社長のためのゼロトラスト入門 - ランサムウェアの数十億円の損失をどう回避する?
2025年秋、アサヒグループやアスクルを襲ったランサムウェア事件は、単なるサイバー攻撃ではありません。
それは「業務を便利にしたDXが、攻撃者にとっても便利なシステム環境だった」という現実です。
ここで今、すべての上場企業の社長が理解すべきキーワードが「ゼロトラスト(Zero Trust)」です。
これは単なるセキュリティ技術ではなく、「経営の前提条件を変える思想」です。
1. ゼロトラストとは「社内を信用しない設計」
これまでの企業システムは「社内は安全、社外は危険」という前提で作られてきました。
VPNで社内に入れば、あとは信頼され、自由にアクセスできる構造です。
しかしこの構造では、一度侵入されたら全てが見えるという致命的な弱点があります。
ゼロトラストとは、その逆を行く思想です。
「誰であっても、どこからアクセスしても、毎回本人確認をし、
最小限の権限だけを与える」
という原則を貫く設計思想です。
「信頼から設計する」のではなく、「常に疑う設計」に変える。
それがゼロトラストです。
2. 経営の視点で言い換えると「境界をなくす再設計」
ゼロトラストを経営的に言い換えれば、境界のない経営システムです。
従来の防御は「社内ネットワーク」という"城の壁"を築くものでした。
ところが今や社員は自宅や出張先から働き、取引先とクラウド上でデータを共有します。
クラウド・SaaS・API連携で、企業のシステムは"壁の外"まで拡がっているのです。
つまり、もはや「社内」という境界は存在しない。
だからこそ「壁を厚くする防御」ではなく、
「人・端末・データごとに信頼を確認する防御」へ変えなければなりません。
3. ゼロトラストの三本柱
経営者が押さえるべきは、技術用語ではなく設計原則です。
ゼロトラストには三つの柱があります。
| 柱 | 意味 | 目的 |
|---|---|---|
| ① 身元を常に確認する | ID+多要素認証(MFA) | なりすまし防止 |
| ② 権限を最小化する | 必要なデータだけアクセス | 横展開を防ぐ |
| ③ 振る舞いを監視する | 不審な操作を常時検知 | 侵入後の拡散を阻止 |
特定の製品を導入することではなく、この原則を全社のIT運用・クラウド設計に貫くことが目的です。
参考投稿:
あまりに多すぎるランサムウェア被害「VPNからの侵入」を経営者向け解説。対策はゼロトラストVPN
4. アスクル事案が示した教訓
アスクルの被害では、「社内VPNやRDP経由でアクセスできたサーバ」が突破口になった可能性があります。
攻撃者は内部に入った後、Active Directory(社内IDの管理台帳)を奪い、
全システムに"正規ユーザーとして"侵入しました。
つまり、「侵入を前提にしていなかった」ことが最大のリスクでした。
ゼロトラストの視点で見れば、
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侵入されても拡散を防ぐ
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どの端末・誰・どのデータが触られたかを追跡できる
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重要システムは隔離して守る
この仕組みが整っていれば、被害範囲は最小化できたはずです。
5. 社長が今すぐやるべき三つのこと
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「社内は安全」という言葉を禁句にする
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経営会議で「社内ネットワークだから大丈夫」という発言を聞いたら止める。
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それがゼロトラスト経営の第一歩です。
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「人・データ・端末」の棚卸しを指示する
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どこに何のデータがあり、誰がどこからアクセスできるか。
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この実態把握こそがゼロトラストの出発点です。
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CIO・CSIRTに「再侵入されても止められる設計」を命じる
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完璧な防御は不可能です。
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「侵入されてもビジネスを止めない」設計思想に転換すること。
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これがDX時代のリスクマネジメントです。
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CSIRT = 社内の危機対応チーム。Computer Security Incident Response Team
参考投稿:
【ランサムウェア対策】全社必読。インシデント(ランサムウェア事案)発生前に平時から準備しておくべきこと
6. DXの本質は「守りながら動かす」
DXを推進すればするほど、業務はクラウド化し、社外接続が増えます。
「攻めのDX」には、必ず「守りのDX」がセットで必要です。
ゼロトラストはその"守りの骨格"です。
DXの成功とは、スピードを上げながらも、
サイバー攻撃で止まらない企業体質を作ること。
それが、次の時代の「強い上場企業」の条件になるでしょう。
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アサヒグループやアスクルが被害に遭っているランサムウェアは、犯罪集団の手口が高度化しており、多くの上場企業が潜在ターゲットになっています。従来サイバーセキュリティはCIO/情報システム部門が管掌していましたが、アサヒに見るように全社規模の営業損失になりかねないことから、対策には経営者の意思決定が不可欠になっています。
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