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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

東京都がハノイで水道事業を受託

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東京都がベトナムの首都ハノイで水事業を始めることが発表されました。

日経:東京都、ベトナムで水ビジネス 浄水場建設や管理担う
猪瀬直樹ブログ:東京水道 ベトナム・ハノイで事業を。国際フォーラムで水道アジア大会

記事から主な事項を拾うと。
・来年度にもハノイ市内に大型浄水場を建設。
・現地企業などと年度内に合弁会社を設立。資本金の過半をハノイ市水道公社と現地ゼネコンが出資。残りをメタウォーター、東京都の第三セクター・東京水道サービスが出資。JICAも出資を検討中。
・新会社は完成後の管理運営も担当。日量15万トンの供給からスタートし、2020年をメドに30万トンに増強。
・建設費は100〜200億円。2〜3割を合弁会社が負担し、残りをJICAが融資。

この記事だけから判断すると、競争入札によるPPPというスキームではなく、ハノイ市政府の随意契約を新合弁会社が設立するSPC(プロジェクトファイナンスの受け皿となる特別目的会社)が受注するというスキームのようです。同市政府が合意しているなら随意契約でもよいわけですね。
また、これも日本政府の言う「パッケージ型インフラ輸出」に該当するため、すでに用意されている支援策(JBICやJICAによる出融資)の対象になります。

自治体の水道事業が日本のメーカーと連携して海外の水事業を受注した先進的な事例と言えるでしょう。よろこばしいことだと思います。

■現地水道公社から得られる料金水準がカギ

現実的な面から、この案件が事業として成立するためのポイントを確認しておくと以下があります。

・新合弁会社が設立するSPCにおいて、ハノイ水道公社に提案する料金の設定がJICAによる融資の基準を満たす程度に採算の見込めるものであるかどうか。(20年操業のIRRで8%を超えるか等)
・その料金設定にメタウォーターが納入する予定の機器、設備等の投資回収をしっかりと織り込めるかどうか。
・ハノイ水道公社がSPCに支払う料金は、ハノイ水道公社がエンドユーザーから徴集している水道料金の体系から見て、逆ざやになる性格のものかどうか。(逆ざやだとすれば、その逆ざやはどのようにファイナンスされるのか?)

新興国の水道事業は、収入の大元であるエンドユーザーから徴集できる水道料金が現地の所得水準に応じたものになるという大原則があります。外国製の高価な設備を導入する場合、少なからぬケースで、その設備の投資回収をしっかり行おうと思えば、SPCが現地水道公社に請求する大口売水料金が、現地水道公社から見れば逆ざやになるということが起こり得ます。現地水道公社と現地地方政府がこれをよしとすれば問題がないわけですが、長期的には赤字を累積させる構造が残るので、それにどう対処するかが問題になるのです。

こちらで書いたインド・チェンマイの海水淡水化事業のケースでは、チェンマイ市政府系の水道公社(チェンナイ・メトロポリタン上下水道協議会)が、エンドユーザーに請求する水道料金よりも高い水準で淡水化事業者から買水しています。

こういう図式がある場合、受注したSPCから見れば、現地水道公社が赤字になるならないは関知するところではないのですが、まれに水道公営企業が累積した赤字により支払いをストップする事態に至ることがあり、そこのリスクが担保される必要があります。

インドネシア政府が整備したPPP制度では、その種のリスクをカバーする仕組みとして、Indonesia Infrastructure Guarantee Fundが設立され、SPCは若干の保証料を支払うことで万一の際には保証が受けられます(支払いをストップした公社に成り代わってIIGFが支払う)。プロジェクトファイナンスによって融資を行う銀行は、そうした保証がないと、そのプロジェクトに貸さないという現実もあります。

新興国で展開する公益事業は、どこまで行っても、高い機器・設備ではペイしないという図式が残り、そこのファイナンスを誰がどのような形で負うかが課題になります(上のチェンマイのケースでは現地水道公社がそれを負う)。逆に言えば、新興国向けの安い機器・設備が現地生産で調達できるなら、その課題が克服できます。

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