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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

関西経済連合会の意見書からわかった海外水インフラPPPの進出に必要な条件

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去る5月18日に関西経済連合会が出した意見書「PPPによる環境・インフラビジネス海外展開支援強化に関する提言」および関連の報道により、以下のことが明らかになりました。これは、日本の自治体水道事業者や日本のメーカーが海外の水事業に進出するにあたって重要な「進出モデル」確立に大きな意味があるかも知れません。

大阪市水道局は、関西地区の水関連企業(東洋エンジニアリング、パナソニック環境エンジニアリング、関西経済連合会)と連携し、2009年11月からNEDOの予算を得て、2フェーズにわたる上水道事業のフィージビリティスタディ(FS)を進めていました。
それによりホーチミンでは都市の成長に水インフラの整備が追い付いておらず、関西で培ってきた官民の技術・ノウハウがその解決に貢献できることがわかりました。大阪市水道局は、ホーチミン市サイゴン水道総公社に対して大阪市の配水コントロールシステムをモデル地区に構築することを提案し、理解を得ています。FSにより具体的な展開の姿が把握でき、連携している企業とともに、まずはパイロット事業ができる段階に到達したということになります。

上記意見書は、パイロット事業の先の本格事業に進むために必要な諸事項を政府、および国交省、経産省、内閣府、外務省などの関連省庁に向けて要請しているものです。

主な要請項目を、それぞれ背景に関する補足とともに挙げます。

 本年3月には「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)の一部を改正する法律案」が閣議決定され、上下水道事業など 14分野を対象に、事業運営権を民間に売却し経営を委託するコンセッション方式の導入や国および地方公共団体の職員を民間に派遣することが可能となる配慮規定が盛り込まれた。
 中略 民間企業と地方公共団体が、海外においてもそれぞれの「強み」を活かしながら官民連携による事業展開が進められるよう、国においては公務員の身分・処遇を含む「自治体海外展開推進ガイドライン(仮称)」の作成を望む。

これは、現在国会にかけられているPFI法改正案において、官民連携案件において従来公共施設の管理に携わっていた公務員が官民連携事業スタート後も公務員の身分を保持したまま民間に出向できるよう条項が盛り込まれたことを意識しながら、それと同じことが、自治体による水事業等の海外進出においても可能になるように、政府にガイドラインの作成を求めているものです。
自治体の水道局や下水道事業体の担当者が民間企業と作るコンソーシアムに参加して、実際に海外で長い年限にわたる運営事業に就くには、要請されているガイドラインは不可欠と言えます。これがなければ担当の方は海外水事業を任ぜられても行けないでしょう。大事なポイントです。

 …事業化への移行を睨み、技術的な課題等の解決に加えて、長期的な維持・運営の主体や手法の決定等、さらに詳細な調査を実施し、土地収用や課金・集金のシステム、現地通貨(ドン)建ての事業収入のなかで10年、20年にわたる長期の為替リスクに耐えるために必要な投融資のあり方や、官によるセーフティネットのあり方などの課題を解決していかなければならない。
 中略 併せて、相手国政府・地方政府に対し、水道料金体系の整備やPPPに係る役割・責任分担の明確化といった事業環境整備・改善の働きかけを強く期待する。

これについては、かなり推測が入りますが、次のようなことではないかと考えます。ベトナムではまだコンセッション方式のPPPの導入事例がほとんどなく、その概念が浸透していないため、民間企業が長期にわたる事業運営権を得て設備投資などのファイナンスを行う際に、サービス購入型で行くにせよ、独立採算型で行くにせよ、水道料金のしっかりとした徴収が根幹である、ということが現地の官僚にはなかなか理解してもらえない、よって事業の仕組みづくりが難航している、ということなのではないでしょうか。
インドなどの上水道発展途上国でも例がありますが、現状、水道料収入が発生しない、いわゆる無収の状態が多く見られる国では、無収率を下げていくのに、水道当局側のマインドと利用者側のマインドの双方を変えていく必要があります。そして無収率を下げるための具体的な制度(盗水の罰則強化等)に落とし込まなければなりません。そこの部分で政府の支援が欲しいということなのではないかと推察します。この部分は、進出する自治体水道局および民間企業側から見れば、先進国や国連系機関が支援してしかるべきものと映ることは確かです。事業の前提となる制度面の改良ですから。
この、上水道発展途上国における水道料金徴収制度のてこ入れということも、日本の自治体や企業が海外の水事業に進出していく際には非常に重要です。これがしっかりしていることにより、設備投資にかける資金のファイナンスも具体化しやすくなります。

 海外の環境・インフラビジネスにおいては、事業収入が現地通貨建てとなり、また、設備投資もローカルコスト(現地通貨建て部分)が大きいケースが多い。このため、事業主体が必要資金を円やドルなどの外貨建てで調達した場合は為替変動リスクが大きくなる。かかる事情を背景に、必要資金の調達に際し、現地通貨建ての借り入れニーズは高い。
 また、インフラビジネスは初期投下資金を料金徴収によって回収することから、コンセッション契約等の契約期間が15~30年という長期間に及ぶことが多く、長期の資金借り入れニーズが高い。
 こうしたことから、昨年12月のパッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合で打ち出されたJICAの海外投融資の再開については、パイロット事業アプローチを早期に完了し、本格的な再開と十分な規模の確保を強く望む。併せて、現地通貨建てによる支援の導入、および公共性の高い環境・インフラ事業への融資条件緩和など、プロジェクトリスクの軽減に向けた支援を強化してもらいたい。
 また、株式会社日本政策金融公庫国際協力銀行(JBIC)についても、一部通貨に限られている現地通貨建てのファイナンスの拡大を望む。

これも海外事業の実現にあたっては非常に現実的かつクリティカルな要請だと思います。海外インフラ事業では、巨額の初期投資の調達と長期にわたる現地通貨による収入という2つの側面から、為替の部分に策を講じる必要があります。通例、現地国政府と為替リスク緩和に関する合意を作って対処しますが、相手側にその認識が薄いと次善の方策を用意せざるを得ません。すなわち、JICAなどによるクッション的なファイナンスが求められるということです。
また、JICAでは、パッケージ型インフラ輸出政策の一環で海外投融資が再開されましたが、対象は発展途上国の貧困解消プロジェクトという趣旨の条件付きです。その条件をはずして、商業性のある本格的なプロジェクトにおいても、JICAの投融資が使えるようにとの要望です。これも自治体および日本の企業が発展途上国の水道事業に参入する際に、非常に重要な要素だと思います。

この他、意見書では、相手国での人材育成への支援などを要請しています。

この関西経済連合会の意見書は、地方自治体の水道局と民間企業とが連携して、特に発展途上国の水事業に参入していく際に、何が必要になるかを示していると思います。政府においては、水事業の海外展開を新成長戦略の柱の1つに据えており、その現実面への対応ということで、こうした要請にしっかりと向き合っていく必要があると思います。それによって、自治体の水道事業体+民間企業による海外進出のモデルが確立していくでしょう。

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追記。
「世界の水事情」さんで書かせていただいた以下の記事が、新興国の上水道の現状を理解する際に参考になるかと思います。

インド・チェンナイの海水淡水化PPP事例

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