オルタナティブ・ブログ > インフラコモンズ今泉の多方面ブログ >

株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

Knight Foundationの研究(1) - なぜオープンデータに投資するのか?

»

仕事でオープンデータの周辺を調べる機会がありました。色々とおもしろいことがわかってきたので、しばらくこの周辺でメモ書き程度のものをアップして行こうと思います。
オープンデータ/オープンガバメントは社会的インフラに関わる動きですし、それらを包含するシビックテクノロジーもある意味で都市のインフラスづくり(目に見えないものを含めて)というところもあるので、弊ブログで取り扱う意味があると考えています。

オープンデータの周辺を色々調べてみてすぐに気づくのは、Knight Foundation(ナイト財団)という基金の投資活動がやたらと目立つということです。「Knight News Challenge」という投資案件公募を年に1回程度行っていて、非常にユニークな活動や企業に数百万円〜数千万円程度の投資を行っています。選定された例には、米国国勢調査局の2010年の国勢調査結果(オープンデータとして公開されている)をジャーナリストの目線で使いやすくしたCensus.IRE.org、政府や自治体の担当者が自分たちの組織の中にあるオープンデータを簡単にパブリッシュできるようにしたGitMachines、古くからある報道系のラジオ番組などの音声コンテンツを検索可能な”オープンデータ”としてシェアする試みPop Up Archiveなどがあります(リンク先はいずれもKnight Foundation内の投資先紹介ページ)。Knight Foundationは別にオープンデータだけを盛り上げようとしている基金ではなく、もっと大枠のミッションがあって、それの実現のためにはオープンデータの活用も不可欠だから、結果的にオープンデータ関連の個人、活動、企業が選ばれるという流れになっています。

投資活動として見ると、一般的なベンチャー企業への投資は、ゆくゆく株式公開をするとか企業を売却するといったエグジットを想定して行われるのが通例ですが、Knight Foundationの投資活動はそれとは一線を画すようです。投資先に選定された活動・企業は、将来的に株式公開を狙っているわけではなく、大きな市場を作り上げてたくさんの顧客を獲得して、大きな配当を株主にもたらす、というものではなさそうなのです。

それよりも、ジャーナリストにとって「あれば便利」というツールのようなものだったり、政府・自治体のオープンデータ担当者にとっては「泣きが入るほどうれしい」という仮想サーバーだったりします。Pop Up Archiveは本当に不思議なサービスで(動画参照)、「報道系ラジオ番組を長年作ってきてテープやディスク類にたくさんの番組の録音が入っているのだけれど、これ何とかならないかしら?」という生の声に応えて、音声コンテンツをアップロード&シェアできるようにしたという、親切のかたまりのようなサービスです。いずれも商売っ気はない。そうしたものにKnight Foundastionは投資をしている。これはどういうこのなのでしょうか?

■情報がよく行き渡り、参加型の社会を形作るために投資する

彼らのミッションは次のように謳われています。

Knight Foundation supports transformational ideas that promote quality journalism, advance media innovation, engage communities and foster the arts. We believe that democracy thrives when people and communities are informed and engaged.

骨太の概念に関して記している文章なので、なかなかこなれた日本語になりにくいですが、あえて訳すと次のようになるでしょうか。

Knight Foundationは良質のジャーナリズム、先端メディアのイノベーション、参加型のコミュニティ、芸術の発展に寄与するトランスフォーメーショナルなアイディアを支援する。われわれは、人々やコミュニティに十分な情報が行き渡り、参加可能なものになった時に初めて、デモクラシーが成熟すると考えている。

この中で同基金の支援の主対象である「トランスフォーメーショナルなアイディア」。これがこなれた日本語になりません。カタカナで行っちゃっていいのではないかと思います。「変革を推進する思想」といった日本語に置き換えてしまっても、彼らの見ているものとはズレが生じる感じがします。Knight Foundationが見ているのは「トランスフォーメーション」であると。それは、社会の、人々の、コミュニティのトランスフォーメーションである。昔の言葉で言えば、一種の革命のようなものを見ている。そういうある種の革命を推進するアイディア…思いつきから始まって人に便利と思ってもらえるツールを開発する行為等々…を同基金は支援する。そういうことのようです。

日本で言えば、財団法人や社団法人が掲げている社会貢献の理念。そうしたものの中でも、デジタルで、ネットで使えるもので、コミュニティの中の目に見えない富の醸成に関わるもので、政治や行政と市民のバランスが取れるもので…といったものを見ている。その延長に投資活動がある。そういう存在のようです。

オープンデータは、Knight Foundationが"Civic Tech"(シビックテクノロジー)と呼んでいるもの(ちなみに2011年から昨年に至るまでシビックテクノロジーには430億円が投資されたという報告書を同基金が出しています)、上で言えば、社会のトランスフォーメーションを推進するためのテクノロジー群が、5ジャンルあるうちの「ガバメントデータ」や「コラボレイティブ消費」に関わっています。ガバメントデータやコラボレイティブ消費を推進するには、データをオープンにする行為が欠かせない。そういうロジックです。

従って、データをオープンにすることが目的になっているのではなく、データをオープンにすることで得られる利得が同基金のミッション、社会のトランスフォーメーションを推進するものであるからオープンデータに積極的に関わる、そういう背景になっています。
こういう活動が、情報がよく行き渡り、参加型の社会を形作っていくと信じているのです。

同基金は1年に1度程度、数件の投資先を選定し、合計で2億円〜3億円程度の投資を行います。同基金は毎年複数の団体、企業、プロジェクトに対して30億円の投資を行います。非常にユニークな投資活動だと言うことができるでしょう。

Comment(2)