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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

膨大なインフラ投資機会が動き始めた大メコン圏(上)

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■大メコン圏とは

東南アジアのインフラ投資関連の資料を読んでいると、よく、"Greater Mekong Subregion"(大メコン圏)という言葉に出くわします。調べてみると、この言葉は、アジアのインフラプロジェクトを支援しているアジア開発銀行が作った用語のようで、メコン川流域に位置するベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、さらには中国雲南省までを含めて言う、経済発展の可能性を宿したこれらの地域の総称だとのことです。

周知のように21世紀はアジアの世紀なわけで、この地域の経済発展が世界経済の成長の原動力となります。経済発展のためには、道路、橋、鉄道、港湾、工業団地、居住用都市、上下水道、電力、通信などのインフラが不可欠。問題は、どこにどのようにインフラを建設していったら最良の便益が得られるのか、誰かが指針を示さなければなりません。その役割をアジア開発銀行(Asian Development Bank)と東アジア・ASEAN経済研究センター(Economic Research Institute for ASEAN and East Asia, ERIA)が担っています(Wikipedia日本語版によると、後者は「主として日本の出資により設立された」とのこと)。具体的には、先見性の高いレポートを刊行するという形で指針を示しています。このような公共的な役割を持った銀行や調査機関が刊行するインフラ投資関連のレポートは、情報の量という意味でも質という意味でも群を抜いており、20年〜30年といったスパンで進むインフラ投資の趨勢を把握するのに便利です。

■ERIAの総合アジア開発計画

今年の夏頃、たまたま、ERIAのサイトにたどりついて、アーカイブされているレポートを眺めていたところ、以下の2つの図が目に留まりました。

Comprehensive Asia Development Plan(総合アジア開発計画)

という2010年8月に刊行されたばかりのレポートに収められている図です。

Growth_poles_and_growth_nodes

Transportation_sector

両図とも、ベトナムのホーチミンシティ、カンボジアのプノンペン、バンコクメトロポリタン地区、タイの東海岸地区、ミャンマーのダウェー、そしてインドの東海岸を結ぶ「メコンーインド経済回廊(Mekong-India Economic Corridor (MIEC)」と呼ばれる経済回廊のインフラ投資の可能性を可視化したものです。なお、アジア開発銀行系の資料ではこの回廊を「南部経済回廊」(Southern Economic Corridor)と呼んでいます。細かく見れば両者に差異がありますが、ほぼ同じ回廊を指しています。

両図は、多国間にまたがる経済発展のパターンを理論的に解明するフラグメンテーション理論と呼ばれる考え方に基づいて作成されており、図の意味を理解するのに多少の解説が必要です。

フラグメンテーション理論とは、私の理解で簡単に説明すると、国々において経済発展の状況が異なることを前提にした上で(賃金や労働者のスキルの違いが存することを前提にした上で)、企業が製造コストを最適化するには、製造工程をブロックごとに分けて、個々の製造ブロックを最適な国々に分散させて製造し、それを最後にアセンブリするのがよい、という考え方です。単純な製造ブロックの製造に適した国もあれば、複雑な製造ブロックの設計や製造に適した国もある。製造拠点を分散させることによって、適材適所の効果が得られる…。そういう考え方です。

フラグメンテーション理論では、経済発展の程度に応じて国々を以下の3つに大別します。
 Tier1: 現在は中所得国だが今後の経済発展により先進国入りを果たせる国
 Tier2: 先進国およびTier1国が主導する製造ネットワーク(上記フラグメンテーションが機能している多国間製造拠点ネットワーク)へ参加しつつある国
 Tier3: 長距離ロジスティクスのインフラを建設することにより、製造ネットワークに貢献できる可能性のある国

インフラ投資の視点に立って言えば、Tier1、Tier2、Tier3、それぞれにおいて、実施すべきインフラ投資は異なってきます。Tier1で言えば、道路、鉄道、港湾、空輸などのマルチモーダルに対応した物流のハブが必要になってくるでしょうし、都市関連のインフラ、例えば、都市交通、環境に配慮した住環境などもインフラ投資の範疇に入ってくる可能性があります。
Tier2では、製造業が進出しやすい工業団地、物流網、電力などのインフラ投資が不可欠になります。また、労働者のための居住環境や交通なども必要でしょう。
Tier3では、物流のボトルネックになっている部分に戦略的な物流拠点を建設することによって、多国間で活発に動いている製造ネットワークの経済的恩恵を被ることができます。後述するダウェー深海港はその一例です。水力などの発電資源が豊富なら電力の供給で他国に貢献するという道もあるでしょう。

■ノード間をリンクする発想でインフラ投資をマッピング

大メコン圏では、ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、中国雲南地区の経済発展状況がいい意味でまだらであり、フラグメンテーション理論に立てば、製造拠点の適材適所が可能です。そういう前提に立って、どこにどのようなインフラを設定していけば、大メコン圏の経済ネットワークがもっとも活性化するのか?ということで、特にメコンーインド経済回廊における望ましいインフラ投資プロジェクトをマッピングしていったのが上の図です。架空のプロジェクトをマッピングしているわけではなく、現在動いているないし計画中のプロジェクトのようです。

興味深いのは、これが、ネットワーク理論的な「ノードとノードをリンクする」という発想をインフラ投資に応用している点です。例えば、カンボジアのシアヌークビルの成長ノードと、プノンペンの成長ポール(成長極と訳せばいいのでしょうか)とが道路インフラによってリンクされています。つまり双方の発展のためには、それぞれの拠点にインフラ投資をするとともに、道路にもインフラ投資が必要であるということになります。
上では、製造のフラグメンテーションということで説明していましたが、この図では、農業地域に加えて、リゾート・レジャー海岸、エコ・旅行ゾーンの設定もありますね。

下の方の図は、メコンーインド経済回廊における輸送セクターに特化した図です。
空港プロジェクトや港湾プロジェクトがあります。道路は2レーンから6レーンまで。鉄道のプロジェクトもありますね。マルチモーダル物流パークも想定されています。

■ミャンマーのダウェー深海港プロジェクトはタイ大手が受注

図の一番左側に港湾プロジェクトがありますが、これは先日、こちらの英文ブログで簡単に紹介したミャンマーのダウェー港プロジェクトです。

ダウェーに大型コンテナ船が停泊できる深海港が建設されると、ホーチミン、プノンペン、バンコクと陸路で運ばれてきた貨物がダウェー港からインドに送られることとなり、現在はマラッカ海峡を使って海運で運んでいる物流に14日かかっていたところ、10日まで短縮できるそうです。さらに通関手続きなどに最新の技術やノウハウを適用すると、8日まで短縮が可能になるとのこと。

このダウェー港の建設は、タイの大手建設会社であるItalian-Thai Developmentがミャンマー政府から受注しました。投資額80億ドルだそうです。港湾建設は3フェーズあるうちの第一フェーズであり、道路建設、ダウェー周辺の工業団地建設など全フェーズを合計すると580億ドルのプロジェクトになると報道されています。ファイナンスをどのように行うのか興味深いでですね。

次回は、上記ERIAのレポートの最後にある、圧巻とも言うべき膨大な数のインフラ投資プロジェクトの中身を概観します。

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