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深海採掘から対米輸出までに関わる企業の顔ぶれレポート【投資家向け】南鳥島沖レアアース泥サプライチェーン

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海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査船「ちきゅう」がレアアース泥の回収に成功しました。

海洋研究開発機構のプレスリリース:南鳥島EEZ海域でのレアアース泥採鉱システム接続試験の状況について(速報)

中国のレアアース禁輸に苦しんでいた日本にとっては画期的なニュースです!また、同じく中国のレアアース禁輸に苦しんでいた米国や欧州各国においても、西側の一員である日本からレアアース磁石等の供給が可能になるということは、経済安全保障上の超特大ニュースです!

ということで、2030年頃から本格的な商業的供給が可能になるレアアース泥サプライチェーンについて、深海採掘から商品としてのレアアース磁石等の輸出まで(もちろん国内供給も含みます)、どのような顔ぶれの企業がどのようや役割で関わるのか?徹底調査しました。Gemini 3 Proの超強力なDeep Research機能によってこれが可能になっています。


南鳥島沖レアアース泥サプライチェーン:深海採掘から対米輸出までに関わる企業の顔ぶれレポート

1. エグゼクティブサマリー:深海の泥が描く日本の経済安全保障戦略

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1.1 レポートの目的と背景

本レポートは、2026年2月に国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査船「ちきゅう」が南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)において、水深6,000メートルの海底から「レアアース泥」の連続回収(揚泥)に成功したという歴史的成果を受けて作成されたものである 。この技術的ブレイクスルーは、長年「夢の資源」とされてきた国産レアアースの産業化が現実のフェーズに移行したことを意味する。

本稿の目的は、この画期的なプロジェクトに関与する企業群を「採掘・探査(アップストリーム)」から「製錬・分離(ミッドストリーム)」、「磁石・モーター製造(ダウンストリーム)」、そして「最終製品・輸出(自動車・対米物流)」に至るまで網羅的に特定し、投資家および産業界の意思決定者に資する詳細な分析を提供することにある。特に、米国のインフレ抑制法(IRA)や日米重要鉱物協定(CMA)といった地政学的枠組みの中で、このサプライチェーンがどのように機能し、日本の国益と企業収益に貢献するかを深掘りする。

1.2 戦略的インプリケーション:中国依存からの脱却

レアアース、特に電気自動車(EV)の駆動モーターに不可欠なジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった重希土類は、現在その供給のほぼ全てを中国に依存している 。南鳥島沖のレアアース泥は、これら重希土類を豊富に含む世界的に稀有な資源であり、その開発成功は「ジャパン・パッシング」のリスクを回避し、日米欧のサプライチェーン強靭化の核心となる

1.3 投資テーゼの概要

本レポートの分析により、以下の3つの投資および産業展開のフェーズが明らかになった。

  1. フェーズ1(即時): 商社(双日、住友商事)および素材メーカー(信越化学、プロテリアル)による、豪州・米国由来の鉱石を用いた「非中国」サプライチェーンの確立と、IRA適合製品の対米輸出拡大。

  2. フェーズ2(中期・2026-2028): 南鳥島プロジェクトの実証実験本格化に伴う、海洋エンジニアリング企業(東洋エンジニアリング、三井海洋開発、東亜建設工業)への設備投資と技術供与の拡大

  3. フェーズ3(長期・2028以降): 商業化決定後の大規模プラント建設(太平洋金属等)と、国産資源を搭載した「純国産EV」のグローバル展開。

2. 地政学的コンテキストと市場環境

2.1 「レアアース戦争」の現状と中国の覇権

2010年の尖閣諸島漁船衝突事件以降、中国による事実上のレアアース対日禁輸措置は日本の産業界に深いトラウマを残した。その後、日本は調達先の多様化を進めたが、2025年時点でも依然として輸入の約60%、特に重希土類においては90%近くを中国に依存する構造が続いている

さらに、中国政府は2024年から2025年にかけて、ガリウム・ゲルマニウムの輸出規制に加え、レアアースの精製技術や希土類磁石の製造技術そのものの輸出禁止・管理強化を打ち出した 。これは単なる資源の囲い込みを超え、西側諸国が独自のサプライチェーンを構築すること自体を阻害しようとする「技術封鎖」の様相を呈している。

2.2 米国インフレ抑制法(IRA)と日米重要鉱物協定(CMA)

米国のIRAは、北米または米国と自由貿易協定(FTA)を締結している国で採掘・加工された重要鉱物を一定割合以上使用したEVに対して、最大7,500ドルの税額控除を付与するものである。 ここで決定的に重要なのが、2023年に締結された「日米重要鉱物協定(CMA)」である 。この協定により、日本国内で採掘・加工された重要鉱物はIRAの要件を満たすと見なされる。

  • インサイト: 南鳥島のレアアース泥プロジェクトは、このCMAの恩恵を最大限に享受できる「最強のカード」となる。日本国内(EEZ)で採掘し、日本国内で製錬・磁石化された製品は、FEOC(懸念される外国の事業体=中国企業等)の規定に一切抵触せず、米国市場においてプレミアム価格で取引される可能性がある。

3. アップストリーム:南鳥島レアアース泥開発の全貌

このセクションでは、資源の特定から採掘システムの構築に至るまでの工程と、そこに関与する企業の役割を詳述する。ここは国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」と「東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム」が主導する領域であり、日本屈指の技術系企業が結集している。

3.1 プロジェクトの推進体制:SIPとコンソーシアム

開発の中核を担うのは、東京大学の加藤泰浩教授らが主導する「レアアース泥開発推進コンソーシアム」である。2024年には対象資源にマンガンノジュール(多金属団塊)を加える形で改称・拡大され、30社以上の企業が参画している

組織・プログラム 役割と機能
内閣府 SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)

国家予算による研究開発の推進。「革新的深海資源調査技術」として採掘システムの実証実験を支援

JAMSTEC(海洋研究開発機構)

地球深部探査船「ちきゅう」の保有・運用、および海洋調査の実施主体

東京大学(加藤研究室)

資源の発見、地質学的評価、選鉱・製錬プロセスの基礎研究、コンソーシアムの運営

JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)

探査支援、出資、および経済安全保障観点からの政策支援

3.2 採掘・揚泥技術:深海6,000mへの挑戦

水深6,000メートルの海底から泥を引き上げる技術は、技術的に極めて難易度が高い。これを実現するために、以下の企業群が独自の技術を提供している。

3.2.1 東洋エンジニアリング (6330) ---- サブシーシステムの心臓部

  • 役割: 揚泥システムの基本設計・詳細設計・製作

  • 技術的詳細: 東洋エンジニアリングは、石油・ガスプラントで培ったエンジニアリング能力を深海に応用している。具体的には「エアリフト方式」と呼ばれる技術を採用・最適化している。これは、長いパイプの中に圧縮空気を送り込み、管内の流体密度を下げることで、圧力差を利用して泥を海底から海上へ一気に吸い上げる仕組みである

  • 投資家の視点: 2026年2月の「ちきゅう」による揚泥成功のニュースを受け、同社の株価はストップ高を記録するなど市場の期待が集中している 。2027年の大規模実証、2028年の商業化判断というマイルストーンにおいて、同社は採掘プラント(専用船またはFPSO)の建設・エンジニアリングを一手に引き受ける可能性が高く、中長期的な受注残高の拡大が見込まれる。

3.2.2 三井海洋開発 (MODEC) (6269) ---- 洋上プラットフォームの覇者

  • 役割: 揚泥用ライザー管および浮体式設備の技術検討

  • 技術的詳細: 世界屈指のFPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)プロバイダーであるMODECは、波で揺れる船と海底をつなぐ数千メートルのパイプ(ライザー管)の挙動解析や構造設計において圧倒的な知見を持つ。深海6,000mという環境では、潮流や船の動きによるパイプへの負荷が甚大であり、同社の技術なしではシステムは成立しない

  • 戦略的位置づけ: 将来的に専用の採掘船を建造する場合、既存のタンカーを改造してコストを抑えるFPSOの手法が採用される可能性が高く、MODECはその際の主契約者候補の筆頭である。

3.2.3 東亜建設工業 (1885) ---- 経済性の鍵を握る「解泥」技術

  • 役割: 泥の解砕・選鉱・減容化技術(ハイドロサイクロン)

  • 技術的詳細: 「解泥(かいでい)」および「選鉱」は、本プロジェクトの経済性を左右する最重要プロセスの一つである。海底から引き上げた泥の90%以上は水分や不要な泥粒子であり、レアアースを含有する「アパタイト(リン酸カルシウム)」はごく一部である。全てを船上に引き上げてから陸へ運ぶのでは輸送コストが掛かりすぎて採算が取れない。 東亜建設工業は、海底または洋上で泥と海水を遠心分離(ハイドロサイクロン)し、有用な鉱物だけを濃縮して体積を大幅に減らす技術を開発している 。同社の技術により、輸送すべき泥の量を数分の一に圧縮することが可能となり、商業化へのハードルを劇的に下げている。

3.2.4 古河機械金属 (5715) ---- 岩盤粉砕と集泥機

  • 役割: 海底集泥・掘削機の開発

  • 技術的詳細: 鉱山開発の老舗である同社は、海底の泥を効率的に吸い込み口へ集めるための集泥機(一種の海底ブルドーザーや掃除機のような機械)の開発を担う。南鳥島の海底は比較的平坦だが、マンガンノジュールなどの硬い障害物が混在する場合もあり、同社の削岩機(ロックドリル)技術が応用されている

3.2.5 その他の主要参画企業

  • 石油資源開発 (JAPEX) (1662): SIP第2期からの唯一の民間実施機関として、探査データの解析や試掘のオペレーション支援を行う。石油探査で培った地層解析技術が生かされている

  • 三井E&S (7003): 大水深用ライザー管の接合技術や、洋上でのハンドリングシステムの開発に関与。強固で着脱容易なパイプ接続技術は連続操業に不可欠である

  • 岡本硝子 (7746): 深海探査機「江戸っ子1号」に使用される特殊ガラス球を提供。これは採掘時の環境モニタリング(泥の拡散状況などの監視)に使用され、環境負荷低減の観点から重要視されている


4. ミッドストリーム:製錬・分離・合金化のボトルネック解消

採掘された「泥」を「製品」に変えるのがミッドストリームである。ここが現在、中国が最も強力なシェア(85-90%)を握るチョークポイントであり、日本企業が最も注力して技術開発を進めている領域でもある。

4.1 製錬プロセスの革新

南鳥島のレアアース泥は「アパタイト」という鉱物にレアアースが吸着している特徴がある。これを希塩酸や硫酸で溶解し(リーチング)、レアアース元素だけを取り出す化学プロセスが必要となる。

4.1.1 太平洋金属 (5541) ---- フェロニッケルからの転換

  • 役割: 製錬・精製技術の実証、マンガンノジュールとの複合処理

  • 企業分析: 従来はステンレス原料のフェロニッケル製錬を主業としていたが、脱炭素社会に向けたポートフォリオの転換を急いでいる。同社は電気炉を用いた製錬技術に強みを持ち、マンガンノジュールからのコバルト・ニッケル回収技術ですでに商業規模の実証に成功している レアアース泥の処理においても、既存の設備やノウハウを転用できる強みがあり、将来的な「南鳥島製錬所」のオペレーター候補である。

4.1.2 三井金属 (5706) ---- 高純度化のスペシャリスト

  • 役割: レアアースの分離・精製

  • 企業分析: 2025年に子会社の「日本イットリウム」を完全子会社化し、レアマテリアル事業を強化した 日本イットリウムは、混合レアアースから特定の元素(例えばネオジムとジスプロシウム)を高純度で分離する技術を持つ世界でも数少ない企業の一つである。採掘された粗原料を磁石グレードの酸化物にまで磨き上げる工程を担う。

4.1.3 DOWAホールディングス (5714) & アサカ理研 (5724) ---- リサイクル技術の応用

  • 役割: 都市鉱山技術の資源開発への転用

  • 企業分析: 両社は廃家電や廃電子機器からの貴金属・レアアース回収(都市鉱山)で世界的なシェアを持つ。この湿式製錬技術(薬品で溶かして抽出する技術)は、天然鉱石の処理にもそのまま応用可能である。特にDOWAは環境リサイクル事業で培った有害物質処理(残渣処理)のノウハウがあり、製錬過程で出る廃棄物の管理においても重要な役割を果たす

4.1.4 株式会社三徳(プロテリアル子会社) ---- 合金製造の要

  • 役割: 磁石用合金の製造

  • 企業分析: 兵庫県神戸市に本社を置く三徳は、世界的なレアアース合金メーカーである。かつては独立系だったが、サプライチェーンの強靭化を図る日立金属(現プロテリアル)によって完全子会社化された 。精製されたレアアース酸化物を金属リチウムやカルシウムなどで還元し、鉄やボロンと混ぜて「ネオジム磁石合金」を作る工程を担う。この合金の品質が最終的な磁石の性能を決定づけるため、極めて重要なポジションにある。


5. ダウンストリーム:最強の磁石とモーター、そしてEVへ

日本の製造業が世界で最も競争力を持つのがこの領域である。南鳥島産の重希土類(Dy, Tb)は、ここで最高級の「耐熱ネオジム磁石」へと姿を変える。

5.1 磁石メーカー(マグネット・メーカー)

世界のハイエンド磁石市場は日本勢が技術的優位性を保っている。

5.1.1 信越化学工業 (4063) ---- 「粒界拡散法」の巨人

  • 戦略: 信越化学は、レアアース磁石の主原料である重希土類(Dy/Tb)の使用量を最小限に抑えつつ、最大限の耐熱性を引き出す「粒界拡散法」などの独自技術を持つ。

  • 供給網: 同社はベトナムに大規模な精製・磁石工場を持っており、中国リスクの分散(チャイナ・プラス・ワン)をいち早く進めてきた 南鳥島産の原料が供給されれば、同社の「非中国製プレミアム磁石」のラインナップは盤石となり、欧米の自動車メーカーからの引き合いが殺到することが予想される。

5.1.2 TDK (6762) & プロテリアル(旧日立金属)

  • TDK: 昭和電工(現レゾナック)から磁石合金事業を譲り受け、合金から磁石までの一貫生産体制を構築している

  • プロテリアル: 「NEOMAX」ブランドで知られるネオジム磁石の基本特許(佐川眞人博士による発明)の系譜を継ぐ。高性能モーター向け磁石で高いシェアを持ち、三徳を傘下に収めたことで原料調達力を強化している。

5.2 モーター・自動車メーカーの戦略

5.2.1 ニデック (6594) ---- E-Axleの覇権

  • 技術: 世界一のモーターメーカーであるニデックは、レアアースフリーモーターの研究も進めているが、高性能なEV用トラクションモーター(E-Axle)には依然としてネオジム磁石が不可欠である。同社は「脱中国」を掲げ、調達先の多様化を進めており、南鳥島プロジェクトの潜在的な大口顧客である

5.2.2 ホンダ (7267) & 大同特殊鋼 (5471) ---- 重希土類フリーへの挑戦

  • 技術: ホンダはハイブリッド車用モーターにおいて、大同特殊鋼と共同開発した「熱間加工ネオジム磁石」を採用している。これは結晶粒をナノレベルで配向させることで、重希土類(Dy/Tb)を全く使わずに高い耐熱性を実現する画期的な技術である

  • インサイト: 「重希土類フリー」であっても、軽希土類(ネオジム・プラセオジム)は必要である。南鳥島の泥はあらゆるレアアースを含んでいるため、ホンダのような先進的なメーカーにとっても重要な供給源であることに変わりはない。

5.2.3 日産自動車 (7201) ---- リサイクルと巻線界磁モーター

  • 技術: 日産のEV「アリア」では、永久磁石を使わない「巻線界磁型同期モーター(EESM)」を採用している 。これはレアアースリスクへのヘッジ策であるが、同時に早稲田大学と共同で廃モーターからのレアアース回収技術も確立している 。日産は「使う量を減らす」「リサイクルする」「代替する」の全方位戦略をとっている。


6. 物流・貿易・対米輸出戦略:商社と海運が繋ぐ動脈

南鳥島は東京から南東に約1,900km離れた絶海の孤島である。ここからの輸送と、製品化された後の米国への輸出は、商社と海運会社の独壇場である。

6.1 総合商社の「ブリッジ」戦略

南鳥島の商業生産(2028年以降)が始まるまでの間、日本の産業界を支えるのは商社が確保する海外権益である。

6.1.1 双日 (2768) ---- 豪州ライナスとの盟約

  • 戦略: 双日は豪州のレアアース大手ライナス(Lynas)と長年の提携関係にあり、マレーシア工場で生産された製品の日本向け独占供給権や、重希土類の優先供給枠を持っている

  • 重要性: 現在、日本に入ってくる「非中国産」の重希土類のほとんどは双日経由であると言っても過言ではない。南鳥島が稼働するまでの数年間、日本の磁石産業の生命線を握っているのは双日である。

6.1.2 住友商事 (8053) ---- 米国MPマテリアルズとの直結

  • 戦略: 米国唯一のレアアース鉱山「マウンテンパス」を運営するMPマテリアルズと日本向け独占販売代理店契約を締結している

  • IRA対応: 米国で採掘された鉱石を日本で精製し、磁石にして再び米国へ輸出する。このフローは完全にIRAの要件(米国またはFTA締結国での抽出・加工)を満たすため、日米双方にとって戦略的価値が極めて高い。

6.1.3 三菱商事 (8058)

  • 戦略: 全体的なサプライチェーン構築支援や、レアメタルファンドを通じた投資を行う。また、カナダやオーストラリアでのニッケル・コバルト開発とも連携し、電池材料全体のエコシステム構築を目指している

6.2 海洋物流(シッピング)

  • 日本郵船 (9101)、商船三井 (9104)、川崎汽船 (9107)

  • 役割: 南鳥島からの輸送。コンソーシアムの輸送部会に参加し、専用輸送船の検討を行っている

  • コスト構造: 輸送コストは経済性の大きな圧迫要因である。往復4,000kmの航海を効率化するため、東亜建設工業の脱水技術で減容化した泥を、バルク船や専用バージでピストン輸送する計画が練られている。


7. 投資家向け分析:商業化ロードマップと経済性評価

7.1 商業化へのタイムライン

年次 フェーズ 主要イベント・マイルストーン 注目セクター・企業
2026年 技術実証 JAMSTEC「ちきゅう」による連続揚泥試験成功(完了)。データの解析とシステム改善。 エンジニアリング(東洋エンジ、MODEC)、海洋調査(JAPEX)
2027年 大規模実証 日量350トン規模の揚泥を目指す大規模実証試験。経済性評価のためのデータ収集。 建設・浚渫(東亜建設)、機械(古河機械)
2028年 FID(最終投資決定) 商業化の可否判断。専用採掘船の建造発注、製錬所の立地選定。 造船、プラント、製錬(太平洋金属)
2030年〜 商業生産 民間主導による本格操業開始。年間数千トンクラスのレアアース供給。 商社、磁石メーカー(信越化学)、海運

7.2 経済性評価とリスク

  • 採算ライン: 過去の試算では、揚泥・製錬コストを含めた生産コストを市場価格以下に抑えることが課題とされていた。しかし、地政学リスクによる「チャイナ・フリー・プレミアム」を考慮すれば、多少の高コストは許容される市場環境になりつつある。

  • リスク要因:

    • 市況変動: 中国が競合潰しのために一時的にレアアース価格を暴落させる可能性がある。これに対し、日本政府が差額補填や備蓄買い上げなどの支援策(JOGMECを通じた支援)を用意できるかが鍵となる。

    • 環境問題: 深海採掘による生態系への影響が懸念される。国際的な環境基準作りにおいて日本がイニシアチブを取る必要がある。


8. 結論:日本の「資源国化」への道筋

南鳥島沖レアアース泥プロジェクトは、単なる科学実験の領域を超え、日本の産業構造を根底から変えうるポテンシャルを持っている。

JAMSTECとSIPによる技術的成功は、東洋エンジニアリング三井海洋開発といったエンジニアリング企業の株価を押し上げる短期的な触媒となるだけでなく、中長期的には信越化学TDKといった高機能材料メーカーが、地政学リスクに左右されずに世界市場(特に米国)を制覇するための基盤を提供する。

投資家にとって、このテーマは「国策」であり、息の長い投資機会となる。短期的にはニュースフローに反応しやすいエンジニアリング・採掘関連銘柄に注目が集まるが、本質的な価値は、安定した原料供給を得てグローバルにシェアを拡大する下流の磁石・モーター・自動車産業にこそ蓄積されるであろう。

日本は今、海底から「産業のビタミン」を自らの手で掴み取り、資源小国から「資源技術大国」へと脱皮しようとしている。


(本レポートは2026年2月4日時点の公開情報および提供されたリサーチ資料に基づき作成されました)


付録:南鳥島レアアース泥サプライチェーン主要企業一覧(ウォッチリスト)

コード 企業名 セクター サプライチェーン上の役割 注目ポイント
6330 東洋エンジニアリング エンジニアリング 揚泥システム設計・製作 深海採掘の中核技術、株価感応度高
6269 三井海洋開発 (MODEC) 機械・造船 FPSO、ライザー管技術 海洋プラットフォームの世界的リーダー
1885 東亜建設工業 建設 解泥・選鉱技術 経済性を左右する減容化技術を保有
5715 古河機械金属 非鉄金属 集泥機・掘削機 鉱山機械のノウハウを深海へ展開
5541 太平洋金属 鉄鋼 製錬・精製 ニッケル製錬からの転換、マンガン団塊も
5706 三井金属 非鉄金属 レアアース分離・精製 子会社日本イットリウムを通じた高純度化
4063 信越化学工業 化学 希土類磁石製造 世界トップシェア、非中国供給網の要
6762 TDK 電気機器 磁石製造 合金からの一貫生産、EV向け拡大
5471 大同特殊鋼 鉄鋼 磁石製造(熱間加工) ホンダ向け重希土類フリー磁石
6594 ニデック 電気機器 モーター製造 E-Axle世界シェア1位を目指す
2768 双日 卸売業 資源商社 豪ライナスとの提携、当面の安定供給
8053 住友商事 卸売業 資源商社

米MPマテリアルズとの提携、IRA対応

引用文献

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  2. 水深6000m近い海底からレアアース含む可能性のある泥回収, 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.yomiuri.co.jp/science/20260202-GYT1T00494/
  3. The Potential and Challenges of Rare Earth Mining at Minamitorishima, 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.spf.org/opri/en/global-data/report/perspectives/prsp_036_2025_kobayashi_en.pdf
  4. レアアース | 東洋エンジニアリング株式会社 - Toyo Engineering, 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.toyo-eng.com/jp/ja/solution/rare-earth/
  5. 「レアアース」日本の関連銘柄とは? 中国依存脱却を目指す日本の ..., 2月 4, 2026にアクセス、 https://moneyworld.jp/news/detail?id=195206
  6. 東洋エンジニアリング、南鳥島レアアース泥回収成功で急騰!市場 ..., 2月 4, 2026にアクセス、 https://stockexpress.jp/toyoengineering20260202/
  7. 2026年は「国産レアアース元年」と位置づけられている - Moomoo, 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.moomoo.com/ja/community/feed/2026-is-positioned-as-the-first-year-of-domestically-produced-115870961696774
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  23. 話題株ピックアップ【夕刊】(1):大平金、東洋エンジ、三井金属, 2月 4, 2026にアクセス、 https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n202601080917
  24. 東洋エンジニアリング-買い気配 南鳥島近海でレアアース泥回収に成功と伝わる(トレーダーズ・ウェブ), 2月 4, 2026にアクセス、 https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/43befe447e5c2528a9787a2806558bf038ac58e3
  25. 日立金属株式会社の弊社完全子会社化のお知らせ | 新着情報, 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.santoku-corp.co.jp/news/20180526.html
  26. 日立金属<5486>、レアアース生産の三徳を子会社化 - M&A Online, 2月 4, 2026にアクセス、 https://maonline.jp/news/20171128c
  27. SDGs 事例 2020: 信越化学工業 :レア・アースマグネット(後編), 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.nikkakyo.org/sites/default/files/rare-earth-magnet_thesecondpart.pdf
  28. TDKのネオジム磁石を強化するための昭和電工の磁石合金研究開発 ..., 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.tdk.com/ja/news_center/press/20181127_01.html
  29. 昭和電工、レアアース磁石合金研究開発事業をTDKに譲渡, 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.nextmobility.jp/car_parts/showa-denko-transferred-rare-earth-magnet-alloy-research-and-development-business-to-tdk20181127/
  30. 事業戦略ビジョン - NEDO, 2月 4, 2026にアクセス、 https://green-innovation.nedo.go.jp/resources/pdf/next-generation-storage-batteries-motors/item-002/vision-nidec-003.pdf
  31. 脱レアアース関連株 本命株 出遅れ株 一覧 - かりんの株レポ, 2月 4, 2026にアクセス、 https://kabukarin.net/undersea-resources/9295/
  32. 「レアアースフリー」関連銘柄を紹介! 中国の輸出統制で供給懸念が ..., 2月 4, 2026にアクセス、 https://diamond.jp/zai/articles/-/286126
  33. 重希土類完全フリー磁石をハイブリッド車用モーターに世界で ..., 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.daido.co.jp/about/release/2016/0712_freemag_hevmotor.html
  34. NeoMag通信 2204 2022 年(令和 4 年)4 月 1 日 ネオマグ株式会社, 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.neomag.jp/mailmagazines/pdf/NeoMag202204.pdf
  35. 日産アリアは4グレードあるのに1年経っても発売 ... - WEB CARTOP, 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.webcartop.jp/2023/01/1038168/2/
  36. 日産と早稲田大学、電動車用のモーター磁石からレアアース化合物 ..., 2月 4, 2026にアクセス、 https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/210903-01-j
  37. 双日、オーストラリア由来のレアアースを輸入開始、日本向け初 ..., 2月 4, 2026にアクセス、 https://novaist.jp/articles/sojitz-australia-rare-earths/
  38. 豪州由来レアアース(重希土類)の輸入を開始|ニュースルーム - 双日, 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.sojitz.com/jp/news/article/topics-20251030.html
  39. 住商 米MPとレアアース独占販売契約 - 日刊産業新聞, 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.japanmetal.com/news-h20230228125144.html
  40. 米国MP Materials製レアアースの日本向け独占販売代理店契約締結 ..., 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/news/topics/2023/group/20230222
  41. 電池・モビリティ事業 | 事業紹介 | 三菱商事RtMジャパン株式会社, 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.mitsubishicorprtm.com/japan/sales/battery-electronic/
  42. 深海の静かなる反転攻勢~「ちきゅう」が挑む南鳥島レアアース泥 ..., 2月 4, 2026にアクセス、 https://note.com/hitomihoumu/n/n83008b7c5979

東京大学レアアース泥開発推進コンソーシアム 【第5年度活動報告 ..., 2月 4, 2026にアクセス、 https://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/content/400103708.pdf

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