サービスサイエンスの現況もろもろメモ
かなり前にサービスサイエンスについて触れました。その後、あまり縁がなくなってフォローできずにいたところ、先日この周辺をうろうろする機会があり、興味深い資料などが見つかったので簡単にメモしておきます。
安倍内閣と福田内閣で経済財政政策担当大臣を務めた大田弘子氏はしばしば、日本の生産性向上のためには広義のサービス産業の生産性向上がなされなければならないと主張しておられました。現在の日本ではGDPの7割はサービス産業が生み出しているそうで、私もまったく同感です。
安部内閣当時の骨太の方針2007の柱の1つに据えられたのが「成長力加速プログラム」。サブタイトルが「生産性5割増を目指して」となっています。
このなかに「サービス・イノベーションの促進」という項目があり、(1)「サービス産業生産性協議会」を設置すること、(2)サービス品質の見える化を可能にする指数を開発すること、(3)産業におけるサービスサイエンスの導入を進めるべく、サービス工学の研究拠点を整備すること、などが記されています。
サービスサイエンスがサービス産業の生産性向上に有用であるとして、政策に組み入れられたわけですね。これはなかなかすごいことだと思います。
なお、成長力加速プログラムは、内閣府内に事務局がある経済財政諮問会議における議論の報告書として作成されています。それからサービス産業生産性協議会は、すでに活動が始まっていて、サービスプロセス改善の定量化手法の開発などを行っています。
同プログラムのサービスサイエンス関連部分の背景になっていると思われるのが、経産省の作成した報告書「サービス産業におけるイノベーションと生産性向上に向けて」。サービス産業全般は経産省の所管ですからね。
この報告書は現在の日本において関係各位に合意されたサービス産業の生産性向上のためのロジック、および、サービスサイエンスに関する関係各位の理解の傾向を把握するのに非常によい資料です。
こうした議論と軌を一にしてサービス産業の生産性向上の道筋を論じているのが学習院大学の宮川努教授。社会経済生産性本部の「生産性年次報告書2007年版」では宮川教授がほとんどを執筆しており、サービス産業の個別の業種においてどのような課題があるかが論じられています。
インターネットで得られる同教授の他の論考などをざっと読むと、サービス業を含む産業の生産性向上には「無形資産への投資」が重要であると繰り返し述べています。2004年頃のエリック・ブリニョルフソン氏の主張(IT投資で高いリターンを得ている企業はインタンジブルアセットへの投資を積極的に行っている)とほぼ同じですね。(実証アプローチは違います)
かなり近い視点の論考に、経済産業研究所/社会経済生産性本部の森川正之氏による「サービス産業の生産性を高めるにはどうすれば良いのか?」があります。
ここで言われている無形資産の中身が何かということで調べていくと、やはり宮川教授の論文「生産性の経済学 -我々の理解はどこまで進んだか-」の中に表が見つかりました(p51)。元々はBart van Arkという人が作成した表だとのことです。なお、日本の企業の無形資産への取組みについては、現在、RIETIの深尾京司教授が調査を進めています。
まもなく、無形資産への投資のベストプラクティスが明らかになり、サービス産業の生産性向上のゴールデンパターンも見えてくるものと思われます。このへんが日本の動き。
それから諏訪良武氏による「IT産業を革新するサービスサイエンス入門」は非常にわかりやすく、サービスサイエンスの全体像を把握するのによいと思います。
米国のサービスサイエンス関連の文書で何か目新しいものはないかとざっと検索してみたところ、以下が見つかりました。
Customer Knowledge and Service Development, the Web 2.0 Role in Co-production
タイトルからして刺激的です。
この論文では、サービスの生産性向上のメカニズムを解き明かすための新しいInterpretive Modelが紹介されています。これはすごくおもしろいと思います。簡単に言うと、サービスが改善されるためには、顧客が持っているユニークなニーズや背景などの情報が受け渡される必要があり、また、それをサービス提供者(生身の人)が正しく解釈して自分の身体によって正しいサービスとして具現化する必要がある。それを模式化した上で、顧客に関する学習にかかる手間と時間を改善できる余地を見つけていくのがよい、ということらしいです。精読の価値があります。
実は上述の諏訪氏も似たことを述べています。
IT産業を革新するサービスサイエンス入門 第5回
ユーザーの事前期待がサービスの在り方を決定する
正しいサービスが提供されるためには、顧客の事前の期待を正しく知ることが必要である、という考え方ですね。
この顧客に関する知識を正しく得るというあたり。言い換えれば、よいサービスが実現するためには(=サービスの高付加価値化=生産性向上が果たされるためには)、サービスを顧客と共創していく必要があるということ。そのへんが、サービスサイエンスの最前衛において、ITが適用可能な領域という意味でも焦点になっているようです。
なお、現在は、サービスサイエンス関連の英語の文書が無限と言っていいぐらい見つかりますが、総本山はIBMのこのサイトです。