オルタナティブ・ブログ > インフラコモンズ今泉の多方面ブログ >

株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

中間層の支出をまとめるイノベーション(下)

»

結局、弊ブログにおいてこのような投稿を掲げるのは、世界的に経済の潮目が大きく変化している現在にあって、予想されるのは「前例のない状況」の出来であり、そこでは「前例に拠らない思考」がおそらくは求められるからです。

前例に拠らない思考とは、先に進む際に同業他社の動きを真似ない、自分の頭で考える、たとえ傍からは稚拙に見えようとも、自分たちの思考から導き出されたオリジナルな方策を粛々と進める、リスクをおそれず様々な方策を試してみる、といったところになるかと思います。これは総体的に見て、日本のわれわれが不得意とするところです。

けれどもこれを身につけないと、国富が流出超になりかねない状況があり、かつ、人口減でGDP縮小が現実のものになりかねない現在において、日本の経済の未来は描きにくいと言えます。

前例に拠らない思考がそのままイノベーションであると言うつもりはありませんが、おおむね、イノベーションのHOWについて書籍などで流布している知見は使えると思います。イノベーションとは、実は考えを変えることであり、行動を変えることです。組織レベルでは企業文化の大きな変革を伴います。一朝一夕にはできません。相応の仕込みの期間が必要です。今から始めるにこしたことはありません。

さて、本題に戻ります。「中間層の支出をまとめるイノベーション」はよく考えてみると、膨大なIT投資を誘発する可能性があります。発想としては、消費者のすべての消費場面を把捉し、支出総額の最適化を図るものであるので、ざっと考えただけでも、以下の要素が必要です。実は本イノベーションは消費行為を「サービス」(IT業界で言うサービス)として提供することで初めて成り立つ側面があり、ITの広範な活用が不可欠なのです。

・適用範囲を拡大したCRM
・Point Of Salesにおけるモバイル端末等を利用したID情報のやりとり、バックオフィス側の購入品目や価格等の記録
・RFIDによる単品管理
・消費者に対する支出状況のフィードバック
・消費者に対して、本イノベーション実施企業の店舗において「いま何が買えるか?」のリアルタイムな情報提供
・支出最適化の具体方策を提供するエンジン
・システムの情報提供だけで間に合わない部分をカバーするコールセンター
・エンタープライズITレベルでは、既存ERPや既存EAに統合しやすい構造/設計
・決して小さくはないデータセンター
・適用範囲がいっそう広がった電子決済

こんなところでしょうか。

誤解を恐れずに言えば、現在、携帯電話会社が携帯電話の通話サービスおよびデータ通信サービスを「サービスプロバイダー」として提供しているモデルを、全消費領域に拡大して、消費全般における「サービスプロバイダー」として成立させるというのが、この「支出をまとめるイノベーション」の本質です。相応のIT投資なしには成立しません。

一方で、ドコモがiModeを開始して業容を拡大してくる過程、その後、KDDIやソフトバンクが追随して携帯電話市場を拡大してきた過程を思い起こしてみると、1契約当りの月支出が1万円前後のビジネスであれだけの市場になっているので、その20倍程度の規模は確実に見込める本イノベーションは、そのような巨額のIT投資にも見合う可能性はある、と言うことができます。

その他、IT面では非常に多くの効用があります。

第一は、世界と比較して非常に遅れていると言わざるを得ない日本のエンタープライズITの利活用において、抜本的な新陳代謝、世代交代を促す可能性があります。多くの企業ではIT予算の7-8割がレガシーの運用に投じられていて、新規のIT投資に回せる分が2-3割しかないという状況があります。本イノベーションへの参画は、標準的な業務プロセスに見合う標準的なITシステムの導入を促すので、これを機にレガシーに別れを告げ、一気に新しい環境へ移行するというシナリオが描けます。

第二に、世界的にも進んでいる携帯電話環境およびブロードバンド環境において、非常に好インパクトのあるアプリケーションが出現することになり、日本の通信先進国度をさらに高めます。着手する際に、国際的に輸出が可能な標準をきちんと押さえておくならば、後々、包括的な環境やノウハウの輸出というシナリオも描けるでしょう。

第三に、第一の点ともかなり重複しますが、消費者とのインターフェースを持つ拡張ブランド会社が持つシステムは消費行為を「サービス」として提供するシステムであり(例えばすべての消費者、小売店舗、物流業者等が利用するインターフェースはブラウザになる)、これに商品等を提供する数多くの企業は、このシステムに対して「サービス」として商品や付随サービスの提供を行うことが不可欠になるため、全体として、システムのサービス指向化が促されることになると思います。SOAは、理念は高く行うは難しというところがありますが、そのSOAの普及が加速化する効用があります。

これらがITの効用の主なもの。

それ以外では、他国と比較した場合の生産性の低さが指摘されているサービス産業、なかでも、就業人口が多い流通小売業において、抜本的な生産性向上方策となるという効果も非常に大きいです。サービス産業においてITのサービス化が急進することにより、生産性が大きく向上するというのは非常に美しい図式です。

本イノベーションは、消費者が日常的に付き合うブランドがせいぜい5つとか7つぐらいに絞り込まれることを想定しています(中途半端では支出をまとめることにならず、経済便益は限られます。)。それはとりもなおさず、巨大なブランドの出現を想定するものでもあります。
巨大ブランドが業界再編を促す性格があるので、業界内の勢力バランスは大きく変化することになります。また、ブランドを持つことが可能な業種とそうでない業種との間で、収益力に大きな差が出てくることは避けられません。(電力業や通信業の構造を見れば、その姿が予想できます。) おそらくは、一強多弱という状況にならざるを得ません。

これを国内だけの視点で見ると、非常に苛烈な感じがしますが、国際的に一強多弱化が進んでいる現在のネットワーク化された経済環境においては、むしろ国内において積極的にそれを促した方が、後々の時代に適応しやすくなるというのが自分の考えです。やらないでいると、様々な業種における他国の「一強」に日本の産業が呑み込まれてしまいます。資本の世界競争が背後にあるということを忘れてはなりません。世界の投資家が投資するのは、世界的に「一強」になりえる企業です。

近未来における「一強」は、ブランドによってのみ成立するものであると確信しています。商品力で勝負する時代ではありません。

ブランドにはアートが必要であり、未来の消費者の価値基盤を形作っていくことのできる、ほんとうに力のあるクリエイターが必要です。そういうクリエイターは日本にたくさんいるはずなので、うまく進めれば、日本発の優れたブランドが世界の消費者に親しまれる時代が来るでしょう。


Comment(0)