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米軍は全兵士にGoogle Gemini政府バージョンを配布。AIパワードの軍隊に作り替えることを発表

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昨日、Xを眺めていたらヘグセス戦争省長官がAIについて言及していました。かなり決定的な発言をしています。少し余裕ができたので周辺情報を調べたところ、大変なことがわかりました。

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米軍は、将軍から戦場の兵士に至るまで、セキュリティが施された政府用のバージョンであるGoogle Geminiを配布し、それを常時使って、AIによって高度化された軍人として行動できるようにするのだそうです。昔映画で見た米軍の下級将校が上級将校へ報告している場面。あれを一切省いた、AIで情報伝達が激変した軍隊へと転換するとのことです。ディテールをできるだけ端折らずに、以下で記述します。これができるのもGemini 3 Proのおかげです。


米国防総省(DoD)が「戦争省(Department of War)」へ名称を変更しピート・ヘグセス長官が新たなAIプラットフォーム「GenAI.mil」を発表した2025年12月。この一連の動きを、単なる「トランプ政権の政治的パフォーマンス」や「シリコンバレーの最新ツールの導入」と捉えているならば、それは致命的な認識の誤りです。

これは、米軍が「管理型の組織」から、勝つための「戦闘マシーン」へとOS(オペレーティングシステム)を完全に入れ替えたことを意味します。

本稿では、ヘグセス長官の発表の詳細と、その裏にあるGoogle、Palantirとの連携、そして現場の兵士に起きる革命的変化を紐解き、日本の防衛省、自衛隊、そして産業界が直面している「静かなる危機」について論じます。

(今泉注:Palantir パランティアがアメリカ政府において何を根本的に変えたか?の認識が日本ではゼロに等しいです。残念ながら。内閣も防衛省もパランティアの特に米政府用システムの詳細を早急に精査すべきです。以下は小職の2本の投稿ですが、内閣や防衛省において導入当事者としてシステムの全体像をマジに精査すべきだと思います。

【決定版】米政府を根本から変えている--防衛IT最大手PalantirはAIで何をやっている会社なのか?
Palantir(パランティア)オントロジーの凄まじい威力:中国レアアース禁輸発表の72時間後に米国が100%関税で完璧に報復できた理由

1. DoDからDoWへ:「守る」時代の終わり

2025年9月、トランプ大統領の行政命令により、国防総省(Department of Defense)は「戦争省(Department of War)」へと名称を戻しました。第二次世界大戦後、平和維持と抑止を主眼に「防衛(Defense)」を掲げてきた米国が、再び「戦争(War)」という言葉を冠したのです。

12月6日、レーガン国防フォーラムに登壇したヘグセス長官は、その意図を明確に語りました。 「我々は『国防総省』になって以来、主要な戦争に勝っていない。我々は『国家建設』や『気候変動対策』、そして『Woke(行き過ぎたリベラル意識)』といった脇道に逸れていた。今こそ、組織の目的を『致死性(Lethality)』と『即応性(Readiness)』のみに絞り込む」

この「文化の強制転換」の象徴として発表されたのが、全職員300万人を対象とした生成AIプラットフォーム「GenAI.mil」です。

2. GenAI.mil:Google Geminiが「標準装備」になる衝撃

ヘグセス長官は宣言しました。「アメリカの戦争の未来はここにあり、それは『AI』と綴られる」と。 今回、戦争省が導入したのは、Google Cloudが提供する政府向け高セキュリティ版「Google Gemini for Government」です。

重要なのは、これが一部の司令部や情報分析官だけのツールではないという点です。 「将軍から、最前線の兵士(Individual Soldier)まで」 300万人以上の全米軍関係者が、この強力なAIモデルにアクセス権を持ちます。これが現場にどのような「非対称な優位性」をもたらすのか、具体的なシナリオを見てみましょう。

シナリオA:マニュアル地獄からの解放

現代の兵器システムは複雑怪奇です。従来、兵士は故障やエラーに直面するたび、分厚いマニュアルをめくるか、後方支援部隊に問い合わせる必要がありました。 これからは、携帯端末(TAK等)に向かって話しかけるだけです。 「エラーコードX-99が表示された。油圧は正常。応急処置はどうすればいい?」 Geminiは膨大な技術文書を瞬時に検索し、その状況に最適な手順を、「兵士が理解できる言葉」で回答します。「調べる時間」が消滅し、「行動する時間」だけが残ります。

シナリオB:全兵士が「情報分析官」になる

ドローンが撮影した不鮮明な映像や、現地住民の会話の録音データ。これまでは専門の分析官(Intel Analyst)に回され、解析結果が戻る頃には敵は移動していました。 これからは、現場の兵士がGeminiにデータを投げ込みます。 「この建物の窓の影、スナイパーの痕跡に見えるか?」 「この会話の中で、待ち伏せを示唆するスラングは使われているか?」 Geminiは数秒で一次解析を行います。すべての兵士がセンサーとなり、同時に分析官となる。これが**「Every Soldier is a Sensor & Analyst」**の真の姿です。

シナリオC:「事務作業」という敵の殲滅

ヘグセス長官が最も嫌う「官僚主義」。Geminiはその特効薬です。 任務終了後の報告書作成、補給物資のリストアップ。兵士の貴重な休息時間を奪ってきたこれらの作業は、音声入力ひとつで、AIが軍の公式フォーマットに沿った文書を自動生成することで完了します。 兵士は事務作業員(Clerk)であることをやめ、純粋な戦士(Warrior)に戻るのです。

3. Palantirとの融合:AIは「脳」、データは「神経」

Google Geminiの導入と同じタイミング(12月9日)で、米海軍がPalantirと4億4800万ドルの契約を結んだことは偶然ではありません。 ここには明確な役割分担があります。

  • Google Gemini (The Brain): 言語を理解し、推論し、創造的な回答やコードを生成する「脳」。

  • Palantir (The OS): 衛星、ドローン、兵站データなど、戦場のあらゆる構造化データを統合し、可視化する「神経系」。

Palantirが戦場の「事実」をリアルタイムで整理し、Geminiがそのデータに基づいて「戦術案」や「意思決定の選択肢」を指揮官に提示する。この「Palantir × Google」の統合エコシステムこそが、新しい戦争省の強さの源泉です。 彼らは自前主義を捨て、シリコンバレーの最高峰の技術を、商用オフザシェルフ(COTS)のスピード感で実装しています。

4. 日本への問いかけ:我々は「戦える」のか?

さて、翻って日本です。 防衛省、自衛隊、そして政治的リーダーシップを担う皆様に問いたい。 我々のカウンターパートである米軍は、もう「昨日までの米軍」ではありません。

彼らは、装備品のカタログスペック上の性能だけでなく、「ソフトウェアによる意思決定の速度(Cognitive Overmatch)」を最大の武器にしようとしています。 「戦争省」への名称変更は、プロセス重視の平時モードを捨て、結果(勝利)のみを追求する戦時モードへの移行宣言です。

  • 自衛隊の現場では、未だに紙のマニュアルや、互換性のないレガシーシステムと格闘していないでしょうか?

  • 「情報保全」を理由に、同盟国が標準装備しているAIツールへのアクセスを遮断し、自らを情報の孤島にしていないでしょうか?

  • そして何より、このスピード感で変化する米軍と、有事の際に「同じ絵」を見て、「同じ速度」で連携できるのでしょうか?

従来の防衛大臣や自衛隊高官が直面したであろう「縦割りの壁」や「前例主義」。ヘグセス長官はそれを「戦争省」という劇薬と、AIという武器で破壊しようとしています。

日本の防衛産業もまた、「ハードウェアの納入」から「ソフトウェア・デファインド(Software Defined)な防衛力」の提供へと(今泉注:アンドゥリルのこと)ビジネスモデルを根本から変える必要があります。GoogleやPalantirが米軍の「中枢」に入り込んだように、日本の技術が自衛隊の「脳」をアップグレードできるかが問われています。

米国は変わりました。 「Defense(防衛)」の殻を破り、「War(戦争)」に勝つための組織へと。 我々日本もまた、その覚悟とスピードに追いつかなければ、同盟の価値そのものが問われる時代が来ています。

出典・参考資料

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