが建設するプロジェクトを念頭に置きつつタンザニア国エネルギー省天然ガス局を訪問したり、岩手県大船渡市の港のそばに良い用地があるというのでバイオマス発電所が作れるのではないか?と下見に行ったり。
インフラ投資ジャーナリストだった時代に書いたブログの主なもの:
昨日目にしたジェンセン・フアンの発言が、まさに私がこの時期にやっていたことを彷彿とさせるものだったので、ブログに書き起こしてみました。
はじめに:なぜ、半導体の王者が「配管工」や「電気技師」に言及したのか
こんにちは、インフラコモンズの今泉大輔です。
先日のダボス会議(世界経済フォーラム)で、NVIDIAのジェンセン・フアンCEOが発した言葉が、私の古巣であるインフラ業界、そしてエネルギー業界に静かな衝撃を与えています。
彼は、ブラックロックのラリー・フィンクCEOとの対談の中で、AI(AIデータセンター)の構築を「人類史上最大のインフラ整備(The biggest infrastructure buildout in human history)」と表現しました。
そして、こう続けました。 「AIへの投資は、配管工、電気技師、建設作業員、製鉄工、ネットワーク技術者への直接雇用につながっている」。
半導体企業のトップが、なぜこれほどまでに「現場の職種」を具体的に列挙したのでしょうか? 私は2011年から2017年にかけて、インフラ投資ジャーナリストとして、まさにこの「現場」の最上流――発電所の立地選定やガス田開発の現場――を見てきました。その経験から言えるのは、彼の言葉は比喩でもなんでもなく、「物理的な事実」そのものだということです。
今回は、ジェンセン・フアンが語った「AIという名のインフラ整備」の正体を、私のインフラ投資の現場経験を交えて解説します。
1. 「AIの5層のケーキ」:一番下のスポンジは「コンクリートと鉄」
ダボス会議でジェンセンは、AI産業を「5層のケーキ」に例えて説明しました。
一般的にAIというと、一番上の「アプリケーション」や、その下の「AIモデル(LLMなど)」に目が向きがちです。しかし、ジェンセンが今回、最も熱を込めて語ったのは、その土台となる最下層、すなわち「物理インフラ(Physical Infrastructure)」の部分です。
これまでのITインフラ(クラウド)は、既存のデータセンターの空きスペースにサーバーを詰め込めばなんとかなるレベルでした。しかし、生成AIが必要とする計算能力は桁違いです。 NVIDIAの最新GPUを搭載したサーバーラックは、1本で数千万円〜数億円もし、消費電力は一般家庭数百世帯分にも及びます。
これを収容するための「AIファクトリー(AIデータセンター)」は、もはや従来のサーバールームではありません。
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超高発熱を冷やすための、巨大な冷却設備と配管
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1GW(ギガワット)クラスの電力を引き込むための、専用変電所と送電線
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数トンに及ぶラックの重量に耐える、強固な基礎と建屋
これらを作るのはプログラマーではありません。ジェンセンが言及した通り、鉄を組み、コンクリートを打ち、太いケーブルを這わせる「建設・インフラ産業」の力なのです。
2. 「1GW」の衝撃:それは「発電所」を建てるのと同じ
私がインフラ案件に関わっていた頃、「1GW(1000MW)」という数字は、ひとつの巨大なマイルストーンでした。 これは、原子力発電所1基分、あるいは最新鋭の大型ガスタービンコンバインドサイクル発電設備(GTCC)の1系列分に相当する出力です。
AIデータセンターの建設計画では、この「1GW」という規模が当たり前のように語られ始めています。つまり、AIデータセンターをひとつ作るということは、「隣に原子力発電所をひとつ建てる」のと同義なのです。
用地選定一つとっても、単に土地が広ければいいわけではありません。
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高圧送電線が近くを通っているか(系統連系)
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大量の冷却水が確保できるか(水利権)
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地盤は堅固か
これらはまさに、私がかつて発電所の開発案件でチェックしていたリストそのものです。AIビジネスの勝敗を決するのは、今やアルゴリズムの優劣以上に、こうした「土地と電源の確保(Real Estate & Power)」のスピードになりつつあります。
3. 日本の「重厚長大」産業に訪れた最大の好機
ジェンセン・フアンの「人類史上最大のインフラ整備」という言葉は、裏を返せば、日本の建設業、プラントエンジニアリング業、重電メーカー、そして電力会社にとって、かつてない商機が到来していることを意味します。
ITバブルの頃、主役は「ドットコム企業」でした。しかし、AI時代の主役の半分は、「物理的なインフラを作る企業」です。
サーバー建屋への複雑な配電システム、熱を効率よく逃がす空調・水冷技術、そして安定した電力を供給するグリッド技術。これらは、日本企業が長年磨き上げてきた「お家芸」です。
「AIなんて、シリコンバレーのIT企業の話だろう」 そう思っている経営者の方がいれば、ぜひ認識を改めていただきたい。 ジェンセン・フアンは、あなた方の技術こそが、AIという「新しい産業革命」の土台(インフラ)そのものだと指名しているのですから。
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1.イントロダクション
●AIデータセンター需要が電力インフラに与えるインパクト
・世界のAIファクトリー建設ブーム(米国・韓国・中東・欧州)
・GPU集中稼働が引き起こす「電力供給・送電網ボトルネック」
●AIデータセンター×電力インフラの基本構造
・発電(再エネ/ガス/専用発電)
・送電(専用線・変電所・系統容量)
・電気設備(冷却・蓄電・バックアップ)
2.事例ベースで学ぶ:グローバルAIデータセンターの最新動向
(1)米国:OpenAI/SoftBank/Crusoe「Stargate 4.5GW」モデル
・巨大AIデータセンターを支える 4.5GW専用発電タービン
・発電所隣接・専用送電線・専用変電所の"Power-First"設計
・日本企業が入り得る領域:ガスタービン周辺設備、送電・変電、冷却・蓄電設備
(2)韓国:政府主導の「AIファクトリー+広域電力網改修」
・全羅南道の3GW級AIデータセンター構想
・系統制約の克服に向けた広域送電網強化/高密度冷却/蓄電併設
・日本へ示唆:老朽送電網更新・再エネ併用モデルへの応用可能性
(3)中東/UAE:G42主導「Stargate UAE(5GW級)」
・ガス+太陽光+海水淡水化+冷却設備を統合した"メガキャンパス設計"
・国家インフラ(発電・送電・水)とAIデータセンターの完全統合モデル
・EPC・重電・電線メーカーの国際展開機会
(4)発電所隣接型モデル(米国・英国)
・廃止した石炭火力跡地/既存変電所隣接地にAIデータセンターを直建設
・送電距離短縮・専用線・バックアップ設備の合理性
・日本国内での「発電所跡地再活用」への示唆
(5)その他のソブリンAI事例
・サウジNEOM(Zero-Emission発電×AIインフラ)
3.事例から読み解く:発電・送電・電気設備のポイント
(1)発電:電源の"確保競争"が始まっている
・専用発電(天然ガス・再エネ・SMR)
・PPA(電力購入契約)と電源前払いモデル
(2)送電:系統容量・変電所・専用線がボトルネック化
・AIデータセンターが"送電網の空きを奪い合う"現象
・HVDC/系統連系・再エネ連系の重要性
(3)電気設備:冷却・蓄電・配電の高度化
・液浸冷却・廃熱回収・蓄電池併設
・高密度GPUラック対応の配電盤・ケーブル・電設工事
4.質疑応答