【AIデータセンター電力供給】AI特需は「半導体」だけではない―日本の重電・電力インフラ企業に訪れる100年に一度の「スーパーサイクル」
またまた昔の拙著の宣伝を。

拙著『電力供給が一番わかる』について
2012年の出版ですが、電力供給の「基本中の基本」を学ぶには今でも最適と自負しています。AIやデータセンターで電力需要が急増する今こそ、変わらない基礎知識の確認にお役立てください。わかりやすいと評判でした。古書は安いです。
Amazonの商品ページへ移動する2026/1/21 今泉追記:
最新版の投稿(この投稿の続編)を公開しました。
【AIデータセンター電力供給】日本企業が米国ハイパースケーラーに営業する際に立ちはだかる「3つの壁」(2026/1/21)
前回の記事では、AIデータセンターが「メガワット」から「ギガワット」の単位へと跳躍し、単一キャンパスで原子力発電所1基分の電力を消費する「Stargate」のような巨大プロジェクトが進行していることを解説しました。
【AIデータセンター電力供給】「メガワット」から「ギガワット」へ―原子力発電所級の「AIファクトリー」が描き直す世界のエネルギー地図(2026/1/19)
5GW(ギガワット)という途方もない電力需要。 この数字を前にしたとき、多くのメディアや投資家の目は、発電そのもの(原子力や再エネ)や、そこで動く半導体(GPU)に向けられがちです。しかし、エンジニアリングの現場を知る読者の皆様であれば、もう一つの重大な事実に気づくはずです。
「発電所で作った5GWもの大電力を、誰が、どうやって、安全にサーバーのチップまで届けるのか?」
その答えの中にこそ、日本の製造業――重電メーカー、電気設備機器メーカー、電線メーカー、変圧器メーカー――にとっての、かつてない巨大なビジネスチャンスが眠っています。今回は、世界中で巻き起こる「AI電力インフラ」の争奪戦と、そこで日本の技術がなぜ求められるのか、その勝機について深掘りしていきます。
世界的な「変圧器不足」とインフラ機器のスーパーサイクル
現在、世界の電力インフラ業界で起きているのは、単なる好況ではありません。「スーパーサイクル」と呼ばれる、数十年に一度の構造的な需要爆発です。
AIデータセンターの急増に加え、世界的な脱炭素化(再エネ連系)、EV(電気自動車)の普及、そして先進国における送電網の老朽化更新。これら全てが同時に発生したことで、電気を「送る」「変える(変圧)」「配る」ための機器が、世界中で決定的に不足しています。
その象徴が「変圧器(トランス)」です。 現在、大規模な変電所向けの大型変圧器は、発注から納品まで3〜4年待ちという異例の事態になっています。イーロン・マスク氏が「次は変圧器が不足してAIの進歩が止まる」と予言した通り、GPUがあっても、電気を適切な電圧に変換して届ける変圧器がなければ、データセンターはただの巨大な箱に過ぎません。
このボトルネックは、長年、高品質な電力機器を製造し続けてきた日本企業にとっては、千載一遇の好機です。 日立製作所(日立エナジー)が世界市場で攻勢を強めていることは有名ですが、チャンスは三菱電機、富士電機、明電舎といった大手重電メーカーだけに留まりません。キュービクル、遮断器、開閉器、配電盤、そしてそれらを繋ぐ電線・ケーブルに至るまで、電力の通り道にある「全ての機器」への需要が、これまでの常識を超えたスピードで急増しているのです。
なぜ「日本の技術」なのか? ――AIが求める「極限の信頼性」
「機器が足りないなら、安価な新興国メーカーの製品でも良いのではないか?」と思われるかもしれません。しかし、AIデータセンターという用途の特殊性が、日本製の信頼性を強く求めています。
生成AIの学習プロセスは、数週間から数ヶ月にわたり、数万個のGPUをノンストップでフル稼働させます。この間、瞬時電圧低下(瞬低)や停電で計算が止まれば、それまでの学習データがパーになり、数十億円規模の損失が発生するリスクがあります。 つまり、AIファクトリーにおける電力供給は、従来のオフィスビルや一般的なWebサーバー向けとは比較にならない、「極限の可用性(Availability)」と「電源品質」が要求されるのです。
ここで強みを発揮するのが、日本の「重電・インフラ機器」の品質です。
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ガス絶縁開閉装置(GIS): 限られた敷地内で大電力を制御するためには、装置のコンパクト化と安全性が不可欠です。日本の重電メーカーが得意とするGIS技術は、省スペースと高信頼性を両立させる切り札となります。
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特別高圧ケーブル・電線: ギガワット級の電力をキャンパス内に引き込み、各棟へ配電するには、熱に強く、送電ロスが少ない高度なケーブル技術が必要です。住友電気工業や古河電気工業などが持つ高電圧ケーブル技術は、血管のようにデータセンター網を支えます。
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受変電設備・非常用発電機: 万が一の系統トラブルに備える非常用発電機や、瞬低を防ぐUPS(無停電電源装置)、そして複雑な系統連携を制御する受変電システム。これらもまた、日本の産業界が長年磨き上げてきた「止まらないインフラ」の技術そのものです。
米国を中心とする海外プロジェクトでは、信頼できるサプライヤーの確保が最優先事項となっており、日本企業への引き合いはかつてないほど強まっています。
海外だけではない、これから始まる「日本のAIデータセンター」特需
そして、このビジネスチャンスは「輸出」だけではありません。日本国内においても、これから巨大な内需が生まれようとしています。
経済安全保障の観点から、日本政府は「国産AI」の開発能力保持と、国内でのデータ処理基盤の整備を急ピッチで進めています。 ソフトバンクによる北海道・苫小牧での国内最大級AIデータセンター建設計画や、さくらインターネットによる石狩データセンターの拡張、NTTグループのIOWN構想、さらには外資系クラウドベンダーによる日本リージョンへの巨額投資など、日本列島は今、空前のデータセンター建設ラッシュ前夜にあります。
しかし、ここで問題になるのが、前回の記事でも触れた「電力供給」です。 北海道や九州など、再エネや原発立地地域にデータセンターを建設するためには、既存の送電網を強化し、変電所を増強し、場合によっては発電所からデータセンターまでの専用線を敷設する必要があります。
これは、日本の電力インフラ全体を「AI仕様」にアップグレードする一大プロジェクトです。 そこには、重電機器だけでなく、鉄塔、架線金具、絶縁体、電力制御システム、そして施工を行う電気工事会社に至るまで、極めて裾野の広いビジネスチャンスが広がっています。 米国の「Stargate」のようなギガワット級プロジェクトは、遅れて日本にも必ず波及します。その時、国内の電力インフラを支えるのは、間違いなく日本のメーカーたちです。
「下請け」から「戦略的パートナー」へ
この「100年に一度」の好機を掴むために、日本のメーカーに求められるのは意識の変革です。
従来、電力機器ビジネスは、電力会社や施主からの仕様書に基づき、納期通りに納める「受動的」なビジネスモデルが主流でした。しかし、現在のAIデータセンター開発はスピード勝負です。MicrosoftやGoogle、Amazonといったハイパースケーラーは、 「3年後のラインを確保したい。工場を増設してくれれば、我々が長期契約で買い取る」 といった、タフですが魅力的なオファーを提示してきます。
ここで「慎重に検討します」と足踏みをしていては、韓国や欧州の競合にシェアを奪われます。求められているのは、リスクを取って生産能力を増強し、データセンター事業者と対等な「戦略的パートナー」として、電力供給ソリューション全体を提案していく姿勢です。
単に機器を売るだけでなく、「SMR(小型原子炉)とセットで受変電設備をパッケージ化して提案する」「データセンター特有の熱対策と連動した電力管理システムを提供する」といった、付加価値の高い提案ができるかどうかが、勝敗を分けます。
結論:日本の「モノづくり」がAIを物理的に支える
AI革命というと、どうしてもシリコンバレーのソフトウェアや、台湾の半導体製造に注目が集まります。しかし、それらは全て「電気」という血液がなければ動きません。そして、その血液を大量に、安定して、安全に送り届けるための「血管と心臓」を作れるのは、世界を見渡しても数少ない、高度な製造技術を持つ国だけです。
日本には、明治以来100年以上にわたって電力インフラを支え続けてきた、世界最高水準の技術の蓄積があります。 重電、電線、変圧器、制御機器。これらの「地味」だが「不可欠」なハードウェアこそが、これからのAI時代を物理的に支える主役となります。
AIデータセンター電力供給ビジネス――。 それは、日本の製造業が再び世界で輝きを取り戻すための、最大かつ最強のエンジンになる可能性を秘めています。次回は、より具体的な技術領域や、日本企業が直面するサプライチェーンの課題について、さらに詳しく掘り下げていきたいと思います。
【1/27開催 セミナー告知】
--世界のAI特需が生むビジネス機会--
AIデータセンター時代の
電力インフラ戦略
〜世界の事例から学ぶ発電・送電・電力供給の最新動向〜
2026/1/25 今泉追記:充実したA4 60ページのセミナー資料を配布します。力作です。(単発調査で外注すると200万円ぐらいの価値はある資料です。)
1.イントロダクション
●AIデータセンター需要が電力インフラに与えるインパクト
・世界のAIファクトリー建設ブーム(米国・韓国・中東・欧州)
・GPU集中稼働が引き起こす「電力供給・送電網ボトルネック」
●AIデータセンター×電力インフラの基本構造
・発電(再エネ/ガス/専用発電)
・送電(専用線・変電所・系統容量)
・電気設備(冷却・蓄電・バックアップ)
2.事例ベースで学ぶ:グローバルAIデータセンターの最新動向
(1)米国:OpenAI/SoftBank/Crusoe「Stargate 4.5GW」モデル
・巨大AIデータセンターを支える 4.5GW専用発電タービン
・発電所隣接・専用送電線・専用変電所の"Power-First"設計
・日本企業が入り得る領域:ガスタービン周辺設備、送電・変電、冷却・蓄電設備
(2)韓国:政府主導の「AIファクトリー+広域電力網改修」
・全羅南道の3GW級AIデータセンター構想
・系統制約の克服に向けた広域送電網強化/高密度冷却/蓄電併設
・日本へ示唆:老朽送電網更新・再エネ併用モデルへの応用可能性
(3)中東/UAE:G42主導「Stargate UAE(5GW級)」
・ガス+太陽光+海水淡水化+冷却設備を統合した"メガキャンパス設計"
・国家インフラ(発電・送電・水)とAIデータセンターの完全統合モデル
・EPC・重電・電線メーカーの国際展開機会
(4)発電所隣接型モデル(米国・英国)
・廃止した石炭火力跡地/既存変電所隣接地にAIデータセンターを直建設
・送電距離短縮・専用線・バックアップ設備の合理性
・日本国内での「発電所跡地再活用」への示唆
(5)その他のソブリンAI事例
・サウジNEOM(Zero-Emission発電×AIインフラ)
3.事例から読み解く:発電・送電・電気設備のポイント
(1)発電:電源の"確保競争"が始まっている
・専用発電(天然ガス・再エネ・SMR)
・PPA(電力購入契約)と電源前払いモデル
(2)送電:系統容量・変電所・専用線がボトルネック化
・AIデータセンターが"送電網の空きを奪い合う"現象
・HVDC/系統連系・再エネ連系の重要性
(3)電気設備:冷却・蓄電・配電の高度化
・液浸冷却・廃熱回収・蓄電池併設
・高密度GPUラック対応の配電盤・ケーブル・電設工事
4.質疑応答