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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

はなから株式公開を目指すとよい理由(2)

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はなから株式公開を目指すとよい理由(1)の続きです。

4. 事業発展に貢献した人に対して、好ましいインセンティブが与えられる

これはよく言われていることですね。ストックオプションを発行することによって、経営チームだけでなく、社員、外部の協力者などのインセンティブを高めることができます。ただ、ストックオプションも現実に方策として検討する段になると、関係する税のことなども含めて、トータルでその人自身のメリットになるように、仕組みを細かな部分で調整する必要が出てくるようです。当方の研究課題。

5. 経営チームが会社や事業の適正な規模について考えるようになり、その規模を実現するにはどうすればいいかという思考が促される

でかい会社がすべてというわけではないと思いますが、株式を公開するということは、「以降、継続的に成長していく会社になるよ」と宣言することと同義です。成長が止まった途端、通例、市場は売りにかかってきますから、長期保有の意思を持っている株主には大きな迷惑となります。自分ひとりの会社なら成長が止まったとしても、食べて行けさえすればよいのでしょうが、公開会社となった以上そうは行きません。
このことを法人設立当初から考慮すると、「ウチの会社の適正な規模ってだいたいどのぐらいだ?」ということを考えるようになります。現在の市場規模、数年先の市場規模、競合の状況などから、自分たちが取れる伸び代を把握すると、おおよその規模感が得られます。
では、そこに5年あるいは7年かけて行くにはどうすればいいのか?ということを本気で考え始める。サービス開発やマーケティングだけでなく、インセンティブ、人材育成など普通の会社が普通に行っていること全般について、どうしようああしようという思考が始まるわけです。
まずはその規模に達することを目標にし、そこに到達することが見えたら、次の目標を設定することになるわけですね。

6. 収支シミュレーションのモデルの精度が高まる

将来の売上を推計し、現在わかっている費用をリストアップし、その推移を推計してエクセルに入れ込むと、簡単な収支シミュレーションモデルができます。現実味があるのは四半期レベルではなく月次でしょうね。ごく簡易なキャッシュフロー計算書に連動させることも可能です。会計の知識がある程度あると、簡易なバランスシートも生成できますが、たぶんそこまでできる人は一般的な開業パターンではないのではないか?(公認会計士の方がCFO役でいらっしゃれば別です) しかし、PLとキャッシュフローについては最低限出さないと行けません。それがあって初めて出資者の方々と数字の話ができるようになります。
設立当初から公開を意識すると、この収支シミュレーションモデルがどんどんバージョンアップされて、「こんな風で開業できたらいいなぁ」という夢のモデルから、「ここまで絞ったからこのまま実施できる」という非常に現実的なモデルに変化していきます。この間、色んな方から色々な意見をいただき、いわば”叩かれる”わけですが。
そのようにして得られた収支シミュレーションモデルは、そのまま経営に用いることができます。

シナリオ(とそれに適合するシミュレーションモデル)をいくつか用意しておいて、今現在どのシナリオが生起しているかを認識し、収支シミュレーションを見ながら調整しながらやっていくと、おそらく大きな方向性の狂いは生じないはずです。このへん、シナリオプランニング(DeloitteのStrategic Flexibilityなどマルチシナリオ系)を一度勉強しておくと、すごく役に立ちます。

7. 内輪の出資者に対しても、オフィシャルな事業内容の説明ができるようになる

法人設立当初は、比較的内輪の方に対して出資の依頼をすることが多いわけですが、その際にも、きちんとした説明資料は必要です。その場しのぎで事業計画書めいたものを作成するよりも、はなから株式公開を念頭においた、それなりにしっかりとした資料があると、内輪の方に対してもそれを使ってよい説明をすることができるようになります。
というよりも、はなからオフィシャルな法人になるというテンションが高まっているので、すべてにわたって”しっかり感”が行き渡り、たとえ内輪の方から出資を仰ぐとしても、第三者筋からの出資と同等にしっかり対応できるということでしょうか。

8. 会社を”公開すること”の予行演習が設立当初からできる

昨年、歴史のある様々な企業が何らかの隠蔽によって大変な状況に陥りました。こうした”隠す”体質は、公開企業にとってはもってのほか。私見では”隠す”体質は企業文化から出てくるのではないかと思っています。
一般的にどういう企業であっても普通は自分たちの不都合を隠したいと思うはず。それを普通に行っていると色んなことを隠すようになり、隠す文化が定着する。組織のクセになってしまいます。
これが、はなから公開を目指すモードになっていると、「こういうことはダメなんじゃないか」といった抑制が働くようになると思います。ディスクロージャが当たり前の会社になる。
これに近いことをはてなが行ってきていますが、非常に興味深いと思います。

9. 会社が公器だという認識が持てる。公益を意識せざるを得なくなる

はなから株式公開を考えると、中長期的な成長を意識するようになります。成長は何からもたらされるか?おそらくは、顧客が喜び、ステークホルダーが喜び、従業員が喜び…といった非常に素朴なところから原動力が出てくるのだと考えています。みんなが喜ぶから安定して成長する。そういう単純な道理があると思います。
こうしたことを意識し始めると、自社の商売において、顧客に対しても従業員に対してもよいこととは何か?みたいな、かなり理念的なことを考えざるを得なくなります。
「ビジョナリー・カンパニーだ!おぉ」と盛り上がった後で、はっと、キャッシュフローのことだけを考えていていいのかと冷静になる。そんなところでしょうか。

10. 会社を”開く”姿勢が身に付くと、外部の協力者を募る際の説明が楽になり、外部の方にとっても意思決定がすばやくできるようになる

これはディスクロージャ姿勢があることの効用ですね。

11. 会社という組織の成長において、Web2.0的なマスコラボレーションのメカニズムが働くことが期待できる

自分が着目しているのはこれです。理念的には、非常に透明性の高い会社になっていくと、集合知のよいメカニズムが機能するようになると考えられます。現実はどうかわかりません。現実にやっている企業があるかどうかも不明。ただ理念的にそういうことは言えます。
このへんも要研究です。

12. 経費を使うたびに抑制が働く

最後に非常に大きなポイント。はなから公開を目指していると、①基本的に資金は自分たち以外の出資者の方々の出資によるもの、②できるだけ利益を出す体質を作り上げなければならない、という2点から、日常的な経費の支出に対して、すごく真面目に考えるようになります。「これは正しい支出だろうか?」と。オフィスを構えるところから、それを考えるようになります。「オフィスは不要ではないか?」といったかなり過激な選択肢も「検討に値するよな」と考えるようになるわけです。
この感覚は、公開を意識していないと、ほとんど持つことができないと思います。非公開企業であり、自分がオーナーだったりすると、経費は、法に触れない限り、随時随意に使えるというパターンがあると思います。そうした世界から180度逆の世界に入っていきます。規模が小さな会社では、利益が出ている限り、経費支出がかなり鷹揚になるのが普通ですから、その逆に自分たちを躾けるメカニズムが常に働いているということは、すごく意味があります。

(了)

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