オルタナティブ・ブログ > 経営者が読むNVIDIAのフィジカルAI / ADAS業界日報 by 今泉大輔 >

20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

米国が喉から手が出るほど欲しいレアアース代替磁石は日本と海外のどの会社が開発しているのか?

»

Alternative2025Jun06a.png

↑カバー画像はMidjourneyが生成したもの。中国モンゴル奥地のレアアース採掘現場のイメージ。

2026/6/6追記

この投稿のテーマで短時間で鳥瞰ができる記事が今日公開されました。非常に参考になります。

ダイヤモンドオンライン:まさか日本が鍵なんて...中国「レアアース禁輸」で窮地のアメリカが欲しがる「技術」とは?


中国のレアアース輸出規制が日本だけでなく世界の自動車業界に深刻な影響を与えます。昨日も日経でスズキが主力車種スイフトの生産を停止することが報じられました。

スズキ、中国レアアース規制で「スイフト」生産停止 日本車にも波及

海外では以下の動きが報じられています。

  • フォード(米国)SUV「エクスプローラー」の生産を、レアアース不足によりシカゴ工場で1週間停止しました。 jp.reuters.com

  • BMW・メルセデス・ベンツ(ドイツ)部品供給の混乱を回避するため、サプライヤーとの協議や備蓄の検討を進めています。 bloomberg.co.jp

  • 欧州の部品メーカー複数の工場が操業停止に追い込まれており、今後数週間でさらなる影響が懸念されています。

  • ゼネラル・モーターズ(GM)中国のレアアース輸出統制に対処するため、部品の生産を中国に移転する案を検討しています。 mk.co.kr

私自身レアアースがどういうものか、どの品目が自動車生産に影響を与えるのか、などなど全く知識がありません。そこで最近優れた調査性能があることがわかってきたGemini ProのDeep Researchでもって、徹底的に調べさせました。調査の焦点は、中国が輸出規制するレアアースを代替するものはあるのか?です。

結論から言えば、中国レアアース規制を解決できるスーパーなやり方はないということがわかったのですが、その中で、代替材料の研究をする様々な企業の名前が判明しました。日本企業も数社含まれています。

それ以前に、中国政府は完全に「戦争の意図」を持ってレアアース輸出規制を行なっているということも明らかになりました。中国は西側に民生品ではEV生産、ロボット生産、軍用品では戦闘機、ミサイル、ドローン、レーダーシステムの生産ができなくするためにレアアース輸出規制をしているのです。明確な戦略的な意図があります。

また、ざっと読んだところでは、これからはEVは中国の自動車メーカーに代替生産させる、また人型ロボット(ヒューマノイド)などのロボットは中国のメーカーに代替生産させるという選択肢に踏み切った方が現実的なのではないか?ということも頭に浮かんできます。NVIDIAはデータセンターのラックに収めるためのAIサーバーの設計を自社で行い、生産はFoxconn(鴻海精密工業)に委託していますが、日本の製造業もそれ式で割り切った方が現実的なのではないか。株式のパフォーマンスを決めるROEもその方が高くなりはしまいか?つまり、中国を巨大な工場とみなして日中一緒に成長していく路線に舵を切った方が賢いのではないか?(私は人型ロボット/ヒューマノイドを日本企業が量産する場合、中国に製造委託する方がよほど現実的なのではないかと考え始めています。部品が日本にはないからです。NVIDIA Omniverseでヒューマノイド設計をデジタルツイン化する際にも部品そのものが日本にないので中国部品企業にNVIDIA仕様の3Dデータの提供を仰がなければなりません。ものすごくめんどくさい道筋になります。それよりは中国ヒューマノイド完成体企業にOEM生産をお願いした方が現実的です。テスラのOptimusも商用化目前で中国レアアース規制によりストップしているとも報じられています)

そうしたことを考えさせる調査報告書です。5万字もありごっついのですが、ここはディテールこそが重要なのだと考え、端折らずに全部この投稿で掲出します。


なお、宣伝になりますが、緊急事態等が発生して、これに類する詳細な調査報告書が必要になったお客様に、ChatGPT Deep ResearchないしGemini Pro Deep Researchを用いて、お客様の関心領域にジャストミートする1万字〜5万字程度の調査報告書を弊社にて作成させていただくサービスをご用意しています。ご入用の方は弊社ウェブサイトのお問い合わせ欄からご連絡下さい。

ご用命いただいてから最短で2営業日で電子版調査報告書の送付が可能です。


調査報告書:中国レアアース輸出規制とレアアース磁石代替材料開発企業の動き(日本企業と海外企業)

I. エグゼクティブサマリー

世界の高性能磁石市場は、レアアース元素(REE)の採掘と加工が中国に集中しているため、サプライチェーンの脆弱性に著しく直面しています。中国政府による主要REE(プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウム、サマリウムなど )に対する最近および将来起こりうる輸出規制は、特にロボット、電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、防衛などの欧米諸国の産業にとって直接的な脅威となっています。

本報告書は、米国、欧州、イスラエル、日本、およびその他アジア諸国(中国を除く)において、これらの規制対象REEの必要性を低減または排除する磁石技術を積極的に開発・商業化している企業を特定し、分析します。

主要な代替技術経路には、高性能フェライト磁石、マンガンベース化合物(MnBi、MnAlC)、鉄窒化(FeN)磁石、およびテトラテーナイト(L10 FeNi)が含まれます。さらに、同期リラクタンスモーターやスイッチトリラクタンスモーターなどの電気モーター設計における革新も、REE依存度を低減する道筋を提供します。

特定の地域では、政府のイニシアチブ(米国のARPA-E 、EUのホライズンプログラム(PASSENGERなど))に後押しされ、主要なイノベーションハブや企業が出現しています。

磁石サプライチェーンを多様化するという戦略的要請が投資と研究開発を推進していますが、REE代替材料の性能同等性、コスト競争力、および製造規模拡大における課題は依然として残っています。中国のREE支配への対応は、単一材料の置き換えだけでなく、新材料の発見、既存の非REE材料の改良、および異なる磁気特性に対応するための最終用途アプリケーション(モーターなど)の再設計を含む多角的なアプローチを伴います。この状況は、各産業が製品設計を適応させ、NdFeB(ネオジム・鉄・ホウ素)磁石のすべての用途に対する直接的なドロップイン置換を期待するのではなく、さまざまな代替磁石の長所を活用する必要性を示唆している可能性があります。これにより、より断片的ではあるものの、潜在的により強靭な磁石市場が形成される可能性があります。

II. 磁性の地政学:中国のレアアース輸出規制と世界の対応

A. レアアースサプライチェーンにおける中国の支配とその戦略的影響

中国は、世界のREE生産(採掘の61%、加工の92% )および磁石製造(90~92% )において圧倒的な支配力を有しており、これは国際産業にとって重大な戦略的脆弱性を生み出しています。この支配は、高性能磁石に不可欠な特定の重レアアースにおいてはほぼ100%に達しています

REEの戦略的重要性は、民間および軍事部門の両方に適用可能な「デュアルユース」技術 、例えば先進ロボット、EV、風力タービン、戦闘機、ミサイル、ドローン などでの使用によって強調されています。歴史的に見ても、中国は2010年に日本に対して行ったように、REE輸出を「武器化」しており 、この影響力を行使する意欲を示しています。

B. 現在および潜在的な輸出規制の分析

2025年4月に施行された最近の輸出規制は、プラセオジム(Pr)、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、イットリウム(Y)、ルテチウム(Lu)、スカンジウム(Sc)などの特定のREEと、それらから派生する特殊磁石を対象としています 。これらの元素は、高性能磁石の高温性能、耐食性、磁気安定性にとって極めて重要です。

新しい規制では、中国政府が発行する特別輸出許可が必要となり、即座に混乱、リードタイムの延長、価格の不安定化を引き起こしています 。例えば、酸化ジスプロシウムの価格は1kgあたり204米ドルを超えました 。許可制度はまだ完全には運用されておらず、一時的な輸出凍結や不確実性を引き起こしています 。一部の欧州向け出荷やフォルクスワーゲンなどの特定企業への選択的許可の報告もあります 。一部の供給業者は、特にインドのような国に影響を与え、磁石が軍事目的に使用されないという誓約を要求しています

中国の輸出規制は、単なる市場供給の問題ではなく、技術移転や地政学的影響力に関連するより広範な戦略の一部であると考えられます。最終用途の申告要件 や、国際条約(デュアルユース品に関する核不拡散条約 )の枠組み内での規制の正当化は、これが一時的な措置ではなく、長期的な管理政策であることを示唆しています。

C. 主要産業への影響:ロボット、電気自動車、防衛、エレクトロニクス

高性能電気モーターは、機敏で強力なロボット(人型ロボットを含む)に不可欠であり、REE磁石に大きく依存しています。供給の混乱は、開発の遅延、コストの増加、および代替品が実用的でない場合に効率の低い非REEモーターを使用するなどの設計上の妥協を脅かします(ユーザーからの質問文より)。

EVにおいては、REE磁石(特にNdFeB)は、モーター性能、パワーステアリング、ブレーキシステムにとって重要です 。テスラ社は緩和戦略を追求していますが、この問題はEV業界全体にとってシステム的なものです(ユーザーからの質問文、)。

防衛分野では、戦闘機、ミサイル、ドローン、レーダーシステムなどの先進的な軍事ハードウェアがREEに依存しています 。米国国防総省(DoD)は、2027年までに中国に依存しないREE磁石サプライチェーンを確立するという目標を設定しています

風力タービン、MRIスキャナー、レーザー手術装置、その他の先進エレクトロニクスもこれらの材料を利用しています 。これらの規制の直接的な影響(リードタイムの延長、価格上昇、入手可能性の問題 )は、本報告書の後半で詳述するREE代替材料およびサプライチェーン多様化努力の世界的な探求の主な触媒となっています。

中国によるREEの「武器化」は、サプライチェーンが高度に集中している他の重要材料についても前例となる可能性があり、多くの先進技術に対する世界的な調達戦略のより広範な再評価を余儀なくさせる可能性があります。選択的な輸出許可の付与 は、輸入国間で不和を生じさせたり、中国とより緊密な関係を持つ企業や国を優遇したりする戦術である可能性があり、統一された国際的対応をさらに複雑にする可能性があります。

表1:中国の輸出規制対象レアアース(磁石製造に重要)

レアアース元素 代表的な磁石用途 指摘される輸出規制の影響 出典
プラセオジム (Pr) 高性能NdFeB磁石 許可制、価格変動、供給遅延 1
ジスプロシウム (Dy) NdFeB磁石の高温安定性向上 許可制、価格急騰(例:酸化物 >204米ドル/kg)、供給遅延 2
テルビウム (Tb) NdFeB磁石の高温安定性向上 許可制、供給遅延 1
サマリウム (Sm) サマリウムコバルト(SmCo)磁石、一部NdFeB磁石 許可制、供給遅延 3
ガドリニウム (Gd) 特殊磁性材料、磁気冷凍 許可制 3
イットリウム (Y) 一部の特殊磁石、レーザーガーネット 許可制 3
ルテチウム (Lu) 研究用途、一部特殊磁性材料 許可制 4
スカンジウム (Sc) 高強度アルミニウム合金、一部特殊磁性材料 許可制

この表は、問題の核心を直接的に示しています。規制対象となっている特定の材料とその重要性を明確にリスト化することで、なぜ代替材料が求められているのかという背景を即座に提供します。これは、どのREEが代替または削減する上で最も重要であるかを強調することにより、代替材料に関する後続の議論の準備を整えるものです。

III. レアアース磁石の最先端代替技術とイノベーター

中国のレアアース輸出規制によってもたらされる課題に対応するため、世界中の研究機関や企業が、レアアースへの依存を低減または排除する代替磁石材料およびモーター技術の開発を加速させています。これらの取り組みは、マンガンベースの化合物、鉄窒化(FeN)磁石、テトラテーナイト、高性能フェライト磁石、さらには根本的に異なるモーター設計など、多様な技術経路に及んでいます。

A. マンガンベース磁石(MnBi、MnAlCなど)

マンガンベースの磁石は、レアアースフリーの永久磁石の有望な候補として浮上しており、特にMnBi(マンガンビスマス)とMnAlC(マンガンアルミニウムカーボン)が注目されています。

技術プロファイル:

  • MnBi(マンガンビスマス):

    • 室温から温度が上昇すると保磁力が増加するという特異な特性(例:室温から100℃上昇すると保磁力がほぼ倍増 )で知られており、産業用モーターなどの高温用途に有望です
    • 原料のマンガンとビスマスは比較的豊富で、ビスマスは他の金属の製錬副産物として得られるため、コスト面での利点があります
    • 製造上の課題としては、磁気特性を低下させる粒子間相互作用の防止 や生産のスケールアップ が挙げられます。エイムズ国立研究所は、ポリマーによる粉末コーティングや製造時の磁場配向などのプロセスを開発しました
    • 性能上のトレードオフとして、高い保磁力を得るために一部の磁力が犠牲になります 。理論的な最大エネルギー積((BH)max)は約20 MGOeとされています
  • MnAlC(マンガンアルミニウムカーボン):

    • 1980年代に一度商業化された技術が再注目されており、比較的豊富な元素で構成されています
    • 中程度の磁気性能、低コストでの製造、持続可能性が期待されています 。NdFeBと比較して環境負荷を最大95%削減できる可能性があります
    • EUのPASSENGERプロジェクトでは、MnAlC合金をREEフリー代替材料として積極的に開発しており、残留磁化(Br)と保磁力(jHc)の目標値を設定しています 。チタン(Ti)の添加によりキュリー温度が上昇することが報告されています

主要な研究機関とプロジェクト:

  • エイムズ国立研究所(米国エネルギー省): MnBi研究をリードし、高温保磁力を持つMnBiボンド磁石を開発、産業界のパートナーと協力してポンプモーターでの試験を行っています 。重要材料イノベーションハブ(CMI)の一部です
  • EU PASSENGERプロジェクト: REEフリー代替材料としてMnAlC合金を開発しています。パートナーには、IMDEAナノサイエンス研究所、メタルパイン社、ILPEA社、ダルムシュタット工科大学、ヨゼフ・ステファン研究所、コレクター社、IMAマグネッツ社などが含まれます
  • アラバマ大学(米国ARPA-E REACT): 鉄およびマンガンベースの複合材料を開発しています

先駆的企業と商業化への取り組み:

  • PowderMet Inc.(米国): エイムズ国立研究所/CMIと協力し、特許出願中の技術を用いてMnBiベース磁石の商業化を進めており、DOE SBIRプログラムの資金提供を受け、新型電気モーター向け量産に注力しています
  • エイムズ国立研究所はポンプモーター試験のための「産業パートナー」に言及していますが 、PowderMet社以外の具体的な企業名はこれらの情報源では必ずしも明示されていません。

マンガンベース磁石は、特に高温環境やコストと持続可能性が重要な考慮事項となる用途において、レアアース磁石の有望な代替品としての可能性を示しています。しかし、性能と製造スケーラビリティの課題を克服するための継続的な研究開発が不可欠です。

B. 鉄窒化(FeN)磁石

鉄窒化(FeN)磁石は、その構成元素が豊富で安価であること、そして高い磁気性能の可能性から、レアアースフリー永久磁石の主要な候補として急速に注目を集めています。

技術プロファイルと性能ポテンシャル:

  • 鉄(Fe)と窒素(N)という、地球上に豊富に存在し、安価に入手可能な原材料に基づいています
  • Niron Magnetics社の「Clean Earth Magnet®」技術(α″-Fe16N2)は、高い飽和磁化を持ち、特定の側面では従来の磁石を凌駕する性能を持つと主張されています 。ある情報源では、最大エネルギー積((BH)max)が1150 kJ/m3、キュリー温度が540℃と報告されていますが 、これは理論値または特定の実験結果である可能性があります。
  • 一部のNdFeB磁石と比較して、改善された温度安定性を提供します
  • 課題としては、高温での安定性維持や製造のスケールアップが挙げられます

主要な研究機関と企業開発者:

  • Niron Magnetics社(米国): 主要な商業開発企業であり、ミネアポリスにパイロットプラントを持ち、ミネソタ州サーテルに本格的な製造施設の建設計画があります 。同社の技術はミネソタ大学で生まれました
  • ケースウエスタンリザーブ大学(米国ARPA-E REACT): EVおよび発電機モーター用の高磁性鉄窒化合金を開発しています
  • ミネソタ大学(米国ARPA-E REACT): 最高エネルギー積の可能性を秘めた鉄窒化物の初期段階の試作品を開発しました
  • エイムズ国立研究所(米国): 鉄窒化磁石を含む代替材料の研究を行っています

商業化状況、パートナーシップ、およびターゲット用途:

  • Niron Magnetics社: GM 、ステランティス 、ボルボ・カーズ・テック・ファンド などの主要自動車メーカー、サムスン・ベンチャーズ 、ロジクール などのエレクトロニクス企業、アリソン・トランスミッション 、マグナ などの産業界のリーダー企業と、多額の資金調達(2023年末までに1億ドル超、2024年初頭に2500万ドル追加、2025年1月に5220万ドルの税額控除 )および戦略的パートナーシップを確保しています。
  • パイロットプラントは年間5トン以上の生産能力を持ち、本格的な第1プラントは2026年までに年間1,500トンの生産を目指しています
  • ターゲット用途は、EVモーター、産業用モーター(HVAC、ポンプ)、オーディオ(スピーカー)、家電、防衛など広範に及びます

鉄窒化磁石は、その材料の入手しやすさと潜在的な高性能により、レアアース磁石の有力な代替材料としての地位を確立しつつあります。Niron Magnetics社を中心とした商業化の進展は、特に自動車およびエレクトロニクス分野において、サプライチェーンの多様化に大きく貢献する可能性があります。

C. テトラテーナイト(L10 FeNi)磁石

テトラテーナイトは、鉄(Fe)とニッケル(Ni)の合金で、特定のL10結晶構造を持つ「宇宙磁石」とも呼ばれ、隕石中で数百万年かけて自然に形成されます 。その潜在的な磁気特性はレアアース磁石に匹敵するか、それを超える可能性があり、注目されています

技術プロファイル:「宇宙磁石」の可能性と合成の課題

  • 歴史的に、実験室での合成には中性子照射といった極端な手法が必要でした 。しかし最近、リン(P)の添加により、単純な鋳造プロセスで数秒のうちに形成を加速できるという画期的な発見がなされました
  • 主な課題は、一貫したL10相の達成、生産のスケールアップ、そしてバルク形態でのレアアース磁石との性能同等性の確保です

主要な研究機関:

  • ケンブリッジ大学(英国)およびオーストリア科学アカデミー: リン支援による合成法を発見し、特許を出願しました
  • ノースイースタン大学(米国ARPA-E REACT): 隕石に着想を得て、L10構造形成を助ける合金元素を用いたバルクFeNi磁石を開発しています
  • IMDEAナノサイエンス研究所(スペイン)他(COSMAGプロジェクト): M-ERA.NETプロジェクトの一環としてL10-FeNiの開発に取り組んでいます

新興企業と市場への道筋:

  • Magtetra社: ウェブサイト上で、エレクトロニクス、自動車、航空宇宙、防衛分野向けの永久磁石用テトラテーナイト開発に関する革新的な提案を提示しています 。ただし、同社の運営状況、所在地、チーム、資金調達、ウェブサイトの主張を超える具体的な技術的進捗に関する独立した検証は、提供された情報源からは不足しています。
  • 株式会社デンソー(日本): ネオジム磁石と同等以上の性能を持つ鉄ニッケル超格子磁性粉末の人工合成に成功したと報告されており、約5年以内(2022年春の報告より)に小型モーターへ、将来的には駆動モーターへの応用を目指しています 。これは同社版のテトラテーナイト/L10 FeNiと考えられます。
  • 商業化はまだ初期段階にあり、成功すれば市場に大きな影響を与えるまでには5~8年かかる可能性があります 。主要な磁石メーカーとの連携が期待されています

テトラテーナイトは、その理論的な高性能ポテンシャルと、より安価で豊富な元素(鉄とニッケルの価格は1kgあたり25米ドル未満に対し、酸化ネオジムは約100米ドル/kg )から構成されるため、長期的なレアアース代替材料として非常に魅力的です。しかし、実験室レベルのブレークスルーを工業規模の生産に移行させるには、さらなる研究開発と投資が必要です。

D. 高性能フェライト磁石

フェライト磁石(セラミック磁石とも呼ばれ、主成分は酸化鉄にストロンチウムまたはバリウムを加えたもの )は、低コスト、豊富な原材料、優れた耐食性といった特徴から、長年にわたり広く利用されてきました 。従来、フェライト磁石はレアアース磁石と比較して磁気特性(特にエネルギー積 (BH)max が約1~5 MGOeに対し、NdFeB磁石は約35~55 MGOe )が低いとされてきましたが、「高性能」または「アドバンスト」フェライト磁石は、このギャップを埋めることを目指しています

従来型フェライトの強化と性能ベンチマーク:

  • 高性能フェライト磁石は、エネルギー密度((BH)max)、保磁力(Hcj)、温度安定性などの特性を向上させ、特定の用途でレアアース磁石の代替となることを目標としています
  • プロテリアル株式会社(旧日立金属)のNMF™15フェライト磁石は、磁気特性において「フェライト磁石の中で世界最高レベル」と評価されています 。シミュレーションによれば、NMF 15を使用したEVモーターは、重量増(同等出力で30%増)または回転数増(同等重量・出力で50%増)といった設計調整により、NdFeB磁石モーターと同等の出力を達成できる可能性が示されています

組成と加工における高性能化のための革新:

  • 研究は、新しい組成(例:プロテリアルのLa-Co添加フェライト )や最適化された微細構造に焦点を当てています。
  • 高密度化と配向性向上のための製造プロセスの改善も進められています。

主要メーカーとレアアース代替としての適用範囲:

  • プロテリアル株式会社(日本): NMF™シリーズ(NMF 15)高性能フェライト磁石を、資源リスクとコストを軽減するためにEVトラクションモーターなどのNdFeB代替として積極的に開発・提案しています 。2030年代初頭までのEVへの本格採用を目指しています
  • TDK株式会社(日本): フェライトコアおよび磁石を生産しており、日立金属の競合として言及されています 。高性能La-Coフェライト磁石を提供しています
  • 東京フェライト製造株式会社(日本): 自動車産業など向けに各種フェライト磁石を専門に製造しています 。カタログには様々な異方性焼結フェライトが掲載されています
  • Newland Magnetics社(欧州): 射出成形フェライト磁石を含むフェライト磁石を製造しています
  • National Magnetics Group, Inc.(米国): セラミック(フェライト)磁石を生産し、カスタム配合も提供しています
  • Magma Magnetic Technologies社(イスラエル): 他の種類の磁石とともにフェライト磁石を供給しています
  • EU PASSENGERプロジェクト: 改良型ストロンチウムフェライトにも取り組んでおり、IMDEAナノサイエンス研究所、ILPEA社、ダルムシュタット工科大学などが参加しています。これらの磁石を使用した試作品(電動スクーター、ウォーターポンプモーター)は、REEベースモーターの性能に匹敵することが実証されています
  • 用途: EV部品(モーター )、産業用モーター、家電(スピーカー、センサー )、スマートホームデバイス

高性能フェライト磁石は、コストと資源の持続可能性が最重要視される用途において、レアアース磁石の現実的な代替品となりつつあります。特に自動車分野では、モーター設計の最適化と組み合わせることで、性能要件を満たしつつレアアース依存度を大幅に削減できる可能性を秘めています。

E. その他の有望なレアアースフリー/低減化学組成

上記の主要な代替材料群に加えて、特定のニッチな用途や、レアアース含有量を大幅に削減するアプローチとして、いくつかの他の磁石材料が研究開発されています。

  • アルニコ磁石(Al-Ni-Coベース): 優れた熱安定性(最大550℃)と耐食性で知られていますが、磁力はREE磁石よりも低いです((BH)max 5~12 MGOe )。エイムズ国立研究所はREE代替材料としてアルニコを調査しています
  • サマリウム鉄(Sm-Fe)磁石または低減型SmCo磁石: 株式会社東芝と東北学院大学は、ネオジム使用量を半減させながら同等の性能を持つサマリウム鉄等方性ボンド磁石を開発しました 。東芝はまた、重レアアースフリーで高鉄濃度のSmCo磁石も開発し、高温(140~180℃)ではNdFeBを上回る性能を示しています
  • セリウムベース磁石: ARPA-Eはセリウムベース磁石に焦点を当てたプロジェクトを支援しています
  • 炭素ベース磁石: バージニアコモンウェルス大学(VCU)は、ARPA-E REACTプログラムの一環として炭素ベース磁石のプロジェクトを実施しました

これらの材料は、それぞれ特定の利点(例えば、アルニコの極端な温度耐性や、SmCoの高温での優れた性能)を持っていますが、一般的にNdFeB磁石の全体的な磁気強度には及びません。しかし、特定の用途では、これらの特性がREEフリーまたはHREEフリー(重レアアースフリー)のソリューションとして価値を持つ可能性があります。

F. レアアース依存度低減のための電気モーター設計における革新

磁石材料自体の革新に加えて、電気モーターの設計そのものを見直すことで、レアアースへの依存度を大幅に低減、あるいは完全に排除するアプローチも活発に進められています。これらの設計は、永久磁石を使用しないか、より性能の低い(しかしより持続可能な)磁石で同等の性能を達成することを目指しています。

  • 同期リラクタンスモーター(SynRM):

    • ローターに永久磁石を使用せず、磁気リラクタンス(磁束の流れにくさ)の原理に基づいて動作します
    • 完全にレアアースフリーです
    • 高いエネルギー効率(IE5ウルトラプレミアム効率 )、信頼性、およびPMモーターと比較して容易なメンテナンスを提供します
    • 高度な可変速ドライブ(VSD)制御電子機器が必要です
    • ABB社はこの技術の主要な推進者であり、標準的な誘導モーターのドロップイン代替品としてSynRMモーター(IE4およびIE5クラス)を提供し、エネルギー損失を大幅に削減しています
    • TECO Electric & Machinery社も、同社の低電圧インバーターが同期リラクタンスモーターと連携できると言及しており 、ラインスタート同期リラクタンスモーター(LSSynRM)を開発しています
    • **Green Silence Group社(欧州 - Spin、Motive、Settima Meccanica)**のSpinRel®は、効率、堅牢性、高密度、低騒音を目指して設計された、特許取得済みのレアアースフリー同期リラクタンスモーターであり、自動車および産業用途をターゲットとしています
  • スイッチトリラクタンスモーター(SRM):

    • これも磁石フリーのモーター技術であり、電磁界を生成するために正確にタイミング制御された電力供給に依存します
    • **Advanced Electric Machines (AEM) Ltd社(英国)**は、HDSRM(ヘビーデューティスイッチトリラクタンスモーター)およびSSRD(スイッチトスイッチトリラクタンスドライブ)技術を開発しました。これらはレアアースフリーおよび銅フリー(アルミニウム巻線を使用)であり、高いリサイクル性を提供します 。同社のモーターは高速(SSRDで最大30,000 rpm)および高効率を目指して設計されています。
    • **Chara Technologies社(インド)**は、アルミニウム、銅、鋼のみを使用したリラクタンスモーターを開発し、自動車および非自動車用途向けにGreaves Cotton社と製造で提携しています
  • その他のモーター設計:

    • **Baldor Electric Company社(米国ARPA-E REACT、現在はABBの一部)**は、独自のモーター設計と改良された冷却システムを用いたレアアースフリーのトラクションモーターを開発しました 。プロジェクトは2015年に終了しました。
    • **テキサスA&M大学(米国)**は、永久磁石の代わりに銅コイルを使用するレアアースフリーモーターを開発しており、EV推進用に同等の出力重量比を目指しています
    • **EVR Motors社(イスラエル)**は、特許取得済みの台形ステーターラジアル磁束モーター技術を有しており、フェライト磁石を用いたレアアースフリー構成で提供可能で、高い出力密度を達成しています

これらのモーター設計の革新は、磁石材料のサプライチェーンリスクを回避するための重要な戦略です。材料科学の進歩と並行して、モーターシステム全体の最適化が、レアアースへの依存を減らすための鍵となります。ただし、リラクタンスモーターなどは、トルクリップルや力率といった永久磁石モーターとは異なる性能特性を持つため、高度な制御戦略と用途に応じた設計の最適化が求められます

この分野における技術成熟度には明確なスペクトラムが存在します。高性能フェライト磁石や一部のSynRMは既に市販され、代替品として積極的に販売されています(例:プロテリアル 、ABB )。Niron社のFeN磁石 はパイロット生産から初期商業化の段階にあり、エイムズ研究所とPowderMet社によるMnBi磁石 は商業規模へのスケールアップを目指しています。テトラテーナイト は主に先進研究・初期開発段階にあります。この成熟度の違いは、各技術が市場に浸透するタイミングや、初期にターゲットとする用途に影響を与えるでしょう。

また、すべての代替材料がすべての用途に適しているわけではありません。例えば、MnBiの特異な保磁力の正の温度係数は、高温の産業用モーターに適しています 。高性能フェライトは、重量や速度に関する設計調整を行えばEVにも適する可能性があります 。FeNはEVを含む広範な応用を目指しています 。リラクタンスモーターは完全に磁石フリーの道を提供しますが、トルクリップルや力率といった異なる性能特性を持ち、これらは設計と制御システムによって管理される必要があります 。このことは、将来的にエンジニアが、単一の万能な解決策ではなく、より広範な磁気ソリューション(および非磁気ソリューション)のパレットから、特定の用途、性能、コスト要件に合わせて選択するようになることを示唆しています。

これらの高リスクで資本集約的な技術の研究開発と商業化には、政府の資金提供(米国のARPA-E、EUのホライズン、DoDなど)と戦略的パートナーシップ(例:Niron社とGM、ステランティスとの提携、エイムズ研究所と産業界との連携)が不可欠な推進力となっています。Niron社の資金調達ラウンドとパートナーシップ は、同社の製造スケールアップの発表 と直接的に相関しています。ARPA-Eプロジェクトは、商業化という目標を明確に掲げています 。PASSENGERプロジェクトの構造は、バリューチェーン全体をカバーするために多数の学術機関および産業パートナーを巻き込んでいます

レアアースフリー代替材料への移行は、一部の文脈において「高性能」の定義を再構築する可能性があります。そこでは、持続可能性、サプライチェーンの安全性、コストが、純粋な磁気強度((BH)max)と同等に重要視されるようになるかもしれません。安全なサプライチェーンを持つ「十分に良い」磁石が、理論的には優れていても脆弱な磁石よりも好まれる可能性があります。サプライチェーンの懸念からこの研究分野が存在すること自体が(ユーザーからの質問文、)、純粋な磁気性能以外の要素が現在重要であることを示しています。企業は、これらの他の利点のために、ある程度の性能(例えば、フェライトEVモーターの重量 )を犠牲にすることを厭わないかもしれません。

既存のREE磁石のリサイクル(例:SUSMAGPRO 、Heraeus 、Cyclic Materials/VAC )も言及されていますが、ユーザーからの質問の主眼と研究開発の多くは新しい代替材料に置かれており、リサイクルだけでは短中期的には戦略的脆弱性を解決するのに十分ではないと見なされていることを示唆しています。回収率とコストは依然として課題です

IV. レアアース代替磁石開発企業グローバルディレクトリ

中国のレアアース輸出規制という地政学的課題に対応するため、世界各国でレアアースへの依存を低減、あるいは完全に排除する新しい磁石材料やモーター技術の開発が活発化しています。本セクションでは、米国、欧州、日本、イスラエル、およびその他アジア諸国(中国を除く)において、これらの代替技術開発をリードする主要企業および研究機関を特定し、その取り組みを詳述します。

表2:主要レアアース代替磁石技術の概要

技術分類 主要材料/設計 主要な利点 主要な課題 代表的な開発企業/機関 (地域)
マンガンベース磁石 MnBi (マンガンビスマス) 高温での保磁力向上、比較的安価な原料 製造プロセス、(BH)maxの限界 エイムズ国立研究所 (米), PowderMet (米)
MnAlC (マンガンアルミニウムカーボン) 低コスト、持続可能性、豊富な原料 (BH)max、性能最適化 PASSENGERプロジェクト (EU)
鉄窒化磁石 FeN (Fe16N2) 高飽和磁化の可能性、豊富な原料 高温安定性、量産技術 Niron Magnetics (米), ケースウェスタンリザーブ大学 (米)
テトラテーナイト磁石 L10 FeNi (鉄ニッケル) REE磁石に匹敵する可能性のある磁気特性、安価な原料 L10相の安定合成、スケールアップ ケンブリッジ大学 (英), ノースイースタン大学 (米), デンソー (日), Magtetra (?)
高性能フェライト磁石 Sr-フェライト, Ba-フェライト (La, Co等添加) 低コスト、耐食性、豊富な原料 REE磁石に比べ低い(BH)max、重量 プロテリアル (日), TDK (日), 東京フェライト製造 (日), PASSENGERプロジェクト (EU)
その他の化学組成 アルニコ (Al-Ni-Co) 優れた熱安定性 低い(BH)max エイムズ国立研究所 (米)
SmFe, 低減SmCo HREEフリー、高温特性 コスト、Smの供給 東芝 (日)
レアアースフリーモーター設計 同期リラクタンスモーター (SynRM) 磁石フリー、高効率 制御の複雑さ、トルクリップル ABB (欧), TECO (台), Green Silence Group (欧)
スイッチトリラクタンスモーター (SRM) 磁石フリー、堅牢 騒音・振動、制御 Advanced Electric Machines (英), Chara Technologies (印)
その他 (銅コイル、フェライト利用最適化設計) 特定用途向けREE削減/排除 設計・材料の最適化 テキサスA&M大学 (米), EVR Motors (イスラエル)

A. 米国

米国では、エネルギー省(DOE)のARPA-Eプログラムや国防総省(DoD)からの資金提供を受け、国立研究所、大学、新興企業がレアアース代替材料および技術の開発を積極的に進めています。特に鉄窒化(FeN)磁石とマンガンビスマス(MnBi)磁石の研究開発と商業化の動きが活発です。

  • Niron Magnetics社(ミネソタ州ミネアポリス):

    • 技術:鉄窒化(FeN)「Clean Earth Magnet®」
    • 状況:パイロット生産(年間5トン超)、2026年までにミネソタ州サーテルに本格的工場(年間1,500トン)を計画 。2025年1月に5220万ドルの税額控除を獲得
    • パートナーシップ:GM、ステランティス、ボルボ・カーズ・テック・ファンド、サムスン・ベンチャーズ、アリソン・トランスミッション、マグナ、ミネソタ大学、ARPA-E、DoD
    • 用途:EV、産業用モーター、オーディオ、家電、防衛
  • PowderMet Inc.社(オハイオ州ユークリッド):

    • 技術:エイムズ国立研究所/CMIで開発されたマンガンビスマス(MnBi)磁石の商業化
    • 状況:DOE SBIRフェーズIIプロジェクトとして、新規電気モーター向け量産を目指す
  • エイムズ国立研究所(アイオワ州エイムズ)(研究機関・CMIハブ):

    • 技術:高温保磁力を持つマンガンビスマス(MnBi)ボンド磁石。アルニコ、鉄窒化物の研究も実施
    • 状況:開発したMnBi磁石は、非公開の産業パートナーと共に産業用ポンプモーターで試験済み 。技術ライセンス供与も行う
    • パートナーシップ:CMIを通じて多数の産業界・学術界パートナーと連携。MnBi商業化ではPowderMet社と協力
  • ケースウェスタンリザーブ大学(オハイオ州クリーブランド)(研究機関):

    • 技術:鉄窒化(FeN)合金磁石(ARPA-E REACTプロジェクト)
    • 状況:プロジェクトは電気モーターでの試作品実証を目指した。プロジェクト終了は2015年6月 。商業化状況は不明。
  • ノースイースタン大学(マサチューセッツ州ボストン)(研究機関):

    • 技術:鉄ニッケル(FeNi)L10「テトラテーナイト」磁石(ARPA-E REACTプロジェクト)。特許取得済みプロセス
    • 状況:研究開発段階。プロジェクト終了は2013年12月 。商業化状況は不明。
  • テキサスA&M大学(テキサス州カレッジステーション)(研究機関):

    • 技術:永久磁石の代わりに銅コイルを使用するレアアースフリーモーター
    • 状況:試作品を製作・試験済み。商業化を目指し、特許取得済み/出願中
  • Baldor Electric Company社(アーカンソー州フォートスミス - ABB傘下):

    • 技術:レアアースフリートトラクションモーター(ARPA-E REACTプロジェクト)
    • 状況:プロジェクトは2015年2月に終了 。この特定のREEフリーモーターの現状は不明だが、ABBはSynRMラインを持つ。
    • パートナー:ABB, Inc.、Arnold Magnetic Technologies社
  • MP Materials社(ネバダ州ラスベガス):

    • 主にレアアース生産企業だが、DoDの資金提供を受け、米国(テキサス州フォートワース)で磁石生産(NdFeB)に拡大中 。これはREEベースだが、中国以外のサプライチェーン構築の取り組み。
  • Noveon Magnetics社(テキサス州サンマルコス):

    • 技術:使用済み磁石からREEをリサイクルし、高性能NdFeB磁石を生産 。REEベースのリサイクル中心だが、中国以外の製造努力。
  • Energy Fuels Inc.社(コロラド州レイクウッド):

    • 韓国のPOSCO社と提携し、米国産REE酸化物を用いて米国、EU、日本、韓国向けにREE磁石およびモーターを生産 。REEベースだが、非中国サプライチェーン構築に焦点。

B. 欧州(EUおよび英国)

欧州では、EUのホライズンプログラムや各国政府の支援を受け、企業コンソーシアムや研究機関がレアアース代替材料およびモーター技術の開発を推進しています。特に高性能フェライト、MnAlC、そしてリラクタンスモーター技術が注目されます。

  • Advanced Electric Machines (AEM) Ltd社(英国ワシントン):

    • 技術:スイッチトリラクタンスモーター(SRM) - HDSRM & SSRD。レアアースフリーおよび銅フリー(アルミニウム巻線使用)。特許取得済みの圧縮コイル技術
    • 状況:商用製品あり、顧客に供給中。大型商用車向けHDRM300Cは2025年3月サンプル出荷、2025年第4四半期生産開始予定
    • パートナーシップ:Sterling Tools社(インド)とインドでの製造で提携 、ベントレー社
  • Less Common Metals Ltd (LCM)社(英国チェシャー):

    • レアアース金属および磁石合金の生産者。欧州のREEサプライチェーン強化のため、フランスのラックに1億1000万ユーロ規模の工場建設計画 。REE合金が中心であり、新規代替材料開発ではないが、欧州の磁石生産能力にとって重要。
  • Vacuumschmelze GmbH社(ドイツ・ハーナウ):

    • 世界的な大手磁石メーカー(NdFeB - VACODYM、SmCo - VACOMAX)
    • 自動車向け次世代レアアース低減磁石に取り組む 。Cyclic Materials社とREEリサイクルで提携 。GM社と米国に磁石工場を建設中
    • 注記:主要なREE磁石生産者だが、「レアアース低減」磁石への取り組みは関連性がある。ただし、これらの情報源では、同社が開発中の特定の新規非REE材料については詳述されておらず、既存のREE磁石タイプの改良やサプライチェーン/リサイクルに焦点が当てられている。
  • Newland Magnetics Europe社(フランス):

    • NdFeB、SmCo、アルニコ、フェライト(射出成形フェライトを含む)など各種磁石を供給 。欧州に工場を持つ。
    • 情報源からは、新規REEフリー化学組成の開発よりも既存磁石タイプの供給に重点を置いているように見受けられる。
  • Neo Performance Materials社(カナダ・トロント - エストニア、ドイツ、英国など欧州に重要拠点):

    • 主要なNdFeB磁石生産者(Magnequench粉末、焼結磁石)。エストニアの新工場からEVトラクションモーター用焼結磁石サンプルを出荷
    • 注記:主にREE磁石企業だが、欧州での製造拡大は中国以外のREE磁石供給にとって重要。これらの情報源では、新規代替材料を明示的に開発しているとは述べられていない。
  • ABB社(主にスイス/スウェーデン、グローバル展開):

    • 技術:同期リラクタンスモーター(SynRM)、IE4 & IE5効率クラス、完全にレアアースフリー
    • 状況:市販されており、誘導モーターの省エネ代替品として販売されている。
  • Green Silence Group社(イタリア - Spin、Motive、Settima Meccanica):

    • 技術:SpinRel® レアアースフリー同期リラクタンスモーター
    • 状況:特許取得済み、Green Silence Group社が自動車(EV/ハイブリッド、農業機械)および産業(油圧ポンプ)用途向けに生産
  • ケンブリッジ大学(英国)およびオーストリア科学アカデミー(オーストリア)(研究機関):

    • 技術:リンを用いたテトラテーナイト(L10 FeNi)合成
    • 状況:研究的ブレークスルー、特許出願済み、商業化に向けて磁石メーカーとの提携を模索中
  • EU PASSENGERプロジェクト(複数国欧州コンソーシアム):

    • 技術:改良型ストロンチウムフェライトおよびマンガン-アルミニウム-炭素(MnAlC)磁石
    • 状況:進行中(2021~2025年)。改良型Srフェライトを用いた試作品(電動スクーター、ウォーターポンプモーター)の試験に成功し、REEモーター性能に匹敵 。MnAlC開発も進行中。
    • 主要パートナー:IMDEAナノサイエンス研究所(スペイン)がコーディネート。コレクター社(スロベニア)、IMA社(スペイン)、ダルムシュタット工科大学(ドイツ)、ヨゼフ・ステファン研究所(スロベニア)、ILPEA社(イタリア)、メタルパイン社(オーストリア)、CRF社(ステランティスR&D - イタリア)、Tizona Motors社(スペイン)、Wilo社(ドイツ)、LCM社(英国)など20機関が参加
  • Solvay社(ベルギー・ブリュッセル):

    • フランスのラ・ロシェル工場で磁石材料用レアアース生産ラインを開設 。新規代替材料よりもREE加工に重点を置いている模様。
  • Ricardo社(英国):

    • アルミニウムヘアピン巻線を用いたレアアースおよび銅フリーの同期リラクタンスモーター「Alumotor」を開発。油冷式で214kW出力 。Innovate UK資金提供コンソーシアム内で納入。

C. 日本

日本では、大手企業が中心となり、政府の支援も受けながら、高性能フェライト磁石、鉄ニッケル磁石、サマリウムコバルト磁石の改良、さらには重レアアースフリーのNdFeB磁石など、多岐にわたるレアアース代替・低減技術の開発が進められています。

  • プロテリアル株式会社(旧日立金属)(東京):

    • 技術:EVモーター用NdFeB代替としての高性能NMF™シリーズフェライト磁石(NMF 15)、La-Co添加フェライト
    • 状況:NMF 15は設計変更によりEVモーターでの同等性をシミュレーションで検証済み 。試作EVモーターを開発 。2030年代初頭までのEVへの本格採用を目指す
  • 株式会社デンソー(愛知県刈谷市):

    • 技術:鉄とニッケルのみを使用し、NdFeBと同等以上の性能を持つとされる鉄ニッケル(FeNi)超格子磁石(テトラテーナイト様)
    • 状況:粉末の人工合成に成功。「今後5年以内」(2022年春報告より、つまり約2027年)に小型モーターへ、将来的には駆動モーターへの応用を目指す
  • 株式会社東芝および東芝マテリアル株式会社(東京):

    • 技術:高鉄濃度の重レアアースフリーサマリウムコバルト(SmCo)磁石で、高温(140~180℃)ではNdFeBを凌駕 。また、東北学院大学と共同でNd使用量を削減したサマリウム鉄(Sm-Fe)等方性ボンド磁石も開発
    • 状況:高鉄濃度SmCo磁石は2016年11月からサンプル出荷 。Sm-Feボンド磁石は「今後数年以内」の商業化を見込む(2023年6月報告より )。
  • 愛知製鋼株式会社(愛知県東海市):

    • 技術:MAGFINE®異方性NdFeBボンド磁石。重レアアース(Dy、Tb)およびコバルトフリー
    • 状況:市販品。「世界最強のボンド磁石」と位置付けられている
    • 用途:自動車(パワーシート、サンルーフ)、家電(ドローン、電動工具)
    • 注記:NdFeBベースだが、HREEの排除は最も重要なREEへの依存度低減における重要な一歩。
  • TDK株式会社(東京):

    • 技術:ジスプロシウムフリーNdFeB磁石(HAL法による低減)、La-Co高性能フェライト磁石
    • 状況:DyフリーNdFeBは2014年以降に自動車モーターでの商業化を目指した 。La-Coフェライトは入手可能
  • 東京フェライト製造株式会社(東京):

    • 技術:自動車、エレクトロニクスなど向けフェライト磁石(焼結、プラスチック、ゴム)の専門メーカー
    • 状況:老舗メーカー。カタログには各種フェライトグレードが掲載 。EVモーター用REE代替としての高性能フェライト(例:NMF 15相当)の明示的な詳細は情報源にないが、自動車用途は言及あり
  • 信越化学工業株式会社(東京):

    • NdFeBおよびSmCo磁石の主要生産者
    • 注記:主にREE磁石サプライヤー。これらの情報源では、新規代替材料を開発しているとの明示的な言及はないが、中国以外のREE磁石供給において重要。
  • 三菱電機株式会社およびNEDO(研究協力):

    • 技術:高密度コイルを用いてレアアースを含まない自動車用モーターを開発 。加速時は効率が劣るが、定速時は同等。
    • 状況:2012年に開発報告 。現状は不明。
  • 室蘭工業大学(研究機関):

    • レアアース研究センターを擁し、ベトナムとのREE抽出・処理に関する共同イニシアチブに関与 。新規代替材料よりもREEサプライチェーンに焦点。

D. イスラエル

イスラエルでは、特にモーター設計の革新を通じてレアアース依存度を低減する動きが見られます。

  • EVR Motors社(ペタフ・チクヴァ):

    • 技術:特許取得済みの台形固定子ラジアル磁束モーター技術。フェライト磁石を用いたレアアースフリーモーター構成を提供可能で、許容可能な出力・トルク密度を維持
    • 状況:モーターは従来のRFPMモーターよりも小型軽量。自動車(二輪・三輪車、MHEV、HEV、乗用車/小型商用車)および産業用途をターゲット
  • Magma Magnetic Technologies社(ヨクネアム・イリット):

    • フェライト、NdFeB(フリーおよび低ジスプロシウムネオジム磁石を含む)、SmCo、アルニコなど各種磁石タイプを供給。磁気設計、研究開発、シミュレーションサービスを提供
    • 注記:独自の新規REEフリー材料を開発するよりも、特殊な既存磁石タイプ(低Dy REEオプションを含む)の供給およびエンジニアリングサービスプロバイダーであるように見受けられる
  • Fabrinet Israel社(ヨクネアム):

    • 光学、電気光学、電気機械アセンブリのNPI、研究開発支援、製造を提供。磁石材料開発企業ではないが、それらを使用するシステムに関与する可能性あり

E. アジア(中国を除く)

中国を除くアジア地域では、特にインド、韓国、台湾でレアアース代替への取り組みが見られます。インドでは技術導入と国内イノベーションによるリラクタンスモーター開発、韓国では非中国レアアースサプライチェーン構築、台湾ではレアアースフリーモーター開発が注目されます。

  • インド:

    • Sterling Tools Ltd社(子会社Sterling Gtake E-Mobility - SGEM経由)(ファリーダーバード):
      • 技術:英国Advanced Electric Machines (AEM) Ltd社との技術ライセンス契約に基づき、EV用レアアース磁石フリートラクションモーターを製造 。AEM社のスイッチトリラクタンス技術ベース。
      • 状況:ファリーダーバード工場で製造。2030年までに1500億ルピー規模と予測されるインドのトラクションモーター市場への供給を目指す
    • Chara Technologies社(バンガロール):
      • 技術:同期リラクタンスモーターおよびコントローラー(レアアースフリー、アルミニウム、銅、鋼を使用)
      • 状況:Greaves Cotton Ltd社と提携し、同社のオーランガバード工場で製造
      • 用途:L5三輪車、ゴルフカート、四輪車、非自動車用途
  • 韓国:

    • Seonglim Advanced Industrial社:
      • ネオジムベースREE永久磁石工場(年間1,000トン、ヒョンpung)を完成。同国初のこの種の生産 。REEベースだが、非中国生産イニシアチブ。
      • Nd原料供給を中国からオーストラリア/ベトナムへ多様化計画
    • POSCO International社:
      • 米国Energy Fuels社と提携し、非中国REE磁石サプライチェーンを構築。米国、EU、日本、韓国のEV/ハイブリッド車向けに磁石を供給
      • 米国、オーストラリア、ベトナム産のREEを使用。磁石はStar Group社(韓国)が生産予定 。REEベースだが、非中国サプライチェーンに焦点。
    • Star Group Ind. Co., Ltd.社:
      • レアアース永久磁石表面処理技術を開発。REE磁石の応用 。POSCO社と磁石生産で提携
      • 注記:新規REEフリー材料開発よりもREE磁石の応用と加工に重点を置いている模様。
    • LS Cable & System社:
      • Vacuumschmelze社(ドイツ)とREE永久磁石の合弁事業 。REEベースのサプライチェーンイニシアチブ。
  • 台湾:

    • TECO Electric & Machinery Co., Ltd.社:
      • レアアースを必要としないモーターを開発 。具体的には、高効率(IE4対応可能)のための改良型ローター設計を持つラインスタート同期リラクタンスモーター(LSSynRM)
      • 低電圧インバーターは同期リラクタンスモーターと互換性あり
      • EVモーター(1~270HP)も生産しており、一部は永久磁石同期型だが 、LSSynRMは明示的にREEフリー。商用車Eアクスル用ヘアピンモーター技術(最大97.8%効率、50~300kW)を持つEVK Motor社を買収
    • 国立成功大学(研究機関):
      • 電動機技術研究センターがレアアースおよび非レアアースPMモーター(ブラシレスダブルフェッド、リラクタンスモーター)を研究
  • マレーシア:

    • BOMATEC社:
      • マレーシアで主に日本産原料を用いた射出成形磁石を生産し、中国以外の代替供給源として活動
      • 注記:「日本産原料」からREEまたはフェライトベースの既存磁石タイプが中心と推測されるが、中国以外での製造。
  • ベトナム:

    • 重レアアース精製所を持つ(ただし税務紛争で操業停止中 )。
    • Vietnam Rare Earth (VTRE)社は、Australian Strategic Materials (ASM)社およびBlackstone Minerals社と統合REEバリューチェーン開発で合意
    • ハノイにレアアース研究技術移転センター(日本との共同イニシアチブ)
    • 注記:これらの情報源からは、新規代替磁石材料よりもREE加工と供給に焦点。

表3:主要レアアース代替磁石・モーター開発企業グローバルディレクトリ(中国を除く)

企業名/機関名 国/地域 主要代替磁石技術/REEフリーモータータイプ 主要開発/製品ハイライトと状況 主な提携先 対象用途/市場
Niron Magnetics 米国 鉄窒化 (FeN) "Clean Earth Magnet®" パイロット生産中、2026年量産工場計画 GM, ステランティス, サムスン, ARPA-E, DoD EV, 産業用モーター, オーディオ, 防衛
PowderMet Inc. 米国 マンガンビスマス (MnBi) エイムズ研究所技術の商業化、DOE SBIRフェーズII エイムズ国立研究所 (CMI) 新規電気モーター
エイムズ国立研究所 米国 MnBiボンド磁石, アルニコ, FeN MnBiポンプモーター試験済、技術ライセンス供与 CMI経由で多数、PowderMet (MnBi) 産業用モーター、その他
Advanced Electric Machines (AEM) Ltd 英国 スイッチトリラクタンスモーター (HDSRM, SSRD) (Al巻線) 商用製品、HDRM300Cは2025年Q4生産開始 Sterling Tools (印), ベントレー EV (乗用車, 商用車), 産業
プロテリアル (旧日立金属) 日本 高性能フェライト磁石 (NMF™15), La-Co添加フェライト NMF15 EVモーター用シミュレーション検証済、試作モーター開発済 - EVトラクションモーター
デンソー 日本 鉄ニッケル (FeNi) 超格子磁石 (テトラテーナイト様) 粉末人工合成成功、~2027年小型モーター応用目標 - EV駆動モーター、小型モーター
東芝 & 東芝マテリアル 日本 高Fe濃度SmCo磁石 (HREEフリー), SmFeボンド磁石 高Fe SmCoサンプル出荷中 (2016~)、SmFeボンド商業化目標 東北学院大学 (SmFe) 高温用途モーター
愛知製鋼 日本 MAGFINE® 異方性NdFeBボンド磁石 (HREEフリー, Coフリー) 市販品、世界最強ボンド磁石 - 自動車部品、家電
ABB 欧州 (スイス/スウェーデン) 同期リラクタンスモーター (SynRM) (IE4, IE5) 市販品、誘導モーター代替 - 産業用モーター、ポンプ、ファン
Green Silence Group (Spin, Motive, Settima Meccanica) 欧州 (イタリア) SpinRel® 同期リラクタンスモーター 特許取得済、生産中 - 自動車 (EV/HV)、産業機械
EU PASSENGER プロジェクト 欧州 (コンソーシアム) 改良型ストロンチウムフェライト, MnAlC磁石 Srフェライト試作品試験成功、MnAlC開発中 IMDEAナノサイエンス研究所, コレクター, IMA等20機関 電動モビリティ (eスクーター, ポンプ等)
EVR Motors イスラエル 台形固定子ラジアル磁束モーター (フェライト磁石利用REEフリー構成可) 試作品あり、自動車・産業用途目標 - 自動車 (二輪/三輪, MHEV, HEV), 産業
Sterling Tools (SGEM) インド AEM社技術ライセンスによるSRMトラクションモーター ファリーダーバード工場で製造 Advanced Electric Machines (英) インドEV市場
Chara Technologies インド 同期リラクタンスモーター (Al, Cu, 鋼ベース) Greaves Cotton社と製造提携 Greaves Cotton 三輪車, ゴルフカート, 四輪車
TECO Electric & Machinery 台湾 ラインスタート同期リラクタンスモーター (LSSynRM), EVKヘアピンモーター LSSynRM (IE4対応)、EVKモーター (50-300kW) EVK Motor (買収) 産業用モーター、EVパワートレイン

このディレクトリは、各地域におけるレアアース代替への多様なアプローチを浮き彫りにしています。米国は破壊的技術に重点を置いた政府主導の研究開発が目立ち、欧州は産業界と学術界の広範な協力による実用化を目指し、日本は既存の大手企業がそれぞれの強みを活かした開発を進めています。イスラエルやインドのような国々は、特定のニッチ技術や技術移転を通じてこの分野に貢献しています。この多様性は、単一の万能な解決策ではなく、特定の性能、コスト、用途のニッチ市場に最適化されたさまざまな代替磁石技術と磁石レスモーター設計が登場する可能性を示唆しており、より複雑ではあるものの、最終的にはより強靭な供給オプションにつながる可能性があります。

また、愛知製鋼のMAGFINE® やTDKのDyフリーNdFeB磁石 のように、完全にレアアースフリーではないものの、ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった最も重要かつ高価な重レアアース(HREE)を削減する取り組みも、リスク緩和とコスト削減のための重要な中間ステップとして注目されます。

V. 代替磁石の比較分析と戦略的考察

レアアース磁石の代替材料および技術を評価する際には、性能特性、技術経済的実現可能性、および特定の用途への適合性を総合的に比較検討する必要があります。現状では、すべての面でNdFeB磁石に匹敵し、かつ低コストで大規模に供給可能な単一のドロップイン代替品は存在しません。したがって、戦略的な意思決定には、これらの要素間のトレードオフを理解することが不可欠です。

A. 性能ベンチマーキング

  • エネルギー積 ((BH)max): 磁石の強さの指標。(BH)maxが高いほど、より小型で強力な磁石が可能になります。NdFeB磁石は35~55 MGOe (または最大512 kJ/m3 )と非常に高い値を示します。
    • 高性能フェライト磁石は、従来のフェライト(1~5 MGOe )からの改善を目指しており、プロテリアルのNMF 15は設計変更によりEVモーターでの同等性をシミュレーションで示しています
    • MnBiの理論的(BH)maxは約20 MGOe で、粉末では13 MGOeが達成されています
    • 鉄窒化(FeN)磁石(Niron社)は高性能を目指しており、ある情報源では1150 kJ/m3(理論的最大値の可能性)と引用されています
    • テトラテーナイトはNdFeB並みの性能を目指しています。
    • アルニコ磁石は5~12 MGOeです
  • 保磁力 (Hcj): 特に高温下での減磁に対する耐性の指標。
    • MnBiは、温度上昇に伴い保磁力が増加するという特異な正の温度係数を示します
    • フェライトは一般にNdFeBよりHcjが低いですが、高性能版では改善されています
  • 残留磁束密度 (Br): 磁石が外部磁場なしで保持できる磁束の強さ。NdFeBは高いBrを持ちます。フェライトはNdFeB(1.4 T)より低く、約0.4 Tです
  • 温度安定性(キュリー温度および動作温度範囲):
    • SmCo磁石は非常に優れており、最大300~350℃まで対応可能です
    • アルニコ磁石も非常に良好で、最大550℃、キュリー温度は約800℃です
    • NdFeB磁石は通常80~200℃で 、高温対応にはDy/Tbの添加が必要です。
    • MnBiは約200~255℃まで良好な特性を示します
    • 鉄窒化磁石のキュリー温度は540℃と報告されています
    • フェライト磁石のキュリー温度は約450℃、最大動作温度は約250℃です

B. 技術経済的実現可能性

  • 製造コスト: フェライトは最も安価です 。アルニコも一般的にREE磁石より安価です 。MnBiとFeNは、豊富な原材料(Fe、N、Mn、Bi)を使用するため、コスト効率の良さを目指しています 。テトラテーナイト(FeNi)の原材料は安価(Ni、Feは25米ドル/kg未満に対し、Nd酸化物は約100米ドル/kg )ですが、合成の複雑さがコスト要因でした。新しい手法はこの削減を目指しています
  • スケーラビリティ: MnBi、FeN、テトラテーナイトなどの新材料にとっては大きな課題です 。Niron Magnetics社はFeN生産を積極的に拡大しており 、PowderMet社はMnBiの量産に取り組んでいます 。フェライトは既に大量生産されています。
  • 原材料の入手可能性とコスト: 代替材料は、REEの供給リスクと価格変動を回避するために、豊富な元素(Fe、Mn、Bi、Al、N、C、Ni)に焦点を当てています 。銅はREEではありませんが、モーター巻線や一部の代替磁石にとって重要であり、供給圧力と価格上昇に直面しています

C. 用途適合性

  • EVトラクションモーター: 最優先事項です。高性能フェライト(プロテリアル )、FeN(Niron )、そして潜在的にはテトラテーナイト(デンソー )がターゲットとされています。リラクタンスモーター(SynRM、SRM)もEVにとって重要です(ABB、AEM、TECO、Chara )。MnBiは、エネルギー密度が向上するか、設計が適応すれば選択肢となり得ます。
  • 産業用モーターおよびポンプ: MnBiの高温性能は非常に適しています(エイムズ研究所 )。SynRMもこの分野で強力です(ABB )。
  • 家電(スピーカー、センサー): 高性能フェライト 、FeN(Niron )。
  • 再生可能エネルギー(風力タービン): 大量かつ強力な磁石が必要です。FeN(Niron )、その他スケーラブルでコスト効率が良い材料が求められます。ARPA-E REACTプログラムは風力発電機をターゲットとしていました
  • 航空宇宙および防衛: 高性能と信頼性が不可欠です。FeN(Niron )、アルニコ(温度安定性のため )。

現状では、性能とコスト/供給安定性の間には明確なトレードオフが存在します。今日のところ、NdFeB磁石のすべての特性(特に(BH)max)に完全に匹敵し、かつ低コストで同等規模の代替レアアースフリー材料は存在しません。産業界にとっての戦略的決定は、コスト安定性と供給安定性の向上のために、どの程度の性能を犠牲にするかという点になるでしょう。この状況は、レアアース供給リスクの受容不可能性から、より安全で経済的に実行可能な「十分に良い」代替品を受け入れる意欲を示唆しています。

いくつかの情報源は、低コスト/低性能のフェライト磁石と高コスト/高性能のREE磁石の間の「ギャップを埋める」非REE永久磁石の開発目標を明確に述べています 。これは、MnAlC、MnBi、そして潜在的にはFeNのような材料にとって明確な市場セグメントと性能目標を定義します。このことは、階層化された磁石市場が出現する可能性を示唆しています。

フェライトのようなエネルギー密度の低い一部の代替磁石の実現可能性は、より弱い磁場を補うことができる革新的なモーター設計(多くの場合、より高速回転や異なる磁束集中技術による )に大きく依存しています。これは、代替材料の開発だけでなく、それらを利用するシステム全体の最適化も重要であることを意味します。

VI. 政府のイニシアチブと国際協力

中国のレアアース支配と輸出規制によってもたらされる戦略的課題に対応するため、米国、欧州連合(EU)、日本などの主要国は、レアアース代替材料の研究開発、国内サプライチェーンの強化、および国際協力を促進するための重要な政府イニシアチブを立ち上げています。これらの取り組みは、防衛、クリーンエネルギー、電気自動車(EV)などの重要産業における脆弱性を軽減することを目的としています。

A. 米国の取り組み

米国政府は、国防総省(DoD)およびエネルギー省(DOE)の先端研究プロジェクト庁エネルギー(ARPA-E)を通じて、レアアースフリー磁石技術の開発と国内生産能力の確立に多額の投資を行っています。

  • 国防総省(DoD)のイニシアチブ: DoDは、2027年までに米国の防衛ニーズをすべて満たすことができる、鉱山から磁石までの一貫したREEサプライチェーンを開発するという目標を設定しています 。2020年以降、DoDは国内サプライチェーン構築のために4億3900万ドル以上を拠出しています 。これには、MP Materials社やLynas Rare Earths社の子会社Lynas USA社への軽希土類および重希土類分離・処理施設への資金提供が含まれます
  • ARPA-EのREACTプログラム: 「重要技術におけるレアアース代替材料(Rare Earth Alternatives in Critical Technologies)」プログラムは、EVモーターや風力発電機に使用されるレアアースの費用対効果の高い代替材料の開発を目的としています 。このプログラムは、鉄窒化磁石(ミネソタ大学、ケースウェスタンリザーブ大学 )、鉄ニッケル磁石(ノースイースタン大学 )、マンガンベース磁石(アラバマ大学 )など、さまざまな代替材料プロジェクトに資金を提供してきました。これらのプロジェクトの多くは「Alumni」ステータスにあり、初期段階の研究が完了したことを示唆していますが、商業化の成果はプロジェクトごとに異なります。Niron Magnetics社は、ミネソタ大学のREACTプロジェクトからスピンアウトした顕著な成功例です。
  • 重要鉱物に関する大統領令および国防生産法(DPA): これらは国内生産と加工を加速し、国家安全保障を支援するレアアースプロジェクトへの資金提供を可能にしています

B. 欧州連合(EU)の戦略

EUは、重要原材料法(Critical Raw Materials Act)や欧州原材料アライアンス(ERMA)などの枠組みを通じて、レアアースへの依存度低減とサプライチェーンの強靭化を目指しています。

  • EU重要原材料法および欧州原材料アライアンス(ERMA): これらのイニシアチブは、EU域内での重要原材料の生産とリサイクルを支援し、2025年のリサイクル目標を設定しています 。ERMAは、鉱山から磁石までの14のプロジェクト(投資額17億ユーロ)を特定し、EUの需要の20%を2030年までに供給することを目指しています
  • ホライズン・ヨーロッパ・プログラム: PASSENGERプロジェクトのような研究開発プロジェクトに資金を提供しています。PASSENGERは、欧州で広く入手可能な資源に基づいた、改良型ストロンチウムフェライトおよびマンガンアルミニウムカーボン(MnAlC)合金を代替材料として提案し、持続可能な永久磁石の生産を目指しています 。このプロジェクトには、IMDEAナノサイエンス研究所(スペイン)、コレクター社(スロベニア)、IMA社(スペイン)、ダルムシュタット工科大学(ドイツ)など、バリューチェーン全体をカバーする20のパートナーが参加しています

C. 日本の対応

日本は、2010年の中国によるレアアース輸出禁止措置を受けて以来、供給源の多様化、リサイクル技術の向上、代替材料の研究開発に積極的に取り組んできました。

  • 供給源の多様化と備蓄: 日本は中国へのレアアース依存度を2010年の90%以上から2020年には58%まで低減させました 。これは、供給源の多様化、鉱山会社への出資、長期供給契約の確保、融資保証などの官民一体の取り組みによるものです 。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じて重要レアアースの国家備蓄も行っています
  • 代替材料研究開発: プロテリアル(旧日立金属)、デンソー、東芝などの大手企業が、高性能フェライト磁石、鉄ニッケル磁石、改良型サマリウムコバルト磁石などの代替材料開発を主導しています(セクションIV.C参照)。
  • 国際協力: 日本は、米国主導の鉱物安全保障パートナーシップ(MSP)やインド太平洋経済枠組み(IPEF)のサプライチェーンの柱などを通じて、米国やその他の友好国との協力を模索しています 。また、ベトナムとはハノイのレアアース研究技術移転センターを通じてREE抽出・処理を改善するための共同イニシアチブを持っています

D. 国際協力とサプライチェーン再編の動向

各国独自の取り組みに加え、レアアース代替材料の開発とサプライチェーンの強靭化を目指す国際的な協力も進んでいます。

  • 日米協力: 日米クリーンエネルギー・エネルギー安全保障イニシアティブや、経済産業省と米国エネルギー省の共同声明(2023年)などを通じて、エネルギー安全保障とクリーンエネルギー移行のための協力が進められています
  • Quad(日米豪印): オーストラリアの豊富な鉱物資源、日本の加工技術、米国とインドの製造・市場基盤を組み合わせることで、中国の支配に対抗する強靭な重要鉱物サプライチェーンを構築する潜在力を持っています
  • 鉱物安全保障パートナーシップ(MSP): 米国務省主導のこのイニシアチブには、Quad4カ国すべてが参加しており、世界の鉱物サプライチェーン確保に焦点を当てています
  • リサイクル技術の進展と国際標準化: 使用済み製品からのレアアース回収(例:Heraeus社 、Cyclic Materials社とVACUUMSCHMELZE社の提携 、IonicRE社 )や、リサイクル材の品質管理、国際的なリサイクル基準の策定に向けた動きも見られます。しかし、現在の回収率は平均35~60%にとどまり、多くの場合、バージン材よりも処理コストが高いという課題があります

これらの政府主導のイニシアチブと国際協力は、レアアース代替技術の研究開発を加速し、より多様で安全な磁石サプライチェーンの構築に向けた重要な推進力となっています。ただし、新しい鉱山開発には5~7年、加工施設には130億~180億ドルの投資が必要とされ、中国の専門知識に匹敵する技術開発も求められるなど、長期的な取り組みが必要です

VII. 課題と将来展望

レアアース磁石の代替材料および技術の開発は大きな進展を見せていますが、本格的な市場導入とサプライチェーンの変革を実現するためには、依然として克服すべき多くの技術的、経済的、そして戦略的課題が存在します。

A. 技術的ハードル

  • 性能ギャップの克服: 多くの代替材料は、特にエネルギー積 ((BH)max) や高温特性において、依然として高性能NdFeB磁石に及びません。例えば、高性能フェライト磁石はEVモーターでの利用が検討されていますが、NdFeB磁石と同等の出力を得るためにはモーターの大型化や高速回転化が必要となる場合があります 。MnBi磁石は高温での保磁力に優れるものの、(BH)maxはNdFeBより低いのが現状です 。テトラテーナイトは理論的には高い性能が期待されますが、安定したL10相の大量合成とバルク材としての特性実証が課題です
  • 製造プロセスとスケーラビリティ: 新しい磁石材料の多くは、実験室レベルでは有望な特性を示しても、工業規模での安定した品質管理と大量生産技術の確立が難題です。例えば、MnBi磁石では粒子間の相互作用制御が重要であり 、鉄窒化磁石も高温での安定性や大規模製造プロセスの最適化が求められています
  • モーター設計との統合: 代替磁石の特性(磁気強度が低い、温度特性が異なるなど)を最大限に活かすためには、モーター自体の設計最適化が不可欠です。これは、材料開発と応用システム開発の緊密な連携を必要とします 。リラクタンスモーターのような磁石フリー設計は、トルクリップルや制御の複雑さといった固有の課題への対応が求められます

B. 経済的実現可能性

  • コスト競争力: レアアース磁石、特にNdFeB磁石は、中国の生産規模と比較的低い環境・労働コストにより、一定の価格競争力を持っています。代替材料は、原材料コストが低い場合でも(例:鉄、窒素、マンガン、ビスマス )、新規の製造プロセスやスケールメリットの欠如により、初期の生産コストが高くなる可能性があります。テトラテーナイトの原料(鉄、ニッケル)は安価ですが、合成コストが課題でした
  • 投資と市場の不確実性: 新技術への投資は高リスクであり、特にレアアース市場の価格変動(2020年のネオジム価格60米ドル/kgから2023年には240米ドル/kgへ、その後2025年には195米ドル/kgへ変動 )は、代替材料への長期投資判断を難しくしています。市場が代替材料をどの程度受け入れるか、また、中国が戦略的に価格を操作して代替材料の競争力を削ぐ可能性も考慮に入れる必要があります。
  • サプライチェーン構築コスト: 新しい材料のための採掘、精製、加工、磁石製造に至るまでの完全なサプライチェーンを中国以外で構築するには、莫大な資本投資と時間が必要です。新しい鉱山開発には5~7年、加工施設には130億~180億ドルの投資が必要と見積もられています

C. 戦略的および市場の考慮事項

  • 開発と市場導入のタイムライン: 多くの代替技術はまだ研究開発段階か初期商業化段階にあり、市場に大きな影響を与えるまでには5~10年、あるいはそれ以上かかると予想されます(例:テトラテーナイトは5~8年 )。この間、レアアース磁石への依存は継続します。
  • 「十分な性能」の再定義: サプライチェーンの安全性とコストの安定性が最重要視されるようになると、一部の用途では、純粋な磁気性能でNdFeBに劣るとしても、「十分に良い」代替材料が選択される可能性があります。これは、用途に応じた最適な材料選択という、より細分化された市場の出現を示唆します。
  • 中国の対抗戦略: 中国がレアアースの価格や供給を戦略的に調整することで、代替材料開発のインセンティブを低下させようとする可能性があります。また、中国自身も代替材料研究を進めている可能性も否定できません。
  • リサイクルの役割: レアアース磁石のリサイクル技術は進歩していますが 、回収率の低さ、コストの高さ、品質管理の難しさから、現時点では新規採掘への依存を大幅に減らすには至っていません 。代替材料の開発は、リサイクル努力と並行して進めるべき重要な戦略です。

D. 将来展望

長期的には、レアアースへの依存を低減するための努力は、より多様で強靭な磁石およびモーター技術のエコシステムを生み出すと期待されます。単一の「万能」代替材料が登場するのではなく、用途の特性、コスト要件、供給リスク許容度に応じて、さまざまな材料(高性能フェライト、MnBi、FeN、テトラテーナイト、その他合金)や設計(リラクタンスモーターなど)が共存する未来が予測されます。

この移行を成功させるためには、政府による継続的な研究開発支援、国際協力の強化、標準化の推進、そして産業界による積極的な新技術の評価と採用が不可欠です。地政学的要因が技術選択に大きな影響を与え続ける中で、サプライチェーンの多様化と技術的自立性の確保は、先進技術に依存するすべての国にとって最重要課題であり続けるでしょう。

VIII. 結論と戦略的提言

中国によるレアアース輸出規制は、高性能磁石に依存する世界の産業界に対し、サプライチェーンの脆弱性という深刻な課題を突きつけています。本報告書で詳述したように、米国、欧州、日本、イスラエル、その他アジア諸国(中国を除く)の企業および研究機関は、この課題に対応するため、レアアース代替磁石材料およびモーター技術の開発に積極的に取り組んでいます。これらの取り組みは、地政学的リスクを軽減し、より持続可能で安定した磁石供給の未来を確保するために極めて重要です。

主要な結論:

  1. 多様な技術的アプローチ: レアアース依存度低減への道は一つではありません。高性能フェライト磁石の改良、マンガンベース化合物(MnBi、MnAlC)、鉄窒化(FeN)磁石、テトラテーナイト(L10 FeNi)といった新規材料の開発に加え、同期リラクタンスモーター(SynRM)やスイッチトリラクタンスモーター(SRM)などのレアアースフリーモーター設計が並行して進められています。この多角的なアプローチは、単一の万能薬ではなく、用途に応じた最適な解決策のポートフォリオが形成されることを示唆しています。
  2. 地域ごとの強みと戦略: 米国は政府資金に支えられた破壊的技術(特にFeN、MnBi)の研究開発と商業化で先行し、欧州は広範なコンソーシアムを通じて実用化(高性能フェライト、MnAlC、SynRM)を目指しています。日本は大手企業が既存の強みを活かして多様な代替・低減技術(高性能フェライト、FeNi、改良型SmCo、HREEフリーNdFeB)を追求しています。イスラエルやインドなどは、特定のニッチ技術や技術移転を通じて貢献しています。
  3. 技術成熟度のばらつき: 高性能フェライトや一部のSynRMは既に市場投入されていますが、FeNやMnBiは商業化の初期段階からスケールアップ段階にあり、テトラテーナイトは依然として研究開発が中心です。この成熟度の違いは、各技術が市場に浸透する時期や初期のターゲット用途に影響します。
  4. 性能とコスト、供給安定性のトレードオフ: 現時点では、すべての面でNdFeB磁石に匹敵し、かつ低コストで大規模供給可能なレアアースフリー代替品は存在しません。企業は、性能、コスト、供給安定性の間で戦略的なトレードオフを考慮する必要があります。「十分に良い」性能で供給が安定している材料が、高性能だが供給リスクの高い材料よりも優先されるケースが増えるでしょう。
  5. 政府の支援と国際協力の不可欠性: レアアース代替技術の研究開発と商業化は、資本集約的でリスクが高いため、政府による継続的な資金提供、政策的支援、そして国際的な研究開発協力が不可欠です。米国のARPA-EやDoD、EUのホライズン・ヨーロッパ(PASSENGERプロジェクトなど)、日本の経済安全保障政策などがその例です。
  6. モーター設計革新の重要性: 材料開発と並行して、代替磁石の特性を最大限に活用したり、そもそも磁石への依存を減らしたりするためのモーター設計の革新が、レアアース問題の解決に大きく貢献します。

戦略的提言:

  1. サプライチェーンの多様化戦略の策定と実行:
    • 企業は、自社の製品ポートフォリオと将来の技術ロードマップを評価し、レアアース磁石への依存度が高いクリティカルな用途を特定すべきです。
    • 特定された用途に対し、本報告書で挙げられた代替材料およびモーター技術の技術的成熟度、性能、コスト、供給可能性を評価し、短期・中期・長期の代替戦略を策定します。これには、複数の代替オプションを並行して検討することも含まれます。
  2. 研究開発投資と連携の強化:
    • 有望なレアアース代替技術(材料およびモーター設計)への社内研究開発投資を継続・拡大します。
    • 大学、国立研究所、新興企業との連携(共同研究、ライセンス契約、戦略的投資など)を通じて、最先端技術へのアクセスを確保し、開発を加速します。特に、Niron Magnetics社(FeN)、PowderMet社/エイムズ国立研究所(MnBi)、プロテリアル社(高性能フェライト)、デンソー社(FeNi)、AEM社/ABB社(リラクタンスモーター)などのキープレイヤーとの関係構築を検討します。
  3. 設計思想の転換と標準化への貢献:
    • 製品設計において、従来のNdFeB磁石の性能を前提とするのではなく、代替材料の特性(長所と短所)を許容し、それを最大限に活かす設計思想への転換を促します。
    • 業界団体や国際標準化機関と協力し、代替磁石およびそれらを使用したモーターの性能評価方法やインターフェースに関する標準化活動に積極的に関与し、市場導入を円滑化します。
  4. 地政学的リスクの継続的監視と政策提言:
    • 中国のレアアース政策やその他の重要鉱物に関する動向、および各国政府の対応策を継続的に監視し、サプライチェーン戦略に反映させます。
    • 自国の政府に対し、レアアース代替技術の研究開発支援、国内製造基盤の強化、国際的な資源確保協力の推進など、戦略的な政策提言を行います。
  5. 人材育成と知識基盤の構築:
    • 磁性材料、電気工学、材料科学、製造技術など、レアアース代替技術に関連する分野の専門知識を持つ人材の育成と確保に努めます。
    • 社内外の知識共有プラットフォームを構築し、急速に進化するこの分野の最新情報を常に把握できる体制を整えます。

中国のレアアース輸出規制は、短期的には困難をもたらしますが、長期的には技術革新を促進し、より強靭で持続可能な磁石およびモーター産業の構築に向けた触媒となる可能性があります。本報告書が、この複雑な状況を乗り切り、将来の成長と安全保障を確保するための戦略的意思決定の一助となることを期待します。


リンク付きの出典リストがあるGoogleドキュメントはこちらに置きます。

Comment(0)