再生可能エネルギーの電力があまったらどうなるのか?(近い将来の話)
日本の再生可能エネルギー発電は、水力を除くと全体に占める割合が1%しかありませんから、現時点ではひたすら増やす分別をするのが正しいと思います。その点で、再生可能エネルギー特措法による固定価格買取制度は時宜にかなったものだと言えましょう。同法の準備には数年かかっていると聞きます。
今日の日経の記事(エネルギーを問う:再生エネの比率)に出ていましたが、水力を除く再生エネの比率はドイツとスペインが12%、グラフから読み取るとイタリアが6%程度、米国が4%程度となっています。管首相がこだわる「20220年代の早い時期に20%」という目標はやや過大としても、10%程度は順当なところではないでしょうか。
ちなみに福田政権および麻生政権時代に掲げられた太陽光発電の導入目標は「2020年に2,800万kW」でした。現在の日本の総発電容量は2億2,600万kWですから、当時は太陽光だけで12%(各電力会社の発電容量増強がないとして)を目指していたということになります。
ご参考までに、EUは2008年に指令を出し、2020年までに再生可能エネルギーが最終エネルギー消費に占める割合を20%以上にすることを目標にしています。管首相の20%はこれを意識したものでしょう。
■夜中に風力がどんどん発電すると電力が余ることがある
さて。太陽光発電と風力発電には、電力需要に関係なくどんどん発電してしまうという特性があります。電力系統への接続量が無視できるほど小さいうちはよいのですが、固定価格買取制度がスタートして、太陽光や風力が大量に接続されるようになると、早晩、1つの電力会社の系統では受け入れられないぐらいの量の発電が太陽光や風力から上がってくるという問題が発生します。
極端な例ですが、1つの電力会社の管内に太陽光発電が400万kWあって、ある春の快晴の日の午後2時に管内の電力需要が250万kWしかなく、その時刻に太陽光発電がフルに動いて400万kWを発電した場合は…、150万kWがあまってしまいます。
太陽光発電の場合は、日差しが強くなる時間帯が電力需要のピークとほぼ重なりますからまだよいです。風力発電の場合はやや深刻です。固定価格買取制度により数百万kWといった大規模な風力発電の容量が出現したとします。真夜中、ほとんどの人が電気を使わない時間帯に強風が吹き、タービンが回ってどんどん発電され、最終的にその時間帯の需要を上回ってしまうと何が起こるのでしょうか?
■風力発電が盛んなドイツでは電力があまっている地域がある
欧州ではすでに大量の風力発電や太陽光発電が導入されていて、この種の問題が顕在化しています。それにどう対処しているのか、過去に経産省系の視察団が派遣されています。
2009年5月22日開催の経産省・低炭素電力供給システムに関する研究会第7回会合で報告された資料「新エネルギー大量導入と系統安定化に向けた取り組みに関する欧州現地調査報告」では、ドイツやスペインなどが大量の風力発電や太陽光発電が電力系統にもたらす問題にどう対処しているかを報告しています。
ここでは同報告書からドイツのケースを簡単に整理します。
ドイツ国内では4つの系統運用者(送電業務を担う主体)がいます。うち、大手電力会社Vattenfall系のVE-T社では管内に従来型の発電(火力や水力)が2,290万kW、風力発電が968万kWあります。全体の3割が風力発電という世界的に見ても非常に珍しい状況になっています。しかも管内の最大需要(ピーク需要)は1,100万kWに留まるため、風力がフルで発電する状況があるとすれば、すぐに供給が需要を上回ってしまいます。
ちなみにドイツでは全量固定価格買取制度がスタートしたことによって2000年頃から風力発電の導入量が急激に増え、現在では風力の総発電容量が2,720万kW(2010年)となっています。これによりドイツの電力消費の6%が発電されています。ドイツではまだまだ風力発電を増強する構えで、これから運転開始する大規模な洋上風力発電所が複数あります。現時点では国内の風力タービン数が2万1,000基あまり。
こうしたドイツの風力発電の4割以上(2007年)がVE-T社の管内にあるという状況です。従って、風が強く吹くと、すぐに風力発電の発電量がその時間帯における需要を上回ってしまいます。同報告書の記載では、需要が11,000万kWである時、従来型発電設備が950万kWを発電し、風力発電が800万kWを発電する状況があり、この時あまった650万kWはドイツ南部へ”輸出”(売電)されます。
なお欧州ではドイツに限らず各国内および各国間において送電網がいわゆるメッシュ状になっており、電力の過不足の融通や輸出入が日常的に行われています。
■あまった電力を送り届ける送電線の容量がネックに
あまった分を輸出に回せているうちは、まだよいと言えます。最近問題になっているのは、輸出先(売り先)の系統とつなぐ基幹送電線の容量に余裕がない場合には、相手に売ろうにも売れないということで、あまった電力を手近な系統にお金を払って引き受けてもらう、いわゆるカウンタートレードを行うことがあります。引き受けた系統では、管内の火力の出力を意図的に落として対応します。これなどは風力が余剰電力を発電すれば発電するほど、送電会社が損をするということになります。
さらにカウンタートレードの引き受け手が不足する場合には、最終的な手段として風力の発電にブレーキをかける、ないしは風力が発電した電力を捨てるという方策に出ます。
こうした選択をしなければならない日が、1年のうちすでに半分程度あるそうです。かなり由々しき状況です。VE-T社管内では新設の洋上風力発電がこれからいくつか接続されるため、状況はさらに厳しいものになります。
理想的には、基幹送電線でつながっているどこかの電力会社管内であまった電力を買ってもらえればよいのですが、それを行うには間をつなぐ基幹送電線の送電容量がたっぷりあることが前提です。しかし、基幹送電線はそのような用途を想定していないため、容量が不足しがちです。今から新たに大容量の送電線を建設しようとすれば多額の資金が必要となります。
再生可能エネルギー発電の先進国とも言えるドイツには、このような現実があります。
(ちなみに、ここではあまった電力を揚水発電や大規模な蓄電池に蓄電するという方策が取られていないことに注意する必要があります。日本では、先々のシナリオとして、大規模な蓄電池でこのような余剰電力を吸収する道筋が検討されています。)
■日本でも早晩取り組まざるを得ない問題
日本で風力発電や太陽光発電の電力があまる状況が出現するのはまだまだ先の話ですが、固定価格買取制度が動き始めると、さほど遠くない将来において現実のこととなるのは間違いありません。
日本では各電力会社の系統の連系形態が欧州のようにメッシュ型ではないため、あまった電力を他の電力会社に売る、ないしは引き取ってもらうという方策があまり実際的ではありません。欧州のように東西に広いエリアに生活時間帯が異なる国々が複数存在していて、ピークにずれがあるという状況がないということもあります。
とすれば、あまった電力は揚水発電ないし大型蓄電池で吸い上げるか、捨てるかということになります。揚水発電については以前に簡単に触れたことがありますが、日本には新設するための適地がほとんどないようです。
次善が大型蓄電池。系統に接続可能な大規模容量を持った大型蓄電池は、そのコストたるや膨大なものになることは間違いありません。以前に経産省系の研究会が太陽光発電を大量に接続した際に系統で必要になる蓄電池のコストを試算したことがありました。たしか日本全体で3〜4兆円だったと記憶しています。(こちらなどを参照)
蓄電池にかかる巨額の設備投資を避けるのであれば、あまった電力を捨てるという方策が残ります。正式には出力抑制と呼ばれる方策です。もったいないですが、社会が負担するコストを考えればこれが一番安いということもあり得ます。正確なところは費用便益の分析を行ってみなければわかりませんが。
日本の固定買取価格制度はいままさに始まろうとしているところですが、ゆくゆくはかなりの確度でこのような問題が発生するだろうということで記しました。再生可能エネルギーの普及にも相応のトレードオフがあります。