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IT人材不足は構造問題に--現場と経営のギャップが浮き彫りに

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ヒューマンリソシア株式会社は2025年7月15日、「海外ITエンジニア活用に関する実態調査vol.1」を発表しました。本調査は、日本国内の企業で採用に携わる500名のビジネスパーソンを対象に行われ、75.2%が「IT人材が不足している」と回答。特に、従業員1,000人以上の大企業では79.6%、マネジメント層では79.2%と、企業規模や責任階層が大きくなるほど不足感が強い傾向が浮き彫りとなりました

背景にはDX推進の加速と、それに伴う技術人材の需要急増があります。現場の最前線では「社員のITスキル不足」「DXを理解・推進できる人材の欠如」がもたらす停滞感が高まり、5年後には58.4%が「今より不足が進む」との見通しを示しています。この課題は、単なる採用難ではなく、日本企業がデジタル競争力を維持・向上させる上での構造的障壁へと発展しつつあります。

今回は、IT人材不足の実情、各層にみる緊迫感、DX推進との関係、そして今後の対応策について取り上げたいと思います。

IT人材不足が大企業・管理職ほど深刻に感じられている理由

調査によると、企業全体の75.2%がIT人材不足と回答し、その中でも従業員1,000人以上の大企業では79.6%、マネジメント層では79.2%と、高い不足感が浮き彫りとなりました

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出典:ヒューマンリソシア 2025.7

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出典:ヒューマンリソシア 2025.7

大企業の複雑かつ多様化するIT要件に対応するには、専門性の高い人材が複数必要ですが、採用市場では圧倒的な供給不足が続いています。また、管理職はその影響を最前線で実感しており、リソース不足による戦略遅延やコスト超過が日常化しつつあります。

この背景には、成功したDX事例へ注目が集まる一方、現場では技術者の確保が追いついていない実態があります。特に国内市場では人材の取り合いが激化しており、大企業ほど優秀な技術者の獲得競争が熾烈になっています。

5年後――長期的な見通しと現場と経営層のギャップ

2030年に向けたIT人材の見通しでは、58.4%が「さらに不足が拡大する」と予測しています。

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出典:ヒューマンリソシア 2025.7


特に、現場に近いマネジメント層(59.9%)や一般社員層(61.6%)では危機感が経営層(48.4%)を上回ります。大企業では、「一層深刻化」と予測する回答が40.1%に達し、3年後との比較でも約8.5ポイント上昇しています。これは、デジタル化の波が加速しIRR(投資対効果)をより強く求められる現場が、将来的にも供給不足が深刻となっています。

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出典:ヒューマンリソシア 2025.7

経営層の関心がやや先送りになる一方、現場の危機は既に戦略レベルの意思決定に影を落としつつあります。将来を見据えたガバナンスと人的資源の再配分が急務となっています。

DX推進との相関――人材不足が進展を阻む好循環の崩壊

調査では、DXに取り組んでいる企業は71.4%と高いものの、「進展している」と評価するのは21.0%にとどまりました

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出典:ヒューマンリソシア 2025.7

理由としては、次のような人材に関する課題を挙げています。

  • 社員の知識・スキル不足(65.0%)

  • DX・IT知識を有する人材の不足(63.2%)

  • 現場の担当者不足(62.0%)

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出典:ヒューマンリソシア 2025.7

スキルを有する人材が確保できず、DX推進は途上で停滞。これがまさに「DXのジレンマ」を生み、需要と供給の空回りが進行中です。結果的にDXによる業務効率化や競争力強化といった本来の期待効果が実現できない状況が続いています。

今後の展望

IT人材不足が構造化・長期化する中、企業には次のような対応が求められています。

①採用戦略の多様化とグローバル展開
国内採用の限界を認識し、海外IT人材を積極的に活用する仕組みの整備が必要。

②社内リスキリングと教育投資の強化
社員のITスキルを向上させるプログラムに継続して投資し、「内製化」の担い手を育成することで外部依存を低減。

③経営と現場の認識ギャップを解消するガバナンス強化
経営層と現場の温度差を埋めるには、定量評価や現場からの報告チャネル整備が重要。独自のリソースマップやKPIにより人材不足がDX進展に与える影響を可視化し、迅速な意思決定を支援する体制構築が重要。

④産官学の連携による人材供給基盤の構築
2050年を見据えた中長期的施策として、大学・専門学校・自治体・企業が連携し、実践型カリキュラムでITエンジニアの育成基地を全国に展開する必要。地域格差に配慮したインフラ整備や補助制度も含め政策的支援が重要。

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