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スマート・クラウド戦略(5) 海外のガバメントクラウド(英国とシンガポール)

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前回は、米国連邦政府でのクラウドに関する取り組みをご紹介させていただきましたが、今回は、「スマート・クラウド研究会中間取りまとめ(案)」の参考資料(別紙4)に英国とシンガポールのクラウド関連の政策の取り組みが書かれていますので、ご紹介したいと思います。

まず、英国での取り組みです。英国では、2009年の6月に公共調達による効率化の観点から「G-Cloud」の構築が必要であると記載されています。総務省の参考資料の中では、ICTシステム・機器の公共調達の課題やG-Clouのメリットについて紹介されています。

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英国政府のクラウドを積極的に推進するのは英国政府CIOのジョン・サフォーク氏です。サフォーク氏はCIO会議のリーダであり、全国的に推進するクラウド基盤構築のために、不必要なプロジェクトは中止できる権限が与えられています。

英国政府は、セキュリティやデータの保管場所や信頼性等において課題があるため、政府独自のプライベートクラウドを構築する方針を掲げています。また、政府のアプリケーションストアをつくり、公共部門が利用する共通アプリケーションを集め、ダウンロードできる環境の整備を目指しています。将来的には、政府専用の仮想プライベートサービスネットワークを使い、行政サービスを提供する計画をたてています。

クラウドを推進にあたっては、4つの基本戦略を掲げています。デスクトップデザインの標準化と簡略化、ネットワーク接続の標準化・合理化・簡素化、データセンターの合理化、オープンソースの導入推進を柱としています。ネットワークでは、政府専用の仮想プライベートサービスネットワークを構築することにより、30%のコスト削減を目指しています。また、データセンターにおいては、英国政府のデータセンター数を現在の130箇所から9~12まで削減し、効率化運用を目指しています。

データセンターの取組みに少しフォーカスしてみましょう。Alchemy Plus社が、2009年2月、英国北部スコットランドインバネスにクラウドデータセンターを設立することを発表しています。本データセンターの設立には32億円の費用をかけ、400人の雇用創出が期待されています。水力発電や風力発電などの立地資源を生かし、グリーンなデータセンターの運用を目指しています。

英国政府はクラウド利用において問題はあると認識しながら、クラウドを利用することのメリットのほうが高いとし積極的な採用を進めるとともに、ソーシャルネットワークを活用し、国民の意見を積極的に取り入れるといったオープンガバメントを積極的に取り入れていこうとしています。

Government to set up own cloud computing system(2010.1.27)」の記事では、Government ICT Strategyの一部として、G-Cloud構想が位置づけられています。2014年までに総額、3.2Bポンドの予算削減を実現するとしています。今後の構築スケジュールでは、2月に基本設計を完了し、2010年以内に政府内のいくつかの部局で実際に採用し、2013年までにすべて稼動させることが発表されています。

現在、政府内では10,000個のソフトウェアパッケージが利用されており、これらのすべてをクラウドに移行することによってコストを削減し、50箇所の公共団体が利用中の30箇所のデータセンタを集約し、12箇所までに削減できるとしています。

日本の霞が関クラウドや自治体クラウドと比べた場合では、数年程度早い計画となっており、2010年にどのようなクラウド環境が構築されているのか、注目されるところです。

 

続いて、シンガポールの取り組みをご紹介しましょう。シンガポールはご存知のように国の面積は、日本と比べると相当狭く物価も同程度と不利な条件にありますが、積極的なクラウドの活用によって、うまく機能している事例と言えるのではないでしょうか。

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総務省の別紙資料の中では、ICT資源アウトソーシングを拠点とする取り組み、国際競争力強化の2点に絞って記載をされています。 

実際、どの程度の成果が出ているのか、少し事例を交えて整理をしてみたいと思います。

Amazon Web Services(AWS)は、 2010年上半期にまずアジアにおいては、シンガポールにデータセンターを設置する予定です。また、セールスフォース 2009年の7月15日にシンガポールにデータセンターを開設しています。マイクロソフト 「Business Productivity Online Suite(BPOS)」を日本向け等に提供するために、シンガポールのデータセンターで運用しています。マイクロソフトはさらに、2009年11月4日、台湾政府とクラウドコンピューティングセンターを台湾に開設することで合意しています。

そして、日本を代表するグローバル企業であるソニーも、日本の東京都と愛知県の拠点を12年3月 までに閉鎖し、アジアにおいては、シンガポールにデータセンターの拠点を集約することが明らかになっています。

以上のように、英国やシンガポールにおいてもクラウド関連の政策は進んでおり、特にシンガポールにおいては、情報の集積地として国際競争力の観点から日本よりも優位になっています。余談ですが、シンガポールは、コンテナ港としてもアジアの中では一位となっており、ベスト10に一つも入らない日本の港と大きな差が開いています。

クラウドコンピューティングは、国内におけるオープンガバメントや行政サービスの見える化、そしてコスト削減などもありますが、国際競争力の観点も重要となってくるでしょう。

海外全体を見渡すと、各国において積極的にクラウド採用の動きがあります。本スマート・クラウド戦略の位置づけは、総務省のクラウド政策全体を総括しているものであり、海外のクラウド政策の動向も注視しながら、日本のクラウドのあり方が議論し、本格的に実行に移していく時期にきているのではないかと、感じているところです。

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