興味深い大阪府の「泉北ニュータウン再生」と「関空リニア」へのPPP/PFI活用
後記:「関空アクセス」→「関空リニア」にタイトルを改めました。
改正PFI法が成立したことで、自治体が取り組む都市再生、エネルギー事業、鉄道や上下水道などのインフラ事業において、民間企業の参画の余地が拡大しそうな気運があります。具体的には、2つの側面で民間企業のノウハウの活用が期待されます。
■マスタープランに民間企業が参画することでROIが高まる
1つは、マスタープラン作成の段階から民間企業が参画することで、実際に収益を上げられるポイントの多いプロジェクトとして具体化することができるようになります。例えば、スマートコミュニティ事業であれば、賃貸料、電熱併給サービス料、売電収入など収益事業を複数組み合わせるといった具合です。これによりROI(Return on Investment、投資収益得率)の高いプロジェクトとなり、民間企業側の取り組み意欲も増すほか、関連の雇用増も期待でき、さらには何らかの形で自治体の財政を潤すことになります。固定資産税の税収増、改正PFI法の下で可能になるコンセッションフィーの徴収などです。
マスタープラン作りを一緒に行う民間のパートナーがまだ存在しない自治体では、ラフな提案の公募を行えばよいのではないかと思います。
■国際標準のプロジェクトファイナンスで資金調達が現実味を帯びる
もう1つは、従来の枠組みであれば自治体が地方債発行などによって手当をしなければいけなかったプロジェクトの事業費を、民間側の調達に委ねることができるということです。欧米や中東、最近ではアジア諸国でも公共性の高いインフラ事業においてPPPが活発に行われており、数百億円から数千億円のファイナンスを受注コンソーシアムがプロジェクトファイナンスによって行う枠組みが、いわば国際標準形として確立しています。日本では、昨年オープンした羽田空港国際線ターミナルの関連事業においてこの枠組みが使われました。
改正PFI法が成立したことで、自治体が土地などの実物資産を保有したままで、無形の営業権を「コンセッション」として受注企業に与えることができるようになり、国際標準形のプロジェクトファイナンスによる資金調達が可能になりました。受注企業はプロジェクト運営に特化した特別目的会社を作り、そこに営業権、新設インフラ設備、営業活動を集約し、得られたキャッシュフローによってプロジェクトファイナンスの返済をします。
レンダー(貸し手)から見れば、15年〜20年といった長期にわたって返済原資となるキャッシュフローが得られる事業であり、国際標準に則ったデューデリジェンスを経て問題ないと判断されれば、その事業に貸せます。いわゆるバンカブルな案件ということになります。貸出の大前提は安定的にキャッシュフローを生む力であり、それが求められる点が従来型の公共事業とは異なります(→完工して終わりというのではなく、完工後15〜20年キャッシュフローを生み続ける収益事業であるかどうかが貸出判断のポイントとなります。従って、プロジェクトを企画する側はキャッシュフローを生める収益事業の仕組み作りに意を凝らす必要があります→その部分において民間企業からの提案が大きな意味を持ちます)。プロジェクトの収益性の目安は、こちらの投稿にある図にあるように、PFI系ではプロジェクトのIRRが9〜14%ということになっています。営業年数は20年が標準と言えるでしょう。
こういう国際標準的な収益性が組み込まれている事業であれば、日本の三菱東京UFJ、三井住友、みずほのいずれも国際プロジェクトファイナンス界では大手プレイヤーなので、貸出ノウハウもあり、資金量も潤沢であることから、融資には前向きだと思われます。すなわち、ファイナンスも成立する可能性があります。
■国交省が先導的案件を募集
このように環境が整ってきたことから、今後は全国の様々な自治体においてPPP/PFI案件が動き出すことが予想されます。ただ、それ以前に通り抜けなければならない関門が、こうした新しいタイプの官民連携事業に取り組むためのノウハウの蓄積です。
国交省ではそれに関する措置ということで、「PPP/PFIの推進のための案件募集」を今年5月に行いました。募集対象は主には自治体、一部で自治体・民間企業共同ないし民間企業のみの応募を認めています。国交省では先導的な案件に準備作業の費用を助成することで、各自治体におけるノウハウの獲得と他の自治体への波及効果を狙っています。
6月下旬に締め切られた募集には多数の応募があったようで、結果は8月中に発表される予定です。
■大阪府の意欲的な応募内容
大阪府ではこの募集に応募した内容を公開しています。
大阪府:[政策企画部] 国土交通省「新たなPPP/PFI事業」大阪府からの応募について
添付資料のPDFを見ると7つのプロジェクトの概要がわかりますが、これが非常に興味深いです。なかでも注目したいのが、「新たな官民連携による泉北ニュータウンの再生」と「鉄道整備に係る民間資金の活用等に関する調査」です。
「泉北ニュータウン」の方は、高度成長期に開発されたニュータウンを一種のコンパクトシティとして甦らせようというプロジェクトです。泉北地区に分散して建つ老朽化した公営住宅、公社住宅、UR住宅を建て替えて集約し、併せて共有区域を再開発します。現在はこの素案レベルに留まりますが、これをマスタープランに発展させるための準備作業に国交省の助成金を活用します。
類似した課題を持っているニュータウンは全国に複数ありそうで、日本のスマートシティ/スマートコミュニティの1つのモデルにもなりそうなポテンシャルを持っていると思います。
「鉄道整備」の方は、以前に弊ブログで取り上げた関西国際空港への新しいアクセス「関空リニア」の実現を念頭に置いたものです。
応募の内容を見ると、単線の場合で3,000億円、複線の場合で6,500億円と想定されている関空リニア総事業費について、官民連携を使ったファイナンスの枠組みにどのようなものがあるか、さらには、参画民間企業への受益の還元方策にどのようなものがあるか、この2点を見極めることに焦点がある調査だということがわかります。諸外国で活発になりつつある民間資本による都市交通整備に大阪府も取り組もうとしているわけで、1つのモデルとして確立されれば、他の多くの案件に道を開くこととなります。
「第二京阪沿道まちづくりにおけるTIF制度の活用」に盛り込まれている「TIF制度」は"Tax Increment Finance"(将来における固定資産税の増加額を償還原資とする資金調達)の略で、これはこれでまた非常に興味深い側面を持っているのですが、それについては後日に譲ります。