スマート・クラウド戦略(8) まとめと今後
総務省の「スマート・クラウド研究会中間取りまとめ(案) 」についてこれまで7回に分けて、整理をしてきました。これまでとりあげてきたことを少し整理してみたいと思います。
(1) 電子行政クラウド(霞が関クラウド、自治体クラウド)では、行政の見える化やオープンガバメントの推進、そして行政刷新の視点で、政府の電子行政クラウド「霞が関クラウド」、地方自治体の電子行政クラウド「自治体クラウド」を推進する必要性についてついてまとめてみました。
「霞が関クラウド」では、政府共通プラットフォームの構築のための、府省のBPRや政府CIOの設置、そして、構築や調達についての体制整備が重要となってきます。
「自治体クラウド」は、全国で数百の自治体が個別にシステムを運用しているよりも、共通化し電子行政を進めていくことが、自治体のコスト圧縮や効率性から見ても有効となってきます。自治体クラウドでポイントとなるのは「自治体クラウドの連携基盤」です。
(2) 公共クラウド(医療・教育・農業・コミュニティ)では、「医療クラウド」、「教育クラウド」、「農業クラウド」、「コミュニティ(地域)」についてまとめてきました。医療や教育や農業分野などの公共分野については、先進国と比べるとICTの利活用は遅れをとっていますが、クラウド環境を構築して共通化してサービスを提供することができれば、その遅れを一気に取り戻せる可能性は十分に考えられるでしょう。一方、技術的視点だけでなく、地域における連携体制のあり方や、個人情報の扱いなどの法制度や運用方法、そして、ユーザへの理解など様々な検討と実証が必要となってくるでしょう。
(3) スマートクラウド基盤の構築では、リアルタイムの膨大なストリームデータを統合し、情報流、物流、金融流、エネルギー流などを最適制御するため高度な社会インフラとしての基盤と位置づけ、国際競争力強化の観点からも重要である点が指摘されています。本報告書では、スマートクラウド基盤に該当するものとして、(1)スマートグリッド、(2)次世代ITS、(3)IPv6ベースの広域センサーネットワーク、(4)老朽化する橋やトンネルなどの補修履歴をクラウドで蓄積、(5)空間コードとの連携等があげられています。
その中でも重要となるのが、「スマートグリッド」です。経済産業省でも取り組みを強化していますが、総務省では、スマートメータを介して収集された各戸の電力消費や自然エネルギーの発電量などのリアルタイムのデータをクラウド技術を通じて統合化し、電力供給を制御する仕組みを構築する点について書かれています。
(4) 海外のガバメントクラウド(米国)では、米国連邦政府の取組みについてまとめてみました。オバマ政権では、開かれた政府(オープンガバメント)を目指し、国民の意見を積極的に取り入れていくことを目標とし、2009年5月21日には、「オーブンガバメントイニシアティブ(Federal Cloud Computhing Initiative)」を発表しています。また、クラウドコンピューティングイニシアティブ(Cloud Computing Initiative)にて、サービス提供を通じて、インフラ、情報、ソリューションを政府横断的に共有するためのイニシアティブを進めています。
米国では、政府CIOの就任から、NISTでの定義、オープンガバメント、そしてクラウドコンピューティングイニシアティブなど積極的にクラウドコンピューティングを推進し、既に大半が計画から実行に移しています。日本においてもこれらの取り組みにおいて、参考になる部分は多く、「オープンガバメントクラウド」の実現に向けた政府横断的な積極的な推進とクラウドの活用が期待されます。
(5) 海外のガバメントクラウド(英国とシンガポール)では、英国とシンガポールでのガバメントクラウドの取組みについてまとめてみました。英国では、2009年の6月に公共調達による効率化の観点から「G- Cloud」の構築が必要であるとし、総務省の資料には、ICTシステム・機器の公共調達の課題やG-Clouのメリットについて紹介されています。クラウドの活用によりコストの削減やデータセンターの集約などがポイントとなるでしょう。
シンガポールでは、ICT資源アウトソーシングを拠点とする取り組みと国際競争力強化の2点に絞って書かれています。シンガポールでは「ICT資源のアウトソーシングに関する長期戦略」の中で積極的に、クラウドサービスプロバイダーを誘致しており、日本としても参考すべき政策は多いのではないかと考えられます。
(6) 次世代クラウド技術では、スマート・クラウドサービスを実現するクラウド技術、安全性・信頼性の向上を実現するクラウド技術、環境負荷の軽減に貢献するクラウド技術、技術開発に関する政策支援についてまとめてみました。
国産のクラウド技術の研究開発は、海外のクラウドサービス事業者が既にサービスに対抗するのではなく、安全性や信頼性を重視した次世代クラウド技術にフォーカスをおいているように見受けられます。これからの技術開発が実際にユーザにどのように将来的に浸透していくのか、そして国際競争力の観点から見ても優位な立場になるのか、様々な視点から検証が必要となってくるのではないかと感じています。
(7) クラウド技術標準化では、利用者の視点にたち、ベンダロックインを排除する観点から、クラウド技術の標準化等を進めることが必要であるとしています。過度な標準化ではなく、利用者の視点からみて必要最小限の標準化等について、国際的な標準化団体等へインプットし、グローバルな視点で標準化を進めていく必要がある点があげられています。また、SLAのあり方やセキュリティ・プライバシーの確保のあり方等の標準化等に優先順位を置きつつ、相互運用性の確保等についも、国際標準化団体の活動に貢献していくことが求められることをあげています。
標準化のカテゴリとしては、「SLAの在り方」、「サービス品質やプライバシー確保の在り方」、そして「相互運用性の確保」について個々の具体的な標準技術について記述されています。国際市場の中で、日本のクラウド技術がどの程度存在感を示していけるのか、今後の取り組みが注目されるところです。
クラウドサービスの信頼性・安全性
これまでの中で、第3章の「クラウドサービスと消費者(利用者)権利の保障」、「クラウドサービスに関する契約モデル契約約款の策定」、「消費者向けクラウドサービス利用ガイドラインの策定」、「クラウドサービスのボーダレス化に対応した環境整備(データ保存のあり方/企業コンプライアンスの確保等)」。そして第6章の「国際的コンセンサスの必要性」、「クラウドサービスの普及と中立性」などについては、私のブログの中では特に触れませんでした。しかし、クラウドサービスを安全性・信頼性の高い環境で利用し、海外でのデータ保存など法制度のあり方やガイドラインについても、クラウド普及の観点から見ても非常に重要な取組みとなるでしょう。
最後に
スマート・クラウド研究会では、中間とりまとめ(案)の中で、Twitter経由でも広く意見を募集しており、実際に読んでみるといろいろと勉強になるところも多々あります。そして、パブリックコメントでの意見もまとめ、「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」に報告するなど、スマート・クラウドサービスの普及に向けた包括工程表「スマート・クラウド戦略」の策定をしていくことが適当であるとしています。また、本戦略を実施するために、各種取組みを機動的に進めることが必要であるとしています。
クラウドを取り巻く市場環境は急速に変化し、様々なレイヤーの中で競争が繰り広げられています。これらの市場環境の中で本戦略がどのような位置づけとなり、クラウド技術の発展や標準化、そして利活用について貢献できるのか。また、経済産業省と連携し、産業育成や国際競争力の観点からも議論していく必要があるでしょう。
米国や英国、シンガポールなどでは国家戦略の柱としてオープンガバメントクラウドを推進しています。日本は世界と比べどのようなクラウド戦略を打ち出し、そして実行に移していくのか、今後の取組みの動向が大変注目されるところです。