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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

Knight Foundationの研究(2) - データジャーナリズムが職を生む

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Knight Foundationが優先順位の高い投資対象としている領域に「ジャーナリズムのイノベーション」があります。これにはいわゆる「データジャーナリズム」が含まれます。

データジャーナリズムは、ご存じのようにオープンデータを1つの有力な素材として取り扱います。しかし、オープンデータを使って何らかの事実を報道するもののみがデータジャーナリズムかと言うと、そうではないようです。「データジャーナリズム」という言葉の隣接領域には「デジタルジャーナリズム」という言葉もあり、ほかにもデジタル環境で報道をする企業・団体を「デジタル・ニュース・オーガニゼーション」、「デジタル・ニュース・アウトレット」と呼ぶことがあります。総じて「テクノロジーを活用した新世代のジャーナリズム」が出現していると言っていいでしょう。Knight Foundationはその中で小さく光る原石に投資をしていると考えれば間違いないと思います。当ブログではそれらを総称する言葉として「デジタルジャーナリズム」を用います。

■データジャーナリズムとは何か?

データジャーナリズムとは何か?を考える際には、次のような思考・背景を考慮に入れる必要がありそうです。

  1. 政府・自治体がデータをオープンにする時代に入ってきて、ジャーナリストが利用できるデータが飛躍的に増えた。何らかのツールを使って解析、可視化してみると、これまでに認識されていなかった新たな傾向、事実がわかることがある。そのうち、メディアで報じて意味があるものについては、どしどし記事にすべきだ。
  2. 狭義のオープンデータ以外にもネットには膨大な量のウェブページ、PDFなどの文書、SNSのメッセージ、セマンティックウェブなどが蓄積されている。これらもいわば「オープンになったデータ」として取り扱うことができる。これらを解析して新しい事実を発見し、報道することも一種のジャーナリズムであると言える。
  3. ジャーナリストが必ずしも膨大な量のデータを解析できるノウハウを持っているとは限らない。ジャーナリストが使いやすいように、オープンデータやネット上のデータ蓄積を解析・可視化し、記事の中で取り扱いやすいように加工するツールを提供することも、データジャーナリズムの中に含まれる専門的な職能である。
  4. デジタルジャーナリズムが1つのうねりを作り出すなかで、既存の新聞・雑誌・ニュースサイト、ウェブマガジンなどが依拠してきた事業モデルとは異なる、新しいタイプの事業モデルが出現してくる可能性がある。そうした新しい事業モデルの育成に関わることも、デジタルジャーナリズムの成立には欠かせない。

ということで、Kight Foundationでは、以上のような動きに関わるものに毎年30億円以上の投資を行っています。(一昨日上げたブログでは1年に2〜3億円と記しましたが、誤りでした。)

データジャーナリズムとは、一言で言えば、現在活用が可能になっているデジタル環境のデータを専門ツールの助けを借りて、収集、解析、可視化、マッピング、インタラクティブ化することにより、新しい事実を発見し、それを読者に伝える報道活動、ということになります。

■データジャーナリズムにはツールが欠かせない

Knight Foundationが過去に投資したデジタルジャーナリズム関係のプロジェクトには以下があります。いずれもこの領域では、一世代前の定番ツールという位置づけになっているもの(ということは、その後に新世代のツール群が出現しているということです)。

CityTracking
データを地図上にマッピングし、可視化して、記事に埋め込める形にするツール。オープンソース。サンフランシスコのウェブ開発会社Stamenが開発。

DocumentCloud
(リンク先はKnight Foundationの紹介ページ。本体サイトはこちら
報道機関が入手した公的文書等をアップロードすることで、膨大なテキスト中の「意味」の相互関係の分析ができるようになる(プラットフォームとして意味分析ツールのCalaisを使用)。また人名や出来事について時系列で分析するといった機能もある。アップロードされた文書を報道関係者同士でシェアすることで、調査取材活動のコラボレイティブなレバレッジが期待できる。当初、2人の個人(Ted HanとLauren Grandestaff)が開発していたが、Knight Foundationの投資を得て機能を拡充し、現在は、調査報道を行うNPO Investigative Reporters and Editorsに所属。

Overview
(リンク先はKnight Foundationの紹介ページ。本体サイトはこちら
一言で言えば、大量のテキストデータのスキャンリーディングを可能にするツール。アップロードした文書(PDF等)、SNSのメッセージデータ、エクセルファイルなどから有意なキーワード群を抽出し、相互の文書の関係を可視化する。ユーザーは鍵となる文書にドリルダウンできる。オープンソース開発プロジェクト。

Ushahidi
(リンク先はKnight Foundationの紹介ページ。本体サイトはこちら
地図上でマッピング、可視化、タイムラインの生成が簡単にできるツール。オープンソース。オープンデータムーブメントに積極的なケニヤに拠点を置くUshahidi社が開発。

TimelineJS
歴史的な出来事に関する表形式のデータをアップロードすると、インタラクティブな年表が制作され、ウェブページに埋め込めるようになる。写真、動画などをリンクさせることも用意。

これらの機能を読むと、Knight Foundationが支援しているデータジャーナリズムがどのようなものが、おぼろげながらわかってきます。データジャーナリズムにはこのようなツール類が欠かせないということであり、ひいては、こうしたツール類の操作の習熟も必要ということになってきます。無論、その前段階として、ネット上の膨大なデータをジャーナリストが欲する形で分析・加工できるツールを開発する開発者コミュニティが不可欠です。

■新たな雇用が生まれているメディア

こうしたデータジャーナリズムから少し視点を広げて、データを駆使した新しいタイプのメディアとして捉えると、それらが新しい経済の動きを作り上げつつあるということを米国の調査会社Pew Research Centerが伝えています。レポート"State of the News Media 2014"によると、過去3年以内にネットで開設されたニュース系サイトが5,000人規模の新たな専門職を生んだとのことです。
ここで挙げられている代表的なニュースサイトには以下があります。

BuzzFeed
一言で言えば、FacebookやTwitterでネタとして引用されやすいキャッチーなタイトルのオリジナル記事を多数アップするニュースサイト。170名のニューススタッフを擁し、最近では、ウォールストリートジャーナルなどに在籍、ピュリツァー賞受賞者でもあるMark Schoofsも参画。

Mashable
社内スタッフが既存メディアからピックアップした記事を更新するほか、独自制作の記事もアップ。元ニューヨークタイムズassistant managing editorを務めたJim Robertsがチーフコンテンツオフィサーに就任。

Vox Media
複数のニュース系サイトを運営。ざっと見てみると、広告媒体として価値が高くなるようなジャンル設定、対象設定を行っている。ワシントンポストに在籍していたEzra Kleinが参画。

同レポートによると、こうしたニュースサイト群が過去3年のうちに5,000人規模の専門職の雇用を生んだとのこと。10名単位の雇用創出のため日本の地方自治体が大変な思いをしているのを知っている者としては、これは見逃すことのできない経済のうねりです。昨年夏のジェフ・ベゾスによるワシントンポスト買収も、こうした流れの中にある1つの現象として位置づけられるとのこと(つまりはデータジャーナリズム周辺の産業集積が登場する可能性がある)。

従来の報道の概念からすれば、多少首をかしげるコンテンツを配信している例もあります。しかし、読者が新しくなっていること、ライフスタイルが日常的にスマホを使うものになりつつあること、ソーシャルメディアが無視できないメディア状況になりつつあることを考慮すると、こうした動きがdisruptiveなイノベーションということになっていくのかも知れません。

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