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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[メモ] 風力発電事業を始める際に制約になる連系可能量について

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先日もこの関連で少し書きましたが、改めてまとめておきます。

各電力会社の系統には、連系可能量と言って、風力発電所を系統につなげられる限界量があります。(系統が大きい東京電力、中部電力、関西電力の3社は例外です。)

それに関して先日、北海道電力は固定価格買取制度が始まっても同管内では風力発電所の新設を認めない方針であるという報道がありました。こちらの北海道新聞のニュースを参照

これはけっこう問題ですね。日本でもっとも風力発電に適している北海道において、そのポテンシャルを生かすことができません。北海道で風力発電事業を始めたいと考えていた事業者にとっても残念なニュースです。

これとほぼ同じ状況が東北電力にもあります。さらには、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力にもあります。

■短周期の変動にはガバナ制御で自動対応

ほとんどの電力会社では風力発電を系統につなげられる上限(すなわち連系可能量)を総発電容量の5%程度で設定しています。系統に風力発電を接続した際には、系統側で風力発電の出力変動を吸収しなければなりませんが、そのようにして対処できる量には上限があるからです。

(そもそもの前提として、電力は常に消費量と同じ量の発電を行わなければいけないという、いわゆる同時同量ということがあります。風力発電の出力が大きくなると、その分どこかの発電機で出力を減らして、その時の電力消費量に合致させなければなりません。風力発電の出力が小さくなると、その分どこかの発電機で出力を上げて、その時の電力消費量に合致させます。それを短い時間サイクルでも長い時間サイクルでも常時行います。系統を運用する電力会社から見ると、風力発電は事前に出力が予測ができない電源であり、出力変動に常に受身でしか対処できないという現実があります。一方、電力会社の電力供給は毎日綿密な供給計画を立て、先手先手で動くのが普通です。風まかせのところがある風力に後手で対処すると供給計画が狂ってしまいますから、後手で対処しなくても済むレベル=連系可能量まで落とさざるを得ないわけです。)

風力発電の出力変動は周期が10秒程度から2分程度までの短周期と、2分程度から20分程度までの長周期に分かれます。
短周期の出力変動については、火力発電所などのガバナ制御と呼ばれる一種の自動対応で調整します。この自動対応で調整できる量には限界があります。
また、長周期の出力変動については、LFC(Load Frequency Control)と呼ばれる、こまめに出力を変えられる火力発電機(最近ではガスタービン発電機)の出力を中央給電司令所の指示で上げたり下げたりして対応します。これにも調整できる量には限界があります。

■「下げしろ」を上回る風力発電は接続できない

風力発電で特に問題になるのは、電力消費量が著しく減る深夜において、ごんごん強い風が吹いて風力の発電量が多くなるケースです。この時、風力発電所から系統に大量の電力が入ってくると、上記LFCに対応したガスタービン発電機はその分の出力を機敏に絞って、同時同量を達成しなければいけません。絞って対処できる量を「下げしろ」と呼んでいます。

この下げしろを超えて風力発電の電力が系統に流れ込んでくると、周波数が上昇し、大変なことになってしまいます。そのため、風力発電の全体量が下げしろで対応できる量に収まるように、電力会社は策を講じます。すなわち、電力会社は「連系可能量」というものを設定し、管内で接続できる風力発電の総量を外部に公開して、そこまでなら接続できますよと、以下のように公募(抽選)で風力発電事業者を選んでいます。

北海道電力:「風力発電事業者募集(募集量5万kW)」における実施案件の決定について(2010年4月)
東北電力:平成22年度風力発電募集説明会の開催について(2010年10月)
北陸電力:大規模風力発電募集概要(2009年4月)
中国電力:平成21年度風力発電連系募集説明会の実施について(2009年2月)
四国電力:風力発電の系統連系可能量見直しに伴う募集説明会の開催について(2009年1月)
九州電力:平成22年度風力発電系統連系受付に関する説明会の概要について(2010年5月)

ほとんどの電力会社ではこの枠がほぼ埋まってしまっているようです。

先日のダイヤモンドで連系可能量に関する記事が出ました。そこで掲げられていた表ではこれらの電力会社の連系可能量にまだ空きがあるように解釈できます。しかし、風力発電の連系可能量では「導入実績」以外に、すでに各社から風力連系枠をもらっている事業者でまだ建設に至っていないケースが相当量あり、それを含めると、ほとんどの電力会社では枠がいっぱいのようです。

結果として、北海道電力、東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力では、新規の風力発電事業がほとんどできないという状況になっています。発電事業に参入しようとしている事業者からすれば、大きな問題ですね。

この問題を解決できるものとして、いわゆる「出力一定制御型風力発電」があります。蓄電池と組み合わせて出力変動をコントロールするタイプですが、それについては機会を改めて書きます。

■補足1

東京電力、中部電力、関西電力は、総発電容量が大きく、従って下げしろも相当にあるようで、連系可能量に言及していません。現実的には連系可能量があるのでしょうが、今のところは無視して大丈夫ということなのでしょう。

■補足2

欧州では相当量の風力発電が稼働していますが、連系可能量という概念で風力発電事業者の参入を止めているという話は聞きません。(実際にはドイツなどでやや苦しい状況があるようで、それについてはこちらの投稿で書きました。)

欧州で連系可能量の制約がないのは、欧州の系統は国の内部でもメッシュ状で接続されており、国同士でもメッシュ状で接続されていて、「系」としてみると、風力のゆらぎを吸収できる量がきわめて大きくなっているということがあります。日本の場合、個々の電力会社で「系」が完結しており、かつ、電力会社同士の連系が弱い(連系によって送電できる量が少ない)ために、風力のゆらぎを吸収できる量が限られます。「系」の成り立ちが違うということがあるわけですね。

■補足3

太陽光発電にも出力変動があり、連系可能量のような制約があるはずですが、現状では太陽光発電の出力ゼロ→最大出力の幅が、風力発電の出力ゼロ→最大出力の幅よりもきわめて小さいため、電力会社は表立っては連系可能量的な制約について言及していません。しかし、固定価格買取制度の下で多数の太陽光発電事業者が系統への接続を求めた際にどうなるのか、課題はこれから顕在化する可能性があります。

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