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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

膨大なインフラ投資機会が動き始めた大メコン圏(下)

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前投稿に引き続き、大メコン圏のインフラ開発の可能性を論じているレポート

Comprehensive Asia Development Plan(総合アジア開発計画)

を見ていきます。

■インフラ開発の影響をシミュレーション

このレポートでは、インフラ開発を効果的に進めるための理論的な枠組み(前回触れたフラグメンテーション理論)を提示し、続いて、インフラ開発の成果をシミュレーションできるモデルを紹介し、主立ったインフラ開発プロジェクトを具体化した時に周辺地域にどういう影響を及ぼすかを論じています。非常に意欲的な試みです。

例えば、ベトナムのホーチミンからタイのバンコクを通じてミャンマーのダウェーに抜け、そこから海路でインドのチェンナイに向かう"Mekong India Economic Corridor"(MIEC)では、大きなボトルネックが2つあります。

1つは、カンボジア領内のメコン川の渡河。現在はフェリーが担っていますが、ここにネアクルン(NeakLoung)橋という橋が1つかかるだけで、物流効率が増すだけでなく、周辺の製造ネットワークに好影響をもたらします。その好影響のさまがシミュレーションによってわかるのです。以下はシミュレーション結果を示す図です。数字は10年間のGDPの増減を示します。数字が1%刻みと細かいのは、この橋の効果だけを抽出して見ているためです。
なお、ネアクルン橋については、今年6月に日本政府が無償援助を決め、建設がスタートしています。

Bridge

もう1つのボトルネックが、タイのカンチャナブリからミャンマーのダウェーに抜ける道路およびダウェーから海路に出るための港です。現在ダウェーには輸出入に使える港はありません。
この区間に高速道路が敷かれ、フルスペックのコンテナ船が停泊できる深海港ができると、ホーチミンからダウェーまでが一気通貫でつながります。それによる経済効果をシミュレーションしたのが以下の図です。10年間のGDPが100%以上増加するエリアが相当に広がりを見せています。非常に大きな効果があるわけです。

Dawei

インフラ投資は通例、個別の案件ごとに収益性が吟味され、プロジェクトファイナンスの融資が下りたりインフラファンドが投資を決めます。このシミュレーションモデルでは、13カ国にまたがる1,890の道路リンク、488の海運リンク、270の航空リンクをルートとして保持し、個々のインフラ開発案件の経済効果を見ることができるほか、複数のインフラ開発案件が複合してもたらす経済効果も見られるようになっています。非常に興味深いアプローチです。世界的にも例がないのではないでしょうか。
シミュレーションモデルの開発を行ったのは、JETROアジア経済研究所の経済統合研究グループ長熊谷聡氏だそうです。なお、このレポート自体も執筆者4名のうち3名は日本の方々です(木村福成慶応義塾大学教授、So Umezaki氏、Misa Okabe氏)。

■インドネシアとベトナムのプロジェクトが多い

このレポートでは公開されている資料等から得た大メコン圏のインフラ開発案件を717件集め、前回述べたTier1〜Tier3に分類するとともに、各Tierの中で3段階のプライオリティを付けて、整理しています。トッププライオリティのプロジェクトは、上記のシミュレーションを行ってみると大きな経済効果が見込めるものという位置づけです。

全プロジェクトのリストは、

Appendix 1. A Long List of Prospective Projects For Logistics and Economic Infrastructure

にあります。

また、リストのサマリーが

Chapter 6. Prospective Projects For Logistics and Economic Infrastructure

にあります。以下がそのサマリーの一部。

Summary

長いリストをざっと眺めていて思うのは、これだけ多くのインフラ投資機会が大メコン圏にはあるのかという、素朴な驚きです。
リストのサマリーをよく見ると、傾向がわかってきます。プロジェクト件数が特に多い分野および国ということで見ていくと、インドネシアとベトナムが群を抜いています。
インドネシアでは、道路・橋、港湾・海運、エネルギー・発電、都市・社会といった分野のプロジェクトが他国に比べて多く動くことになりそうです。またベトナムでは、道路・橋、鉄道、港湾・海運、空港、工業団地・経済特区、エネルギー・発電、都市・生活といった分野のプロジェクトが数多く動くようです。

従って、これらの分野に注力する企業は、この2国を重点的に押さえておくことによって、効率的なビジネスができると思われます。
トッププライオリティに該当するプロジェクトを多く持っているのも、これら2国です。さらにはタイとフィリピンの多さも目立ちます。

このレポートでリスト化されている695(投資額不明のものを除いた数字だと思われる)のインフラ開発案件の投資額見積もり合計額は3,897億2,800万ドルとなっています。現在のレートでは約32.5兆円。これを多いと見るか少ないと見るか。東証の時価総額が現在約300兆円(一部、二部、マザーズの合計)。その1/10の投資額で大メコン圏の向こう10年にわたる経済成長およびその後の経済成長を実現できるとするならば、決して多くないということにもなるでしょう。
先般のオバマ政権が決定した米国再生・再投資法の対策金が7,872億ドル、約66兆円。その半分で大メコン圏の経済成長が実現できる、ということになると、これも決して多くはない総投資額ということになると思います。

大メコン圏のインフラ投資はこれから始まるわけで、日本企業の参画余地も大変に大きいと思います。

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