AI時代のエンドポイントセキュリティ
Frost & Sullivanは2025年7月9日、エンドポイントセキュリティに関する戦略的成長機会についての分析を発表しました。
From Weak Point to Growth Driver: Unlocking Strategic Growth Opportunities in Endpoint Security
エンドポイントとは、ノートPCやサーバー、スマートフォン、IoT機器など、企業ネットワークに接続される全ての末端機器を指します。近年の業務環境の変化により、こうした機器の数は飛躍的に増加し、同時にセキュリティ上の弱点としての存在感も高まっています。
リモートワークの拡大、BYOD(私有端末の業務利用)、クラウド移行の進展といった構造変化に伴い、攻撃対象はエッジにシフトしています。加えて、生成AIやディープフェイク技術を用いた新たな攻撃手法も台頭し、旧来のウイルス対策や静的検知では対応しきれない事態が増加しています。
このような背景のもと、Frost & Sullivanは、エンドポイントセキュリティを単なるリスク管理の対象から、企業の成長を支える戦略的資産へと再定義する必要性を訴えています。今回は、3つの注目すべき成長機会と、それらが今後のセキュリティ戦略に与える意味について考察します。
AIで進化する防御:インテリジェントなエンドポイント戦略へ
従来型のアンチウイルスソフトでは、今日の高度な攻撃には太刀打ちできません。ポリモーフィック型マルウェアやゼロデイ攻撃、マルチベクトル型ランサムウェアなど、変化の速い脅威に対しては、リアルタイムでの検知と即応が求められています。
この課題に対し、多くの企業が注目しているのがAIの活用です。適応型AIや生成AIを組み込んだエンドポイント保護は、静的なルールに依存せず、行動パターンや異常値をリアルタイムで分析し、自動的に対処する能力を持ちます。
例えば、インシデント発生時には即座にアラートを出し、ログの言語解析によって多言語レポートを自動生成。調査業務の負荷を軽減し、アナリストの疲弊を防ぎます。また、単一のコンソールで複数端末の管理が可能となり、運用の効率性も向上します。
このように、AIを活用したエンドポイント戦略は、迅速な検知、賢い対応、そしてスケーラビリティを兼ね備え、現代のセキュリティ要件に適合する形として注目されています。
モバイル対策は「必須」へ:MTDが企業の信頼を支える
リモートワークやBYODの普及により、業務に使われるモバイルデバイスの数は急増しています。その一方で、SMSを悪用したフィッシング攻撃やアプリ経由の不正アクセスといったモバイル起点の脅威も増加しており、従来のエンドポイント対策では防ぎきれない状況が生まれています。
こうした中で脚光を浴びているのが、「Mobile Threat Defense(MTD)」の導入です。MTDは、端末ごとの挙動分析、ネットワーク通信の監視、不審アプリの検出といった機能により、モバイル特有の脅威に対処します。加えて、ユーザーのプライバシーを尊重しながらセキュリティを確保する設計は、IT部門だけでなく人事部門にも受け入れられやすい特長を持ちます。
MTDは単体で完結すべきではなく、EPP(エンドポイント保護プラットフォーム)など既存のソリューションと統合し、プラットフォーム横断での包括的な防御体制を構築することが求められています。
企業のモバイル対策は、利便性とセキュリティの両立を図る新たなステージへと進んでいます。
多層防御への転換:XDR時代のランサムウェア対策
ランサムウェアは、企業活動を直接的に停止させる深刻な脅威として、依然として猛威を振るっています。リモートワークやクラウド化によって広がった攻撃面を前に、もはや単一のセキュリティ製品では対抗できません。
そこで導入が進んでいるのが、多層的な防御戦略です。EPP、EDR(エンドポイント検知・対応)、脅威インテリジェンス、インシデント対応計画などを連動させ、攻撃の各段階でブロック・検知・復旧を図る仕組みが必要とされています。
特に、EDRからXDR(拡張検知・対応)への移行は、ネットワーク全体にわたる脅威の一元管理を可能にします。加えて、自動的な隔離処理、復旧手順、攻撃フォレンジックなど、万が一の被害を最小限に抑える仕組みの整備も急務です。
多層防御は単なる防御ではなく、レジリエンス(回復力)を高め、持続可能な業務運営を支える柱となっています。
今後の展望:適応型・統合型のセキュリティ戦略が求められる時代へ
エンドポイントセキュリティは、生成AIによる攻撃の高度化、セキュリティ人材の不足、クラウドとモバイルの普及、そしてコンプライアンス要件の強化といった現実の中で、より高度で統合的な対応が求められています。
企業は今、反応的なセキュリティから、予測的かつ知能的なセキュリティへの転換が問われています。その中心にあるのが、AIの活用、モバイルへの対応、そして多層的な防御体制の構築です。
こうした変化に即応するためには、単なるツールの導入ではなく、戦略レベルでの再設計と、経営層のコミットメントが不可欠です。今後は、セキュリティが組織全体の信頼性や持続性の基盤となり、成長の推進力として位置づけられる時代が本格化していくことも想定されます。