スマート・クラウド戦略(2) 公共クラウド(医療・教育・農業・コミュニティ)
第一回目では、「霞が関クラウド」や「自治体クラウド」といった電子行政クラウドについて、「スマート・クラウド研究会中間取りまとめ(案)」をもとに自分なりに整理をしてみました。
電子行政クラウドと同様に重要な位置づけとなっているのが、「医療クラウド」、「教育クラウド」、「農業クラウド」、「コミュニティ(地域)」クラウドです。個々のクラウドについて少しとりあげていきたいと思います。
医療クラウド
医療クラウドでは、EHR(Electric Health Record)やレセプトオンラインについて触れられており、早期に100%を目指す必要があるとしています。医療分野においてはカルテ情報など、個人の機微情報を扱うため、個人認証のあり方や情報保管、そして医療機関間などとの連携など、普及に向けては様々な検証と議論が必要となってくことが考えられます。その他、緊急医療体制での情報共有のための医療クラウドのあり方についても触れられています。
教育クラウド
「フューチャースクール(協働教育)実現のための教育クラウド」でも触れさせていただいましたが、子を持つ父親やPTA副会長としてもこの教育クラウドの動きについては注目をしています。学校の現場では、校務システムの導入が進みつつあり、多くは個別システムで構築し、自治体ごとに異なる仕様が費用を増大させています。校務システムはクラウド化することによって仕様を共通化し、効率化する部分は効率化させることによって先生の負担を軽減し、子どもたちと接する時間を増やすといったことが期待されます。
続いて目玉となるのは原口ビジョンでも大きく取り上げている「協働教育」(フューチャースクール)です。教育現場で使われるデジタル教材やナレッジデータベースを「教育クラウド」を経由して、ICT機器を活用して、お互いが教え合い、学び合うといった検討がなされています。
このICT機器には、タブレットPCや電子書籍リーダなどの端末が候補になってくると考えられ、最近話題となっている「デジタル(電子)教科書」の活用についても注目されるところです。「デジタル(電子)教科書」は、様々な双方向性やコンテンツの充実など、子どもたちの学力向上を支援する可能性のある様々なメリットがあるかと思われますが、実際の準備や授業の形態などの運用面においては、かなり踏み込んだ検討が必要となってくるのではないかと考えられます。
農業クラウド
農業分野では高齢化が深刻化しており、農業従事者の58.6%が65歳以上となっており、次世代を担う人材育成が急務となっており、農業従事者のノウハウや暗黙知を共有するという仕組みが必要であり、農業クラウドに蓄積させる必要がある点が書かれています。また、センサーネットワークや衛星画像を用いて農業に必要な土壌や湿度などのデータを農業クラウドに蓄積し、活用をするというものです。農業クラウドについては、富士通などが既に実証実験をしており、農業のICT化を進めながら、日本の農業の自給自足率を高めていくといった対応も必要となってくるのではないかと考えられます。
コミュニティクラウド(地域)クラウド
コミュニティクラウドについては、以前から地域SNSや地域ブログとして活用していた地域コミュニティの活動を発展させ、「ふるさとクラウドセンター(仮称)」の構築を支援し、各システムの運用コスト削減と地域が自立的に運用できるプロジェクトを全国展開していくことが適当であるとしています。
鳩山首相が、市民やNPOなどが社会的活動を主導する「新しい公共」について何度か発言をされていますが、このコミュニティ(地域)クラウドがこれらの活動を支援する重要なプラットフォームとなるのかもしれません。
まとめ
医療や教育や農業分野などについては、その他先進国と比べるとICTの利活用は遅れをとっていますが、クラウド環境を構築して共通化してサービスを提供することができれば、その遅れを一気に取り戻せる可能性は十分に考えられるでしょう。また、技術的視点だけでなく、自治体と地域の体制構築や、個人情報の扱いなどの法制度や運用方法、そして、ユーザへの理解など様々な検討と実証が必要となるのではないかと考えられます。
これらの公共クラウドが実証だけで絵に描いた餅に終わるのか、事業として広く展開していけるクラウドサービスとなるのか、今後の立ち上げにあたっての数年間の取組みが重要となり、その動きが注目されるところです。