黒船?救世主? シリコンバレーの異端児「アンデュリル」が日本の防衛・部品産業とがっぷり四つでAI防衛革命に突き進む
AIやロボティクスに関する情報収集はXに留めを刺します。ニア・リアルタイムで米国や欧州、日本の情報が入ってきます。情報の質と量をわかりやすく言うと、ここのブログで投稿として仕立てることができる情報素材が毎日10本は採れます。
昨日流れてきた以下の写真には「おお!」となりました。小泉防衛大臣と、かのアンデュリル(Anduril)CEOのパルマー・ラッキー氏が握手しているではありませんか。
アンデュリルはアメリカでは防衛AIテック・スタートアップの既に大御所であり、NASDAQに上場した瞬間にパランティア(Palantir)クラスの時価総額になることがほぼ確実であるという、どえらい存在です。ここのブログでも取り上げなければ、取り上げなければと思っているうちに、小泉防衛大臣と握手しているという。この速さ!さすがにメタ(Facebook)が買収したAR企業オキュラス(Oculus)の創業者だけあります。シリコンバレーのテック起業家の大物中の大物です。
さて。アンデュリルは日本法人を設立しました。小泉防衛大臣はアンデュリルが「100%日本産ドローンを手がける」と強調しています。これから何が展開するのでしょうか?
私はアンデュリルの登場によって、中国人民解放軍の最新鋭兵器の武装は簡単に打ち破ることができるようになったと確信しています。
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中国人民解放軍の建国70周年記念軍事パレードにおける能力展示と地域安全保障への戦略的影響に関する分析(軍事パレードに登場した中国の兵器をGeminiに特定させ、中国語文献を精査して武器の性能を記述した調査報告書。最新鋭の兵器に関する記述を冒頭にまとめました。)
はじめに:Xで拡散された「一枚の写真」が意味する歴史的転換点
先日、X(旧Twitter)のタイムラインを何気なく眺めていたビジネスパーソンの方々は、ある一枚の写真に目が止まったのではないでしょうか。それは、日本の防衛政策の舵取りを担う小泉進次郎防衛大臣と、アロハシャツのようなラフな出で立ちのアメリカ人青年が、満面の笑みで握手を交わしている写真です
「大臣の隣にいる、この若者は一体誰だ?」
「なぜ、これほどフランクな格好で、日本の防衛トップと会談しているのか?」
その青年の名は、パルマー・ラッキー(Palmer Luckey)。かつてVR(仮想現実)ヘッドセット「Oculus Rift」をガレージで発明し、若干21歳にしてFacebook(現Meta)に20億ドル(当時のレートで約2,000億円)で会社を売却した、シリコンバレーの伝説的な「神童」です。
しかし、彼が今、情熱を注いでいるのはメタバースでもゲームでもありません。彼は現在、Anduril Industries(アンドゥリル・インダストリーズ)の創業者兼CEOとして、最新のAIとロボティクス技術を駆使し、アメリカ、そして世界の防衛産業のルールを根底から覆そうとしています。
2025年12月、Andurilは日本法人の設立を正式に発表しました
三菱重工、川崎重工、IHI、NEC、富士通といった、長年日本の国防を支えてきた「伝統的」な防衛関連企業の皆様。そして、AIやテクノロジーで社会を変えようとしているビジネスパーソンの皆様。本稿では、日本ではまだ馴染みの薄いこの「防衛テックの巨人」が何者であり、何を企んでいるのかについて、徹底的に、かつ詳細に解説していきます。
彼らが持ち込んだのは、単なる新しい兵器ではありません。「ソフトウェア・ファースト」という思想と、「シリコンバレーのスピード感」そのものなのです。
第1章:Anduril Industriesとは何者か? ― VRの天才が「国防」に挑んだ理由
1.1 シリコンバレーのタブーに挑んだ創業
Andurilは2017年に設立されました。社名の由来は、J.R.R.トールキンのファンタジー小説『指輪物語』に登場する、砕かれた破片から鍛え直された聖剣「アンドゥリル(西方の炎)」です。この名前には、一度は衰退しかけた「西側諸国の技術的優位性」を、再び鍛え直し、光り輝かせたいという彼らの強烈な意思が込められています
創業メンバーは豪華絢爛です。パルマー・ラッキーに加え、データ解析企業Palantir(パランティア)の出身者や、民間宇宙開発企業SpaceX(スペースX)のベテランエンジニアたちが名を連ねています。彼らは皆、シリコンバレーの成功者でしたが、ある一つの共通した「危機感」を持っていました。
それは、「シリコンバレーと国防総省(ペンタゴン)の断絶」です。
2010年代後半、Googleなどのビッグテック企業では、従業員による「AIの軍事利用反対運動」が巻き起こり、国防総省との契約(Project Mavenなど)が打ち切られる事態が発生していました。シリコンバレーの多くのエンジニアにとって、国防に関わることは「倫理的に忌避すべきこと」と見なされていたのです。
これに対し、パルマー・ラッキーは公然と異を唱えました。「民主主義諸国が最高の技術を持たなければ、権威主義的な国家に追い抜かれてしまう。技術者が国防に背を向けることは、平和を守る放棄に等しい」と。
彼は私財を投じ、タブー視されていた「キネティック(物理的破壊力を伴う)」な兵器開発にも堂々と参入しました。彼らのミッションは明確です。「アメリカと同盟国の軍隊を、最先端技術で変革する」。その姿勢は、既存の秩序に安住していた防衛業界に衝撃を与えました。
1.2 「スタートアップ」から「防衛プライム」へ
設立からわずか数年で、Andurilは評価額1兆円を超えるユニコーン企業へと成長しました
米軍だけでなく、オーストラリア軍、イギリス軍などとの大型契約を次々と勝ち取り、ウクライナの戦場でも彼らのシステムが実戦投入されています。彼らは、シリコンバレーのスピード感で開発された製品が、従来の何倍ものコストをかけた兵器よりも高性能であることを証明し続けています。
第2章:何が新しいのか? ― ビジネスモデルの破壊的イノベーション
日本のビジネスパーソンの皆様に最も理解していただきたいのは、Andurilの革新性が、AI技術そのもの以上に、その**「ビジネスモデル」と「モノづくりの思想」**にあるという点です。彼らは、従来の防衛産業の「常識」を全て逆転させました。
2.1 「コスト・プラス」から「固定価格」への転換:リスクを負う覚悟
従来の防衛産業、特に米国において長年続いてきたのが、「コスト・プラス契約(Cost-Plus Contracts)」と呼ばれる商習慣です。これは、開発にかかった費用(コスト)に、一定の利益(プラス)を上乗せして政府が企業に支払う方式です
従来のモデル(コスト・プラス契約)の弊害
| 特徴 | 内容 | 結果 |
| リスク負担 | 政府が負う | 開発が失敗しても、遅延しても、企業はコストを回収できるため、失敗への痛みが少ない。 |
| インセンティブ | 時間をかけるほど儲かる | 開発期間が長引けば長引くほど、人件費などのコストが積み上がり、結果として企業の売上が増えるという「逆インセンティブ」が働く。 |
| イノベーション | 停滞しやすい | 既存技術の延命や、過剰なスペックの追求に陥りやすく、破壊的なイノベーションが生まれにくい。 |
| 製品の所有権 | 政府が持つ | 知的財産権(IP)の多くが政府に帰属し、他国への展開や民間転用が難しい。 |
これに対し、Andurilは**「固定価格契約(Firm-Fixed Price)」と「自己資金によるR&D」**を徹底しています
Andurilのモデル(固定価格・自己資金開発)の革新性
| 特徴 | 内容 | 結果 |
| リスク負担 | 企業(Anduril)が負う | 開発に失敗すれば、その投資は全て無駄になる。だからこそ、死に物狂いで成功させようとする。 |
| インセンティブ | 速く作るほど儲かる | 価格は固定されているため、効率的に、短期間で開発すればするほど、利益率(マージン)が高くなる。 |
| イノベーション | 加速する | 市場(戦場)のニーズに即した製品を、競合他社よりも早く投入する必要があるため、常に最新技術を取り入れる。 |
| 製品の所有権 | 企業が持つ | 知的財産権を自社で保有するため、同盟国(日本やオーストラリアなど)への横展開や、継続的なアップデートが容易。 |
Andurilは、政府からの発注書(RFP)を待ってから開発を始めるのではありません。「戦場にはこれが必要だ」と自ら定義し、ベンチャーキャピタルから調達した資金でプロトタイプを作り上げ、「こういうものができました。買いますか?」と政府に提案するのです。これは、iPhoneやテスラが市場に製品を投入するプロセスと全く同じです。
このモデルにより、彼らは「数年〜10年かかる開発」を「数ヶ月〜2年」に短縮しています。パルマー・ラッキーはこれを**「民主主義の兵器廠の再起動(Rebooting the Arsenal of Democracy)」**と呼び、遅くて高コストな従来の調達システムに対するアンチテーゼとして掲げています
2.2 「ハードウェア・リッチ」から「ソフトウェア・ファースト」へ
従来の兵器(戦闘機や戦車)は、ハードウェアの性能が主役であり、ソフトウェアはあくまでそれを動かすための従属物でした。一度配備されれば、その機能は固定化され、アップグレードするには物理的な改修(モダナイゼーション改修)が必要で、莫大なコストと時間がかかりました。
Andurilのアプローチは逆です。テスラが「走るソフトウェア」であるように、Andurilの製品は**「空飛ぶ(または泳ぐ、監視する)ソフトウェア」**です。
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ソフトウェア定義(Software-Defined): ハードウェアには、可能な限り民生品(COTS)や汎用部品を使用し、コストを下げます。その代わり、製品の価値(知能、自律性、連携能力)は全てソフトウェアで定義します。
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OTA(Over The Air)アップデート: 脅威が変化すれば、ソフトウェアのアップデートだけで対応します。ウクライナの戦場では、ロシア軍の電子戦(ジャミング)に対応するため、ソフトウェアのパッチを数時間〜数日で書き換え、現場に配信するといった運用がなされています。
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コモディティ化を恐れない: ハードウェアは消耗品と割り切ることで、「安価で大量に配備できる(Attritable)」兵器システムを実現します。
彼らの製品の核となるのは、ドローンそのものではなく、それらを統合制御するOS(オペレーティングシステム)にあるのです。
第3章:Andurilの「脳」 ― Lattice OS(ラティスOS)の全貌
Andurilを理解する上で最も重要なのが、この**「Lattice(ラティス)」**と呼ばれるAIソフトウェア・プラットフォームです
3.1 センサーフュージョンと認知の自動化
現代の戦場、あるいは国境警備の現場では、カメラ、レーダー、音響センサー、ドローンなど、膨大な数のセンサーからデータが送られてきます。人間がモニターを監視し続けることは、生理的にも限界があります。
Latticeは、これらのデータをAIがリアルタイムで統合・解析します。
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検知(Detect): 複数のセンサーからの情報を統合し、「何かがいる」ことを検知。
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識別(Identify): AI(コンピュータビジョン)が、「それは鳥か、ドローンか、民間機か、敵ミサイルか」を瞬時に識別。
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追尾(Track): ターゲットの動きを予測し、追跡し続ける。
このプロセスは完全に自動化されており、人間は「Latticeが識別した結果」を確認するだけで済みます。
3.2 全領域統合指揮統制(JADC2)の具現化
Latticeの真骨頂は、単なる監視システムではなく、「指揮統制(Command and Control)」のプラットフォームである点です。
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ミッション・オートノミー(任務の自律化):
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人間が「このエリアを監視せよ」「侵入者を排除せよ」といった上位の命令(インテント)を与えると、Latticeは配下のドローンやロボットに対し、具体的な経路や行動を自動で生成・指示します。
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例えば、複数のドローンが編隊を組み、お互いに衝突しないように飛行しながら、手分けしてエリアを探索するといった行動が自律的に行われます。
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キルチェーンの短縮:
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脅威を発見した場合、Latticeはオペレーターに対し、最適な対抗手段(エフェクター)を推奨します。「ターゲットAに対し、ドローンBでジャミングを行うか、ドローンCで迎撃するか?」といった選択肢を提示し、人間が承認(クリック)すれば、即座に実行されます。
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これにより、意思決定にかかる時間は数分から数秒へと劇的に短縮されます。米軍が目指す「JADC2(全領域統合指揮統制)」構想において、Latticeはその中核的なOSとしての地位を確立しつつあります
第4章:製品ハイライト ― AIが動かす次世代の兵器たち
Lattice OSという強力な「脳」を持ったAndurilのハードウェア製品群は、陸・海・空の全領域に及んでいます。ここでは、特に日本の防衛産業にとって示唆に富む、最新のハイライト製品を紹介します。
4.1 Roadrunner(ロードランナー):常識を覆す「再利用可能なミサイル」
今、世界中の軍事関係者が最も注目しているのが、この「Roadrunner(ロードランナー)」です
概要
双発ジェットエンジンを搭載した、垂直離着陸(VTOL)可能な自律型航空機です。見た目はSF映画に出てくる未来の戦闘機のようですが、その運用思想は極めて合理的です。
革新的な機能
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垂直離着陸と高速飛行: 滑走路不要でどこからでも発進でき、高亜音速(マッハ1に近い速度)でターゲットに接近します。
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迎撃と帰還のハイブリッド:
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Roadrunner-M(弾頭搭載型)は、敵の巡航ミサイルやドローンを迎撃し、自爆して破壊することができます。
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しかし、最大の特徴は「撃って終わりではない」ことです。発進後、ターゲットが脅威ではないと判明した場合、あるいは迎撃の必要がなくなった場合、Roadrunnerは基地に戻り、垂直着陸します。
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その後、燃料を補給すれば、何度でも再利用が可能です。
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戦略的意義
従来の防衛システム(パトリオットなど)の迎撃ミサイルは、一発数億円もし、一度発射すれば消えてなくなります。敵が数万円の安価なドローンを大量に飛ばしてきた場合、高価なミサイルで撃ち落とすのは「コスト負け」してしまいます(コスト非対称性の問題)。
Roadrunnerは、「とりあえず発進させ、必要なければ戻す」という運用を可能にします。これにより、迎撃のハードルを下げ、コスト効率を劇的に改善します。これは、安価なドローン攻撃に悩まされる現代の防空におけるゲームチェンジャーです。
4.2 Fury(フューリー):F-35と飛ぶ「忠実なる僚機」
米空軍や海軍が進めるCCA(協働戦闘機)計画に向けた、高性能な無人戦闘機です
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グループ5 UAS: 大型無人機に分類され、高いステルス性と機動性を持ちます。
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有人機との連携: F-35や次期戦闘機(NGAD)のパイロットとチームを組み、危険な空域への先行偵察や、囮(デコイ)、あるいは攻撃任務を担います。
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Latticeによる自律空戦: 人間が細かく操縦する必要はなく、大まかな指示で自律的に戦闘機動を行います。
三菱重工などが開発に関わる次期戦闘機(GCAP)においても、こうした無人機との連携が必須要件となっており、Furyはまさにそのベンチマークとなる存在です。
4.3 Ghost Shark(ゴーストシャーク) & Dive-LD:海の底の自律革命
海洋国家である日本にとって、最も関心が高いのがこの水中ドローン(AUV)分野でしょう
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Dive-LD(ダイブ・エルディー):
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3Dプリント技術を活用して製造された大型自律潜水機。外殻を3Dプリントすることで、設計変更や製造コストの削減を容易にしています。
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最大6,000mの深海に潜り、10日間の自律運用が可能です。機雷探索、対潜戦(ASW)、海底ケーブルやパイプラインのインフラ監視に威力を発揮します。
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Ghost Shark(ゴーストシャーク):
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オーストラリア海軍との共同開発で進められている超大型自律潜水機(XL-AUV)。
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「スクールバス」並みのサイズで、長期間、長距離の潜航が可能です。有人潜水艦のように乗組員のリスクを負うことなく、敵の潜水艦を待ち伏せたり、偵察を行ったりすることができます。
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Andurilはシドニーに専用工場を建設し、量産体制に入っています。これは、AUKUS(米英豪)枠組みにおける具体的な成果の一つです。
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4.4 Altius(アルティウス):変幻自在の空中エフェクター
多目的に使える小型のチューブ発射型ドローンです
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ヘリコプター、車両、船舶、さらには他の大型航空機から発射可能です。
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偵察、通信中継、そして弾頭を搭載すれば「徘徊型弾薬(カミカゼ・ドローン)」としても機能します。
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台湾への納入が進んでおり、中国の海洋進出に対する「非対称戦力」として期待されています。
第5章:中期的戦略 ― 「Replicator」と「Arsenal-1」
Andurilは今後、どこへ向かおうとしているのでしょうか。彼らの視線の先には、米国防総省(DoD)の新たな戦略と、製造業への回帰があります。
5.1 Replicator(レプリケーター)構想との完全な一致
2023年、キャスリーン・ヒックス米国防副長官は「Replicator(レプリケーター)」構想を発表しました。これは、中国の圧倒的な「量(Mass)」の軍事力に対し、アメリカも「自律型の量」で対抗するという戦略です。具体的には、18〜24ヶ月という短期間で、数千機の安価で消耗可能な自律型無人機(ドローン、無人艇など)を配備することを目指しています
この構想は、まさにAndurilが創業以来主張してきた「安く、早く、大量に(Cheap, Fast, Mass)」という哲学そのものです。
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Andurilの役割: この構想において、Andurilの「Dive-LD」(水中)や「Altius」(空中)、対ドローンシステムなどが採用候補、あるいは既に採用されていると報じられています。彼らは、ペンタゴンの新しい戦い方を象徴する企業となっています。
5.2 「Arsenal-1」:ソフトウェア企業が工場を持つ意味
Andurilは自らを「ソフトウェア企業」と定義しつつも、大規模な製造拠点「Arsenal-1(アーセナル・ワン)」を拡大しています
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ハイパースケール工場: 従来の防衛産業の工場は、少量の製品を手作業で組み立てる「工芸品」的な側面がありました。Andurilは、テスラのギガファクトリーのように、高度に自動化されたラインでドローンを「量産」することを目指しています。
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サプライチェーンの垂直統合: 重要な部品(ロケットモーターなど)の内製化も進めており、有事の際にサプライチェーンが途絶しても、自力で兵器を供給し続けられる体制(レジリエンス)を構築しようとしています。
5.3 「民主主義の兵器廠」マニフェスト
パルマー・ラッキーらは、「Rebooting the Arsenal of Democracy(民主主義の兵器廠の再起動)」というマニフェストを掲げています。
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第二次世界大戦時、アメリカの自動車産業などが兵器生産に転換し、圧倒的な物量で連合国を勝利に導いたように、現代のテック企業がその役割を担うべきだという主張です。
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彼らにとって、防衛ビジネスは単なる金儲けではなく、自由主義陣営を守るための「聖戦」に近い使命感に基づいています。この強い思想性が、優秀なエンジニアを引きつける求心力となっています。
第6章:競合企業はどこか? ― 巨人たちとの戦い
Andurilの躍進は、既存のプレイヤーたちにとって脅威となっています。競合環境を整理しましょう。
6.1 伝統的防衛企業(レガシー・プライム)
ロッキード・マーティン、ボーイング、ノースロップ・グラマン、レイセオン、ジェネラル・ダイナミクス
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現状: これらは圧倒的な政治力、生産設備、既存の契約を持っています。しかし、「コスト・プラス」体質からの脱却や、ソフトウェア人材の獲得に苦戦しています。
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対抗策: 彼らも手をこまねいているわけではなく、スタートアップへの投資や買収、あるいは自社内でのデジタル変革(DX)を急ピッチで進めています。しかし、Andurilのような「リスクを取る」文化への転換は容易ではありません。
6.2 新興防衛テック企業(ピア・コンペティター)
Andurilと同様に、シリコンバレー発の技術で防衛産業に挑む企業たちです
| 企業名 | 主力製品・特徴 | Andurilとの関係 |
| Shield AI (シールドAI) | V-BAT(垂直離着陸ドローン)、Hivemind(AIパイロット) | GPSが使えない環境下での屋内探索や自律飛行に強み。ドローンの自律制御分野で強力なライバル。 |
| Skydio (スカイディオ) | Skydio X10(小型偵察ドローン) | 障害物回避能力に優れた小型ドローンで米軍に広く採用。偵察分野で競合。 |
| Palantir (パランティア) | Gotham/Foundry(データ分析プラットフォーム) | 創業メンバーの繋がりもあり、親戚のような関係。Palantirは情報分析、Andurilは物理的アクション(攻撃・迎撃)と役割分担ができているが、広義の「ソフトウェア国防」では同志でありライバル。 |
| Epirus (エピラス) | Leonidas(高出力マイクロ波兵器) | ドローンの群れを一網打尽にする電子兵器を開発。対ドローン分野で競合・補完。 |
第7章:日本では何をやろうとしているのか? ― 三菱重工・川崎重工への「招待状」
さて、ここからが日本のビジネスパーソンの皆様にとっての本題です。パルマー・ラッキーの来日と日本法人設立は、具体的にどのようなビジネスチャンス、あるいは脅威をもたらすのでしょうか。
7.1 なぜ今、日本なのか? ― 地政学と産業の交差点
Andurilにとって、日本は単なる「販売先」ではありません。極めて重要な「戦略的パートナー」です。
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最前線の市場: 日本は、中国、北朝鮮、ロシアという脅威に囲まれた「地政学的ホットスポット」です。Andurilの製品(対ドローン、ミサイル防衛、水中監視)に対するニーズは、世界で最も切実です。
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製造能力への渇望: これが最も重要な点です。Andurilは、米国内だけではReplicator構想で必要な「量」を賄いきれないことを理解しています。彼らは、日本の「製造能力(Manufacturing Capability)」を喉から手が出るほど欲しています
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7.2 伝統的企業へのメッセージ:敵か、味方か?
三菱重工や川崎重工、IHIの皆様。Andurilは「黒船」として皆様の仕事を奪いに来たのでしょうか?
半分はイエスですが、半分はノーです。彼らが目指しているのは、「日米共同生産(Co-production)」と「サプライチェーンの融合」です。
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ハードウェア × ソフトウェアの補完関係:
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日本企業は、潜水艦の耐圧殻、航空機の機体構造、精密なエンジン部品など、「ハードウェアの信頼性・耐久性」を作る技術において世界最高水準です。
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一方、Andurilの強みは「AI・ソフトウェア・開発スピード・自律制御」です。
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「船体や機体(ハード)は日本企業が製造し、頭脳(AI/OS)とセンサー統合をAndurilが担当する」という協業モデルは、双方にとってWin-Winになり得ます。
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具体例:水中ドローン(AUV)
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オーストラリアでは、Andurilは現地法人を立ち上げ、現地でGhost Sharkを製造しています。日本でも、川崎重工や三菱重工が持つ造船・潜水艦技術と、Andurilの自律制御技術を組み合わせたAUVの共同開発・生産が視野に入っているはずです。
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実際に、日豪間では水中通信技術やAUVに関する共同研究が進んでおり、ここにAndurilが関与する可能性は極めて高いでしょう
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7.3 サプライチェーンへの参入機会
完成品メーカーだけでなく、素材・部品メーカーにとってもチャンスです。
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RoadrunnerやAltiusの部品供給:
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Andurilが量産を進めるドローン群には、高性能な炭素繊維、バッテリー、光学センサー、モーターが必要です。これらは日本企業の得意分野です。
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「中国に依存しないサプライチェーン」を構築することがAndurilの至上命題であり、信頼できる日本のサプライヤーは彼らにとって理想的なパートナーです。
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7.4 Anduril Japanの戦略
日本法人のトップには、パトリック・ホレン氏が就任しました。彼は元米ミサイル防衛局の上級顧問であり、レイセオンでの経験も持つ、日米の防衛政策と産業に精通した人物です
Anduril Japanの戦略は以下の3点に集約されるでしょう。
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Lattice OSの自衛隊への導入: 自衛隊の指揮通信システム(C2)の現代化支援。
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共同生産体制の構築: 日本企業とのパートナーシップによる、ドローンやAUVの国内生産。
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人材獲得: 日本の優秀なエンジニア(ロボティクス、ハードウェア)の採用。
結論:防衛産業の「iPhoneモーメント」に備えよ
パルマー・ラッキーが小泉防衛大臣と握手をしたあの写真は、日本の防衛産業にとっての「iPhoneモーメント(携帯電話市場がガラケーからスマホへ一気に転換した瞬間)」を暗示しているのかもしれません。
従来の「仕様書通りのものを、時間をかけて、高コストで作る」やり方は、もはや限界を迎えています。安価で高性能なドローンが飛び交う現代戦において、日本の高い技術力を活かすには、Andurilのような「ソフトウェア・ファースト」「爆速開発」のカルチャーを取り入れ、融合させることが不可欠です。
これは「外圧」であると同時に、日本のモノづくりが再び世界最先端の安全保障に貢献し、ビジネスとしても飛躍するための、またとない「招待状」でもあります。
彼らを単なる「シリコンバレーの若造たち」と侮るか、それとも「未来を共創するパートナー」として手を組むか。その決断が、今後数十年の日本の安全保障と産業の未来を決定づけることになるでしょう。
今泉補足:
うーん、完璧!という他ない隙のなさですね。日本の防衛大手企業ともガッチリ手を組む建て付けがビューティフルと言うほかないです。
私は日本の防衛大手及び機微のある部品を製造する企業と共にアンデュリル日本法人とガッチリ手を組んで歩んで行かれると思っています。商機は莫大です。
これからもっともっと分析をかけていきます。